バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
速報、阿笠博士が攫われた!!
しかもおそらくどこかを撃たれている!
どうやら阿笠博士は南條社長と間違われて攫われたようなのだ。
突如響いた発砲音に駐車場へと駆け込んだ頃には、すでに犯人の車は出発してしまった後だった。
犯人は言わずもがな、そこしれぬ悪意を発していた男女二人だ。
こんな体たらくになってしまったのには深淵な理由がある!
私は美味しそうな料理が出てきてついつい目がくらんでトイレから戻ってきた犯人二人組を見逃して。
降谷さんといえば普通に南條社長に変装した阿笠博士を見抜けなかったのである!
………へへっ。
追跡のため車を走らせながら、私達は二人してどん底まで落ち込んでいる今現在である。
私は好物のホタテのムニエルが登場して、やったぜ!!って思わずペロリと舌なめずりしてたけどそんな場合じゃなかったんだよなぁ。
馬鹿すぎる……。恥の極みかな。
対して降谷さんはといえば。
───あんな雑な変装で『南條社長か?』とか思ってスルーした俺、公安失格過ぎて墓があったら入りたい……
───まあまあ、あんなに似ていたら分かりませんよ。顔も隠していたんですし。あと穴じゃなくてですか、入るの
───墓で合ってる。お前も道連れだから覚悟しろ
すっかりくしゃくしゃな顔をして、降谷さんは限界まで沈んだ声で無心にRX-7を運転している。
完全にプライドにヒビが入ったらしく、怨念でも引き寄せてそうなどんよりとした空気だ。
別に道連れ程度構わないから、そんな卑屈な顔はおやめなさいな。
ぽんぽんと降谷さんの肩を叩けば、余計に卑屈な顔になって私の脇腹をドスドスと肘打ちした。
痛たたたた。
降谷さんが二人を見間違えた理由だが。
どうやら理由は不明だが南條社長と阿笠博士はトイレでお互いの服を交換したらしいのだ。
そのせいで阿笠博士が代わりに攫われてしまった、という一種交通事故的な事由によるものである。
もちろん、体格や全体のフォルムが似ていたのもあった。
南條社長が件の男女と一緒にいるのも十分危険ではあるのだが。
発信機は取り付けてあるし、降谷さんは様子を見ようと判断したらしい。
そしてこのザマである。
降谷さんは当時のことを思い出したのか再び撃沈して、肉体は運転しながらも内心では畳の上でくたりと脱力するという器用な技を見せた。
よしよし。許す、一緒に墓に入ろうぞ。
庭に「降谷家之墓」と彫った墓石を出現させれば、のろのろと起き上がった降谷さんが無言で線香を上げ出した。
お前が入るんじゃないんかい。
───おお、安室。苗字は違うが安らかに眠れ……
───僕を先に逝かせるのはやめてください!!化けて出ますよ!
さてはこいつ、落ち込みすぎてテンションがおかしくなってるな?
背後から近寄って両頬を思いっきりつねって引っ張れば、降谷さんは「幽霊だ!逃げろ!!」などと言って逃げ出した。
地味に真実を突く発言はやめんか!
ちなみに、一番早く入れ替わりに気づいたのはわずかな異変を感じたコナン君だ。
さすが主人公、公安失格の私たちに代わりよく仕事をしている。
だが彼も私たちを置いてかっ飛んでいってしまったのは失策だったように思う。
コナン君を追うように後からRX-7で走っていると、助手席の毛利探偵が「あんのガキ、無茶しやがって!!」とハラハラした顔でスケボーを注視している。
こちらにも発信機があるから犯人の位置は問題なくわかるし、流石にスケボーよりは車の方が速度が出るからコナン君も乗った方が安全だったのに。
いや。
それだけ阿笠博士のことが心配だったということなのだろう。
ぴたりと犯人の車両の後ろに張り付いたコナン君が、ボンネットの後ろの血痕を確認したらしく体をこわばらせた。
コナン君も阿笠博士の持っている探偵バッジを犯人追跡メガネで確認しているらしい。
同乗してる蘭ちゃんと毛利さんが固唾を飲んで見守っている。
二人を心配させないため、やや声を意図して明るくして話しかける。
「毛利先生、前のあの車が犯人の乗っているもののようですよ」
「あれか!」
「ええ。トランクに血が付着しています。阿笠博士を撃った後、トランクに無理やり詰め込んだんでしょうね」
「ッ……なんて事しやがる!」
毛利さんが憤り、己の膝を拳で叩いた。
そうだそうだ!と内心私たちも便乗して騒ぎ立てる。
阿笠博士の存在価値を思えば、金なんて大した意味を持たないぐらいの重要人物だ。
ターボエンジン付きスケボーの太陽光パネルの発電効率の凄まじさを見ろよ。
もはや科学界の新たな光とすら言えるレベルの逸材なのだから。
たかが数千万円とかの単位のために拳銃で撃ってトランクに詰め込むなど、人類の損失と言っても過言ではない。
そんな人物をむざむざ拉致されたのは誰かって?
………私達です……すみませんでした……。
さて。
事ここに至ってようやく、これは原作イベント「風の女神・萩原千速」だと気づくことができた。
なぜなら、目の前でコナン君のスケボーが犯人の車に幅寄せされてバランスを崩したその時。
高架から落ちれば命はないその瞬間に、放り出される小さな体に、驚愕と犯人への殺意が同時に交差して。
一台の白バイが、素晴らしい運転技術で素早くそこへと回り込んだからだ。
蘭ちゃんがふわりと目を見開く。
確かにこの光景は「風の女神」と言うに相応しい。
白バイという大型バイクを繰りながら、これほどまでに軽やかに立ち回ってみせるのだから。
そのまま着地して停止する白バイに合わせて路肩によってブレーキを踏む。
目の前でヘルメットをとった姿に、降谷さんがしまった、という顔でステアリングの向こう側に顔を隠した。
というかその隠れ方で大丈夫か?小学生並みの隠れ方だが。
───そうか、ここは神奈川だったな。その可能性はあったが、どうしたものか
───あの白バイ隊員、お知り合いですか?
───萩のお姉さんだ。墓参りの時に会ったことがある。
───……それは、困ったことになりましたね。うっかり初手で本名で呼ばれようものなら大惨事ですよ
降谷さんは渋い顔で「ああ」と頷いた。
何にせよ彼女に本名で呼ばれる前に事情を察してもらうしかあるまい。
私たちは安全を確認してから、素早く車から出て千速さんの方へと駆け寄って行ったのであった。