バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
「裏切りだぞ。酷い裏切りだ。心配もさせてくれないなんて。幼馴染のことを軽んじてるに違いない」
「だから悪かったって、ヒロ」
未だお説教が続いている車内です。
あの後、私の記憶喪失が明らかになり景光さんはおおいにむくれた。
「俺のことを信用していないのか!」とか「酷い!あまりに酷い!」とかひとしきり喚いたかと思えば「リスクを思えばすぐに当時の記憶がある俺と記憶の擦り合わせをすべきだった」と理詰めでこんこんと説教してきたり。
まあ、私はと言えば内側で優雅にハンモック揺らして寝ていたがな。
今回の説教対象は降谷さんだ。私は関係ないので悪しからず。
などと余裕ぶっこいていたら、隙を見て降りてきた降谷さんに背後からチョークスリーパーかけられて悶絶することになった。
普段あなたがやってることだぞ!!!暴力反対!!!
そうこうしているうちにようやく景光さんの運転する車に揺られて東京に来たわけだが、未だ景光さんの文句は終わらないでいる。
一応私たちの現状はすっかり吐かされたのだが、擦り合わせてみると予想以上に欠けている点が多かった。
組織の任務はもちろん、スコッチとバーボンという形で再会してからもだ。
それでどんどん景光さんの機嫌は急降下していき。
降谷さんは今現在、FXで有り金全部溶かした人の顔みたいになっている。
ドンマイ……大人しく怒られて来なよ幼馴染の親友さん…。
とまあ、いい加減降谷さんが哀れなので私が顔を出して場を取り持つこととする。
「───ところで、ゼロと景光が一緒に仕事をするのは久しぶりでは?あの死亡偽装の件以来、僕らはなるべく接触を最小限にしていましたから」
「……そうだな。久しぶりだ」
お、気分が上向いたらしい。
私の言葉に若干顔を綻ばせ、諸伏さんは遠くを見つめるように瞬いた。
というか、「俺もゼロと一緒に行動する!」と言って聞かなかったんだよな。
だから群馬から帰ってくる時も彼の車に乗っているわけで。
正直、プラーミャからすればネギ背負った鴨なだけな気がするが、景光さんが頑として折れなかったから仕方ない。
景光さん的にはもう手の届かないところで親友を失いたくないということなのだろう。
警察学校組を亡くしたトラウマは彼もまた同じということだ。
もう車は23区内に入り、高い高いビルの林に囲まれている。
数えるのも馬鹿らしいほどの車と歩行者、軒を連ねる名も知らぬ店とオフィス。
景光さんは「やっぱ都会はいいなぁ」などと呟いて、信号で止まった隙に田舎民丸出しの仕草でキョロキョロと辺りを見回した。
警視庁付近を通り抜けてしばらく走れば、私たちの住む米花町のメゾン木馬だ。
契約している駐車場には風見さんに頼んで置いて行ったRX-7を停めて貰っているので、やや遠いがコインパーキングへと車を停める。
そうしててくてくと二人で連れ立って、なにくれとなく雑談しながら歩いていれば。
コナン君と蘭ちゃんが向こう側の角から出てくるのが見えた。
蘭ちゃんがパァッと顔を明るくして駆け寄ってくる。
可愛いことだ。好かれている自信はあるが、こうやって愛らしい小型犬みたいに微笑まれると満足感が違う。
「安室さん!こんにちは。そちらの方はお知り合いですか?」
「蘭さんもどうも。彼は僕の探偵仲間ですよ。蘭さん達はどこに行かれるんです?」
「日色です」と言って言葉少なにペコリと景光さんは頭を下げた。
意図して印象にあまり残らないようにしているのだろう。
まぁ、隣のコナン君からすごい見られてるから全然注目の的なんだが。
蘭ちゃんはと言えば、降谷さんの問いかけに顔を曇らせて俯いた。
「これから父のお見舞いにいくんです」
「お見舞い?どうかされたんですか?」
「それが……事故で頭を強く打って、まだ意識が戻っていなくて」
「ッ!」
降谷さんがヒュッと息を呑んだ。
顔色がにわかに青ざめる。交通事故。死亡。良くない記憶がぐるぐると駆け回っているのが手に取るようにわかる。
「そう、でしたか。僕もこの後伺わせていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ。父も安室さんが見舞いに来てくれたなら嬉しいと思います」
それだけ声を絞り出して、降谷さんが二人と別れようとした時。
「ねぇ、ちょっと話を聞きたいんだけど、いい?」
「……いいけど、どうしたんだい?」
コナン君がこそっと私たちに耳打ちしてきた。
チラチラと諸伏さんの様子を伺っているが、様子からすれば別件か。
「僕、ちょっと用事思い出しちゃったから安室さんと一緒にお見舞い行くよ!」
「えぇ!?そんな、安室さんにご迷惑じゃ…」
「僕はかまいませんよ。蘭さんも毛利先生がご心配でしょうし、後でかならず送り届けますから」
「うーん、なら……ごめんなさい安室さん、いつもご迷惑おかけして」
「大丈夫。もし遅くなりましたらコナン君の夕飯も食べさせておきますので、蘭さんは早く毛利先生のところに行ってあげてください」
「はいっ!」
ひたすら申し訳なさそうな顔で蘭ちゃんの後ろ姿が遠くなっていく。
その顔は本来コナン君が蘭ちゃんにしなきゃいけないんやで。
その…と何か言いたげに景光さんが私の顔とコナン君とを交互に見ている。
「なぁ、あの時俺の事務所に一回来た子だよな。どういう関係なんだ?」
「彼は俺の協力者だ。情報を隠す必要はないから気にするな」
「協力者!?!?」
降谷さんと景光さんがコソコソと喋る間にも、コナン君が「じゃあ行こっか」と言って先頭を切ってメゾン木馬へと歩き出す。
私コナン君に家を教えたっけ。
いや、蘇った記憶の中に一緒に私の家でグダついてた記憶があったようななかったような。
鍵を開ければ、降谷さんがいつも綺麗に片付けている畳敷のアパートが広がる。
その一角には柵に囲まれ、ペット用のマットが敷かれたスペースがある。
「ヴぅ……」と不機嫌そうにハロがマットの上で唸っている。
どうやら今日の朝からの長い不在で完全に機嫌を損ねてしまったようだ。
もはや誰一人信じられぬみたいな顔で部屋の奥ですっくと立っている。
それでも、首と胴体をひとしきり撫でてやれば目の輝きを取り戻すのだから現金なものだ。
そうしてペットスペースの隣の座布団に座れば、コナン君と景光さんも倣うようにおずおずと座った。
コナン君へと柵越しに撫でて欲しそうに飛び掛かろうとするハロを尻目に、コナン君が咳払いした。
「今僕は警視庁前で今朝起きた爆破事件について調べてるんだけど。安室さん、3年前の11月6日に何があったか覚えてる?」
「いや。俺も安室も、その時のことは覚えていない。おそらくはバーボンとしての仕事の合間に萩の墓参りに行ったとは思うが」
「!おまっ、え!?子供相手に……いや、どこまで話してるんだよ!?」
「だがその時一緒にこいつがいたからな。同一事件かは分からないが、ちょうど俺も詳しい話を聞こうと思ってたんだ」
「!?!?!?」
混乱した景光さんが立ち上がって宇宙猫顔を晒している。
そりゃそうだ。
コナン君を事務所に連れて行ったことはあったが、その時主に対応したのは明美さんだっからな。
私たちとしても、コナン君に関して彼に詳しく説明していない。
コナン君がどっしり構えたまま混乱する景光さんを見上げて言う。
「その人も公安……降谷さんの同期の人なの?」
「ああ。ひとまず日色ヒカルということで覚えておいてくれ。どうせ後ですぐわかるとは思うが、便宜的にな」
「わかった」
「待って、これ俺が変なのか???どう考えても小学生が知ってていいレベルの話じゃないように見えるんだが!?」
「落ち着け。そもそも、お前のいる事務所に連れて行った子供が普通の子供なわけないだろ」
「それはそうだけど!」
もごもごと口を動かし、景光さんは諦めたように腰を下ろした。
かなり理不尽だが飲み込んでもらうより他ない。
「はぁ……分かった。話せばいいんだろ」
大きくため息をついて、景光さんは頭をかいて話し始めた。