バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
今日も今日とて喫茶ポアロで宝石花をのんびりと彫っている。
目の前には梓さん。
彼女はぺこりと頭を下げてから、油断なく周囲を確認している。
「じゃ、ありがとうございました安室さん!あ、あとこれは元同僚としての礼儀ですので!」
「ははは、そこまで警戒しなくても良くありません?見た感じ女子高生の姿はありませんし」
「その油断が命取りなんですよ!『最近またあむぴがポアロに出入りするようになった!』なんてJKがSNSで盛り上がってるんですから!」
目だけで周囲を確認する歴戦のスパイ仕草をかました後、梓さんは素早く何気ない仕草で私の席を後にした。
最早どこぞの所属のエージェントのようだ。
───どんどん隙が無くなっていくな、梓さん。あれはもう風見よりも注意深いんじゃないか?
───現役の公安より仕上がってる喫茶店員って、どこぞのドラマか映画みたいですね
───ふふ、勧誘するか?
───可哀想なのでやめてあげてください
先ほどの会話についてだが、どうやら梓さんは私の渡した宝石花を自宅に飾ってくれたらしく、報告に来てくれたのだ。
ペン立てに置いたらヒビが入ってしまったそうで、かなりペコペコと謝られた。
申し訳なさそうにしていたが、既にあれは梓さんのものなので構いやしないと笑って流しておいた。
宝石花の唯一の欠点がこの貧弱さなんだよな。
あまりに薄く透明なため、少しぶつかっただけで崩れたりひび割れたりしてしまう。
厚く丈夫にすることもできるが、それだと美しさが半減する。
痛し痒しだ。
視線を移せば、TVはリニアライナーをめぐる事件で持ちきりであった。
ポアロに設置されたTVが、朝のニュースに犯人の供述と15年前の事件について特集している。
それを見た降谷さんが、ぶっすりと目を三角にして不機嫌そうに俯いた。
───ひとまず開会式は無事に終わったが……頭が痛い問題が残ったな。警備局も相当に叩かれているし、テロ対策は完全な成功に終わったとはとても言い難い
───ですね。ローン・オフェンダーはこれだから対処が難しい
なにせ、今回の犯人は電子操作される超伝導リニアライナーに不正なプログラムを仕込むという変則的な手法だ。
爆薬や拳銃の入手、SNSでの犯行予告もなかった。
事前に察知するのはかなり難しい事例だっただろう。
あえて言うなら要人拉致の時点で確保しておけば……と思えど、後悔先に立たずか。
だが不幸中の幸いとして、今回の被害はほとんどなかったことが挙げられるだろう。
逃走中は目眩しに無人のリニアライナーを客で満員の芝浜スタジアムに突っ込ませようとしたようだが。
それは羽田秀吉とFBI赤井秀一、そしてコナン君の尽力により未遂に終わった。
全く危ういところであった。
───犯人はコナンくんから受け取ったが、FBIに少なくない貸しができた。面倒極まりないな
───どうせFBIの違法捜査はある程度こちらでも見逃す協定を結んでいますからね。ですが、羽田秀吉。将棋の六冠王とのことですが、それに留まらない頭脳を持っているようですね
───日本の誇る天才棋士が赤井の実の弟か。本当にあの男は気に食わないことしかしないな
───流石にそれは赤井秀一のせいではないのでは?
降谷さんがぎり、と歯軋りしておしぼりを無駄に握りしめたので、どうどうと宥めておく。
流石にこの件で赤井さんを責めるのは不条理すぎるというかなんというか。
いや降谷さんの平常運転と言ってしまえばそれまでだが。
ああ、話が逸れた。主題はWSGのテロについてだ。
当日こそ大喝采のうちに開会式は終わりを告げたが、後日犯人の行動が明らかになり、警察には非難が殺到した。
鉄道会社も大規模点検のためリニアライナーの長期運休を余儀なくされたし、まさに踏んだり蹴ったりだ。
可哀想な風見さんはそれで一週間もほぼ家に帰ることすらできない有様になってしまった。
つい昨日も、また別件で爆薬が大量に盗まれたらしくげっそりとした声で報告を送ってきてくれている。
私達はといえば、逆に公安から距離を取られているらしく何の情報も仕事も入ってこない。
どうやら二度目の殺戮ショーについて向こうでも相当紛糾しているようだ。
自分のやっていることについて報告を上げなければならなかったから正直に上に報告書を提出したのだが、もう少しマイルドに記述すべきだったか。
そんなわけで世間が騒ぎに沸き立つ中、私達はのんびりとポアロで茶をしばいているわけだ。
しばらく客の出入りをのんびり眺めながら、二人で宝石花の彫刻を仕上げていれば。
ピルルル、とデフォルトの無機質な着信音が私しか客のいないポアロの店内に響く。
どことも知れぬ着信だ。
見覚えのない電話番号に降谷さんが眉を顰める。
───誰だ?スマホからのようだが、この番号を知る人物は限られているはずだ
───ひとまず出てみましょう。もしかしたら普段と違う本体を使っているRUMあたりかもしれません
───そうだな
もしもし、とスマホを通話状態にすれば、聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。
『降谷さん、すみません。風見です』
「!どうした。公安の使っているスマホからじゃないだろう」
『はい。実は…』
緊張のはらむ声色にこっちまで身が引き締まる程の緊迫した雰囲気だ。
震える声を必死で隠す様子といい、風見さんは今相当な修羅場にいるようだ。
降谷さんが軽く事情を聞いていくのだが、その状況の悪さに中で若干私もひやっとした。
どうも風見さん、爆弾が盗まれた件で犯人を追っていたら、その犯人に逆に昏倒させられてどこかの地下室に閉じ込められたようなのだ。
ご丁寧にスマホも取り上げられ、地下室には先人なのか死体もあると来た。
風見さんが冷静でいてくれて助かったが、これが一般人ならパニックになっていたことだろう。
これは間違いなく原作イベント、「牧場に墜ちた火種」だろう。
風見さんを拉致した犯人は典型的な復讐者だ。
兄を自殺に追いやったものたちを殺害するために掘削現場から爆薬を盗み、爆殺を目論んでいる。
風見さんを拉致したのも復讐の邪魔になるからで、拉致監禁という凶悪な犯行とは裏腹に意外と殺意はなかったりする。
……まあ、復讐が終わってから口封じのために殺しに来るかも分からないが。
「分かった。お前が死体になる前にそちらへ救出に行く。お前は何か脱出の方法がないか探してくれ」
『……了解しました。ご迷惑をおかけしてすみません』
「いいさ。お前が生きていてくれて何よりだよ」
『っ、はい』
降谷さんの声に本音と寂寥感とが宿っていることに気づいたのか、風見さんは言葉を詰まらせながらも頷いたようだった。
───風見の証言によると、男の向かっていた先はここからだと……鳩山牧場の方面か。車で行くか?
───でも今はRX-7を車検に出しているでしょう。代車はありますが…バスで行くのが吉ですね。僕の勘としては
───勘か。ならバスだな
───何も聞かないで信じてくれるのは嬉しいですけど、ノーシンキング過ぎませんか?大丈夫です?
───問題なんて何もないさ。俺はお前を信じているからな
からりと笑って降谷さんが私の前に立つ。
ああ、嬉しいやら恥ずかしいやらでまともに前を向いていられない。
───ん?どうした安室。視線を合わせないなんて
───僕は日本人なので会話の時も視線合わせないんですよ
───くくく、そうか。日本人なら仕方ないな
───ゼロ。性格悪いです
───悪かった、そうむくれるな。風見の危機にはお前の力が必要だ
───むくれてません。大体ゼロがですねぇ…いつもいつも…
私が内側でもごもごと文句を言いつつ。
降谷さんはくすくすと笑いながらポアロの席を立ったのだった。