バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
今日は毛利探偵事務所に沖野ヨーコが依頼を持ってくるらしい。
ピシッとしたシックなスーツに身を包んだ毛利さんは何処となくソワソワと浮ついている。
私もせっかくなので同席させてもらっているのだが、目的は風見さんへのサインのお土産だ。
これについては一応、私から降谷さんに提案させてもらっている。
───しかし、全く風見のやつ。あんな大勢のいる前で俺を降谷と呼ぶなんて何を考えているんだ
───それだけ死を覚悟していたということでしょう。潜入中の私達にSOSコールをかけて来たことといい、焦ってもいたのでしょうね
───だが、公安にいる以上死んでも漏らしてはいけない情報というのはあるだろう
───それはそうですが。間違いなく若狭留美にも聞かれましたし…
───はぁ、面倒なことになった。やっぱり沖野ヨーコのサインはお預けでいいんじゃないか
───そんなこと言わないであげてくださいよ。随分意気消沈してたじゃないですか
膨れる降谷さんをなだめながら、3階のキッチンにあるオーブンを開けて焼き加減を確認する。
女性向けに酸味を加えたマンゴーマフィンだ。
今日の来客用として焼いていたのだが、上手く焼けたようだ。
オーブンから出して、熱々のそれを下の探偵事務所へと持っていく。
やっぱりこういうのは焼き立てが一番美味しいんだよな。
「毛利先生、お茶菓子用意できましたよ」
「おーっ、さすが、安室は菓子もうまそうだな!」
「わー!すごいですね!」と蘭ちゃんが喜色満面で手を合わせた。
焼きたての甘い香りが探偵事務所に充満する。
今日のために家で試行錯誤したオリジナルマフィンだ。
私の力作で、冷めても美味しく、かつ特に今日出すブランドものの北欧紅茶によく合うように調整してあるので、話が長引いても問題ないだろう。
コナン君がしげしげとマフィンを眺めてからこちらを見上げてくる。
「安室さんってほんと凝り性だよね」
「とは言っても、僕はそれほどでもないよ?料理は好きな方だけど」
「嘘。この為だけに材料買って事前に事務所に来るなんて凝り性以外の何なのさ」
コナン君がジト目のまま自分の分のマフィンを確保したようだ。
熱々で持っているのに難儀している。
そんなに凝り性かなぁ。
降谷さんの凝り性が移ったのかもしれない。
ぶすっとした降谷さんが、北欧紅茶をまじまじと見つめて私に話しかけた。
───今からでも遅くはない、日本メーカーの紅茶にしないか?
───だめですよ。このフレーバーに合うようにマフィンを調整したんですから
───だからってスウェーデンの輸入物を使う必要はないだろ。日本にも美味しい紅茶はたくさんある
ポコポコ不満気に怒っているが、こればっかりは私の好きにさせてもらうとしよう。
今回の茶菓子の担当は久しぶりに私なのだし。
不満を黙殺していれば、降谷さんはいよいよ機嫌を損ねて、深層心理の屋敷の周囲の小石を拾っては投げ始めた。
そしてチラッチラッとこっちを見てくる。
大人気ないことこの上ないな
───わかりました、わかりましたから。次は日本メーカーのにしますから、その手元で石を山状に積み上げるのはやめてください。賽の河原じゃないんですよ?
───よし。言質はとったからな
───取られました。はぁ、ゼロって時々稚気に富む感じになりますよね
───誰が子供っぽいって?
おっと、毛利探偵事務所の扉がノックされた。
そろそろ来たようだ。
毛利さんの後ろで一緒になって頭を下げれば、入ってきた女性は顔を綻ばせる。
「こんにちは毛利さん!そちらの金髪の方も、先日お会いしましたよね」
「ヨーコちゅわん!ようこそ、こちらは私の弟子の安室透です」
「お久しぶりです沖野さん。安室です」
にこにことTV映えする華やかな笑顔を浮かべた沖野さんは、特に私の方を注目した様子もなくソファへと腰掛けた。
さすが、芸能界のトップアイドルともなると降谷零レベルのイケメンは見慣れているのだろう。
先ほど焼き上がったばかりのマンゴーマフィンと紅茶を出せば、「わあ、美味しそう!」と歓声が上がった。
そうじゃろうそうじゃろう。
十分満足して内側で頷く。
洋菓子はあまり作らないが、料理は得意な方なんだよ。
そんなわけで話を聞いていけば、どうやら沖野さんが聞きたいのは軽井沢で起きた不可思議な殺人事件についてのようだった。
TVドラマのロケハンで軽井沢の別荘に来ていたところ、密室でボウガンに射抜かれた死体があった、と。
これは確か「沖野ヨーコと屋根裏の密室」とかだったか?
うろ覚えでよく覚えていない。
おっと、そろそろサインを貰っておかないと忘れてしまう。
「ところでなのですが、僕の知り合いがあなたの大ファンでして。できればサインをいただけないでしょうか?」
「サインですか?もちろん構いませんよ。どなた宛で書きますか?」
「風見で。風を見る、風見鶏の風見です」
さらさらと書いていく色紙は実に手慣れた様子で、ついまじまじと見てしまう。
これで自分の失敗に落ち込んでいた風見さんも心が上向くことだろう。
あの牧場で助け出された後、懇々と説教されてたからな…可哀想な風見さんはしおしおに萎びたほうれん草みたいになっていた。
そして。
腹の調子が良くなさそうな毛利探偵がトイレに消えるのと同時に、一つの気配が毛利探偵事務所の階段を登って近づいてくる。
恐らくはRUM、脇田兼則だ。
素早く私が前に出て、安室透としての主導権を握り直す。
降谷さん演ずる安室透もかなりの精度だが、RUMの注意力は油断ならないからな。
軽いノック音がして、緊張にぴくりと体が震える。
落ち着け。今回のRUMの目的はコナン君の実力調査だろう。
ドアがゆっくりと開かれ、外からひょうきんな表情を作ったRUMが満面の笑みで入ってくる。
「どうも、話は聞かせてもらいやした!」
そう言って、片目を眼帯で覆った油断のならない隻眼が、こちらをじっと眺めていた。