バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
目的地は使われなくなった廃教会だ。
雪山の奥深くに佇むそこは外観こそ当時のそれを保っているが、中は埃の積り放題、蜘蛛の巣張り放題。
廃棄された一斗缶が入り口付近に転がり、まさに雰囲気は幽霊屋敷そのものだ。
「まさに連続殺人事件の舞台、雪山の山荘ですねぇ」とRUMが底意地悪く声を低めた。
それに呼応するように私もわざとにっこり笑ってワクワクした声を出す。
「ですね。なんというか、古典的で実に楽しそうです」
「おんやぁ?事件が起きるかもしれないですぜ?」
「それこそ毛利先生の出番じゃないですか!雪山の惨劇!血飛沫と憎悪と因縁!そういうところに探偵はいるんですから!」
地味に本当のことなのだが、ことさら「人の命なんてなんとも思ってないですよ!」的なトーンを強めて言い放つ。
こんなコテコテのクローズドサークル、事件が起こらないわけないんだよなぁ。
渋面を作った毛利探偵が私を嗜めた。
「縁起でもねえこと言うんじゃねぇよ。ったく。ここで依頼人とは集合の予定なんだ。そんな事件起こってもらっちゃ困るっつーの」
「あはは、ですね。ここには依頼人らしき人はいないようですし、少し奥にも行ってみましょうか」
毛利さんを案内するように教会の扉を開ける。
すでにRUMは私の限定的記憶喪失のことは知っている。
だから私の監視も兼ねているのだろうが、やはり私に対する警戒が妙に高いように見える。
降谷さんがややあってから目を細め、低く呟いた。
───やはり、「フォックステイルの小狐」の正体がコナン君だとバレていると見ていいな
───ええ。遅かれ早かれとは思っていましたが。ゴート札での大立ち回りはTVにも映りましたからね
───ルパンの方には話を通しておくとして、俺たちはどう出る?
───そうですねぇ……
中は風がない分、やや寒さが凌げるのか冷たさが和らいだ気がする。
しかし隙間風がかなりひどい。
外が吹雪の中、あまり長居したい場所ではないことは確かだ。
歩くたびギシギシと床が軋むし、冷え切った陰気な空気は幽霊でも出そうな有様だ。
はーっと白い息を吐けば、より寒さが増した気がした。
───……堂々としていましょう。聞かれたら、ルパンの一味なので正直に報告するわけにはいかなかったと答えればいい
───それが妥当か。だが……人質に取られる可能性があるのが痛いな
───RUMならばルパン一味を敵に回す選択はしないでしょう。そうやって滅びていった巨大裏組織がいくつあるか、数えるのも馬鹿らしいですから
───まったく、とんだ綱渡りだな
RUMのバランス感覚はこの黒の組織という中でも特筆して際立っている。
中堅組織を担うものとしては過分なほどに良い、と言ってもいい。
並み居る悪の組織の渦でこの組織がやっていけているのは、RUMの類稀なる政治的駆け引きの強さにあるのだ。
そのRUMの視点から見て、ルパン一味は厄ネタ中の厄ネタだ。
ビッグネームが次々と無惨に消されていくのを幾度も目にしてきたし、実際に耳にしてきた。
だからこそ、私がルパン一味になってから自由を許しているのだ。
あくまで任務が依頼の形を貫いているのも配慮の一つ。
それほどまでにルパン一味という名前は重く、RUMにとって危険極まりない意味を持つ。
……。
思考でまばらになった注意でも、その先に何人もの気配があるのが理解できた。
今回の事件の被害者達と犯人達だ。
これは36マスの完全犯罪(パーフェクトゲーム)。
自死した男の無念を思い、誤解のままに連続殺人を起こしてしまう犯人の物語である。
この事件も勘違いで殺していったタイプの哀れな話なので、可哀想だから止めるべき……なんだが。
RUMの手前、それも容易にはできないのが辛いところだ。
奥の礼拝堂に入ってきた私たちに、犯人と被害者達は驚いたような顔をして話しかけてきた。
男三人に女一人。
私たちは、表面上穏やかに彼らへと話しかけた。
さて、そんなわけで私たちはこの教会に一泊することになったわけだ。
というか、犯人の目論見によってトンネルが爆破され、一泊せざるを得なくなったというべきか。
犯人が企画した奇妙な宝探しのようなレクリエーションもあったが、詳細は省くとしよう。
結論だけ言えば。
結局、原作通りに被害者が一名出るだけであった。
私は無惨に死した遺体が残る犯行現場のトイレに、コナン君と共に少し残ることにした。
単に「お手洗いを済ませるから先に礼拝堂に帰っていてくれ」と周囲に伝えて現場に残っただけだが。
やはり毛利さんは心配そうに「すぐ戻れよ。まだ犯人がいるかも知んねーんだからな」と声をかけてくれた。
コナン君が現場を見聞して、座ったままトイレに設置されたボウガンに目を細める。
「これ、トイレを調べる人を無作為に狙った罠だと思う?」
「いや。僕ならそんな不確かな罠は仕掛けないかな」
「だよね。だとしたらどんなトリックを使ったのか…」
話しながらも、気配の察知は怠らない。
どうやらRUMは大人しく礼拝堂に戻ったようだ。
私はそっとコナン君に囁きかけた。
「コナン君、RUMが君を狙う可能性がある。気をつけておいて」
「ッ!……どういうこと?」
「おそらく、君が小狐だとRUMにバレている。僕の弱みだと思われた可能性が高い」
そのうえ、工藤新一の正体が江戸川コナンだとバレるのも時間の問題。
よっぽどのことがない限り接触してはこないとは思うが、切羽詰まれば弱みを武器に強請られることはあるかもしれない。
例えば「小狐の正体をバラすぞ、それが怖ければ交換条件だ」とか。
そう言うジャブを打ってくる可能性は否定できないのだ。
顔色がさっと変わり、コナン君の拳に力が入る。
「………僕としてはそう出られたら打てる手はないよ。今のうちにルパンおじさんのとこに逃げる?」
「それも一つだけどね。でも僕としては強気に出ても構わないと思う」
「それって脅されたら『やってみなよ?』って挑発してみるってこと?」
信じられない、と言うような顔でコナン君がポカンと口を開けた。
しかし同時に瞳に納得の色が宿る。
コナン君とてルパン三世という名前の意味ぐらい薄々理解しているはずだからな。
私の「強気に出ろ」という言葉も理解が早いのだろう。
というか、もしRUMが強硬策に打って出た場合、待っているのは間違いなく組織壊滅だ。
よっぽどの事がなければ強硬策には出れまいよ。
「実際、RUMはかなりの慎重派でね。脅しはしても、実行までできるとは思えない」
「……いざとなったら安室さんをカードに使ってもいい?」
「いいよ。『どっちの言うことを聞くか試してみようか』って言い放つ君、最高に女王様っぽいし」
「誰が女王様だよ!!」
コナン君も話しているうちに少し肩の力が抜けてきたようだ。
よかった。
あまりに緊張しすぎればそれがRUMの側にも伝わるからな。
それはコナン君を軽んじられる原因になりかねない。
「なんにせよ、君は一歩でも引けばおしまいだ。ならばあとは押すしかない」
「……わかった。あーあ、早くオジサン達みたいにこの程度一人で切り抜けられるようにならないと」
「まあ、この辺は場数だからね。きみだって成長してるはずさ───そうだ。俺が君くらいの年齢の時、ここまで動けていたかどうか」
「高校生?そうか、君は高校生だったな」と感慨深く降谷さんが頷いた。
高校生だと思うとほんととんでもないハイスペックなんだよな。
普通の新米潜入捜査官でもここまで胆力があったか微妙なラインだ。
いや
潜ってきた場数が違うと言えばそれまでだが。
「そろそろ行こっか。おじさん達が心配してるかもしれないし」
「そうだね。それに、殺人事件もまだ終わってないみたいだし」
そう言うと、コナン君は凍えた手を擦り合わせて温めながら、実に何気なく私へと問いを落とした。
「ところで。安室さん、犯人わかってるよね?」
「……………まあ、ね」
私は沈黙の後、精一杯のごまかし混じりに正直に肯定した。
コナン君は「そう」とだけ言って。
それだけだった。