バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
水門が開かれていく。
水が溢れ、明けの空に古の都が姿を現してゆく。
鐘の音が、開放の時を祝福するように高らかに鳴り響く。
逃走中の私も、それを追う衛士たちもつい足を止めて振り返るほどの爽やかさで、空気の変わる気配がした。
次元さんが帽子を上げ、遠く時計塔のほうを眺めて言った。
「終わったか」
「ええ。恐らくはカリオストロの長きに渡る因縁に蹴りがついたのでしょう」
「まったく今回はひでぇ目に遭ったぜ。オメェに叩き起こして貰わなきゃ死んでたところだ。おい坊主!自分の使う武装の効果ぐらいきっちり把握しとけ!!」
「うむ。次元の言う通り。戦場でこの手の不備は仲間すら危険に晒す。気をつけるがよい」
「ご、ごめんなさぁい…」
口々に非難され、今回ばかりはコナン君もしゅんとなった。
さて。
結局、カリオストロ伯爵は自分の欲深さによって身を滅ぼした
カリオストロ家に伝わる宝とは、ローマ時代の遺跡のことだったらしい。
遠く見えるローマの街並みは長い水底暮らしにも関わらずその全景を保っていて、美しく朝日を反射して煌めいている。
もちろん、ルパンが盗むには不適格な場所系財宝の類である。
私達は盗むものも何も無く、文無しのまま。
心に残る清涼な風のみを残して、去るのみであった。
お姫様と僅かな別れを済ませ、断腸の思いで彼女を残して来たルパンの表情は憂いたっぷり。
顔の前面に「連れて来たかった」という思いが滲み出ている。
それを察して車内でも何も言わずにいたんだが、その空気を打ち破ったのもルパンであった。
ルパンは自分の中で自分の選択に決着をつけたのか、いつも通りの気軽さでにししと笑って私に話しかけて来た。
「安室ちゃん、安室ちゃん、原版持ってんだよね、ほら、偽札の」
「持ってますよ。不二子さんと山分けしましたから」
「ちょーだい!ね、仲間じゃん俺ら、このぐらいあってもさぁ」
「───ダメに決まってるだろ。この偽日本紙幣の原版は日本に流通する偽札の撲滅のための重要な手掛かりになるんだ」
「まあまあ、そう言わずに!」
降谷さんの決意が固いとみるや、ルパンはコナン君の肩揉みに移った。
だがコナン君はいい笑顔で「もうロスの親父のところに送っちまったから手元にはねーよ」とすげなく言い放つのみである。
ルパンは再びしょぼくれてガックリと意気消沈してしまった。
次元さんがタバコをふかし、やれやれと息をついて私たちに話しかける。
「オメェ達はこの後どうするんだ?」
「コナン君の旅行日程が終わりましたので、普通に日本に帰国するつもりですよ。後はゴート札の情報提供をして、僕らは公安として始末書に追われる予定です」
「ほー、始末書とは大変だな、役人の立場も」
「仕方ないですよ。今回はことが大きすぎましたし、組織の方にも連絡と報告をあげないといけませんね」
「え、どういうこと?組織が何かゴート札と関係あるの?」
組織の名を聞いてコナン君が一本釣りされた。
朝から大格闘して疲れてるだろうに、こう言うところのアンテナはビンビンである。
この問いに答えたのは降谷さんで、肩をすくめてポンとコナン君の頭を撫でた。
「───単に組織がどれぐらいゴート札を摑まされているか確認のために奔走することになるだけさ」
「ああ、そっか。これから摘発が入って使えなくなるかもしれないから!」
「そうだ。銀行もてんやわんやだろうな。なにせ相当数の偽札が出回っていたんだ、日本経済への影響も深刻だろう」
「個人への補償問題とか、うわぁ……考えただけで大変そう」
青ざめるコナン君に、ルパンが「まっ、オジサン達には何にも関係ないけどな?」と言って小さく伸びをした。
隣の五エ門師匠が刀を抱えたままチラリとコナン君を見る。
「それより、拙者としてはあの催眠ガス兵器の制作者に物申したい。あれほどの機構を作る腕前を野に放ったままにして置くのは如何なものか」
「だな。しかるべき施設を与えるべきではあるわな。今回のアレももうちょい施設が充実してりゃ防げたわけだし」
「えー、でも博士だぜ?いっつもくだらないもんばっか作ってて近所からは非難轟々浴びせられてるし」
コナン君が胡乱な顔で「切るとチョキンって音が出るハサミとか」と言い放つが。
君は黙ってなさい、と言う顔を四方八方から受け、すごすごと小さくなった。
私も一応フォローという名の提案をしておくとするか。
「でも、あの超発明の数々は彼の自由な環境があるからこそ生まれてくるものかもしれませんよ。発想の泉源は万のガラクタの中から生ずるとも言いますし」
「それもそうだな。俺様と一緒で天才肌みてーだし?」
にやっとルパンが笑って見せる。
傲慢なようにも聞こえる発言は、しかし確かな実力に裏打ちされた事実でしかない。
助手席の次元さんが腕を頭の後ろに回して伸びをした。
「なら実験施設の利用権だけ渡すか。俺に伝手があるから、そこ使ってもらえばいいぜ」
「そだな。よりガキンチョ用の秘密道具の完成度を上げるため、自由に使ってOK!みたいな?次元ってば太っ腹ァ!」
「それがよかろう。腕は確かなのだから、設備さえ充実させれば巻き込み事故も減る」
うむうむと全員が納得する中、コナン君ただ一人がブツブツと「いやー博士だぞ?そこまでするほどか…?」と納得いってないのはどういうアレなのか。
まさか工藤新一の幼少期に認識阻害の発明品が仕掛けられたとかなのか?
それはいいとして。
車はカリオストロ公国を通り過ぎ、近場の空港に向かっている。
この長かったルパンとの旅もひと段落だ。
後は日本に帰り、日常に戻るのみ。
私はコナン君の顔を覗き込み、そっと問いかけた。
「どうだった?学びには繋がったかな、名探偵君」
「……ああ。俺もまだまだだなーって、そう思ったよ」
その言葉にパチクリと瞬いたのはルパンだ。
「あら素直。どしたの?」
「うっせー。パパにもいろいろ教えてもらってすぐに名誉挽回するから待ってろ!」
「それは心配してないけど。見どころのあるガキンチョだし。ちょっと生意気なのが玉に瑕だけど」
「生意気って言うな!」
わあわあと喚きつつ、コナン君は不意打ちの「見どころのある」と言う言葉に照れたのか顔を赤くしている。
そりゃルパンほどのビッグネームにそう評されたら嬉しいわな。
「……とりあえず、親父みたいに各組織に伝手を作って、自分もその辺のパワーバランスを把握して。その前にガキの体とはおさらばしないと」
「それが一番大変なんだけどね。アポトキシン4869のデータは極秘中の極秘。僕ならとってくること自体はできるけど、バレちゃうから潜入捜査を続けられなくなっちゃうし」
「オジサンが取ってくるー?」
ルパンがひょいとこちらに頭を向けて挑発的に笑って見せる。
コナン君が素早くガルルと眉間に皺を寄せて噛みついた。
「ヤダ。黒の組織ぐらい一人で解決できなくて、何がルパン一味なんだっての」
「無理な時は仲間を頼るのも大人の嗜みだぜー?」
「無理じゃねーっつの!!からかってんのかオッサン!!」
コナン君の叫びに車内がワッと沸いた。
和やかな空気だが、さらっとコナン君までルパン一味になってしまったな、と降谷さんと二人で頷きあう。
まあこれも大人に必要な「伝手」のうちの一つとあれば、十分過ぎるほど将来工藤君を助けてくれることだろう。
爽やかな風が開いた窓から車内に吹き込んでいる。
遠い山々の向こう側から、まだあの時計塔の鐘の音が聞こえているような気がして。
私は少しだけ振り返って空を見つめたのだった。
・その頃、日本にて
蘭ちゃん「新一の言ってた厄介な事件って、これのことだったんだ…!」
園子「300年以上続く国家ぐるみの偽札作りねぇ、そりゃ帰れないわ。なんならアタシん家もてんやわんやだもん」
蘭ちゃん「新一、無事かな…私も何が仕送りした方がいいかな…」
園子「こりゃ当分新一君も帰れなさそうだし、聞いてみればいいんじゃない?」
蘭ちゃん「うん!そうしてみる!」