バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
コナン君へとメッセージを返信した後、彼は野次馬に紛れ人知れず去っていった。
きっと、彼ならばあれだけで私の状況を察することができたのだろう。
一旦RX-7に戻って待機しながら機甲爪の手入れに専念する。
この機甲爪は組織の新開発品なのだが、着け心地を確かめて欲しいとRUMから直々に依頼されている。
万が一の時のために任務では斬鉄爪を使いたいのだが、その辺は政治的圧力があるため難しい。
私のために開発してくれたのは分かるけれど、なんともまぁままならないものだ。
おとと、電話だ。
着信を確認し、私は慌ててそれを通話状態にした。
相手はジン。恐らくは任務で進捗があったのだろう。
「どうしましたジン」
『また間抜けなFBI共のメッセージを傍受した。次は杯戸3-51にある地下駐車場だ』
「かしこまりました。すぐに向かいます」
『RUMによると、それは俺たちを嵌めるために仕組んだFBIの偽メッセージらしい』
ニヤニヤと悪辣な笑いを浮かべているのがここからでも分かる口調だ。
罠だと分かっていて向かわせると言うことは、お前なら罠ごと踏み潰せるという信頼でもあるのだろう。
まったく面倒な。
「分かりました。せいぜい遊んで差し上げますよ」
『任せた。外の雑魚供はキャンティとコルンが対応予定だ。お前は存分に狩りを楽しんでこい』
ジンからの連絡が途切れるのと同時に、降谷さんが滑らかに車を発進させる。
───どうする?間違いなく相手は俺たちを待ち構えていると思うが
───普通に正面から突入しましょう。相手もそれを想定していると思いますし、下手に趣向を凝らすと無駄に殺してしまいかねません
───そうだな。流れ弾に当たって死ぬなよ、安室
───まさか。そんなヘマしたら五エ門師匠から説教じゃ済まされませんよ
車を走らせること5分。
目的の地下駐車場に入れば、そこはしんと静まり返っていた。
もう日も沈みきっているからか、普通の客足もまるで無いように見える。
が、私の鋭敏な感覚は、そこに待ち伏せる複数の気配を察知した。
数は二つ。案外少ないのは、外の部隊が本命ということなのだろう。
私は車を止めてゆったりと降り、かつん、かつんと革靴の音を響かせてゆっくりと気配の源へ近寄った。
「いるのは分かってるんですよ。手間なので出てきてくれませんか?」
返事代わりに返ってきたのは鉛玉であった。
火薬の爆発する鋭い音と共に空気を裂く異音が反響し、こちらに迫り来る。
儚い抵抗だ。
軽く斬り落としてぺろりと唇を舐めれば、相手の慄く気配が伝わってきた。
続いて銃声が二発、三発。
私に銃弾が効かないことはコナン君だって分かっているだろうから、これはFBIの独断だろう。
その銃弾の全てを切り落とし、私は翼のように機甲爪を開いて歩み寄る。
暗い中でも相手が視認できる位置に来た。
キャメル捜査官ともう1人、見覚えのないドレッドヘアーの男だ。
FBIは頷き合い、そのまますぐさま車に乗り込んで車を発進させた。
どうやらすぐさま発進させられるよう準備していたらしい。
私を車から降りて来させるために、わざと銃撃戦に持ち込んだのだ!
車が轢き殺さんばかりに迫る。
今つけている機甲爪は、走る車を完全にバラバラにするには切れ味が足りない。
ああ、そういえばそのことを最近コナン君にも漏らしたのだったか。
つまり計算ずく。なんて子だ。
それでも、機甲爪でドアをもぎ取る程度のことはできる。
爪を振りかぶり助手席側から車のドアを切り裂き、中にいた人間の太腿に爪を一瞬突き立てる。
抜き取った爪に大量の血が付着しているから、一応の言い訳は立つだろう。
インカムから通話をジンに繋げ、目を伏せる。
「すみません、車で突進されて取り逃しました。一応1人には傷を負わせています。出血が多かったので、そう長くは逃げていられないでしょう」
『フン。どうせ開発班にあの不格好な爪を使わせられてたからだろう。なら仕方ねぇさ』
そう言ってジンは鷹揚に私の失態を許したようだった。
これが名も無い下っ端なら銃殺は免れなかったろうに、やはり稼ぐべきはジンの好感度よ。
「そちらはどうでしたか?』
『どうにも奴ら、撤退を初めから見据えていたらしくてな。バリスティックシールドで狙撃を防がれた』
「!用意周到ですね。僕らの待ち伏せを読んでいたのでしょうか」
『だろうな。RUMも驚いていた』
RUMが罠であることを見抜くと読み切って、その上で二重三重に罠を張らなければできない布陣だ。
コナン君の成長の凄まじさが分かる。
そのまま車に乗り込み、降谷さんの運転するRX-7で車の後を追う。
すでにFBIの乗る車は見えなくなっていて、あてどなく夜の街を彷徨うしかなかったが。
原作だと、ここで逃走しているのはアンドレ・キャメルだ。
彼は追われているうちに車ごと海に落ち、そのまま海猿島まで泳いで渡り、そこで一戦交えることになる。
だが、それは非常にまずい。
人のいない海猿島において、気配探知のできる私がいればその潜んでいる場所は丸わかりだ。
それをRUMも理解しているから、誤魔化すこともできないと来た。
この調子でコナン君が上手く立ち回ってくれることを期待して、私たちは車を走らせ続けた。
さて。
数分すれば、前から見覚えのある先ほどの逃げた車が対向車線を走っているのが見えた。
どうやら先行したキャンティを撒いたらしい。
インカム越しにジンへと話しかける。
「ジン、FBIの車を見つけました。それと、車の中の気配がひとつ減っていました。どこかで二手に分かれて逃げたのだと思われます」
『……俺は逃げたやつを探す。お前は車の方を追え』
「承知しました」
私は眉間に皺を乗せ、運転に集中する降谷さんを見た。
───まずいですね。RX-7で走っているのに振り切られたなんて言い訳はあまりに不自然だ。あえていうなら、僕は運転があまり好きでないことは皆知っていますが
───とすると、俺が全力で追うのも不自然か。ドラテクに差があり過ぎる。
───ええ。付かず離れずを続けるしかないでしょう
しかし。
そうやってキャメル捜査官の車を追い続ければ、車はどんどん郊外に追いやられていく。
自然と車は千葉方面へと向かって走ることとなった。
このまま行けば海ほたるパーキングエリアに入るだろう。
そうこうしているうちに、追加でジンから連絡が入る。
『キールとベルモットを向かわせた。挟み撃ちにしろ』
「わかりました。そのまま仕留め…」
不意に車がパンクする。
狙撃か!
赤井秀一の仕業だろう、正確な狙撃だ。
それをわかっていたように車が急反転し、
私の方に向かってくる。
ふむ。この辺りで仕事をしたように見せかけないと、今度こそ処罰されかねない。
いくら機甲爪とはいえ、先ほどの一撃で速度も相手の車の強度も掴めた。
中の運転手をすれ違いざまに仕留める程度わけない。
車を降りて走り来るFBI車両の正面に立つ。
その間にも私に超遠距離狙撃が二発、三発と私の脳天を狙って放たれる。
羽虫を払うように振り払えば、軽々と弾丸は切り落とされて散らばった。
なんだ?
この程度私には無意味だと赤井秀一ならわかってそうなものだが。
これで私の爪が車を貫けば、アンドレ・キャメルは間違いなく命を落とす。
悪く思うな。
それで死ぬようであれば、所詮そこまでの男だったということだ。
車とすれ違う、刹那。
左手の機甲爪を、銃弾が襲った。
パァン、と機甲爪の甲の部分に当たり、爪の狙いが大きくブレる。
私が………銃撃に気が付かなかった?
馬鹿な。そんな、……まさか!?
それは殺気を全く含まない、透明な狙撃だった。
人は銃を握れば必ずそれが殺意として発露し、銃弾にはその人の意識と集中が宿る。
だからこれまで私は銃弾を察知し損ねたことはないし、正確にそれを切り落とす絶技を習得できた。
殺気を含まない狙撃とは、その摂理に反する究極の技術。
言うが易しの果ての果て。
そんな次元大介みたいな絶技が、今まさに使われたのだ。
同時に、先ほどの狙撃がこの透明な弾丸を誤魔化す目眩しのためのものだと理解する。
追い詰めていた気でいて、実際誘い込まれていたのは私だったのだ。
これは間違いなくコナン君の采配だろう。
赤井さんとコナン君も本当にやりおる。
まあ、赤井さんのあれは本人に本当に殺す気が無かったからこそできた技だろうが…マジで肝が冷えた。
だが私もその程度で仕留め損ねるほどやわではない。
そのまま無理やり膂力を持って狙いを修正し、石川五エ門より教えを乞うた斬鉄の御技を披露する。
それは高速回転するタイヤに手を取られることなく、物理法則を無視して切り落とした。
爪は狙いより後ろ、後部タイヤをホイールごと抉り取る。
ハンドルを取られたキャメル捜査官は、そのまま街路樹に突っ込んで派手に事故ったまま車から転がり出てきた。
そしてふらふらとキャメル捜査官が車から離れる。
瞬間、車が爆発する。
轟々と燃える車を背に、キャメル捜査官が肩を庇いながら逃げていく。
終わりだ。
爪を構えて、左手をだらりと垂らしたままゆっくりと構える。
先ほどの狙撃で若干左手首の筋を痛めてしまった感覚があるが、このくらいならばすぐに治るだろう。
ふとすぐ近く、ビルの曲がり角の向こう辺りからサイレンの音が鳴り響いた。
爆発から数分も経っていないというのに、警察の動きがあまりにも早過ぎる。
恐らくはコナン君が読んでいて、万一のために配置したのだろう。
私はインカムをジンに繋ぎ、声を潜めて焦ったような声を出して見せた。
「ジン、どうやら僕たちの動きを日本警察が察知していたようです。パトカーが到着する前に撤退します」
『……チッ、鬱陶しいハエどもが。分かった。俺たちは逃げたFBIを1人仕留めたが…それだけだ』
「FBIも意外とやるものですね。僕も取り逃してしまいました。申し訳ありません」
『はっ、ゴミも寄り集まれば多少はマシになるって程度の話だ』
不機嫌そうなジンの声を最後に通話はブチリと切れた。
私もかなりの失態を演じてしまった。
処罰は……軽いといいけれど。
RUMが指揮に一枚噛んでいたというし、そこまで酷いものにはならないだろうと祈るしかない。
私たちも撤退のため、キャメル捜査官を置いて素早くその場を後にする。
RX-7を置いていくのは心残りだが、タイヤがパンクしていては移動させられるはずもない。
一応所有者を辿ることは不可能になっているし、その辺の細工を風見さんに頼むとしよう。
そのようにして、真っ黒に沈む今日の一夜はサイレンの音を背景に過ぎていったのである。
・透明な狙撃
赤井秀一の新たな必殺技。
一ミリも殺意を持たずに狙撃を行うことで、バボ主の命すら奪いかねない弾丸を放つ離れ業。
本人的には本当に殺意は無いし、自分の腕ならばバボ主の命を奪うことはないと確信しているからこそ放てた模様。
カーチェイスになることをコナン君が予測して赤井秀一を配置せねばできない布陣であった。