バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
やってまいりました、鈴木ミュージアム。
鈴木財閥が所有する数々の美術品を展示する場所で、特に今季限定で展示する世界最大のコンクパールは展示品の目玉となっている。
ここにやって来たのは、大阪から東京旅行に来た服部平次と遠山和葉の観光案内を兼ねてのことだ。
もっとも、メインは今回の鈴木次郎吉氏が怪盗KIDにどう対処するか、対応の手伝いのためだが。
ちらり、と次郎吉氏は目を細めたあと、表に出て安室透のフリをする降谷さんの姿を確認した。
特に何かを依頼するつもりはないらしい。
まぁ、奥の手は最後まで取っておくと言うことなのだろう。
今回の警備計画の助言者たる長野県警の諸伏高明警部も、こちらを見て意味深に黙り込むのみだ。
あっちからもこっちからも見られていて、なんとも大人気なことであるよ。
諸伏高明警部が今回東京を訪れたのは、降谷さんが伊達刑事の亡くなる直前に送った、とある一通の茶封筒が原因だろう。
中身は私に切り裂かれた諸伏景光のスマホで、暗に諸伏景光が「死んだ」と偽装するための小さな小細工のようなものだ。
諸伏警部の頭脳ならば、弟の死を伝えるためだけにスマホを送ることがいかにリスキーなことかが分かる筈。
だからこそ、この切り裂かれたスマホを見た諸伏警部は否応なく理解するはずだ。
弟は間違いなく死んだのだと。
残酷なことだが、これも諸伏警部を確実に守るための措置だ。
あのひと、あの涼やかな見た目で結構な激情家だから、下手すると組織相手に突貫しかねないからな。
個人で調べたとして、どれほど頑張っても裏社会で有名な殺人鬼・ウルフドッグに辿り着くのが関の山。
組織そのものに辿り着くことはできないだろう。
そしていくら諸伏警部でも、ウルフドッグに単独で突貫するようなことは………。
うーん。
これ以上口にすると盛大なフラグになりそうだからやめておこう。
気を取り直してしばらく室内の警備を確認してから、後は一般客の入場の時間だ。
色ボケモード全開で煩悩に支配されている服部君を横目で見ながら、降谷さんが若干小さくため息をつく。
「色恋に惑わされてそれを怪盗KIDに利用されなければいいんだがな」と内心でぼやいている。
さて。
降谷さんの想像が完璧に当たったのか、しばらく美術館の見学にまわっていた和葉ちゃんが帰ってくると、その正体は怪盗KIDとすり替わっていた。
素の和葉ちゃんと若干違う陽キャ感のある和葉ちゃんに、妙な笑いが込み上げてくる。
降谷さんも若干の違和感を覚えているのか、私に話しかけて来た。
───なぁ、あの子。様子がおかしくないか?
───間違いなく怪盗KIDですね。どこかで入れ替わったんでしょう
───顔見知りしかいない場所で、この短時間でここまでの精度で変装をするのか。速度ならベルモットすら及ばない早業だな
───声帯模写も完璧。さすがは怪盗KIDですね
降谷さんが感嘆の声をあげた後、ツカツカと和葉ちゃん(偽)の方へと歩み寄る。
偽物は露骨にうげ、という顔をした。
「和葉さん、少しいいですか?」
「な、なんやの安室さん。ウチに何か用?」
たじたじの怪盗KIDの発言で部屋にいた複数人の気配が鋭く変わる。
どうやら和葉ちゃんの一人称が変わったことで、この和葉ちゃんが偽物だと気づいたらしい。
そのまま怪盗KIDを連れて廊下へと出てから、流れるように壁ドンへ移行。
どん、と手を壁へとついた降谷さんが圧のある笑顔で怪盗KID相手に唇を釣り上げた。
「怪盗KID。和葉さんは何処です?この館内は肌寒いところが多い。そのまま放っておくのは
……紳士として好ましいとは言えませんね」
「今回服は剥いでないんだし大丈夫だっつの。っつーか、俺の仕事邪魔する気かよ」
「鈴木財閥から依頼があれば如何様にも。ただ、今現在は特に言われていることはないのでご自由に」
「ほーん。ならアンタの気が変わる前に盗ませてもらうとするぜ、記憶喪失の狂犬さん」
「おや、阿笠博士の家を盗聴していたのは君だったのか。いけない子だ」
最近新しく鳩を介して仕掛けられた盗聴器があることは知っていたが、まさか怪盗KIDのものだったとは。
とすると、知りたかったのはコナン君や哀ちゃんの動向でなく、本命は私と考えていいだろう。
私が前へ出て降谷さんの代わりに細く鋭い殺気を一瞬だけ放てば、怪盗KIDは全身を総毛立たせて背をのけぞらせた。
「……やめてくれねぇ?俺の方にはアンタをどうこうする気はないんだけど?」
「そうだね。少しばかり釘を刺しただけさ」
「へいへい、アンタには借りがある。どうこうする気はないさ」
怪盗KIDは肩をすくめて首を振った。
そんなふうに短く会話した後、私たちが部屋に戻ると妙な空気になっていた。
はわわわ…!みたいな表情の蘭ちゃんにぶっすりとむくれた服部君。
心底おもしれーと吉本新喜劇でも見ているかのような顔をしたコナン君を添えて。
なんなんだ一体……あ。
服部君が降谷さんの正面に立ち、ジトッと湿度のある顔で降谷さんを睨め上げた。
何も言わないが、「まさか和葉に気があるんとちゃうやろな」という心の声が透けて見えるようだ。
「えーっと、なにかな、服部君」
「和葉に何の用事やったんや」
「単に髪が少々乱れているようだったから直してあげただけだよ?他意も何もないから安心するといい」
「それにしては仲良さげだったやないか」
どうやら降谷さんの壁ドンを見ていたらしい。
だから蘭ちゃんがあんな顔をしていたのか。
いや、見ていたのは私も気配の動きで知っていたけれど、こんなふうにドタバタラブコメ喜劇に巻き込まれるとは思っても見なかった。
「心底困った、何を言っているかわからない」と言った風体の降谷さんと入れ替わって、私が代わりに表へと浮上する。
そのまま平次君に囁くポーズ。
「一応言っておくけど、僕が和葉ちゃんに何か好意を抱いているわけじゃないからね?ヤキモチ妬かなくても僕は君たちの恋路を邪魔したりしないよ」
「ッ!?!?ちゃちゃちゃちゃうねん何がこっ恋路や!?!?」
服部君は激しく振動してわたわたと手足を無意味に動かし始めた。
反応面白いかよ。さすがサスペンスラブコメの名を冠すだけのことはある。
若人をあまり揶揄うのも何なので、適当に切り上げて意味深に和葉ちゃん(偽)に視線を送る。
ごくり、と和葉ちゃん(偽)は生唾を飲み込んだ。
それすらもピンク色の妄想が付き纏ってしまうのか、服部君はますますムスッと和葉ちゃんを守るように私の前へ出る。
何これ、幼馴染両片思いにちょっかいかける間男ごっこおもしれー……!
「少し僕は用があるので出ますね」と言ってから、和葉ちゃん(偽)にだけ軽く笑顔で手を振って部屋を後にした。
これで私のいない間にライバル出現で燃える服部君が奮闘し、恋の行方が少し進展するって寸法よ。
私の妙な態度も後で「正体は怪盗KIDだと気づいたから」のカードがあるため禍根も残らない。
被害者は怪盗KIDだけで、その被害もより積極性の増した服部君に唇を奪われそうになることぐらいだろう。
まさに完璧!完璧な「じれってぇな…俺、少しやらしい雰囲気にしてきます!」作戦!
作戦の結果は後でコナン君から聞けば良かろう。
ブーっブーっとマナーモードのスマホが振動し、メッセージの着信を知らせる。
メッセージはコナン君から、一言だけ。
『安室さん、悪趣味』とのことだけだった。
───『君に言われたくはないさ』っと。よし、返信完了。あとはどこかで時間を潰しましょう
───はぁ、高校生の恋愛事情はよくわからん。恋なんて面倒なだけだろうに
───面倒なのは同意しますが、それが楽しいところでもあるんですよ
───お前にいい人ができたら俺はどうするかな……同居の家族みたいなポジションでいいか?
───アルティメット嫁姑戦争が始まりそうなので僕は恋愛しませんよ。ええ。ゼロは鬼姑の才能があります
───鬼姑の才能ってなんだ
ぐだぐだとそのまま恋愛雑談に移行した私たちの深層心理を知るものは、自身以外に他はいないのであった。