バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
速報。犯人、逃げ出したとのこと。
私が身を挺してとっ捕まえた犯人は、共犯者の白鳩舞子の手引きにより事情聴取中に逃げ出したらしい。
犯人、井上治とか言ったっけ?
私の蹴りを頭に受けておいて中々のタフさと言わざるを得ない。
私たちより先に目覚めた上に、走って逃走した挙句車を奪って県警を振り切るなんて。
いやタフ過ぎか???
どう考えてもおかしいだろ。生命力の塊かよ。
いや、そう言えば原作でも走って毛利さんを撒いた挙句車の爆発に巻き込まれても平然としていたタフガイだったな。
それを考慮してもう少し手足の一つでも折っておくべきだったか。
降谷さんは思い切り壁を拳で叩きつけ、電話越しに叫んだ。
「何をやっているんだ愛知県警は!ックソ、俺たちが命を張って…ああ、あの間抜けなFBIは何をやっている!」
『い、今は協力者の少年と共に犯人を追跡中だそうです』
「……チッ、FBIに張り付いているもの達には抜かるなよと伝えておけ」
電話の向こうで風見さんが壮絶なパワハラを受けてすっかり萎れている。
可哀想に、こんなの風見さんのせいではないのに。
少しばかりフォローをしようと思い、ずっと横から口を出す。
「───僕たちが起きてすぐの素早い報告、ありがとうございますね。僕たちはこれから検査なので、作業班への細かい指示は任せました」
『……いえ。私たちが不甲斐ないばかりに取り逃してしまい、言い訳のしようもありません』
「あまり自分を責めないで。今回のことは僕の詰めの甘さでもありますから───そうだな。俺も少し感情的になりすぎた」
悪かった、と降谷さんが頭を下げれば、電話越しでも風見さんが動揺した気配が伝わってきた。
そして風見さんが何事かを言い出そうとしたあたりで、降谷さんは電話を切って着信履歴を確認し出した。
返事を待つことなく遠慮なく電話を切るあたりが降谷さんなんだよなぁ。
着信履歴には2件、どちらもコナン君とある。
これは折り返すべきだろう。
降谷さんもそう思ったのか、素早くスマホを操作して電話をかけた。
コール音は二回。電話はしばらく後に繋がった。
「コナン君、そっちは無事か?」
『安室さん!?意識が戻ったんだね!良かった。…僕たちは特に問題ないよ』
「そうか。こちらは犯人確保のために無理して起きていたら体に負荷がかかってな。起きるのに時間が掛かった。それで、犯人の方はどうだ?」
『今犯人の車を追ってるところ。ちょっと予想外の協力者ができてて、これならうまくいくかも!』
予想外の協力者とは赤井秀一の弟、羽田秀吉のことだろう。
羽田秀吉は将棋の六冠王で、埒外の頭脳をもつ赤井ファミリーの一人。
恐らくは現実における永世七冠、羽生善治棋士の立ち位置のはずだ。
棋力は確かで負けなし。その上羽田秀吉はコナン君をも凌ぐ推理力と推理速度を併せ持つ、まさに極まった頭脳の持ち主と言えるだろう。
彼に任せておけば、犯人を取り逃すことは無さそうだ。
私が口を出さないのを見て、降谷さんも納得したらしい。
一つ頷いてコナン君へと返事をする。
「そうか、そちらは任せた。公安の人員が後を追っているから、捕まえたらそいつらに犯人達は引き渡しておいてくれ」
『分かった!ゼロさん達は安静にね!』
電話を切れば、どこかで気を張っていたのかまたくらり、と体が傾いた。
目が回って深層心理内の布団に倒れ伏す。
深層心理内でのことだから、肉体に影響はないのが不幸中の幸いか。
降谷さんが慌てて体を椅子に任せ、底まで降りてくる。
───おい、無理をするな安室!寝ていろ!
───すみませんゼロ。いえ、外の様子を見たいので起きています
降谷さんに支えられ、上体を起こす。
節々が白熱したように痛い。
心配そうな顔で降谷さんが私を覗き込んだ。
───おい、本当に大丈夫なのか?
───このぐらいなら問題ありませんよ。……すみません、ご迷惑をおかけして。
───それは別にいい。俺があの時お前に代わって起きていられなかったのが悪いんだ
自分を責めるようなトーンに、私はつい視線を落としてしまう。
酸欠による意識喪失なんていくら鍛えていても耐えられるものではないのだから、本当に降谷さんが気にすることではないのに。
それに、私のこれも休めば治る部類のものだ。
無理やりに体を動かし続けたから反動がきているだけと言うべきか。
ようは霊的なガス欠だ。
時間経過で回復するものでしかない。
私たちの目が覚めてからは中々にドタバタであった。
目が覚めて生存確認と状況を把握すると、すぐに降谷さんは私が不調だと言うことに気がついた。
というか、普通に深層心理で行き倒れてたからな、私。
それで血相を変えた降谷さんによって無理やり深層心理内の布団にぶち込まれて、今に至る。
あのときの必死の形相は凄まじかった。
大切な人の最期でも看取っているような顔だったからな。
そんな私の名を連呼しなくても聞こえてるのに。
隣で屋敷の窓を開けて外の景色が見えるようにしてくれた降谷さんは、こちらを見て柔らかな笑みを浮かべた。
───それにしても、今回はお前の読み通りだったな。流石の勘だ。お前は本当に頼りになるな
───……とはいえ、ゼロの命を危険に晒したのは事実です。我儘を言いました
───いいさ。万が一換気システムが動かなかったら、お前なら無理やり扉を突破できただろう?お前を信頼して任せると言ったのは俺だ。謝る必要はないさ
それが本心だと言うように、降谷さんが穏やかに私の隣へと座る。
心底からの信頼がそこには滲んでいる。
降谷さんは私と肩を緩やかに組み、囁くように言った。
──俺たち二人ならなんだってできる。罪も贖いも俺たち二人で背負っていこう。お前だけに任せたりしない
───………ゼロ
まっすぐな瞳と目が合う。
外の光が穏やかな朝の光のように深層心理に差し込み、エンジェルラダーとなって屋敷を照らしているのが見える。
私は咄嗟に何も言えなくて、ただ視線を交わしたままに息を呑んだ。
ああ。
許されない罪にこの手は濡れている。
無辜の民を斬り捨て、嘲笑い、その骸すらも弄んでのうのうと生きている。
それでも。
どれほどの悪逆を成そうと、降谷さんと二人ならば抱えて背負って、それでも歩いていける。
そのように、理由もなく思ってしまう。
降谷さんが私に手を差し出す。
窓からは外の水底がアクアマリンに反射して美しい光の軌跡を織り成している。
躊躇いがちにそっと手をとれば、降谷さんは力強く握り返した。
私は不意に泣きそうな心地に襲われて、隠すように微笑んで見せた。
降谷さんがわざとらしく茶目っけを見せてウィンクした。
───それに、そろそろ俺の近接戦も様になってきたと思わないか?
───うーん。それは残念ながらヘボヘボですね。五エ門師匠なら二秒で斬り捨てて来ると思います
───今は肯定する場面だったろ!!というよりあの化け物侍と比べるな!ックソ!明日からもまた特訓するぞ!せめて俺でも軽いウルフドッグ任務をできるぐらいまでに仕上げたい!
ボクシングポーズをとって降谷さんはシュッシュッと拳を出してみせた。
なぜ殊更ヘボヘボに見えることをするのか。
とはいえ、かなり降谷さんも動けるようにはなってきた。
残念ながら斬鉄爪の適性は無かったが、ボクシングにナイフ術を組み合わせた軍隊用格闘術の方が性に合っていたようだ。
どちらかといえばCQC(至近距離格闘術)とでも言うべきか。
まだまだルパンの世界観では一般特殊部隊兵士の域を出ないレベルだが、コナン世界でなら十分強者の部類だろう。
これなら若狭先生に不意打ちで気絶させられることもないはずだ。
降谷さんがごほん、と咳払いして改めて口を開く。
───なんにせよ、だ。お前は抱え込みすぎなんだよ。記憶のことといい最近の様子といい。少しは俺を頼ってくれ
───いいんですか?僕は弱い人間ですので、かなり迷惑をかけますよ?
───最初の殺人で引きこもった俺を当てこすってるのか?お互い様過ぎるだろ
降谷さんがブスッとむくれて背を向ける。
だが背中越しに笑っているのか肩が揺れているのが見える。
私もくすくすと笑って。
相変わらず透き通った水の底で、私達は穏やかに笑い合ったのだった。