バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
原作知識の話をしよう。
もうすぐ、組織からの命をうけたピスコが政治家一名を殺害する。
その際シャンデリアを拳銃で撃ち抜く瞬間がマスコミにちょうど激写されてしまい、あえなく組織はピスコの切り捨てを決定する、というあらすじだ。
シャンデリアを落とすなんて迂遠な殺し方してるな。私なんて鉄爪でバサリだぞ……なんて、どうでもいいことを考えつつ。
盗聴器を処理した後、急いで私はパーティ会場へと向かった。
到着した杯戸シティホテルはまだ死人が出ていなかったのか、警察による包囲はまだ敷かれていなかった。
それに関しては比較的幸運だった。もし立ち入り制限がかかっていたら降谷さんの技術も使ってこっそり侵入せざるを得なかったからな。
華やかなパーティ会場へするりと入り込めば、そこは富豪たちの住まう別世界。
バーボン時は一応フォーマルな姿でいるのが幸いして、私も上手くパーティ会場に溶け込むことができた。
黒のスーツはどちらかと言えば参加者というより給仕役ではあるものの。
まぁ場に馴染めればそれでいいのだ。
戦闘の時動きづらいのが玉に瑕だが、ベルモットの選んでくれる華やかな服は目立ちすぎる。
会場のドア付近で、ピスコは私の姿を確認してにこにこと朗らかに話しかけてきた。
「おお、君かね安室君。どうかしたのかな」
「このあと『仕事』が入っていると聞きまして。僕も近場にいましたので、応援に駆けつけた次第です」
「それはそれは!君はいつも本当に気が利くな。だが問題ない。今回はそこまで難しくもない仕事だからね。心配には及ばないよ」
「そうでしたか。さすがは桝山さん。老いて益々健在ということですね」
「はっはっは、そこまで言われると私も気合が入るというものだよ」
などと親しい者同士のあいさつを交わす。
でもこの人この後死ぬんだよね……と裏ではなんだかしんみりした気分になってしまう。
老獪で底意地の悪いお爺さんではあるのだが、自分の派閥と認めたものに関しては公正に評価を下したりと上に立つものとしてはなかなか有能だ。
口も上手くパワーバランスに敏感で政治家向きというか、私にも降谷さんにも真似できない分野の第一人者だ。
プライベートで付き合いたいかと言われたら絶対にそんなことはないのだが。
拳銃を懐に忍ばせるピスコに、不機嫌そうな降谷さんが内側で低く呟いた。
───政治家の暗殺の方は止めなくていいのか
───どうせ組織以外にも色々後ろ暗い事をやっている人間です。消えてもらった方が日本政治もクリーンになるでしょう
───それもそうだな
流石は日本第一主義の降谷さん。さらっと被害者を切り捨て、納得とともに静観の構えに入ってしまった。
それでいいのか公安警察。いや、公安警察だからそれがいいのか。
「では僕も束の間のパーティを楽しませていただきます」
「そうだな。ゆっくりするといい。それと、昨日私の『息子』が君と会いたいと言っていた。君が多忙なのはわかるが、たまには会ってやってくれ」
『息子』とはアイリッシュのことだ。
手合わせの相手として長らく一緒に旅行に行ったり外食したりと仲良く付き合わせてもらっている。
アイリッシュは結構なアウトドア趣味で、ちょくちょく一人でキャンプに行ったりしているらしい。
ゆるキャンVer黒の組織。ゆるの要素が消し飛ぶわコレ。
私も一度そのキャンプに連れて行ってもらったことがあるのだが、高そうな本格的なキャンプ用具がポンポン飛び出して面白かったのを覚えている。
この後、場合によってはアイリッシュに恨まれることになるかもしれないと思うと……今から気が重い。
「わかりました。息子さんにはお世話になっていますから、僕の方から声をかけてみます」
「ははは、君に触発されて息子も最近は訓練に身が入っているようだ。これからもよろしく頼むよ」
「はい、もちろん」
その時、コナンは間違いなく絶体絶命だった。
ピスコ、すなわち自動車メーカー会長の桝山憲三に灰原哀の正体がばれてしまい、自らも拳銃を突き付けられて身動きが取れない状態。
ほぼチェックメイトと言っていい状況であった。
元々、コナンとて無策で挑んだわけではなかった。
アルコール濃度の高い酒、スピリタスを使ってこのワインセラーに火をつける試みはうまくいった。
火災報知器が鳴り響き、殺人事件の捜査のために来ていた警官たちが異変に気付いてこの部屋になだれ込んでくるのは時間の問題だろう。
しかしピスコが血だらけの灰原を処分するのを優先しようと銃口を向けたのは予想外。
コナンも灰原を庇わざるを得ず、必然的に銃創を一つこさえることになった。
掠っただけなので僅かな出血のみだったが、それでも次はいくら動揺しているピスコも外さないはずだ。
灰原とコナンとを殺そうと拳銃を向けて、引き金が引かれる。
その瞬間。
ピスコが。
ドスリ、と鈍い音を響かせ。
背後からの一撃で容赦なく背を貫かれ、胸から鋭利な鉄爪を幾重も生やしたのだ。
口から垂れた鮮血が炎に煽られて黒く滲む。
背中から肺を貫き肋骨を粉砕する、そんな一撃だった。
驚愕に目を見開いたピスコが、震える声で何事かを口にしようとする。
「な、ぜ……バー、ボン」
「灰原哀の正体が組織にばれては困りますから。どうせ組織に処分される身だ、情報を抱えて大人しく逝ってください」
「裏切、っかは……」
「ああいえ、語弊がありましたね。正式にピスコ処分の命は下されているので、僕のこれも命令違反ではないんですよ?」
「ォ……ア……」
気配の欠片すらなくピスコの背後に現れたのは、同じく組織幹部であるはずの男。
処刑人、血塗られたウルフドッグ。
バーボンこと安室透、その人であった。
では、さようなら。
冷酷無慈悲に、氷の花の咲くが如くに美しく嗤い、その鉄爪を閃かせる。
肉の抉れる生々しい音とともに、ピスコが血を吐いて床へと倒れ伏した。
その一連の流れに対し、コナンはただ見守ることしかできなかった。
驚愕に、激情に、憤怒に身を震わせることはできても。
ほんの小学一年生の身体でできることなど何一つなく。
またその優秀過ぎる理性が感情のまま飛び出すことを冷静に悪手だと認めて止めていた。
無残に胸を抉られて死んだピスコの顔が見える。
声なき声でこちらを非難しているようにも見える。
とんでもない思い違いだ、死んだ人間は非難すらできない、と理性がため息をついた。
停滞する無力感に感情が張り裂けそうだ。
鉄爪から無感動に血を払ったバーボンが、くるりとその表情を反転させてコナンたちへと駆け寄ってきた。
ガタガタと目に見えて分かるほど灰原哀が震える。
歯の根もかみ合わないまでの恐怖に、声すら出ないありさまだった。
バーボンは、いっそ不条理なほどに表情豊かに心配そうな顔をして、血相を変えてコナンたちの身体を確認した。
「無事か君たち!自分で歩けるかい!?怪我は、銃撃はされていないな!」
コナンの肩に被弾した形跡を認めて眉を顰める。
「ここでの治療はできない、後で僕のセーフティハウスに来てくれ」と労わるようにかける声の優しさよ。
きっとこの男がコナン達を守ろうとする行動に嘘はない。
そう思わせるに十分なほど、男は焦ってもいたし心配してもいた。
その背後で物言わぬ屍と化したピスコを置いてけぼりにして。
「さて、君たちは今すぐ逃げて。ジンが到着すると厄介だ」
「お前、人を……殺して……」
「ピスコの死骸でジンの意識も君たちから幾分か逸れるだろう。僕ができるのはここまでだ。だから早く!」
「ッくそ!!!」
瞳は真摯にコナンを思っていて、だからこそどうしようもなく理不尽だ。
コナンは哀を連れて一心不乱に走り出した。
これ以上ここにいれば、命の恩人にあらぬ言葉をかけてしまいそうで、自分の稚気がどうしようもなく嫌になる。
今日。
自分たちのために命が一つ、失われた。
そう思うと。
「っくそ、くそ、くそ、ちくしょう、ちくしょうッ!!!」
お前の無力が故だと突き付けられた気がして、コナンはがむしゃらに走った。
ピスコの死に顔が頭から離れない。
ああ、どうして自分は小さいんだ。何でもっとうまくできなかったんだ。
早く。早く。
早く大きくなりたかった───元の姿に戻りたかった。
バボ主「電波の感じ方?波の音が近いですね。スマホとかはザザーン、ザザーン、って感じです。盗聴器みたいなミリ波は珍しいしジジジジジジって感じでうるさいのでよく分かるんですよね」
降谷「化け物か何かか???」