バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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風の女神①

 

 今日は人気の高級レストランで食事会だ。

 

 こういう高級店はベルモットも好きなので割とよく行くのだが、今回は予約で何年も待ちとなる超人気フレンチレストラン、「デェース・デュ・ヴォン」に来ている。

 特に本場で修行したシェフの特別メニューが人気で、ディナーは沖野ヨーコ主演のTVドラマでも使われたほど。

 

 ……とはいっても、すでに私はディナーで一回来たことがあるのだけれど。

 半年ほど前、ベルモットに誘われて一緒に優雅なディナーと洒落込んだのだ。

 日本でも有名なハリウッド女優の来店ともあって、レジ横なんかにその時の写真とサイン色紙も飾ってあるはず。

 

 店の駐車場にRX-7を駐め、店の前にまでやってきて毛利さんがメニュー表を覗き込んだ。

 

「おーっ、ここがあのドラマに出てたレストランか!」

「店構えもドラマとおんなじですね、沖野ヨーコさんがこの辺りに立ってたんでしたっけ」

「そうそう!!それで空を見上げて……よし!今日は飲むぞ!帰りも運転手は任せた、安室!」

「はい、お任せください先生!」

 

 びしっと降谷さんが敬礼した。

 降谷さんノリがいいな……と思ったら、意外にマジで毛利さんのことを慕っている様子だ。

 毛利探偵、ダメダメだけど緊迫したシーンとか結構父親みあるもんね、ときめくのはわかる。

 

 今日はRX-7に毛利さんと蘭ちゃんを乗せてこの店に来たのだが、コナン君は阿笠博士と一緒に別で来る予定だ。

 前日にコナン君が阿笠博士の家に泊まっていたから、その流れでな。

 

 蘭ちゃんの胸にはブローチに加工された宝石花が昼の光を反射して煌めいている。

 

 どうやらかなり工夫して、宝石花を傷つけないよううまく金具に取り付けてあるようだ。

 腕のいい彫金師に頼んだのだろう。

 

 私はそれを見て降谷さんとにっこりした。

 

 おお、工藤君や!プロポーズで渡せたんだな!

 最近のことにはなるが、工藤君にはプロポーズ用の宝石花を渡していたのを思い出したのだ。

 

 修学旅行から帰った蘭ちゃんから「新一に…告白の返事したんです!!」って報告を受けていたが、きっとホームズの黙示録あたりで原作通りプロポーズを受けていたのだろう。

 ホームズの黙示録に当たる記憶を失っているのが実に口惜しい。

 きっと私の宝石花を渡してプロポーズしてくれたんだろうに。

 

 私は全ての事情を知っているのを極力隠して、すっとぼけて蘭ちゃんに聞くことにした。

 

「そのブローチ、あまり見ないデザインですね」

「これですか?ふふ、可愛いですよね!これ、新一からの贈り物で…せっかくだからつけていこうかなって」

「いいですね!おしゃれにつけてもらって、工藤君も喜ぶと思いますよ」

「ありがとうございます!」

 

 たしか…これはレッドエメラルドの巨大原石を使って作った赤薔薇で、私の力作だったはずだ。

 

 私達の宝石花は高価ゆえ、みんな大切に屋敷の中にしまいこむんだよ。

 それをこうして実際に使ってもらっているのを見ると、やはり満足感は段違いだ。

 よしよし。作った甲斐があった。

 もし破損したら新しいのを無料で作ろう、などと降谷さんと後方腕組み制作者面して頷きあう。

 

 さて、そんなわけで店内に入ると、シックなレンガ風の内装が私たちを出迎えてくれた。

 

 しかしここで合流するはずだった阿笠博士は随分遅れて到着した。

 どうやら道中、スピード違反で捕まってしまったらしい。

 

 なんとなく降谷さんがキリリとした顔で聞いているので、思わず笑いが腹から込み上げてきそうになる。

 降谷さん、トンデモ運転の常習犯だからな。

 いや、大抵仕方ない状況ではあるのだが。

 

 仕方ないんだから降谷さんもそんな後ろめたいみたいな反応しないで欲しい。

 そのままキメ顔しない!余計笑えるだろうが!!

 

 なお、コナン君はチラチラと頬を染めて蘭ちゃんを見上げている。

 

 宝石花を胸につけた蘭ちゃんは、今日のお出かけのためにいつも以上におしゃれさんだ。

 降谷さんと一緒にニヤニヤコナン君をみていれば、視線に気づいたコナン君にガンをつけられた。

 

「なんだよ!」

「いや。改めて交際スタートおめでとう工藤君。ここからが正念場だぞ」

「わ、わーってるよそんなこと!!」

 

 ぷーくすくす、と笑う降谷さんの愉快犯具合は筋金入りだ。

 降谷さんは悪質な笑みをしているが、多分私も同じような顔をしている。

 コナン君はすっかりむくれてそっぽを向いてしまった。

 ごめんて。

 

 トイレに行く阿笠さんを見送りながら、ワインを遠慮なく頼む毛利探偵をちょっとずつ見張る作業に戻る。

 ドリンクメニューには銘柄ワインが並び、どれも皆上質だ。

 そんなグデングデンになってもらっても困るし、酒量が行き過ぎないよう毛利さんは見張らないとな。

 RX-7内で吐かれたら恨む自信がある。

 

 そんな中、声をかけてくる男が一人。

 小太りで目深に帽子を被り、サングラスにマスク姿。

 完全なる不審者ファッションだ。

 

「おやおや、園子お嬢様、お久しぶりでございますね!」

「えーっと、どなた様…?」

 

 流石にこの服装では人の顔と名前を覚えるのが得意な園子嬢でも誰かの判別は不可能らしい。

 苦笑して困惑顔で聞き返した。

 男も自身の姿に意識が向いたのか、マスクとサングラスを外してぺこりと頭を下げる。

 

「これは失敬、鈴木セキュリティの南條です!この間のゴルフコンペ以来ですな!こんなところでお会いするなんて奇遇も奇遇!」

 

 にっこりと笑い、揚々に笑う姿はとっつきやすそうに見える。

 割とひょうきんな性格なのだろう。

 

 というか、最近TVに映ってた人だ。

 鈴木セキュリティは金庫などのセキュリティシステム設計や管理をしていて、南條さんはその会社の社長になる。

 TVで「うちの金庫を開けられるのは私だけだ!開けたかったら私ごと盗むんだな!」と大口を叩いていたのを覚えている。

 

 多分それで随分やばい脅迫がきたのだろうなと私は苦笑した。

 

 とはいえ。

 単純な虹彩認証なら本人を盗むなんて手間をかけなくともルパンメソッドで突破できるから、私たちがするとしたら南條さんの虹彩データ確保ぐらいのものだ。

 虹彩データさえあれば降谷さんでもデバイスを用意して開けられるのだ。

 

「それより……隣のお嬢さんのブローチ、まさか本物で?」

「私ですか?本物って……?」

 

 恐る恐る、と言った様子で南條社長が視線を隣の蘭ちゃんへと移した。

 どうにも「まさかそんな」という驚愕の表情に見える。

 なんのことを聞いているのかわからないのか、蘭ちゃんが小首を傾げた。

 

 この社長、どうも宝石花を見たことがあるようだ。

 セキュリティ会社の社長ということは、重要な美術品の警備なんかを任されるということ。

 現代最高峰の彫刻とも謳われる宝石花であれば、見たことがあってもおかしくはないだろう。

 特に鈴木次郎吉相談役が蒐集し始めたということで、一般認知もされ出してきているし。

 

「いえ、すみません。私の気のせいだったようで」

「はぁ…」

 

 少し首を振って、南條社長は空笑いをした。

 こんなところにそんな超高級品があるなんて流石に気のせいだと思ったようだ。

 よかった、ここで真の価値をばらされては蘭ちゃんに付けてもらえなくなって誰も得しないことになってしまう。

 蘭ちゃんが恐れ慄いて金庫にしまいっぱなしにしたら、コナン君も私もしおしおになるからな。

 

 だが、同時に私の力作が単なるパチモンだと思われたことに若干の苛立ちを感じてしまうあたり、プライドとはかくも扱いづらいものであることよ。

 

 

 瞬間、ピリリとした悪意が肌を打った。

 

 瞬時に体が臨戦態勢に入ろうとするのを意志力だけでねじ伏せる。

 私に向けての悪意ではないが、これは殺人事件に匹敵する濃密なものだ。

 目だけで周囲を確認すれば、悪意の根源たる男女二人が平然と食事をしているのが見えた。

 

 私が一瞬表に出たのを怪訝に思ったのか、降谷さんが緊張を抑えた声で話しかけてくる。

 

───おい、どうした

───あの二人、何かしでかすかもしれません。注意を向けておいて損はないかと

───……コナン君からもらった発信機でも仕掛けておくか

───ためらいがなさすぎでびっくりしましたけど、効率的には違いないのでいいと思います

───だろ?

 

 初手違法捜査なのはいつものことだけれど、阿笠博士の発明品と組み合わせるとほんとやりたい放題できるよな。

 さすがは阿笠博士。替えの利かない人材とはこういう人のことを言うんだよな。

 

 などと話しているうちに前菜が運ばれてきた。

 美味しそうに彩られたそれは以前来た時と同じく美味しそうで。

 

 しかしレストラン内に満ちる悪意に、私たちはどうにも落ち着かないまま、トイレに向かう件の男女にすれ違いざまに発信機を仕掛けたのだった。

 

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