バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
ザクザクと宝石花のパーツを削っていく。
謹慎処分中ゆえ公安の仕事がないからこそできるゆったりとした時間の使い方だね。
一心に削る集中は心地よく、この世のストレスを忘れさせてくれる。
降谷さんとの相談の末、暗号を刻む宝石花は寄木細工方式に決定した。
水晶をベースに複数の宝石を寄木細工のように組み合わせた複雑なものだ。
それぞれ切り出したパーツをくり抜いた水晶の中に嵌め込んで作る極上の宝石細工。
組み上がれば氷の中に花が浮かぶようにも見える、美しさでは宝石花随一の品である。
まず見本品、ということで一個目の暗号付き宝石花を不二子さんに贈ったのだが、不二子さんも「息を呑むほど美しい、ってこういうののことを言うのね」と絶賛してくれた。
同時に「女の敵よ」と若干不機嫌になってしまったのだがな。
美しき女性を差し置いて人の目を奪ってしまう、という意味での敵認定だと思われる。
なんとも不二子さんらしいプライドだ。
もちろん暗号の表示機能も忘れていない。
水晶に特殊な形で刻み跡をつけることで、底から光を当てるとガーネットやサファイアなど光の花が壁に映せるようになっている。
その中央に暗号が浮かび上がる、という仕組みだ。
ただ、やはりこの複雑さゆえに一つ作成するだけで非常に時間がかかるのが玉に瑕。
降谷さんが頭をフル回転させて細かさの極みたる宝石花のデザインと設計図を作っていくため、普通に仕事がある時ならば二週間に一個が限界だろう。
とはいえ、80個作る予定だが今年中に仕上がるはずだ。
手配したからくり屋敷も設計含めて完成まで半年ほどのようだし、後は宝石花洞窟の作成に取り掛かれるはずだ。
え?計算がおかしい?
大丈夫。私が記憶を失った時点から換算しても今年はもう一年半経っている。
合計すればおそらく5年とか余裕で経っているはずで、それすなわち細かいことは気にしなくていいんだよの理論ということで。
それを加味しても、あのレベルの複雑な地下機構を有する屋敷の竣工がおそらく半年後っておかしいけどな。
さすが、建物が爆発することに定評があるコナン世界だ。
復興のスピードも段違いということなのだろう。
さて、そろそろRUMとの約束の時間だ、
この間DDoS攻撃があった件で、分析結果がまとまったのでその確認と再度の聞き取り調査があるのだ。
すでにRUMには「DDoS攻撃の主について知っていることは何もない」と報告は上げてある。
プラーミャのことを下手に伝えれば、私達の所属がバレかねないからな。
信じてもらえたならいいのだが……。
車で近場にある組織のアジトの一つに寄れば、待ち構えていた下っ端に案内されて会議室の一つへ案内される。
どうやら今回はRUMはいないらしい。
緊張に震える事務方の下っ端達がペコペコと私に頭を下げる。
「こちらを」と言葉少なに渡されたのは今回の書類だ。
降谷さんに代わって素早く読み込んでもらい、深層心理の図書館に内容を取り込む。
書類読みの速度と正確さは降谷さんの方が遥かに上だからな。
そのままバーボンのフリをしてもらい、疑問点の質問と所感の適度に済ませて報告を済ませてあとは帰るだけ。
かかった時間は30分ほどだろう。
そのまま「調査ご苦労様でした。これからも貴方達の貢献に期待しています」と笑顔で労って部屋を出た。
チラッと見えた下っ端達が恐怖で震えていた。
なんで労ったのに震えるんじゃ。
それはともかく。
やや伸びをして宝石花製作の続きに取り掛かろうと車へ向かっていると。
廊下端にある休憩スペースでまったりしているキャンティとコルンに遭遇した。
キャンティがニヤッと悪女的な渋い笑いを浮かべて私に手を振ってきた。
「よぉ、ここで会うのは久しぶりじゃないか犬っころ!」
「ん。FBIの狩りの時、結局会えなかった」
「そうですね。そう考えれば貴方達と話すのも意外と久々かもしれません」
キャンティにちょいちょいと手招きされたので、休憩スペースのソファに私も腰掛ける。
テーブルには高級そうな酒瓶が一本置いてある。
どうやら酒盛りの途中だったらしい。
こんな場所でか。もうちょっと酒盛りの場所あったろ、と思わざるを得ない。
「味見する?うわばみのバーボンには物足りないだろうけど」
「うわばみじゃありませんよ。ただ酔わない体質ってだけで」
「それがうわばみってんだろうに」
酒を片手にキャラキャラと笑うキャンティは上機嫌そうだ。
組織では基本、バーボンはうわばみ扱いだ。
飲んでいるのが常に私なのもあるし、降谷さんが割と酒に強い体質なのもある。
肉体を外側から動かしている私は、どんなに薬物を摂取しても影響がないからな。
とはいえ、降谷さんの肉体には負担がかかるのでほどほどにしておかなければならないが。
急性アルコール中毒でぶっ倒れでもしたら大ごとだ。
「で、どうだい。暇なら今から一発やる?」
「ん。俺もやりたい。今回こそバーボンに当てる」
「いいですよ。ちょうどこの後は手すきですし、久しぶりに楽しみましょうか」
やる、とは色っぽい意味の話ではなく、物騒な実弾を使った命懸けのゲームのことである。
その名も「狙撃ゲーム」。
私が的役となり、倉庫外の特定地点を経由して逃げ回る私に見事に弾を当てられたらキャンティ達の勝ちとなる。
実際に当たるわけにはいかないので、実際は私が爪を出して身を守ったら負け、ということになるか。
つまり、私は身一つで銃弾を避け続けねばならないということだ。
このゲーム、主観では地味に初めての試みとなる。
降谷さんから「お前はとんでもない遊びに興じてるな…」とのコメントと共に聞いていたので知っていたが。
聞けば聞くほどとんでもないゲームである。
楽しそうだから快く快諾したものの、降谷さんの渋い顔を見るにやめて欲しかったらしい。
すまん……私の実力試しになると思って……。
キャンティが「やりぃ!」と言ってバンバンとコルンの肩を叩いた。
コルンは無言で揺すられている。
「やっぱ実戦形式は腕が鳴るねぇ!脳天吹っ飛ばしてやるよ!」
「俺、心臓狙う」
「おとといきやがれ、って奴ですね。弾くまでもありません。完璧に避け切ってみせますとも」
「言ったね!!ならさっさとフィールドに移動だよ!」
生き生きとしているが、先ほどまで酒飲んでいたのに大丈夫か?
二人はゲーム持って公園に繰り出す小学生みたいなテンションに見える。
実際にはライフルバッグを担いではしゃぐ物騒極まりない大人なのだが。
降谷さんがずいと私を睨みつけて口をへの字に曲げた。
───おい、間違っても撃たれたりするなよ
──大丈夫ですよ。キャンティ達って殺意すごいので歩いてるだけで位置わかるぐらいですから。これで当たったら笑い話です
───……そうか
知らない世界の話を聞いたみたいな顔をされた。
殺気で銃弾ぐらい避けられるだろ!!
ここから車で40分ぐらいかかるフィールドへ向かおうと連れ立って駐車場に向かっていると。
前から廊下をすれ違う影が一つ。
長い銀髪に陰気臭い真っ黒な服装。100人ぐらいぶっ殺したみたいな凶悪な面構え。
ジンだ。
「よぉ、ウルフドッグじゃねぇか」とジンが私に向かってニタリ…と微笑みかける。
どんな非道なことをされるんだと恐怖しそうな笑みだが、これは普通に私に親愛の情を示しているだけだ。
キャンティが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「あん?あんたの犬は私らが先約済みだよ。とろくさい飼い主はあっち行った!」
「ああ、あのごっこ遊びに行くのか。ウルフドッグを仕留めるなんざ天地が逆転したとして無理だってのに、ご苦労なこった」
「んだってこの長髪野郎!」
キャンティが吠えるのと同時に、コルンがむすっと口を引き結んだ。
わかりづらいがコルンも不満を表明しているらしい。
「それより手間かけたな、ウルフドッグ。組織に楯突いた奴の戯言に付き合わせて」
「ああ、DDoSの件についてなら問題ありませんよ。僕の方こそ力になれず…申し訳ありません」
「はっ。小物をいちいち覚える必要はねぇ。死んだ奴の名前と同様にな。だろう、組織の忠実なる猟犬。血濡れのウルフドッグよ」
この人いつも幸せそうだな、と私は笑顔の裏でちょっとほっこりした。
今日も絶好調だ。顔もいつも以上に凶悪そうでなにより。
ただし降谷さんはといえば、反吐のオンパレードを開催中である。
オエー鳥の亜種だと思われる愉快な表情で悪態をついている。
ジンはキャンティ達を顎でしゃくって私に指示を出した。
「こいつらに格の違いってのを見せつけてやれ」
「あはは、精一杯頑張りましょう」
それだけ言ってジンはまた颯爽と銀の長髪を靡かせて去っていった。
キャンティとコルンが肩を怒らせてプリプリしている。
「なんだいあいつ、感じ悪いったらありゃしない!」
「すみませんキャンティ。ジンは僕のことになるとつい熱くなってしまうようで」
「ふん、いいさ。脳天吹っ飛ばされても恨みっこなしだよ」
「俺も。足狙っても恨むな」
「勿論問題ありません。僕も全力で逃げさせてもらいますから、思う存分楽しみましょう」
というわけで、その後は二時間ほど狙撃ゲームに勤しんだのであった。
結果は危ういところではあったが、私の勝利。
バランスの崩れたタイミングを的確に狙ったコンビネーションでつい手が出かけたが、時間制限に助けられた形となったのである。
思う存分ぶっ放して大満足のキャンティとコルンだったが、やはり当てられなかったことをひどく悔しがっていたのだった。