バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
本日は予定通り、ルパン達と盗みの仕事である。
来月半ばにはモナコの国営カジノから大金庫を盗み出す予定で、その試運転として私も参加している。
同じ形の大金庫を採用しているという、ベルギーのとある大手カジノが標的だ。
以前聞いた通りマフィアがバックについているとのことで、私たちも色々気にせずサラッと盗み出すことができる。
ちなみに、今回所用があると言うことで五エ門師匠はお休みだ。
代わりに私が総鋼鉄製の個室を突破する役割が与えられていて、作戦の要を握っていると言っていい。
「では行きますよ。やや音が出ますので周囲に注意してください」
「おうよ、頼んだぜ安室ちゃん」
ヒョイッと壁の前に立って斬鉄爪を構える。
精神統一。壁の厚さは約90cm、これ自体が二重の金庫の役割を果たしている。
唯一の出入り口も生体認証のほか暗証番号が五分ごとに変更され、このカジノのトップ以外は開けることができない。
まあ、私にかかればその程度の防犯対策、なんの関係もないんだがな。
いざ、始めるとしよう。
斬鉄爪を振り下ろす。
瞬く間にサイコロ状に切り落とされる金属製の壁が、キィン、という非常に高い耳障りな音を鳴り響かせる。
ルパンがおーっ、と小声を出した。
「お見事。ただ、やっぱ安室ちゃんだと無音とまではいかねぇか。聞きつけた奴がいたら適当に俺らの方で対処しとくぜ」
「面目しだいもありません。五エ門師匠のようにとはいかず…精進します」
「いーっていっーて。ここはおじさん達の腕の見せ所っと。あよいしょ、そーらよっと!」
中に入ったルパンがにしししと笑う。
そして謎の掛け声と共に赤外線トラップの間をヌルヌルとゴキブリのような速度で這い回っていく。
ほんとあの動きだけは降谷さんも習得できないんだよなぁ。
次元さんは上からこまめに赤外線の軌道を鏡でずらしていって、金庫の中身を出すためのルートを確保していく。
次の警備員の巡回時間まで10分。
十分すぎるほどの猶予がある。
私はといえば気配探知でカジノ内の警備員の動きを見ながら、予定外の動きをする警備員がいないか確認している。
降谷さんの方は、私と共に表に浮上してこの後の逃走ルートの確認のためPCで監視カメラの映像をチェックしている。
私が気配探知だけに神経を割く場合、他の五感と体の操作権は降谷さんに渡せるからな。
こんな便利なマルチタスクも可能なのだ。
さすがはルパン。
そうやって軽く周囲を確認しているうちに、お目当てのものを盗み取ったようだ。
鼠小僧のような唐草模様の風呂敷に金と貴金属、宝石類を大量に詰め込んで出てくる。
しかも唐草模様の一部がルパン顔になっているようだ。
どうやら特注品らしい。どんな方向性の遊び心だよ。
幾度か往復してこちらのバッグに詰め込めば、後はずらかるだけだ。
「よーし、貰うもんも貰ったし、そいじゃずらかるぞー!安室ちゃん達、出口はどう?」
「警備員の巡回ルートは規定通り。気付いた様子はないですよ───出口の方も同じく。このまま当初の予定通りの脱出口が使えるはずだ」
「オッケー!んじゃ、収入は山分け、このあとは打ち上げね。これでよーやく好みのプロペラ飛行機ちゃんが買えるってもんよ!」
うしうしと含み笑いするルパンに呆れたような顔の次元がぼやいた。
「ルパン、また無駄遣いするつもりか…それで前実入りの八割使ってオンボロ機買って、五分でお釈迦にしたの忘れたとは言わせねぇぞ」
「ダイジョーブダイジョーブ!今回は前の収入取ってあっから、それで改装するもんね!むふ!」
なにやらワクワクと肩を揺らしている。
ルパンはこういうその場のノリと勢いで金を使う傾向があるからな。
ぱーっと趣味に使って、なくなったら適当な仕事を持ってくる男というべきか。
なお、私達は黒の組織としての活動費に当てて、あとは大半を良さげな日本の寄付先に流し込んでいる。
金の流れ込んだ寄付先を確認しては満足げに頷く降谷さんを幾度となく見てきたものだ。
とはいえ、アジトに帰るまでが遠足だ。
脱出口は特に問題なく、大量の金は無事に手元にある。
札束にキスするルパンを尻目に、私は警戒のため斬鉄爪を装備したまま後部座席に乗る。
走り出すフィアット500を追ってくる車はいない。
付けられている可能性を考慮し、幾度か遠回りしてからアジトに帰還すればお仕事は終了である。
ソファにどかりと座り込んだ次元が早々にタバコを取り出した。
一本もらったルパンも一緒に吸い始める。
私たちも斬鉄爪を外して机の上に置き、次元さんの隣に座って背をソファに預けて天井を眺める。
ところどころシミの浮いた古びたアジトだが、意外と金がかかっていて居心地はいい方だ、
………さて。
実践を通じて試運転した結果、腕前は特に問題なしだった。
だが、記憶はまだまだ抜けがあるのは確か。
私があのシンガポールで取り戻した記憶は実に断片的なものだ。
バラバラになった記憶をより集めていけば朧げに何が起こったのかは分かるが……到底記憶が戻ったとは言い難い。
どこか現実感のない夢の記憶のようなものだ。
「何考えてんだ」
次元さんがぷはぁ、と輪っか状の煙を吐き出して静かに口を開いた。
こちらに視線は向けない、何気なさを装った心配が浮かんでいる。
「いえ。少しだけ僕の記憶について考えていまして」
「ああ。この間のシンガポールで少し記憶が戻ったんだってな。どうだ、調子は」
「万全とは行きませんね。正直、映画で見たような感情の伴わない記憶でして」
「んー、とはいえ少しでも戻って来てんだ。これが呼び水になることを祈ろうぜ」
ルパンが奥からシャンパンを取り出して来て机に置く。
そして私に軽くウィンク。
どうやら元気付けてくれているらしい。
私はどうもここまで随分と心配をかけてしまったようだ。
「ありがとうございます、ルパン、次元さん」
「良いってことよ。あ、肉の店取ってあるからこれから移動な。隣町にいい日本人シェフがいたから目の前で焼いてもらう予定」
「───鉄板焼きか。分かってるじゃないかルパン───あ、そこ知ってます。普段海鮮もやってるところですよね!」
「そうそう。両方食べれて降谷ちゃん達も満足。俺も次元も満足。今夜は食い放題って寸法よ!」
私が魚と言いかけていたのをルパンは覚えていたらしい。
和牛のオーダーもクリアしつつ私を慮って海鮮も食べられる場所を選んだのだろう。
あとは私たちの胃袋が二つあれば解決なのだが、その辺は仕方ないか。
破裂ギリギリまで食うしかあるまい。
そうして、私たちは夜の街に繰り出した。
高級な鉄板焼きに舌鼓を打ちながら、近況報告やくだらない雑談その他、歓談のひと時を楽しんだのであった。
心に沈む澱を、柔らかな明日で吹き飛ばすように。