バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
車は走る密室とも言われ、密談に最適な空間だ。
今、スバル360に乗る私たちは、昴さんとドライブの真っ最中だ。
同乗者はコナン君。
なお、降谷さんは不機嫌そうに腕を組んで後部座席で眉間に皺を寄せているものとする。
話題はWSG東京のスポンサーが相次いで誘拐された件について。
車はゆっくりと米花町内を巡回している。
後ろに不自然につく車はキャメルさんの運転するものだろう。
昴さんが前を向いたまま、静かに口を開く。
「これは15年前に起きた事件の模倣犯だ。だからこそFBIもこの件に関わることを決めた」
「……模倣犯だろうがこれは日本で起きた事件だ。情報だけおいてさっさと俺の日本から出ていけ、FBI」
降谷さんの刺々しい言葉に、助手席に座るコナン君が苦笑した。
話し合い早々に喧嘩すんなよ。
昴さんは降谷さんの鋭い視線を何も気にしていないような陽気な声で返事をする。
「いいじゃないか、降谷君。今回の事件が早期解決すれば、WSGという大イベントを間近に控えた日本の得にもなる」
しばらくの間の後、降谷さんは舌打ちした。
まったく行儀が悪い。
昴さんの言っていることも尤もだと理解したのだろうが、心情が納得しないのだろう。
どうして赤井さんを前にすると大人げというものを全て投げ捨ててしまうのか。
コナン君が居心地悪そうにみじろぎした。
見ろよ、子供が気を遣って口を噤んでいる姿の哀れなことを。
コナン君の様子がおかしいことに気がついたのか、降谷さんがやや申し訳なさそうに視線を緩めた。
「15年前の犯人の名は石原誠だったか。家族は証人保証プログラムを受けているんだろう?」
「ああ。受けてまもなく日本に渡っているはずだ」
そうして証人保証プログラムを受けて名を変えたのが、今回の犯人の一人、白鳩舞子だ。
もう一人は15年前の事件の被害者である菓子メーカートップの息子だったか。
名前は…忘れたな。
確かちょっと太っちょの男の人だったはずだが。
降谷さんが静かに瞳を伏せ、推理に思考を集中する。
車がスムーズに左折して、昴さんがハンドルを切るのがここからでも見える。
「しかし。製菓会社の社長に財閥の長がやられたとなれば、次は自動車メーカーのトップか」
「日本には大手自動車メーカーがいくつかあるが、そのすべてにうち(公安)の手のものが張り付いている。その中で妙な動きをしているのは……日本コードのCEOだ」
「ふむ…というと?」
「今しがた毛利探偵事務所に駆け込んだらしい。何か事件に巻き込まれているようだな」
コナン君が「おじさんの事務所に!?」と目を見開いて食いついた。
降谷さんは頷いてコナン君を見る。
「後でなんの話があったか聞いてみてくれるか、コナン君」
「勿論。情報は後で共有するよ。あ、昴さんにも伝えられるようにSNSグループ作っていい?」
瞬間、降谷さんが苦虫を千匹ぐらい噛み潰したような顔をした。
そんなに嫌か、赤井さんと一緒のグループ。
───便利じゃないですか、今後FBIと協調して動くにもホットラインがあるのは有用だと思うのですが
───理屈はわかる。だが心が納得しない
───ゼロぉ……
ぶつぶつと内側でなにやら文句を言う降谷さんは放っておこう。
代わりに表に出てコナン君に返事をする。
「分かったよ、コナン君。毛利探偵から詳細を聞き出したらグループSNSに投下して欲しい」
「えっ、いいの安室さん?さっきゼロさんすごい顔してたけど…」
「主人格のアレは発作のようなものだから無視していいよ。付き合ってたら話が進まないし」
赤井アレルギーみたいなものだ。
大人げないことこの上ない。
片目を開けた昴さんがバックミラー越しに視線を向ける。
「話は変わるが、君たちは俺の母との関係がなかなかうまくいっていないようだな。MI6の動きが芳しくないように見えるが」
昴さんの様子は揶揄っているような口調でいて、その実心配が全面に宿っている。
私は無意識にやや俯いていた顔をあげて、強がりの笑みを浮かべた。
「それはそうでしょう。僕が殺戮を繰り返しているのは事実なのですから。公的機関として見逃せるはずもない」
「…難しいな。君は非情でいて、実際には君の正義を貫いている」
「正義、ですか」
意図せず嘲笑うような口調になった。
あの殺戮ショーに正義などどこにもありはしない。
手に残る血と脳漿の感覚、肉を切り裂く柔らかな手応え。
ああ、吐き気が込み上げてくる。
───そこまでだ。俺が代わる。お前は下手なこと考える前に奥で引っ込んでいろ
───ゼロ!?待っ、そんな急に代わるとバランスが…
ぐらり、と体が傾いた瞬間、降谷さんが足を踏ん張って体勢を立て直した。
「?どうした安室君。いや、その顔つきは降谷君か」
「なんでもない。それに、MI6との関係についてお前にどうこう言われる筋合いはない」
「手厳しいな。だが君は今回被害に遭った鈴木会長とも知り合いというじゃないか。各方面に伝手を作っておくのも悪い手ではないと思うが」
「………君が喋ったのか、コナン君」
じとっという目で降谷さんが口をへの字に曲げた。
コナン君がはははと笑って小さく肩をすくめる。
「それより、鈴木会長とはどんな繋がりで知り合ったの?園子は知らなかったみたいだしさ」
興味津々のようだ。
ため息とももに降谷さんは背をシートに預けた。
「実はフォックステイルとして鈴木財閥とは契約していてね。赤井、ここだけの話にしろよ」
「……驚いたな。日本の財閥にそこまでの胆力があったとは」
「え、マジで?ゼロさん達と契約?もしかして裏社会絡みの事件に巻き込まれた時のための保険として?」
「そうだよ。鈴木次郎吉氏の発案だよ。流石の老獪さだったよ。RUMとはまた違った意味で話していて油断ならない相手だ」
同じ土台における交渉力という意味ではRUMすらも上回る傑物が鈴木次郎吉氏という人間である。
駆け引きの強さが半端ではない。
また人間的魅力で人を引っ張る力、無理を無理のまま押し通す強さも凄まじい。
流石、巨大な財をもって日本経済を回している実力者の一人だ。
この件に関してはコナン君に教えれば自動的に赤井さんにも話が行く可能性があるため、降谷さんもあえてここで情報を共有したのだろう。
コナン君が難しい顔をして考え込んだ。
「なら僕も挨拶したほうがいいのかな。フォックステイルと子狐は世間ではセットで語られてるみたいだし」
「そうだな。いずれ俺達で君のことは紹介させてもらうから、準備だけはしておいてくれ」
「わかった。うーん、鈴木会長びっくりするだろうな…」
そりゃ、娘と仲良くしている子供が世間で有名な子狐だったと分かれば腰の一つも抜かすだろうな。
ちなみに、子狐はニュースや各国諜報機関でも取り上げられる有名人物だ。
背の高さから10歳にも届かない子供、しかも未就学児の可能性すらある国際犯罪者。
フォックステイルの実子にして幼いながらに英才教育を施された銃の名手。
カリオストロで凄まじいまでのエイムを見せつけた結果だ。
次元さんと行動を共にしていたあたり、次元大介から銃の手解きを受けているのではないかとも噂されている。
実際あの後から定期的に射撃の基礎を教わっているようだから間違ってもいないし。
昴さんがカラカラとキャラに似合わない笑い声をあげて、上機嫌そうにハンドルを握り直した。
ふざけてウィンクをするポーズ付き。
「すっかりボウヤもルパン一味だな。俺もせっかくだから入れてくれないか?次元大介には流石に敵わないが、狙撃の腕ならそこそこある」
コナン君が返事をする前にすかさず口を挟んだのは降谷さんだ。
「どこの誰とも知らん大学院生は引っ込んでいろ。大学の研究室にかけらも出入りした様子のない不審人物め。なにが東都大工学科所属だ」
「これでも研究室の教授には名前を借りることは了承を受けているぞ?」
「そういう問題じゃない!」
シャッ!といった様子で降谷さんが唸った。
まさに懐かない猫なんだよなぁ。
実際、昴さんは赤井秀一とバレてはいけない制約が大き過ぎるので切った張ったの多いルパン一味には向かない。
赤井さんはFBIスナイパーとして顔が売れすぎているので、素顔でルパン一味をするには問題が大きいし。
けど、よく考えてみれば私と一緒で仮面で顔を隠せば、なんていけない考えが頭をよぎる。
バレればキールの命はないし、私も処罰は免れないが……赤井さんがルパン一味になってしまえば組織に命を狙われる心配も薄くなる。
はっ、と気づいたら私の真後ろで降谷さんが肩を掴んで圧のある笑顔を浮かべていた。
深層心理内で気配を隠すとは…いつの間にそんな小技を身に付けたんだ。
───余計なことを考えているんじゃないだろうな
───いえ、まさかそんな
───あのいけすかないFBIが同僚なんてことになったら俺は毒を盛るからな。覚えておけよ
───盛るんですか、毒……
───俺が丹精込めて作る二液混合式のシアン化合物だ。味で気付くだろうから無理やり飲ますが
さ、殺意が高い……!
なぜそんなに降谷さんは赤井さんのことが嫌いなのか、それがわからない。
まあそんなわけで、その後いくつか情報共有をしてから解散となったのである。
昴さんはホクホク顔でスバル360を転がし、工藤邸へと帰って行った。
どうも昴さん、降谷さんの好感度を稼ぐのが最近の趣味になってきているようなんだよな。
ツンツンした猫をなんとかデレさせようとする猫好きのポーズとでも言うべきか。
それがわかってさらに機嫌が悪くなる降谷さんという負のループ。
なんて生産性の無い関係なのか。
私はそんなどうでもいいことに頭を悩ませながら、今日という日を振り返ったのであった。