バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
宮野明美と灰原哀の引き合わせは、来週末の夜に決定した。
公安との調整に少し手間取ったのと、私の任務の合間を縫う都合、スケジュール的にそこしか空いていなかったというのもある。
コナン君に伝えれば「そうかよ」とだけつんけんした様子で言うのみだった。
「ただし。宮野志保は今回あんたについていくことはない。宮野明美さんに会うのは俺だけだ」
「別にいいけれど、君は宮野明美に会ったことが無いだろう?」
「TV電話をつなぐぐらいいいだろ。それで話してもらう予定だ。俺はベルモットの変装でないか調べるだけだよ」
周到なことだ。
灰原さんとしてもベルモットの変装の可能性が一番気がかりなのは当然だろう。
恐らくコナンを行かせることも危険すぎると相当揉めたと思われる。二人の会話が目に浮かぶようだ。
「宮野明美との引き合わせまでに、僕も少しだけ志保ちゃんに挨拶がしたいんだけど」
「却下。アイツはあんたがトラウマになってるんだ。いたずらに怯えさせるのが目的か?」
「残念だなぁ。」
詳しく聞いてみたのだが、それはもう酷い怯えようで一日中阿笠邸にこもって外に出たがらないんだとか。
睡眠にも差し障りが出ているらしく、博士が付き添っているらしい。
というのは、少年探偵団の子供3人から聞いた話から想像する彼女の実情である。
私のせいで申し訳ない……。
まだ身体に警戒が残ったままのコナン君が、サッカーボールをリフティングしながらこちらへ視線を向けた。
半目で睨むように、しかし決定的な敵対ではない適度な緊張感。
「それより、お前はシェリーがどうして俺とつながってると分かったんだ?」
内側で同様に疑問に首をひねる声が響いた。
───それは俺も知りたい。お前お得意の予知能力か?
───まぁ、そうですね。根本はそうなります。
どうやら二人とも、私が灰原さんの姿を確認したうえで「シェリーは幼児化して灰原哀となり、そのうえで江戸川コナンにかくまわれている」のだと知っているとは思っていないらしい。
幼児化なんて荒唐無稽な話、普通気付いているとは思わないわな。
とはいえ、その認識では今後の協力に支障が出る。
なにせ灰原さん=宮野志保だと私が知っていないと、彼女を守る口実がなくなってしまう。
私はにこりと笑って示唆的に答えてみせた。
「彼女の幼い頃の姿を知っていたっていうのが一つ。もう一つは……勘だよ。視覚的な要素以外で受ける印象が彼女と同じだったから、かな」
「………な、んだそりゃ。説明になってねーよ」
動揺は一瞬だった。
私の「幼児化、してるよね?」という意味をバリバリに含んだ言葉を、彼はうまく言及を避けて濁したのだ。
私もそれ以上は踏み込まず、薄氷の上でダンスを踊るように情報を滑らせる。
「勘はバカにならないよ。これでも、勘だけで死角からのライフルの狙撃も避けたことがある身でね」
「おいおい、話盛りすぎだろ。そんなん偶然以外の何物でもねーじゃねーか」
「盛ってないよ、本当だよ」
「ほんっと根っからの嘘吐きだな、あんた!」
コナンは目の前の大人を心底見下したような顔で叫んだ。
嘘じゃないもん!!!ホントだもん!!!
全く信じた様子のないコナン君に内心涙を流しているのに、「俺でも信じないぞそんなん」と降谷さんの呆れた声がとどめを刺す。
自分の目で見ていてもまだ信じられない?
不可能を取り除いていって最後に残ったものは真実ってホームズも言ってたろ!
大人しく信じてくれよ!私の勘は!万能!!
と、そんなふうにコナン君と仲良くした矢先のこと。
その日は雪が降っていて、足先が凍えるような季節外れの寒さだった。
任務のためジン・ウォッカ・私の3人組で行動するゴールデンメンバーの日だ。
この3人で任務を遂行するのは組織としても万全を期したいときのみ。
私はうっすら積もる雪を踏みしめ、ジンとともに目的地へと向かう。
それでジンのポルシェ356Aの周囲の雪が踏み荒らされているのを見た時点では、私は何とも思わなかった。
何十年も前のアンティーク車が現役で走ってるんだから、こんなの日常茶飯事だったからな。
車に乗った瞬間、私の鋭敏な感覚は人にはとても感知しきれないわずかな違和感───不審な電波の波長を察知した。
一回この特技を降谷さんに見せたら「お前は蝙蝠か何かか」と静かに突っ込まれた。
転生者は魂ゆえ、電波には敏感なんだよな。私も理屈は知らんがそうに違いない。
と、そんなわけで車の中で感知した不審な電波。
……これ、盗聴器だわ。しかもまず間違いなくコナン君の盗聴器。
「どうしたウルフドッグ。何かあったか」
「……いえ。この車のタイヤをスタッドレスに換えたのはついこの間でしたから、ちょうどよかったなと思っただけで」
「その件はご苦労だった。ウォッカがどうしても手が離せねぇ任務に出ちまってたからな」
「おう。兄貴の車のタイヤ換えるの手伝ってもらって悪かったな、バーボン」
「いえいえ。このぐらい手間でも何でもありませんよ」
ここから先はコナン君が聞いている事を前提に慎重に言葉を選ばねばなるまい。
原作通りとはいえ面倒には違いない。多少の警告は許されるだろう。
と、その時。
ジンのスマホがピリリと高く耳に障る音で震えた。
電話がかかってきたらしい。相手は……ピスコだ。
聞く限り、ピスコとは杯戸シティホテルで18時に会う約束になっている模様。
たしか黒の組織と繋がっている政治家が無茶をやり過ぎて警察のお世話になりそうだとか。
それで、芋づる式に組織に手が回らないよう、先んじて殺してしまう計画だったか。
言ってみればよくある任務だ。
暗殺は基本的に私には回ってこないが、幹部の側付きとしてサポートに回るときはそういう仕事がよくあったからな。
と、そこでようやくジンがガムに包まれた盗聴器と発信機を発見した。
ついでに、灰原さんの赤みがかった茶髪も。
ニヤリ、と凶悪な顔で嗤うジンはずいぶん上機嫌そうだ。
きっとシェリーが逃げたと知った後の3日間は想像するのも嫌になるくらい不機嫌だったんだろうな。
ウォッカも可哀そうに。
私はひょいとコナン君の仕込んだガムを覗き込み、口をはさんだ。
「盗聴器とは、ずいぶん迂闊な事をする……狩人であるこちらとしては有り難いことではありますが」
きっとシェリーがこれを仕込んだに違いないと勘違いしているジンに向かってのミスリードを含んだ言葉だ。
実際、慎重派なシェリーならこんな挑戦的なことは早々しないはずだ。
「ククク、今回は予定外だがテメェにも動いてもらうことになるかもな」
「そうだ。その盗聴器もらっても構いませんか?」
「あん?この汚ねぇガムが気になるのかよ」
「見たところ通常の市販品とは規格がずいぶん違いそうですから。後学の為に分解しようかなと」
引き気味のウォッカに説明しつつ、証拠の品を回収回収ゥ!
本当に迂闊だぞ、どこにでも売ってる市販品じゃなくて阿笠博士の発明品を使うなんて。
「追跡されても面倒なので、僕はこれを持ってここで降ります。コレを分解してから合流場所へ向かいますので、集合は少し遅れます」
「……ちっ、何かわかったら教えろ」
「はい」
今日は一段と冷え込む日だ。
雪の舞う路上に一人降りて、走り去る黒いポルシェ356Aの後ろ姿をじっと見送る。
私は盗聴器にそっと声をかけた。
「あまり無鉄砲なことはしないようにね、コナン君」