バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
現場は大混乱である。
現在、ランタン爆弾を保管する物流倉庫では、急ピッチで撤収と避難が進められている。
各地点でひっきりなしに電話が鳴りたて、誰も彼もが焦りに冷や汗を浮かべて走り回る。
なにせもうすぐこの場所で六万個もの爆弾を爆発させる特大のテロが起きると言うのに、ゆっくりなどしていられない。
私たちもまた、公安として作業班の整理や指示出しの業務で手一杯だ。
この倉庫に近い区域から、都民の避難も進んでいるようだが。
やはりこんな大都会。
避難完了までもうしばし時間を要するに違いない。
降谷さんが内側で舌打ちする。
「くそっ、やってくれたな…!もう少し生かして解除コードを送らせたほうが良かったか?」とひとりごちたので、「いえ」と簡潔に返事をする。
恐らくはプラーミャの思う壺だ。
どうせプライドの高いプラーミャには殺されようと解除する気はなかっただろう。
せいぜいが解除したふりをして渋谷ごと私を爆死させようと目論んだはずだ。
焦りだけが加速する。時間は刻一刻と迫っている。
昨日のうちに爆発物処理班が解体した分もあるものの、そんなの全体から見ればごく少数でしかない。
小さい分機構が簡単で解体しやすかったのは不幸中の幸いだが……この物量の前では無意味だ。
「周辺500メートルの避難確認完了しました!」「爆発想定範囲、計算まだです!」「何をやっている!急がせろ!!」
怒号の響く室内で、緊張に喉が渇く。
ここからもたらされる経済損失は想像もつかない。
思わず手を握りしめた、ちょうどその時である。
つけていたインカムに、ひょうきんな声で割り込む言葉が一つ。
『元気にしてるか?おじさん参上!』
「ッルパン!?」
それこそ世紀の大泥棒、ルパン三世その人である。
実に元気そうに「ガオー!」とまで言って笑う姿のなんと余裕に満ちたことか。
平然と公安の通信に割り込んでおいて、通話の向こう側ではライオンのポーズでもしてそうな愉快さ具合はいつも通り。
ピキッと降谷さんの額に青筋が浮かぶ。
「今はそれどころじゃないんだ!!公安の通信をハッキングしてまで暇なのかルパン三世!!!」
『知ってる知ってる。あれだろ、プラーミャにいっぱい食わせられたんだろ?』
「………ッ」
降谷さんはひゅっと息を呑んだ。
一瞬意識の隙を晒した降谷さんの代わりに私が口を挟む。
「どういうことですか?」
『オレの先見の明に感謝するこった。よく聞けよ、いいモンが東都の米花にある第七アジトにある。自由に使っていいぜ』
「じゃ、そゆことで!」と、それだけ言ってルパンは一方的に通信から退散していった。
第七アジトならこの近くだ。
私たちはあまり近寄らないから、今その中がどうなっているのかよく知らないが…行ってみる価値はある。
降谷さんが周囲を見渡し、焦りからか眉間に皺を寄せて歯噛みした。
今、指揮者である私たちが場を抜けられる状況ではない。
だが同時に…これを解決できるのもまたルパンのアドバイスのみなことは間違いない。
───どうする?
───ルパンがこの局面に手間をかけてまで教えてくれたことです。無視すれば後悔することになるかと
───……そうだな。後でどんなお咎めがあろうと今更か。いくぞ、安室!
───はい!
頷き合い、風見さんに「ひと時ほど抜ける!お前の指示で動かしておけ!」とだけ電話で叫んでから返事も待たずに通話を切る。
ガチャ切りだ。
今は話している時間すら惜しい。
私たちは現場から飛び出し、乗り捨てられた車で大渋滞を起こしている道をRX-7にて全速力でかっ飛ばした。
到着した第七アジトは静まりかえって埃っぽい。
ここはルパンが気に入ったお宝の保管に使っている場所だ。
定期的に掃除に来るぐらいで私たちはほぼ使わないため、みるたびに中の様子が変わっていることが常だ。
───ここにある「良いもん」ってなんなんだろうな。ルパンがそこまで言うからには、何かしら俺たちに役立つものなんだろうが
───この局面に来て役立つもの、と言われてもピンと来ませんね。まぁ彼らの関わる品はファンタジーが割とまかり通るので、魔法とかあっても驚きませんけど
───否定できないのが頭の痛いところだな。というか、お前の斬鉄も割と魔法だぞ。そもそも鉄は刃で切れないだろ
もっともなツッコミも入れられ、私は思わず押し黙った。
それはそう。
自分でもどうやっているかわからないし、エイヤッ!以外の説明文を持たない。
暗闇に目が慣れてきたところで、入ってすぐの広間中央スペースに真新しい立派な展示ケースが鎮座しているのが確認できた。
電気をつければ、その中に入っているものの姿も露わになる。
「───……」
宝石花だ。
様々な宝石を見ている私でもよく名も判別できない赤い宝石で彫られた、美しい花びらが頑丈なケースの中に大事そうに収められている。
説明文は金文字でケースに貼り付けられたプレートに彫られている。
「愛弟子の初めての贈り物」と。
───これ、ルパンがヴェスパニアに行った時に彫った宝石花だな
───!
降谷さんの声を聞いた瞬間、脳裏にフラッシュバックする記憶がある。
ああ、これは私が最初に作った宝石花だ。
まだ思いつきでしかなかった、試作とすら言えない拙い作品。
花びらの薄さはまだまだだし、洗練されていないし、短時間で彫ったから艶やかさが足りないし。
それでも。
ああ。あんな未熟な技で作った物を、こんなに大切に持っていてくれたんだ、と。
胸に暖かさと気恥ずかしさが同時に広がる。
うまく言葉にできなくて、つい俯いて言葉が出ない。
そして同時に、これは紛れもない本物のヴェスパニア鉱石なのだと理解する。
ヴェスパニア鉱石。
モホロビチッチ不連続面で生成された稀有な代物で、電波に全く反応しないため、ステルス兵器の材料になるこの世に二つとない鉱石だ。
また、特定電圧をかけることで周囲の電子機器を無効化する副次効果もある。
───ですが、ここまで薄く加工されたヴェスパニア鉱石では、効果は発揮できないのではありませんか?
───それは俺たちの見立てだ。ルパンが言うからには、何がしかの効果が期待できるのだろうさ
───……そうですね。なんにせよやってみるより他に道はありません
素早く風見さんに電話して電圧調整のための機器の手配を指示する。
同時に周囲に壊れてはいけない電子機器がないかも確認させた。
もちろん今回もガチャ切り。
パニック寸前の声が電話越しに響いたが、聞こえないふりをした。
もう残り40分。
ここから渋谷の荷物置き場まで20分かけて帰るとして、ほぼ後は蜻蛉返りに避難するしかないほどの時間しかない。
最初、ランタン爆弾をトラックで港まで運び海へ出す案も出ていたが、爆発の規模が読みきれなかったのと被害の責任が取れないので却下されたのだ。
だからマトモに動かすこともできずに物流センター内に置いてあったのだが。
スマホがバイブ音を鳴らした。
先ほどからなりっぱなしだが、風見さんの電話をとった状態でスマホを手に持っていたので画面を確認する。
すると、その画面にはちょうど連絡しようと思っていた人からの電話だったらしい。
降谷さんが電話に出る。
開口一番、地獄のような不機嫌な声色が耳を打った。
これは怒ってるわ。
『……降谷。今どこにいる』
「爆弾の対処に有効かもしれない品の入手に成功しました。判断を仰ぎたいと思います」
『なに?どういうことだ』
「加工済みのヴェスパニア鉱石です。高出力のこれを爆弾に当てれば、一斉に爆破機能の停止が可能です」
『なるほど。その代わり、周辺で電子機器異常が発生する可能性があると』
「はい」
しばし唸り、黒田管理官はため息をついた。
何から突っ込んで良いかわからないと言った様子だ。
すまんな…心労をかけてしまって……。
『かまわん、やれ。どうせ爆発すれば皆吹っ飛ぶものだ。よりマシな被害を選ぶべきだろう』
「ですが補償問題になれば…」
『プラーミャの仕掛けた罠だった、とすればいい。警察は責任を問われるだろうが、保障を問うべき人間がすでに死んでいるのならば問題は最小限に抑えられる』
「わかりました。では、早急に対応します」
「急げよ降谷」と黒田管理官は言い置いてから、言葉を続けた。
『なんにせよ、そのヴェスパニア鉱石とやらが噂通りの性能を発揮したらの話だ』
「ええ。なんとしてでも起動させます」
それだけ言って通話を切る。
後は現場に行くだけだ。行きと同じように降谷さんが普段は出せないスピードで公道をぶっ飛ばすのみだ。
………地味に見てて怖いんだよな、この爆走運転。
事故ったら粗挽きミンチになってしまうぞ…。
さて。
現場に舞い戻った頃には、超特急で用意された電圧設備が整えられ、顔面蒼白の風見さんがげっそりした顔で迎えてくれた。
「降谷さん、これは一体…いえそれよりもう時間がありません!爆弾処理班が六万個のうち五千個の無力化に成功しました。我々も退避しましょう!!」
「五千か…機構がわかっているとはいえ、よくやってくれた。後は俺たちの仕事だな」
見れば、素人でも操作できるようあとは宝石花をクリップで止めたあと電源ボタンを入れるだけで事足りるようにセッティングされている。
どうやら技術者さんがこの短時間で気を利かせてくれたようだ。ありがたい。
降谷さんがずいと前に出て装置の前に出てしゃがみ込んだ。
「ひとまずそこを退け風見。俺はやることがある」
「っ一体何を…と言うより今までどこにいたんですか!?」
「説明は後だ。時間がない」
風見さんの掠れた叫びを無視して、降谷さんは専用の手袋をはめて、慎重に懐から宝石花を取り出した。
クリップを宝石花の頑丈そうな蔓の根元あたりにはめて。
ごくり、と生唾を飲む。
祈るような気持ちだ。これで起動してくれ。なんとかなってくれ。
緊急時にだけ神頼みというのも情けない話だが、ことここに至って私にできるのは神に祈ることのみだ。
電源を、オンにする。
きい、と可聴域をギリギリ超えない超高音が耳を打つ。
そして一瞬後、視界がなくなるほど眩い閃光が宝石花から放たれた。
そしてそれはどんどんと広がり、不可思議な球体状の結界に似たフィールドを形成する。
大きな物流倉庫の一階と、窓から見える広い駐車場スペースを巻き込んで、真白い視界が覆い尽くす。
ある種美しく、非現実的にすら見える幻想的な風景だ。
というか、遅れて三半規管がグラグラと揺らされている感覚がするような。
……ようなじゃない。よく考えたらこれ、凄まじい吐き気だ。
ぐえー!と思わず内側でうずくまる。
胃の中という概念は深層心理には存在しないため、吐くものはないから楽ではあるのだが。
反射でえづいて涙目になる。
どうやら私の電波を感じる幽霊としての感覚に、ヴェスパニア鉱石の出す特殊な波長が悪さをしているらしいのだ。
ただ、同じ肉体でも幽霊としての感覚のない降谷さんは特段の異常はない様子。
これには一安心……できぬ。普通に辛い。うぉぉおお視界が揺れる!乗り物酔いハイパーマックス!!
そうこうしているうちに光が収まる。
どうやら効果時間が終わったようだ。
電源をオフにして、その辺りでようやく降谷さんが私の様子に気づいたらしい。
「っ安室!?」と慌てて降谷さんが深層心理で倒れ込む私を抱き起こした。
ヴェスパニア鉱石、実は幽霊退治とかもできる稀有な石説あるわ。
変なこと考えてないとリバースしてしまいそうで、モノローグが面白おかしいことになっている。
ウプ……というか、確認作業があるから降谷さんは動くべし。
───私のことはいいですから、ゼロは早く退避作業に移ってください
───だが!
───ヴェスパニア鉱石の波長が感覚にキただけですから、時間が経てば収まります
そう言うと、思いっきり苦悩した後に「……わかった。不調があればすぐに知らせろ」と降谷さんは声を絞り出した。
「風見!これでこの荷物室に集められた爆弾は無力化されたと思われる」
「ほ、本当ですか!?すぐに調べるよう手配…って、スマホが動かない!?」
「ああ、そうだったな。この辺りの電子機器は全て吹っ飛んでるはずだ。ひとまず避難して、時間を過ぎても爆破しないことを確認してから爆弾を調べよう」
余裕がなくて電子機器を避難させる時間がなかったからな。
もちろん私たちの持っているインカムもスマホもぶっ壊れている。
真っ黒なままうんともすんとも言わないスマホに、なんとなく物悲しい気持ちになる。
まぁ後でバックアップから復帰させればよかろうよ。
それに、最低限ぶっ飛んだらまずい施設が近くにないかだけは探させてある。
畳の上でうつ伏せになって死んでいる私であるが、思考は半分ぐらい生きている。
降谷さん越しに外を見ながら、私は今後の大変すぎる作業を思い、嘆息した。
この倉庫内の保管されてた電子機器とかも被害に遭ってるだろうし、避難に使うために避難させておいた車以外は死んだだろうし。
管理官がお怒りだったから、始末書と言い訳にはかなりの手間を割きそうだ。
はぁ……プラーミャめ。
そんなふうに半分生きている思考でブルーになりながら。
もう半分はオエ〜〜〜〜!!!などという単語未満の叫びで埋め尽くされていた。