バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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紺青の拳⑤

 

 レオン・ローは己の屋敷の3階から海を確認し、訝しげに口を開いた。

 

「どういうことだ?予定より海賊の数が随分と少ない…それにユージーン・リムからの連絡もない」

 

 時刻は夕方。

 双眼鏡を片手に幾度確認しても、マリーナベイに迫る海賊の数は両手で数えられるほどだ。

 予定では港に突っ込むはずのタンカーの姿も見えない。

 

 頬や体にガーゼを巻いた青あざだらけのヘッズリ・ジャマルッディンが単調な口調で進言した。

 

「既に紺青の拳の取得失敗が向こう側に広まっているのでは?」

「………」

 

 京極真との試合に負け、準優勝止まりだった彼には、レオンも取り乱して口汚く罵ってしまったのだが。

 どうやらすでにジャマルッディンはレオン自体に興味がないようだ。

 

 ジャマルッディンのどこかスッキリしたような顔つきに、レオンの苛立ちは高まっていく。

 

 紺青の拳の入手に失敗したということは、イコールで計画の失敗を意味するというのに!

 なんとか海賊を口先でだまくらかしてマリーナベイを破壊させて、うまく逃亡する手段を考えなければならない。

 

 レオンはイライラと指先で双眼鏡を叩いた。

 

「それはない。ここまで短期間に情報収集できるような体制が海賊どもにあるとは思えない。あるとするなら…」

 

 言葉の先が出てこなかった。

 ぎり、とただ歯軋りだけが静かな部屋に緊張を伝えている。

 

 ジャマルッディンの様子はなおも平坦だ。

 

「ウルフドッグが動いた、ということですか」

「ああ。やつは一説によるとかのルパン一味の大妖狐、フォックステイルと同一人物だという。事実、昼間にはこのシンガポールにフォックステイルの出現が報告されていた」

 

 フォックステイルの活動は4年前からで、一味としては正確な年齢は不明だがおそらく最年少だとされている。

 石川五エ門の直弟子なだけあり斬鉄を得意とし、またルパン仕込みの罠抜けや鍵解除技術を併せ持つ。

 

 そして、彼を最も特徴しているのがその使用する武器だ。

 鉄爪なんてマニアックで時代錯誤な武器を使って現代兵器を蹂躙する様は、まさに獣と畏れ混じりに揶揄される。

 

 獣の如き威力と人の知恵、機械の如き正確さを併せ持つ、世界最強の一角だと。

 

 レオンは昨日やり込められた記憶が頭を過り、はらわたが煮えくり返るような思いに駆られた。

 

 あのスカしたゴミをこの世から消してやろうと思ってルームサービスに毒を盛らせてみたのだが、それも上手くかわされてしまった。

 

 どうせこの街は灰燼に帰すのだから、多少杜撰な仕事になっても構わない。

 今は速度が大事な時期だ。

 

 なのに、スタッフに変装させて紛れ込ませたならず者は失敗してノコノコと帰ってきた挙句、メモ用紙を一枚持って帰ってくる始末。

 

 そこには『隠し味にしては臭いますので、その毒の使用はあまりお勧めしません』などとレオンの失態を嘲笑うように走り書きしてあった。

 

 あまりにふざけた内容に、思わず家具に当たり散らしてしまったものだ。

 

 ジャマルッディンの様子をチラリと確認すれば、相変わらず事務的な様子でレオンへの忠誠のかけらも見当たらなかった。

 それがよりレオンの神経を逆撫でする。

 

 コイツは私を切り捨てようとしているのか?武しか取り柄のない分際で?

 ふざけるな!!!

 

 レオンの双眸は濁った欲とプライド、そして怒りで轟々と燃え盛っていた。

 なんとか、口を開いて思考を吐き出し冷静になろうと努力する。

 

「……おそらく奴は多重人格者だ。細かい仕草や所作が普段のそれと対峙した時とではまるで異なっていた」

 

 ジャマルッディンに聞かせるための言葉ではない。ただのひとりごとだ。

 

 きっと、殺人鬼としての人格と一般社会に溶け込むための人格とに分かれているのだろうとレオンは推察している。

 まるでジキルとハイドだ。

 あの愚かなジキルとハイドのように、必ず破滅させてやる、と手の中の双眼鏡を握りつぶす勢いで力を込めた。

 

 視界の先では海賊達が小さなボートでようやく港に到着し、上陸したようだ。

 未だタンカーはやってこない。

 なぜ、と焦る思考が空回りする。

 

 すると、どこからともなく隠れていた警察官……いや、あの装備は軍の方だ。

 軍が海賊達を銃撃して蹴散らし始めたではないか。

 どうやら待ち伏せていたらしい。

 

 まさか、とレオンは歯噛みして狼狽えた。

 軍が動いたならレオンにだって情報は入って然るべきなのに、レオンにはなんの情報も入っていない。

 

 焦りがピークに達した頃。

 電話の着信音が静まり返った屋敷で鳴り響いた。

 レオン個人のスマホにかかってきているらしい。

 画面を見れば、それは見覚えのない電話番号だった。

 

「誰だ?」

『ご無沙汰していますよ、レオン・ロー』

「ッ!?貴様は!!!」

 

 スマホを握る手につい力が入る。

 ウルフドッグ、レオンの計画を邪魔する若造だ。

 

 電話口から聞こえるウルフドッグの声は憎たらしいほどにすましこんでいた。

 

『そちらでは計画通りに物事が動いていないことを疑問に思っている頃でしょうか』

「……君の仕業か」

『ええ。軍と警察は既に海上でタンカーを押さえています。海賊首領のユージーンは貴方に勝ち目がないと見て手を引きましたよ』

「ッ、」

 

 せせら笑う声に、レオンは血液が沸騰しそうな怒りに襲われた。

 

『可哀想なレオン・ロー!ビジネスパートナーには裏切られ、宝は逃し、ついにはその命まで失われるのだから!!』

「……それは君が私を殺すということかな?」

 

 それならばやりようはある、とレオンは大袈裟に平静を装って聞き返した。

 

 この男にはなんとしてでも自分の身の程を弁えさせなければ気が済まない。

 ただ殺すなんて生ぬるい。殺すにしても、泣いて許しを乞うまで生かしておく必要がある。

 

 もしレオンを殺しに来るとして、その時が最大のチャンスだ。

 この男の舐め腐った態度からして本気など出さないだろうから、そこを罠に嵌めるのだ。

 そうして捕らえて、捕らえて、捕らえて……。

 

 きょとん、と。

 不思議だと首を傾げるかのようなウルフドッグの声が耳を打った。

 

『いえ?僕がわざわざ手を下すなんて、そんなくだらないことしませんよ?』

「なに?一体どういう…」

 

 と、そのとき。

 命運を分けるノックの音が鳴り響き、レオンが視線をそちらに向ける。

 

 その間に電話はプツリと途切れ、ただ通話終了の画面だけが無機質に点灯していた。

 

 なんにせよ、今は忙しい。

 そう言って来客を追い払おうと口を開ける前に、執務室のドアは無遠慮に開けられていた。

 

 部屋に息を荒らげて駆け込んできたのは生徒のリシ・ラマナサンだ。

 リシは急いで階段を登ってきたのか肩で息をしてレオンに叫んだ。

 

「レオン先生!!大変です!この屋敷に警察が!!なんだかレオン先生に話があると、不穏な様子で…!」

「なにっ!?……リシ君か。伝えてくれてありがとう。少し行き違いがあったようでね、私が対応しよう」

 

 どうやら屋敷の外が若干騒がしいと思ったら、警察が来ていたらしい。

 フォックステイルからの垂れ込みでも聞きつけてやってきたのだろうが、馬鹿なことを。

 

 どう言いくるめようか、と冷静に───自分だけが冷静だと思っている思考で───考えながら、リシの横をすり抜けてドアに手をかけて。

 

 そして。

 

 ごくごく軽い、発砲音。

 

 

「な、あ………?」

「何が行き違いなんだ?レオン・ロー」

 

 激痛。それを上回る寒さ。

 口から大量の血液が競り上がってきて倒れ込めば、毛足の長い絨毯がどんどんと血に濡れていく。

 

 レオン自身には判別のつかぬことだが。

 銃弾は復讐者リシ・ラマナサンの素晴らしい腕により過たず心臓を穿っていた。

 

 背後ではジャマルッディンが素早くリシを取り押さえる。

 ジャマルッディンは京極真に敗れたとはいえ、本来その実力は空手界でも並ぶもののない強者だ。

 殺人犯1人組み伏せる程度、わけのないことだ。

 

 そうして組み伏されても、リシは狂ったように笑っていた。

 ザマアミロと笑うように、やり遂げたと安堵するかのように。

 

 

 レオンの通話状態の切れたスマホが、ただ床に転がったまま画面の明かりを落としたのだった。

 

 

 

 

 

 海賊の散発的襲撃を軍が制圧して一晩。

 

 私はコナン君とブラブラと空港内の売店を見て回っていた。

 コナン君の若干気だるい足取りには疲れが滲んでいる。

 そりゃここ数日まともに休めなかっただろうから、仕方あるまい。

 

 降谷さんはスマホを片手に現地のニュースを確認してコナン君に話しかけた。

 

「無事リシ・ラマナサンは殺人の容疑で逮捕されたようだよ」

「……そっか」

 

 コナン君が「やっぱり」とでも言いたそうなトーンでつぶやいた。

 

 今回の帰りはコナン君もダイナミック貨物式密帰国ではない。

 流石に何時間もスーツケースの中に詰まっているのは辛かろうと偽造パスポートを用意したからだ。

 席は離れているが、ゆっくり空の旅を楽しめるはずだ

 

 ちなみに。

 私のやったことは簡単だ。

 

 リシ・ラマナサンに電話でこう嘯いただけからな。

 「海賊達は計画失敗を悟って手を引くことにしたらしい。レオン・ローもテロ疑いで逮捕される手筈になっている。殺すなら今しかないぞ」と。

 そのように悪魔の囁きを非通知で入れたのみ。

 

 鈴木園子の誘拐を海賊に唆したリシを野放しにしておくわけにはいかないし、殺人の罪で服役してもらった方が丸いかな、と思ったからだ。

 

 一部でも記憶を取り戻して、私の心はどうも麻痺してしまったらしい。

 あまりにも酷い非道だと思うのに、この程度ではちっとも心が動かない。

 おかしな気分だ。

 心が二つに裂けてしまったようだ。

 

 コナン君が鋭い目で、ただ真実を貫く光を灯して降谷さんを睨め付けた。

 

「安室さん、アンタ達が手引きしただろ」

「なんのことかな?」

 

 降谷さんがにっこり笑ってしらばっくれる。

 しばらく相対した後、コナン君は視線を落として何かを堪えるように拳に力を込めた。

 

「リシさんを野放しにしては置けなかったのは、わかる。そのために後腐れのないレオン・ローを利用したのも、わかる」

「………」

 

 苦いものを飲み込んで、それでも翳らない光をもって歩んでゆく。

 再び顔を上げた彼の瞳は真っ直ぐだった。

 

「いつかぜってー、アンタにこんな真似させず俺が上手く立ち回れるようになってみせる。待ってろよ」

「ふふ。そうだね。楽しみにしてるよ、名探偵君」

 

 今日の空も海と同じぐらい澄んでいる。

 

 ギラギラと輝く太陽が肌を焼くシンガポールで、私たちはそう拙い約束をしたのだった。

 




・コナン君
いろいろ情報を集めて事情を全部察した人。
正義の多面性に苦悩し、何が最善か煩悶する今日この頃。
裏ではコナン君の行動変化によって色々原作改変が起きてたかも。
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