バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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探偵、安室透の猫探し

 

 今日は探偵としての仕事の日だ。

 

 私たちが探偵業務をするにあたり、基本は人伝に依頼された仕事のみを請け負っている。

 例えば鈴木次郎吉氏から回される企業の信用調査や不正調査といったものや、ベルモットが仕事の延長線上で渡すターゲットの行方調査だったり。

 毛利探偵が忙しい時の補佐なんかもやっていたか。

 

 まぁ、基本はそうした信用のおける業務のみを行って変な犯罪絡みを引かないように注意している。

 

 変わり種だとメゾン木馬の家主の大家さんからの紹介で来た依頼人の夫の浮気調査を請け負ったこともあったが、こちらは例外だろう。

 

 さて。

 今回の依頼人は大家さんの息子君からの依頼だ。

 

 内容は同級生の行方不明になった猫ちゃんを探して欲しいと言うもの。

 今日の昼頃にチャイムが鳴り、泣いている短いツインテールの女の子と共に息子君がやってきたのだ。

 どうやら同じクラスの子供らしい。

 

 大泣きしていたので降谷さんがよしよしと撫でて宥めてやれば、涙ながらに詳細を話してくれた。

 

 といっても、「昨日の夜に家から逃げ出してから帰ってきてない」「黒い雌猫でとても人懐っこい」「ピンクのリボンをつけてる」ぐらいの情報ではあったが。

 

 私たちは居間に上げた子供達にジュースを渡してやりながら、うーんと唸って腕組みした。

 人見知りしないタイプのハロが子供達を大歓迎してアンアン鳴いている。

 降谷さんが難しい顔で私に視線をよこす。

 

───どうやって探す?

───うーん、子供より小さな気配、と言う意味では犬猫鳥あたりの気配探知はできますが…

 

 私の気配察知は案外優秀で、人間以外でも生命あるものならわりと察知は可能だ。

 流石にスズメや燕の察知は気配が小さ過ぎて無理だが、鳩でギリいけるか……?ぐらいの下限察知力である。

 

 上限に関しては動物園とかに行った感触からして、ゾウやキリンなどの大型動物は問題なく感知することができた。

 どうやら体重やら体積やらに比例して気配がデカく感じられるらしい。

 

───ひとまず虱潰しにサイズ感の合う気配を探してみましょう。かなり神経を集中させないといけませんので、肉体の操作はゼロに任せます

───任された。気配の位置の動きに合わせて監視カメラも設置するか

───そうですね。あまり遠くに行っていないと良いのですが……

───まだ居なくなってあまり時間が経っていないから、案外家の近辺で怯えている……と信じよう

 

 以前に猫探しは何回かやったが、見つけるまではいいものの、捕まえるのが相当苦労するんだよな。

 気配を消して近寄り、飛び掛かるで今のところなんとかなってはいるが。

 奴らは人間なんかよりずっと耳がいい。

 小石を踏んで物音を立ててしまい、逃げられるということが何度もあった。

 

 子供達はすっかり安心した様子で、畳の上に寝そべりながらゴロゴロ転げ回ったり談笑したりしている。

 その間に挟まる一匹のハロ。すっかり何年来の家族みたいな雰囲気である。

 

 降谷さんが出したオレンジジュースも気に入ってくれたようだ。

 ちなみに、このジュースはよく家に遊びに来る大家さんの息子君のために用意したものだったりする。

 私達の家に入り浸る息子君に大家さんは恐縮しきりらしく、よく親戚から送られてくると言う野菜をたくさん差し入れたりしてくれている。

 

 新鮮な直送野菜を食べられて私たちも満足、息子君も遊べて満足。

 つまりWin-Winということだ。

 

 

 さて、そこでちょうどスマホが呼び出し音を鳴らしたてた。

 どうやら電話のようだ。相手はベルモット。

 素早く私に変わり、子供達を横目で見張りながら電話に出る。

 

『Hiキティ。元気にしてるかしら』

「おや、ベルモット。何かご用ですか?」

『ええ。あなたに仕事を頼みたくて』

 

 こう言う仕事の頼みは比較的夜に来ることが多いのだが、今は朝。珍しいことこの上ない。

 昨晩ベルモットは仕事だったのかもしれない。

 声を静かに、意識を尖らせて聞き返す。

 

「急ぎですか?」

『いえ。小物の調査だから別にいつでもいいけれど、今月中がいいわね』

「それなら問題ありません。お受けしますので、内容をメールで送っておいてください」

『……何か用事でも詰まってたかしら。だったら無理しなくていいのよ?』

 

 ベルモットの声には気遣いが多分に含まれている。

 優しい人だ。こんなふうに相手の都合を考えてくれるなんて、この組織ではウォッカとこの人ぐらいのものだろう。

 

「たいしたことじゃありませんよ。今近所の子供達に猫探しを依頼されていまして。すぐ終わらせる予定ですからお気になさらず」

 

 そう言うと、一瞬でもきょとんとした様子でベルモットが黙った後、笑い袋でも押したように笑い出した。

 

『あっはははははは!あの組織の死神、ウルフドッグが子供に囲まれて猫探し!あーおかしい!』

「仕方ないでしょう、僕だって近所付き合いぐらいあります」

『むくれちゃったの?それはごめんなさいキティ。お友達の猫を探してるなんて良い子だわ』

「流石の僕も怒りますよ!もう!笑うのも良い加減にしてください!」

 

 ふふふ、とベルモットは生理的に滲んだ涙を拭ったのか、電話の向こうからゴソゴソとした音が聞こえてくる。

 実に上機嫌だ。

 

 内側では降谷さんがしきりに中指を立てたまま全キレの表情でシャドーボクシングをしている。

 落ち着け。

 いいかげんポプテピピックみたいなキレ方をするんじゃない。

 

「ともかく!猫探しを終わらせたら仕事に取り掛かりますから、詳細はきちんと送っておいてくださいよ!?」

『わかったわ、可愛いキティ。ふふ。どうか貴方は子供達を助けてあげて』

「はぁ……まったく、ベルモットは戯れが過ぎますよ」

 

 私は電話越しでもわかるように大きなため息をついた。

 それでも、私が本気で怒っているわけでも嫌がっているわけでもないことは彼女も理解しているのだろう。

 ベルモットは不二子さんほどでなくとも人の心に聡い女性だ。

 

 私との付き合いも、文字通りじゃれ合っているのだとよくよく分かっている。

 ベルモットが私との付き合いを好むのは、こうした気兼ねない距離感を常に保てるからと言うところも大きいはずだ。

 

 それでは、と軽く挨拶してから通話を切り、私たちは子供を連れて気合を入れ直し、猫探しへと取り掛かったのだった。

 

 

 

 

 というわけで。

 その猫探しは、結局依頼主の女の子の家に6台ほど監視カメラを仕掛け、2日かかって無事に確保することができた。

 生粋の家猫だった黒い雌猫の「クロミちゃん」は、すっかり怯えた様子で自宅の庭の倉庫の裏で発見された。

 

 傷付ききった「クロミちゃん」を抱き抱え、女の子は笑顔満面で家へと帰っていったのだった。

 

 お代は依頼主の女の子と家主の子供……杉浦君の二人がそれぞれくれた。

 

 女の子の方は小さな袋に入ったお手製のクッキーと、頭を下げにきた保護者からの高級和菓子の包み。

 おととい監視カメラを仕掛ける許可をもらいにご自宅を訪問した時に保護者の方とは顔合わせ済みだ。

 

 どうやら本職の探偵に手伝ってもらったとはつゆほども思っていなかったらしく、かなり焦った顔でぺこぺこと頭を下げられた。

 

 依頼料などを聞いてきたので、「僕が勝手にしたことですので、依頼料はいただけませんよ」と丁寧に断ったのも焦りを加速させたらしい。

 そりゃ探偵を二日間も拘束するとなると、普通に頼めば結構な金額になるからな。

 私は金に困っていないから別に良かったのだが、和菓子と共に金一封まで頂いてしまって。

 なかなかこちらとしても気が引けるものだ。

 

 杉浦君の方はといえば、感謝の印に光る包装紙をハサミで星型に切り抜いたものをくれた。

 

 家で見つけたいっとう綺麗だった紙を切ったものとのこと。

 キラキラして綺麗で、彼の宝物らしい。

 今日日記帳に貼り付けるつもりだったが、私にくれるようだ。

 

 うーん可愛いかよ。

 降谷さんも「こういうのでいいんだよ、こういうので」という顔で深く頷いていた。

 一人飯してそうなおっさんの発言である。

 

 

 

 そんなわけで、良いことをしたその日も満足のうちに過ぎていく。

 

 今日は珍しく深層心理の別室じゃなくて居間で二人で布団を敷いて寝ようか、という話になり、私たちはそれぞれ布団を抱えて居間へと集合する。

 

 というのも、居間で深層心理内に記録した映画を一緒に見ながら寝ようと思い立ったからだ。

 以前、深層心理に動画が記録できるか実験のために借りたDVDだ。

 記録のためになかなか頑張って見たから内容は一から十まで全て把握しているが、それはそれ。

 映画を見ながら寝るというイベント感がいいことなのだ。

 

 布団を敷くと、どうにも修学旅行感が拭えず二人して笑い合う。

 

 2段ベッドだったら警察学校風だったな、と思ったらどうやら降谷さんも同じことを考えていたらしい。

 

───お前が生まれたのがもっと前だったら面白かったかもしれないな。ほら、伊達や松田達と警察学校で過ごしていたら、あいつらはどうお前を扱っていたのかな?

───話を聞く限り相当な問題児だったみたいですし、僕の胃がもちませんよ

───お前はお前で相当な問題児だからな。鬼塚教官が胃に穴をあけていたかもしれない…

 

 想像したらしく、降谷さんがくつくつと笑いを漏らした。

 私が問題児ってなんやねん。私ほどの優良児は他におらへんで。

 

───ちょうどいい。せっかくここは心の内、想像力がものを言う世界なんだ。ここのデザインもいっとき変えて寮風にするか!

───いいですね!でもデザインは覚えてますか?警察学校にいたの、結構前ですよね?

───もちろん。ここがこんなふうに……

 

 がらりと景色が変わる。

 狭いボロ部屋に2段ベッド三つを出現させた降谷さんが、そのまま軽快にととと、と梯子を登って。

 

 うっかり足を踏み外して。

 お互い「あっ」という顔をして。

 

 下にいた私ともつれあうように転がって。

 

 床が迫り。

 驚愕に目を見開き。

 

 

 そうして、視界が暗転した。

 




次回、「夢のまにまに:警察学校編」。
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