バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
翌日からは空手大会の当日だ。
私は毛利さんご一行に付いていって大会の様子を見学したのだが、皆中々に達人級だった。
国際大会という名にふさわしい強豪ぞろいで、試合の見応えは抜群だ。
流石にルパン達の世界観についてこられる人間は京極さんぐらいだったが、それは高望みしすぎというものか。
だが、レオンの部下であるヘッズリ・ジャマルッディンも中々の強者だ。
殺し合いなら素手でも負ける気はしないが、試合形式では敵わないかも、と思わせる気迫を見せている。
今もなお、視界の先で対戦相手を見事に上段回し蹴りで吹っ飛ばしていた。
そんな中、急速に大会の会場で気配が慌ただしく動き出した。
流石にこの広大な会場全てをカバーするほど私の気配探知は広くないが……。
一部分だけでも全速力で走っている人々がいればわかるので、緊急事態が発生したのは会場内からでも分かった。
どうやら警備員と思しき人々が突然大移動を始めたようだ。
緊急招集だろうか。
もしかしたら怪盗KIDが動き出したのかもしれない。
私は内側でつまらなさそうにしている降谷さんにそっと耳打ちした。
───KIDが動き出したようです。日本と違ってここの警察は問答無用で撃ってきますから、僕もKIDの補助に入ろうと思います
───別に助ける義理はなくないか?邦人を拉致して国外まで連れてくるような奴
───それはそうですけど、恩を売っておけば彼は律儀なので色々便宜を図ってくれそうですし
───なるほど。それなら俺も賛成だ
降谷さんの許可をもらい、皆が試合に夢中になっている間を狙ってするりと抜け出す。
一応コナン君にはスマホにメッセージを送っておいた。
「ちょっとKIDをフォローしてくる」っと。
これで彼にも私がどう動いているか伝わるだろう。
KIDは街中を派手に飛び回っているらしく、SNSを確認すればあらゆる場所で目撃証言の投稿を見ることができた。
どうせ紺青のフィストだと思って斬鉄爪も秘密ルートで持ってきている。
じゃきっと装備して服の下に隠してから、いざやいざやと巻取り式フックで向かおうとして、はたと気がつく。
昼だから巻取り式フックでビルの間を跳ぶのは流石に目立ちすぎるか?
だが縦横無尽に逃走を続ける怪盗KIDと合流するには足が必要だ。
こういう時、自分の無計画さを思い知るよね、などと反省しながら………ああ、そうだ。
うん、急遽フォックステイルの仮面を調達しよう。
仮面を被れば多少の身元隠しにはなるだろう。
ルパンのアジトはここから少しばかり遠いから却下。
一番手近なホームセンターを検索して、と。
おっ、KIDの逃げた方角と同じ位置にあるじゃないか。ここにしよう。
降谷さんが少しだけ訝しげな顔をした後、納得が行ったような顔をして口を開いた。
───ああ、なるほど。フォックステイルの面を作って被るのか。衣装は持ってきていないが、お前なら仮面程度は一瞬で彫れるからな
───はい。ホームセンターで木材を購入してパパッとお面を作ろうと思います。時間がないので適当な面になりますが
そんな私の言葉に突如降谷さんが眦を釣り上げた。
───だめだ。俺たちが被るんだから最低限整って美しい面にするべきだ。今から俺がデザインする。ホームセンターに着くまでには描きあげるからそれで仕上げろ
───えっ、はい、わかりました…?
降谷さんのプライドにおいて身につけるものは一流でなくてはならないらしい。
普段、ルパンと共に行動する時の仮面も降谷さんがデザインを仕上げているが、あれもそれなりに時間をかけて作られたものらしい。
おそらく私が超短時間で掘り上げられるようデザインを改良するつもりなのだろう。
まったく、律儀なことだ。
ともかく。
仮面で顔さえ隠していれば、巻取り式フックによるスパイダーマンごっこもセーフになるから、移動の際の問題はなくなるだろう。
………冷静に考えれば全然セーフじゃないが、それはそれ。
ルパンと一緒に行動している時もこんな格好だし深く考えてはいけないのである。
ホームセンターについてからの行動は手早かった。
サイズの合う木材を購入し、裏の駐車場で手早くカッティング。
彫刻刀タイプの柄は持ってきていないから、斬鉄爪をそのまま使う。
ものの数秒で形となったそれへ一緒に買った紐を通せば完成だ。
色も塗ってない彫ったまんまの見た目だが、降谷さんのデザインだけあり美しく意匠が装飾されていてかつ華美でないシックさがある。
───よし、デザイン通りだな。行ってこい安室!!
───ラジャです!!
阿笠博士の発明品である手首につけるタイプの巻取り式フックを射出する。
浮き上がる体、風を切る感覚。
下で私の存在に気付いたらしい目撃者が驚愕の目でスマホを取り出そうとしている。
それを置いてスパイダーマンの如くシンガポールの空を駆けた。
そんなわけで。
たどり着いた先では、激しい銃撃戦と避難する人の悲鳴、怒号が飛び交っていた。
視線の先では怪盗KIDが真白い衣装をあちこち血で染めながら走っている。
そこを隣のビルから先回りして、KIDの逃走経路を予測しながらうまく位置どり。
よし、ジャスト真上!
そのままダイブして急降下する。
射線上に降り立って、すかさず発射された銃弾を全弾弾いて逸らしてみせれば、驚愕にKIDの目が見開かれた。
「大丈夫かい、怪盗キッド」
「あんたに助けられる謂れはないんだが…今回ばかりは感謝するぜ、フォックステイル!」
世界に名だたる大泥棒一味の一人、フォックステイルの予想だにしない登場に警官たちはやや狼狽えたようだった。
私は後ろを振り返らないままKIDへ話しかける。
「じゃ、ここは僕が押さえておくから逃げていいよ」
「ッ、じゃああんたはどうすんだよ!」
「どうとでもなるよ。僕、一応ルパン一味だからね?」
例えば全員気絶させて姿をくらませるとか、その程度容易いことだ。
私の気軽さからその本気が伝わったのだろう。
やや躊躇しながらも、怪盗KIDは羽を広げて飛び立っていった。
絶体絶命の状況でなお、躊躇して私の心配をするあたり、根が優しい子なんだよな、怪盗KID。
おっと、警官のいくらかがKIDの翼を撃とうとしたので素早くインターセプト。
銃弾を弾いて飛びかかり、警官の一人を服ごと武装解除する。
五エ門師匠の直伝、丸裸武装解除斬である。
警官達の司令官だと思われる小太りパーマの男が叫んだ。
「お前はフォックステイル!!どうしてここに!」
「さて。答える必要はありませんねぇ」
「くっ……撃て!国際指名手配犯だ!怪盗KIDと共謀している可能性がある!逃すな!」
号令とともに一斉射撃。
あらあら、シンガポール警察はルパン対策があまり十分とはいえないようだ。
私や五エ門師匠のような銃弾を弾くタイプの剣客相手に計画性のない一斉射撃は弾を無駄にするだけで無意味なのに。
撃つ時は必ず足止めの意図を明確にして戦略的に。
例えば本気の銭形警部が指揮する場合なんかがそれに当たる。
だからこそ銭形警部は非常にやっかいなのだが。
────待て。
私はまだ銭形警部に会ったことがないのに、なぜ知っているんだ?
ずきりと鋭い頭痛が頭を支配する。
思わずうめいてよろめいた。まずい、銃口の前なのに。
咄嗟にビルのかげに飛び込んで銃撃をやり過ごす。
銃弾の一つが私の左二の腕を掠めた。
ごく浅いかすり傷だが…失態だ。降谷さんが驚愕して深層心理の内側で声を張り上げた。
───安室、おい!?どうしたッ!!
───大丈夫です。少し、記憶が戻りかけたようで。頭痛があっただけですから
───………無理はするな。そこまでしてKIDを助けずとも、奴ならこれだけで逃げ切れるだろう。俺たちもずらかるぞ
───そうですね。適当に警官を撒いて逃げましょう
どうでもいいが、ずらかるぞって降谷さんがいうと妙な笑いが込み上げてくるな。
手慣れた窃盗グループの首領かよ。
雑念雑念。
私は少しだけ首を振って頭を押さえた。
今回ここまでKIDが手こずったのは、日本のなかなか発砲しない警官に慣れていたからだと思われる。
彼とて怪盗。
銃撃を前提に計画を立てればここまで手こずることはなかったのだろう。
まあ、銃撃対策をしようと思えば同時に警官の命も保証できなくなるから、彼としては受け入れがたかったのかもしれないが。
なんにせよ私たちも逃亡しなければなるまい。
ルパン一味として、私達も逃走には一定の覚えがある。
ルートの策定は降谷さんが、私が状況判断。逐次斬鉄で退路を物理的に切り拓けば。
15分もせず、私たちは逃げ切ることができたのだった。
それにしても。
私は先ほど思い出した記憶を反芻し、困惑のままに眉間に皺を寄せた。
なぜ、私は【未来の記憶】など持っているんだ?