バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
ポアロに足を運べば、いつも通り若干空き気味の店内は静かで落ち着いている。
適当な席についてから、マスターに声をかけてコーヒーを注文。
表に出ている降谷さんは肘をついて外を眺めながらおしぼりの袋をやぶった。
───あー、ここに来ると「帰ってきた」って感じするな
───ですね。ここのところ忙しかったですから、安らぎの空間って素晴らしいです。
普段から風見さんにも言って盗聴器の類が無いか調べてもらっているし、ここは私たちが完璧に安らげる数少ない飲食店の一つなのだ。
そんなポアロにも、こうして顔を出すのは一週間ぶりになる。
なにせこの間のFBIの件で私には処罰が降っていたからな。
敵対裏組織への単独強襲任務や暗殺任務など、なかなかにハードな案件が揃っていた。
とはいえ、赤井さんみたいに透明な狙撃を行ってくるものもなし。
特別苦戦することなく処理できたのだが。
特に潰すことになった敵対裏組織なんかは、日本国内での人身売買をメインに動いていた組織だったので潰すのに罪悪感もなく。
殺戮ショーなんかに比べれば実にストレスレスな仕事であった。
降谷さんがすまし顔でポアロの席に座っている中、私は内側でぐたりとちゃぶ台に上半身を預けて息をついた。
同じく処罰で一緒に任務をこなすことになったジンがずっとテンションが可笑しくて疲れたんだよな。
やれあの開発班の作った碌でもない爪でなけりゃお前の失敗はなかっただの、やれ狙撃をいなし突っ込んでくる車越しに中の男の太ももを貫く手腕はお前の他誰も真似できなかっただろうだの。
凄く慰めてくれているのは痛いほど伝わってくるのだが、ポエムが多過ぎて読解に苦労するのだ。
私、そんなクゥーンクゥーンと悲しそうな声で泣く犬みたいに見えたのか?
心底心配そうな顔で覗き込むジンの様子に、私は首を捻らざるを得なかった。
閑話休題。
しばらく待つと、梓さんがホットコーヒーを持って席の方までやってきた。
そして私たちをまじまじと見てから、藪から棒に口を開く。
「ご注文のコーヒーです。……安室さんってちゃんと仕事してたんですね」
「はい?」
「だって最近はいっつもポアロでダラダラしてましたから。てっきり探偵の職も無くなっていよいよ休職中なのかと」
突如立ち上がる無職のプータロー疑惑。
中で降谷さんが「いやいや…いやいやいやいや…」と静かに動揺した。
実際のところ記憶喪失による病気休養してただけで、そんな無職だなんて、嘘でしょ、気づかないうちに名誉が回復不能なまでに傷付いている!
降谷さんがごほん、と咳払いする。
なんだかやけに降谷さんの目が据わっている。
「梓さんは最近どうなんです?」
「……どう、とは」
降谷さんの広い質問に、梓さんが一歩引いてお盆を盾にし始めた。
すごい警戒するやんけ。
きゅうりを目の前にした猫みたいに毛を逆立てて、梓さんが用を伺ってくる。
降谷さんがにっこりと圧のある笑顔を浮かべた。
「いい人は出来たんですか。探してたじゃないですか、彼氏」
「そういう燃えやすい話題は出さないでくれません!?放火魔ですか!?」
「はい。プータロー疑惑を受けた今の僕はむしゃくしゃした放火魔です。諦めて燃やされてください」
「謝りますからやめてください!!」
「梓さんならいいお嫁さんになりそうですよね」
「シャラップ!!!!」
シャッ!と梓さんが牙をむいた。
この公安、一般市民をおもちゃにして遊ぶやんけ。
しかしまあ、相変わらず愉快な人だ。
下手なモーションもかけてこないし、男女間の面倒ごとが無くて楽なんだよな。
どうも降谷さんがむくれてしまったことに気づいたらしく、梓さんは戦略的撤退を決めたようだ。
「厨房でマスターが呼んでますので!」と言い訳がてら逃げ出そうとして、ふと思い出したように振り返る。
「そういえば、昨日一昨日とコナン君安室さんのこと探してましたよ」
「コナン君が?用事とかって聞いてます?」
「いいえ。なんかかなり心配してたみたいに見えましたけど、用事までは」
などと話しているちょうどその時。
からん、と涼やかなドアベルの音と共に扉が開き、小さな子どもの姿が外から入ってくる。
子供は私を目にとめ、まんまるに目を見開いて言った。
「安室さん!?」
「噂をすれば影か。久しぶりコナン君。元気だった?」
コナン君が走り寄ってくる。
心配、というからには私の処罰についてだろう。
コナン君にはいいようにやり込められてしまったからな。
「大丈夫だった!?」
「平気だよ。心配かけたみたいでごめんね」
「ううん。僕結構しっかりやっちゃったから、安室さんの組織での立場がどうなってるか気になって」
「そっちは大丈夫。多少面倒な任務は押し付けられたけど、その程度だったからね」
あの程度で評価が下がるほど、バーボンあるいはウルフドッグのワンオフ性は揺るがない。
それにコナン君がいたからこそ私はアンドレ・キャメルを…志を同じくする捜査官達を手にかけずに済んだのだ。
それはなによりの私への返礼である。
処罰なんて気にするほどのことでもないし、私がお礼をしなければならないことだ。
私はあらかじめ用意していた、20cmほどのシャーロックホームズの彫像をバッグから取り出した。
包装の箱も持ち運び用の袋も用意してある。
それは大きなアメジストの原石から掘り出したもので、細部まで丁寧に、生きているように細かな装飾が施されている。
ロンドン市街をワトソン博士を伴って歩くホームズは、動き出しそうなまでに瑞々しい。
掲げる杖には植物…イヌホオズキがまとわりついている。
イヌホオズキの花言葉は『真実』『嘘つき』。
まさに私たちのシャーロック・ホームズ、コナン君に相応しい二面性の花言葉だ。
「今回のお礼だよ、どうぞ」と手渡せば、コナン君は目をキラキラさせて重そうにそれを受け取った。
「うわ…すっげ…!買ったらとんでもない値段しそう……本当にいいの?」
「勿論。僕らは君のおかげで同じ捜査官を殺さずに済んだんだ。これじゃ礼として足りないぐらいだよ」
コナン君がきょとんと首をかしげる。
ウルフドッグの凶行を止めるという、己のやったことの偉大さに気づいていないのか。
私は苦笑して、コナン君の頭を撫ぜた。
そして「───俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう」と降谷さんが私に続いて頭を下げる。
コナン君は少しだけ目を細め、「……安室さんが無事でよかったよ」と笑ってみせた。
私は少々迷った後、俯いたままコナン君に微笑みかける。
輝けるかの主人公。この世界のことわりよ。
「……また、万が一があったら頼っていいかな?」
コナン君はややあってから、微笑んで頷いた。
「もちろん」と、彼は万感の思いを込めて己を鼓舞するように宣言したようだった。