バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
夜の道を行く。
公園の周辺はひとけがなく、静まり返った暗い街並みだけが広がっている。
が、周囲は住宅街だ。
家に帰って家族団欒を楽しむ人々の気配で溢れかえっていることが、私の鋭敏な感覚では掴めている。
公園にしてはやや大きめの立派なトイレの裏に回り込めば、木々に紛れた羽虫が飛んでいた。
軽く手で払ってスマホを取り出す。
時刻は六時半。
まだ三池さん達はカラオケにいるし、犯人が来るまでには時間がかかるだろう。
買っておいたコーヒーを口に含めば、強い苦味が広がって頭がスッキリする。
私は糖分を含んだやや甘めのカフェオレが好みだが、降谷さんは無糖派だ。
間を取って買ったのは無糖のカフェオレだが、やはり砂糖が入ったほうが美味しいと思うんだがなぁ。
ちびちびとカフェオレを飲むこと1時間。
暇な待ち時間中は深層心理の内側で将棋に勤しんでいたが、結果は惨敗。
降谷さんにボコボコにされたのみだった。
ロジック系ゲームが強すぎるんだよなぁ降谷さん。
囲碁もそうだが、注意力が違いすぎるためリバーシも五目並べも運が絡まないゲームは何も勝てないのだ。
ちなみに、深層心理内には私たちが想像力で生み出したプレイルームが専用にあつらえられている。
暇な時だったり待ち時間があったりなどするときに、いつだったか、二人で使うレクリエーション用の建物を建設したのだ。
作ったのは細かい想像力と知識が豊富な降谷さんの方だが、私も一応手伝っている。
そこには囲碁や将棋、かるたなど伝統的なもののほか、ニンテ◯ドーSw◯tchとかも設置されている。
瞬間瞬間の判断力を要する格ゲーなんかは私の独壇場だ。
ただし戦略系はまるで歯が立たないのは据え置き。
意外なことにFPSは互角の実力だった。
現実の銃の腕は圧倒的に降谷さんのが良いのに、不思議なこともあるものだ。
などと考え事をしているうちに、将棋が詰みの段階に入った。
ここからはどうあがいても逃げられない。
「参りました」と頭を下げれば、不満そうな降谷さんが「もう少し手応えのあるやつと打ちたいんだが。安室、お前もうちょっと強くなれないか?」などとクソ失礼な言葉をかました。
これが!!精一杯です!!!
おっと、外から声がする。
誰かがこのトイレに近づいてきたようだ。
「ここです、ここから女の子の泣き声がして」などと言ってマスクをした男が先ほどの婦警さんをトイレに誘導している。
香り立つ悪意が鼻につく。
ことが動いたのは、婦警さんがトイレの奥に気を取られた時だった。
力で押さえ込もうと思ったのか、男が婦警さん相手に思いっきり羽交締めを仕掛けた。
しかし相手も警察官。
小太りの婦警さんは逆に男を投げ飛ばし、行動不能にした……かに思えたが、敵も油断ならないもので。
這う這うの体でスタンガンを取り出し、婦警さんの足元にバチリと一撃喰らわせたのだ。
行動不能になった婦警さんがやや痙攣しながら地面へと倒れ込む。
どこに隠していたのか、よろよろと起き上がった男が短めの鉄パイプを取り出して振り上げる。
それを、私たちはすっと後ろから掴んで膂力に任せて奪い取った。
「なっ!?」
「そこまでですよ。その凶行、どんな理由があろうと見逃すことはできません」
男は「くっ!!」と悔しげに呻いて逃げ出した。
とはいえ、残念ながらこの距離で逃すほど私も甘くはない。
軽く走って追いついた後、転ばせて大暴れする男の関節をきめる。
男は思いつく限りの悪態で私を罵った後に静かになった。
やはり死ぬ気になった一般人を捕えるって意外と手強いよね。
何をするのかわからないし、予想外の馬鹿力を発揮する時があるから思ったよりずっと苦労するのだ。
男は犯行が完全に失敗したのを悟ったのだろう。
「藍子、藍子ォ……!」などと誰かの名を呼んで泣き始める。
何が殺意のもとだったかは忘れたが、私たちには関係のないことだ。
私が助けると決めた。ならば、男の事情がどうであれその殺意は踏み躙られることが決定していたのだ。
そのまま片手でスマホを取り出し、私は110番を繋げた。
その後警察が来て、そのまま男は所轄の刑事にパトカーに乗せられていった。
なんともあっけない最後だ。
スタンガンを当てられた婦警さんの方も、倒れ込んだ際に頭などを強く打っているので念のため救急車で病院に運ばれて行った。
命だけは助けられて何よりだ。
私はといえば、軽い事情聴取のあと解放された。
一応なぜこんな時間に公園にいたんだい?大学生?などと心配そうな所轄の刑事さんに矢継ぎ早に質問されるトラブルがあったが、些細なことだ。
大学生に見間違えられた降谷さんが内心で青筋を立てていたのは気にしないものとする。
事情聴取が終わって帰る時間になれば、もうすっかり日は暮れていた。
降谷さんが遠く都会の光を眺めながらポツリと言う。
───助けられてよかったな
───ええ。あのままでは、間違いなく彼女は命を落としていた
たとえエゴだとしても、こう言うエゴの積み重ねで精神は保たれる。
殺人鬼の小さな偽善とはいえ、こういうことがあってもよかろうと私は思うのだ。
と、その時スマホが着信音を鳴らしたてたので降谷さんが片眉を上げた。
非通知だ。
「はい。安室です」
『よぉ、安室ちゃん。元気にしてる?』
「ルパン!何かありましたか?」
やや警戒しながら電話に出れば、いつも余裕そうなひょうきんな声が漏れ聞こえてくる。
ルパンだ。この人も常にフラットで、大袈裟に振る舞ってる割には気分の上下を感じさせない声なんだよな。
ルパンは「いやぁ」と頭を掻く姿が容易に想像できる声で言葉を続ける
『ちょっとばかし仕事のお誘いさ。今度モナコでカジノの金庫を狙おうと思ってるんだけどよ、お前本格的な仕事は記憶を失ってから初めてだろ?』
「ええ……たしかに、軽い手伝い等はしてきましたが、きちんとした組織相手の大捕物対応はしてきませんでした」
ルパンは「そーう、それ!」と言った。
たぶん電話の奥ではビシィと指でもさしてそう。
『だからよ、その前に軽く試運転にベルギーのマフィア管轄の違法カジノを一緒に狙わねぇ?』
「狙う…僕達の肩鳴らしに仕事に参加する、ということですね」
願ってもないお誘いだ。
私達のために用意した仕事だということは明らかだ。
しかも私達が気に病まないようにいかにもな悪の組織相手の盗みに設定してある。
まったく頭が下がる。
しかし……モナコのカジノか。
私もうろ覚えだが、たしかモナコのカジノでルパンといえば、かの有名ルパン映画「カリオストロの城」冒頭だったような気もするが。
まぁそれは追々考えればいいことか。
───降谷さん、どうします?
───おい、ゼロと呼べと言ったろう。……俺は参加に賛成だ。ルパンの現場で俺たちが前と変わらず動けるか確認すれば、大抵の場面でうまくやれるだろう
───失敬。そうですね。僕も賛成です。この話、受けましょう
降谷さんと軽く相談をして参加を決定する。
というか、しまった、気を抜き過ぎて内心での呼び方で降谷さんに呼びかけてしまった。
私はやや気恥ずかしさを隠すように咳払いして口を開く。
「ありがとうございますルパン、ぜひ参加させてください」
『おー、やってくれるか。よーし、おじさん張り切って打ち上げの準備しちゃうぞぉ』
「気が早くないですか?」
『いーのいーの!安室ちゃんと降谷ちゃんは肉と魚どっちがいーい?』
「僕は魚で───俺は肉がいい。高級和牛───失礼、肉です。できればブランド高級和牛を」
素早く降谷さんが口を突っ込んだので意見を翻す。
主人格特権だからね。降谷様の言うことは絶対という奴だ。
呆れたように「リョーカイ、肉ね。良いの用意しておくぜ」とルパンが繰り返して。
本日の夜は過ぎていくのであった。