バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
本日は平和に映画を見に出かけるオフの日だ。
ベルモットがヒロイン役で出演する大作映画が今日から放映されるということで、私も感想を伝えるために映画館に足を運んでいる。
先々週から放映のアゼンジャーズ───この世界におけるアベンジャーズだ。絶対。蜘蛛男もいるし───に客を吸い取られたのか若干おぼつかないスタートだったが、見たところ出来は非常に良かった。
ポップコーンを片手に嫌がる降谷さんと一緒に約一時間半を過ごしたのだが。
ハリウッドらしい安定した脚本と金のかかったCGは素晴らしいの一言だ。
重厚な効果音はシリアスな作風によく合っていたし、手に汗握る展開は緩急がついていて見る人を飽きさせない。
終わったところで、私も『映画見ましたよ。貴方の役、オリヴィアの凛とした強さが伝わって来て楽しめました』とベルモットにメッセージを打った。
返信はすぐに来た。
『ありがとうキティ。わざわざ見てくれて嬉しいわ』というコメントだ。
それと共にキスマークのスタンプが送られて来たので、降谷さんがオエっとえづくポーズをした。
───この女はなんなんだ。なぜ俺たちにここまで気色悪く振る舞えるんだ???
───別に気色悪く振る舞ってるのではなく、他愛もない遊びができる仲だと信頼されてるんですよ
───にしたって孫ぐらいの年齢の男にやることか!?ふざけるなよあの腐ったリンゴ女め!!!
吠える降谷さんの怒りようだが、思うに、降谷さんのこれは元々女性の性的なイメージが大嫌いなのが根本にあるのだろう。
だから峰不二子さんのことも苦手なのだとはわかっているが。
なんともはや、難儀なタチであることよ。
そんなわけで、大満足のまま劇場を後にしようとすれば、出入り口でばったりと。
なんと、いつもの女子高生三人組と出会うこととなったのだ。
蘭ちゃん、園子嬢、そして若干身構えた世良さん。
後ろにはぱちくりと瞬きする京極さんと、「どこにでもいるなこの人」なんて顔をしたコナン君までいる。
つか、「どこにでもいる」はこっちのセリフなんだがコナン君や。
蘭ちゃんがニコニコと進み出て降谷さんに話しかけてくる。
「あ!安室さん!安室さんもアゼンジャーズを見に来たんですか?」
「いいや、僕は今日から放映の話題作を少しね。アゼンジャーズは子供たちと一緒に見る予定だよ」
「そうだったんですね。こんなところで会うなんて奇遇!どうですか、この後街でお茶する予定なんですけど、ご一緒しませんか?」
実に無垢なかつ親切心からきたお誘いに、蘭ちゃんの瞳は煌めいている。
しかし世良さんの瞳がどんどん険しくなっていることに蘭ちゃんが気がつく様子はない。
逆に京極さんは紺青の拳の一件で私に恩義を感じているのか、どう間に入るべきかと様子を伺っているようだ。
京極さんには私が裏の人間であることは打ち明け済み。
私のことを庇ってくれるのは嬉しいのだが、これで妙な軋轢を招かないよう注意しなければなるまい。
「お邪魔じゃないですか?」と降谷さんが謙遜しながらも蘭ちゃんの勢いにグイグイ押されて連れて行かれている。
おお、押しの強さで降谷さんが負けるとは珍しい。
普段の家事を私が引き受けることで随分蘭ちゃんの負担が減ったからか、かなり懐かれているからな。
蘭ちゃんに手を引かれる私たちに、コナン君がブスッとした表情で睨みつけてくる。
別にデレデレとか何もしてなかっただろうに、嫉妬の鬼か君は。
そんなこんなで街歩き中。
平和にとはいかないもので。
まっすぐ道を歩いている中通りの反対側にふと目を向ければ。
拳銃を持った暴漢(?)が女性を人質にとって暴れているではないか!
一瞬体が反応しそうになったが、気配がおかしかったので急停止。
犯人側に悪意も何もないし、被害者女性を含め全体的に動きが大袈裟だ。
私たち潜入捜査官が嗜む演技ではない。カメラ映りを第一とする、演者の仕草だ。
つまりあれはドラマや映画の撮影中………おっ、ここからだと死角になる方向に撮影機材とスタッフが見える。
などと考えている数秒の間に、京極さんが犯人役を軽く伸してしまった。
うーん手早い。あと動きに無駄がない。
そのまま園子嬢が割って入ったころには、俳優さんはすっかり意識を失ってしまっていた。
あまりに一瞬のことに、呆然とするスタッフ監督以下撮影陣の皆様。
「へ?」と京極さんも何が何だかわかっていなかったようなので、降谷さんが軽くフォローを入れる。
「撮影中だったみたいだね。注意力を磨くといい。隠れている人が敵意を抱いているとは限らないからね」
「うっ……あ、なんと……ご、迷惑をおかけしました…!」
監督が困惑しながらのした俳優さんを確認してから。
「うーん…困ったなぁ。まだ撮り分は残ってるし。代役って言っても…」と今後の撮影スケジュールを考えながら京極さんに近づいて来た。
そしてはっと何かに気づいたポーズ。
「それにしても、君、良い体してるねぇ!何かやってる?スポーツとかさぁ!」
「え、ええ……多少は。自分より動ける方はいますが、自分も一応一般人よりかは心得はあるかと」
「自分より動ける?」
京極さんの視線の先に釣られるように、私に視線が集中する。
バンダナをつけた監督が、しばしの沈黙ののち吠えた。
「おおーーーっ!!!これはこれは!逸材だよ!あーー、でも今撮ってるドラマとは方向性がなぁ」
「えーっと………その、?」
「でもこんな逸材滅多にいないし、ねぇ君、俳優とか興味ない!?」
すごい早口と熱量だ。
とんでもねぇことになった、と私は内心両手を上げた。
降谷さんが「またこの手の類か。俺は嫌だって言ってるだろ!」と心底嫌そうな顔で宣っている。
すでにTV業界勧誘は経験済みらしい。
そりゃそうか。
「あの、その。失礼ですがその手の話はお断りしているんです。申し訳ありません」
「そうかぁ。気が変わったらここに連絡ちょうだいね。これ、名刺だから。新シーズンの新米刑事役にもいいなぁ、……うん。やっぱほんのちょっと、ちょっとだけでもやってみない?」
「すみません」
笑顔にしても拒絶の色の強い降谷さんがぺこりと頭を下げた。
そしてその仕草が「相手に見せるための拒絶の笑顔」だと監督は気付いたらしい。
余計に「才能あるよ君!!」と盛り上がり出した。
私と降谷さんの演技はどちらかといえば潜入捜査において最適化された実戦向けのそれだが。
しかし、ベルモットの教えもあるのでTV撮影向けとしての流用は可能なのだ。
というより、降谷さんの演技としての振る舞いを監督は感じ取っていたのだろう。
「いやぁやっぱり惜しいなぁ!」と心底残念そうにしゅんとしている監督に、「すみません。僕そういうのはお断りしているんです」ときっぱりと降谷さんが断った。
そんなこんなで撮影は京極さんが代役で進めることになった本日の撮影。
無論のこと唐突な殺人事件もセットになっており、すったもんだの末に警察庁捜査一課のいつものメンバーと現場で落ち合う羽目になった。
「君も来てたんだね!」と現場で同僚に会ったみたいな顔をして高木刑事がコナン君に話しかけていたので、私達は少しばかり苦笑したのであった。
次回は番外編:カリオストロの城。