バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
もうすぐオリンピック…じゃない。WSG(ワールドスポーツゲームス)東京の開催日だ。
世間のニュースはWSG一色。
会場付近の目玉グルメであったり、予約状況であったり。
蘭ちゃん達の話題もどれを観戦に行くかでもちきりで、私たちも自然と気分が高揚してくる。
しかしそれイコールで、すなわち劇場版名探偵コナン緋色の弾丸の始まりということに違いない。
今回のWSG東京の目玉は新しく名古屋-東京間を繋ぐ大動脈となることを期待される、真空超伝導リニアライナーだ。
派手に事故って爆破炎上する運命にあるそれは、ニュースでも数多く取り上げられている。
TVでリニアの技術特集が流れるたび、なぜか我がことのように降谷さんが胸を張るんだよな……。
その様子を見るたび、完全大破の運命なのがことさら胸に痛く思えてくるものだ。
というか降谷さん、最近WSG東京の日本選手と開会式の話しかしねぇ。
「俺の考えでは今年のアーチェリー日本代表は…」「馬術も見逃せないな。こっちはチケットをとってあるからなんとしてでも見に行くぞ!」などなど。
そしてとてつもなくご機嫌だ。
警備の関係で公安も忙しいのに、世界に冠たる日本を見せようとより張り切っているようだ。
ああ、犯人によって開会式が会場ごとメチャクチャになることを思うと今から胃が痛い。
一応、今日は芝浜ビューホテルでWSG東京協賛企業壮行会が行われるので、それに参加する予定だ。
場所は川品駅近くで、駐車場もあるため今回は私達も車で来ることになった。
なお、私はまだ駅名に慣れていない。
なんだよ川品駅って。逆じゃろ逆。
もうここに来るまでの間に幾度も間違って品川駅と呼んで降谷さんに笑われているので、若干心が刺々しがちな私である。
その近くには芝浜駅と地下道でつながっている芝浜スタジアムがあり、そこが現実世界でいうところのオリンピックスタジアムになる。
放っておけばラストでリニアライナーが突っ込むことになる新国立競技場様である。
この芝浜スタジアムも、完成までの間に工期の遅れやら予算やらがニュースで取り沙汰されていたのを考えると……。
うむ。テロられて完成した瞬間大破壊とか降谷さんが寝込むこと間違いなしだ。
有料駐車場に車を止め、会場へと歩いて向かう。
今回のこれは鈴木次郎吉氏のお誘いだったのだが、組織の任務の関係で頭からの参加はできなかったんだよな。
降谷さんが心配そうに私を覗き込む。
───大丈夫か、安室。こんなパーティ無理して参加する必要はないんじゃないか?
───問題ありませんよ。多少吐いたら気分も落ち着きましたし
───……なら、いいが
服装に関してもパーティなのでカジュアル寄りの正装だ。
ベルモットと行動を共にすることもあるから、こういうパーティ用の正装は沢山ある。
が、今回はバーボンの格好を流用している。
胸の青い宝石は自分で彫った宝石花を使っている。
パーティで人とぶつかるかもしれないので少々頑丈めに作ったが、そのせいでいつもの薄さが薄れている。
これは要研究だな。
パーティ会場に到着すると、まだ会場はざわついているところであった。
食事が始まったところ……に見えるが、どうにも人々が浮き足立っている。
そうか、鈴木会長の誘拐事件があったんだったか。
組織の仕事があったせいですっかり忘れていた。
組織の仕事もとい、私のために開かれる罪のない一般人を虐殺する殺人ショーだ。
今回は武器ありだった。
涙目で必死に私に銃を向けたのは、まだ年端もいかない子供だった。
重たい剣を持ったまま使い方もわからず逃げ惑うご婦人を斬り伏せ、肩で息をした男のバールを避けて。
銃弾は明後日の方向に飛んでいったので避ける必要すらなかった。
反動で脱臼した子供が泣き叫び、その声が耳に張り付いて離れない。
ご婦人は慎重に急所を外すように斬ったから、治療を受けられれば生き残れるはずだ。
───分かってるんです。治療を受けられる可能性なんてないって。あれはただの僕の独りよがりだったって
───……安室。顔色が悪い。俺が表に出るからお前は中にいろ
───!
無理やりぐいと引き込まれて、私はタタラを踏んで一瞬よろけた。
降谷さんが重い体を振り払うように頭を振って、まっすぐに前を見る。
私が立っている時より覇気のあるように見えるあたり、やはり降谷さんの判断は正しかったのだろう。
ふと、降谷さんが心配そうに話し込む女子高生組──蘭ちゃんと園子嬢を見つけた。
ひとまずと言った様子で話しかける。
「どうしたんですか、何か騒がしいようですが」
「安室さん!会場にいたんですね」
「いえ、僕は所用がありまして今着いたところです。それより、何かありました?」
「っそうなんです!園子のお父さんがどこへ行ったかわからなくて!電話をかけても繋がらないし、みんなで今探してるところなんです!」
「っ!行方不明、ということですか」
降谷さんが表情を険しくさせてスマホをチラリと見た。
確かに、数日前に製菓会社の社長が攫われた事件があったのは風見さんからの連絡で把握している。
「他に何か見ていませんか?鈴木会長が失踪する前後に何かあったとか」
「そうね、ガキンチョが青白い火花を見たって言ってたわ」
「……スタンガンですか。だとしたら、この大勢の人がいる場所で、気絶した人間を不自然に思われずに移動させる方法が必要なはず」
降谷さんが考え込んでいる。
これは私も出る場面だろう。
内側から気配を研ぎ澄ませれば、大量の気配がホテル中にひしめいているのがわかった。
私の気配探知は三次元的に障害物を無視して人がどこにいるかを判別するもので、それで個人が特定できるものではない。
だが、気配の大小ぐらいは把握できるのも間違いない。
この大小の差を利用して子供の気配だけ探知、みたいなことも前にしたことがある。
そして、気配が小さいのは子供だけではない。
病人、死にかけ、体調不良、気絶。そう言ったものでも気配は小さくなる。
───ゼロ。このホテルの構造はわかりますか?
───ああ、警備の関係で芝浜ビューホテルの構造も頭に入れてある。共有するか?
───お願いします。………ふむ。不自然に小さい気配が調理室で動きません。一人だけで、周辺に他の気配はなし
───迷い込んだ子供…にしては、一人で動かないのは変な話か。念のため確認しに行こう
降谷さんが襟を正し、そのまま踵を返す。
「すみません、少し出ます!」
「何かわかったんですか!?」
「思い当たる場所があります。が、あまり可能性は高くありません。一緒に来ても構いませんが、無駄足になる可能性もあります」
「行きます!ねっ園子!」
「うん!お父さんがそこにいるかもしれないのよね!」
蘭ちゃん達を伴い、調理室へと向かう。
調理室の前にはなぜか鼻をクンクンさせている元太君と、その後ろに続く少年探偵団のいつものメンバーと鉢合わせ。
コナン君が驚いたように目を見開いた。
「安室さん!?どうしてここに!?」
「僕も伝手で参加していてね。君たちも鈴木会長を探していたんだろう」
「うん。料理を運ぶワゴンに会長を入れたんだと思って、確認に来たんだ」
「僕も同じ意見さ。さて、なら鈴木会長を早いとこ見つけて医務室に運ぼう」
迷いない足取りで降谷さんが部屋中央右の棚まで歩いていく。
これは少年探偵団の美味しいところを持って行ってしまったかな。
あとで補填してあげないと、とぼんやり考える。
バタン、と無造作に棚を開ければ。
そこには気を失い、手首を縛られ、口にガムテープを貼られた鈴木会長がいたのであった。
助け出された鈴木会長は、疲れ果てた顔で医務室で目を覚ました。
涙目で父を抱きしめる園子嬢にほんわかほっと安堵しながら、駆けつけた捜査一課の事情聴取に応じる。
鈴木会長は取り出した白いハンカチで額の汗を拭いながら、恥いったようにぺこりと降谷さんに頭を下げた。
「君のことを誤解していたようだ。ありがとう安室君。助かったよ」
「いえ、気にしないでください」
きっと彼は私がウルフドッグだということを知って、ずっと警戒していたのだろう。
そこを命を救われて、わざわざ頭を下げるなんて。
本心から申し訳なさそうにする鈴木会長に、私は園子嬢の善良な人柄の大元を見たような気がした。
ただし。
誤解なんてとんでもない。
私はあなたが想像した通りの非道な人間なのだ。
女子供を嗤って斬り伏せる悪党なのだと。
そう、深層心理の袂でうっそりと笑ったのだった。