バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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少し不思議な話。
ではなく、ただの夢の話。


夢のまにまに:警察学校編(導入)

 

 パッと目を覚ました時、もうすでに時刻は朝6時半ごろとなっていた。

 

 降谷さんが表に出ていて、朝の支度をしているようだ。

 狭くてややぼろっちい部屋で、上着を脱いで学校の体操着のような所属ゼッケン付きの服を着ている。

 

 ぱちくり、と瞬いて。私は大量の疑問符を浮かべた。

 

 何処だここ???

 と言うか私は落ちた降谷さんとぶつかってから、朝まで気を失っていたのか?

 ひとまず先に起きた降谷さんに聞いてみよう、ということでいつも通りに声をかける。

 

───ゼロ、ゼロ、いったい夜中に何があったんですか!?あれから僕が気絶している間に何が…

 

 「うん?」と降谷さんがキョロキョロと辺りを見回して、周囲に誰もいないのを確認して首を傾げた。

 周囲には同じようなゼッケン付きの体操服に身を包んだ男性が4人ほど。

 誰もがこんな朝早くだと言うのにきっちりと着替え終えて、ベッドを整えている。

 

「ヒロ、呼んだか?」

「呼んでないけど……」

 

 そのうちの一人、諸伏景光が降谷さんの言葉に答えて首を振った。

 元から幼い印象の人だが、なんだか殊更幼く見える。

 ……なんだ?というかどうしてここに景光さんもいるんだ?

 

 そもそも、どうして降谷さんは私の声がわからないんだ!?

 

───ゼロ、僕です!安室です!聞こえないんですか!?それよりどうしてヒロがここに…

「!?!?ッ誰だ!!」

 

 私の声を聞いたらしい降谷さんが、バッと持っていた手鏡を放り出して声の方角を探している。

 これには同室の人もびっくりしたらしく、ざわついて降谷さんから距離を取った。

 景光さんは思わず駆け寄って降谷さんの肩に手をかける。

 

「どうしたんだゼロ!?」

───ッ声を押さえて!心で会話するようにすれば僕には聞こえますから!

「おまえ、誰だよ……!」

 

 青ざめた降谷さんから伝わる感情は恐怖と困惑。

 ずるずると腰を抜かすように床に座った降谷さんを、ますます心配の色を強くした景光さんが助け起こす。

 

 どうしたんだ本当に、まさか私のことを忘れてしまったのか!?

 思い至った可能性に恐怖が込み上げ、私は思わず降谷さんに釣られたように言葉をなくしてしまう。

 

 しばらくの沈黙の後。

 未だ青白い顔のまま、か細い声で囁くように降谷さんは己の認識を口にした。

 

「頭の中から…声がするんだ……」

「………。えっ、ど、ういうことだよゼロ」

「俺にも分からないんだ!誰か知らない声が俺を呼んでて…」

 

 すっかり血の気が引いている。そして言葉は要領を得ない。

 どんなに予想外なことが起きたとして、本来の降谷さんならここまで取り乱すことはないはずだ。

 いよいよもって私は異常事態に困惑するしかない。

 

 もう何らかの時間が迫っているらしく、若干心配そうな同室の四人が、「俺たちは先行くから」と言って足早に部屋を後にする。

 残るのは怯えたのかわずかに震えすら見せる降谷さんと、それを介抱する景光さんのみ。

 

「ど、どういうことなんだゼロ、呼んでるって何が…」

「言葉通りなんだ。頭の中で、知らない声が喋ってるように聞こえるんだ。お前には聞こえないのか?」

「!?!?っ俺には、何も。何か昨日頭でも打ったのか!?」

「わからない。心当たりがないんだ」

 

 心底困り果てたように首を振る景光さんだが、降谷さんは話を聞いてもらって少しばかり落ち着いたようだ。

 降谷さんが深呼吸して口を一文字に引き結んでいる。

 

 私はもう一度、そろりと慎重に降谷さんに声をかけた。

 

───ゼロ、会話はできますか?

「……できる。お前は、確か安室とかって名乗ってたよな」

───ええ。僕は貴方のもう一つの人格、のはずですが、ちょっと僕も事情がよくわかっておらず。たぶん、としか言えないのです

「っ、そうか」

 

 一人で会話し出した降谷さんに、景光さんは瞳を揺らして息を呑んだ。

 

 というかそもそもここは何処なんだ。何かの施設っぽいが。

 もしかして、あれから思いがけず長い間眠ってしまった?

 だがそれにしては降谷さんの様子が若々しい。若すぎる、と言ってもいい。

 

 降谷さんは耳を両手で押さえ、まるで騒音を堪えるような表情をした。

 

「それにしても、もう一つの人格?乖離性同一性障害とでも言いたいのか?この僕が?」

───信じられないかもしれませんが、実際に僕たちは体を同じくする人格です

 

 信じられない、とでも言いたげな様子に流石の私も少々傷付いた。

 これを信じさせるには、手っ取り早くただの幻聴だと思われないよう肉体の操作権を変わるしかあるまい。

 

───証拠に、少し失礼します

「!なにを、」

 

 漫然と表に浮いている、と言った様子の降谷さんの手を引いて内側へと引っ張り込み、代わりに私が表へと素早く浮上した。

 

 振り返れば、眼下にはやけに殺風景な深層心理が広がっている。

 立派な武家屋敷があったはずのそこは、ただ何処までも真っ白な空間が広がっているのみだ。

 ますます意味がわからない。初期化でもされたのか?

 

 こくん、と俯いた肉体に驚いたのか、景光さんが私を覗き込んで肩を揺すった。

 

「ゼロ?」

「───ヒロ。貴方も何か用事があるんでしょう。先に行っていてください。僕は主人格と共に病欠の連絡を入れます」

「ッ!?!?ゼロ、なのか……?」

 

 恐れを含んだ声色だ。

 というか、景光さんも私を覚えていないとはますますもって異常事態だ。

 私は極力冷静であろうと努めて声を平坦にし、景光さんの問いに答えた。

 

「はい。現在、原因不明ではありますが乖離性同一性障害を発症している状態です。まだ主人格よりも僕の方が事情を把握していましたので、主人格の代わりに表に出ています」

「そんなの、余計にこの場を離れるのは無理だ!お前を置いて行けるわけないだろ!」

「……なら付いて来ていただけますか。僕はこの場所の知識に疎い」

 

 そう言って立ち上がった瞬間、激しい吐き気が私を襲った。

 うえっぷ!?!?

 見れば、内側で降谷さんが大暴れして出ようとしているらしく、ぐらんぐらんと深層心理が揺れていた。

 

───何なんだ!どこなんだここは!?っくそ、出せ!

 

 落ち着いてくれ!?

 出して欲しければ普通にこっち上がって来てくれれば…いや、それもやり方がわからないのか。

 目を瞑り、とぷんと沈み込んで降谷さんを掴む。

 

 暴れていた彼と目が合い、そのまま降谷さんの目が見開かれる。

 

 深層心理で顔を合わせるのは、全く同一の、降谷零の顔である。

 その鏡写しと言える姿を恐れたのか、降谷さんが半身を引いて私の手を振り払った。

 

───お前……!

───水面から顔を出して、そのまま意識を外に伸ばすようにするんです。大きく息を吸って

 

 猜疑の視線が私を捉える。

 ああ、そんな目で私を見ないでくれ。やめてくれ、見捨てないでくれ。

 

───外に、息を…だと?

───そう。ゆっくり、息を吸って。……視界は戻りましたか?

───っ、ああ

───これは目を覚ます感覚に似ています。こちらに戻る時は眠りに落ちるように力を抜けばいい

 

 無事、表に上がれたようだ。

 緊張とショックにわずかに息を荒らげる私に気付くことなく、降谷さんは肉体の操作権を握り直して立ち上がった。

 

 「ゼロ?」と景光さんが心配そうに声をかける。

 

「……悪い。一瞬落ちてた。お前達の声は聞こえてたから大丈夫。今鬼塚教官はグラウンドにいるはずだよな」

「だと思う。立てるか?」

「問題ない」

 

 歩き出して、降谷さんは景光さんを置いてズンズンと廊下へと出た。

 用事があったとして、完璧に遅刻になってしまったらしい。

 建物の外に出てそのまま隣にある広いグラウンドに出れば、降谷さんを出迎えたのは怒号であった。

 

「おい降谷!いったいどうしたんだ!」

「すみません、体調が極めて悪いので一時間ほど病欠させてください。それと、諸伏景光は僕を心配して付き添ってくれていただけなので。お咎めは容赦してください」

「……そうか。あまり無理をするなよ。授業は体調が回復したらでいい」

 

 この事態に流石に顔面蒼白な降谷さんに、鬼塚教官とやらもそれが嘘ではないと判断したらしい。

 

 特に何も聞かずに「部屋に戻っていろ」と指示してくれた。

 心配そうな景光さんの視線を背後に感じながら、降谷さんは部屋へと戻っていく。

 その歩く姿に余裕はない。

 そのまま病院に行って然るべき事態なのに、何を言うでもなく部屋へ戻ってベッドに横になり、降谷さんは天井を見つめながら目を閉じた。

 

「僕の人格が分裂しただと?そんな馬鹿な…理由に心当たりはないのか?」

───僕の方はありません。正直僕も何が何だか。主人格の方は何か体に不調はありませんか?

「無い。なにも」

 

 事ここに至れば、私もここが何処だか思い当たるものがあった。

 

 これは降谷さんの警察学校時代だ。

 鬼塚教官とはその頃の降谷さんの教官だったはずだし、この学校のような場所はそのものズバリ、警察学校の寮なのだろう。

 

 ああ、何だか曖昧な霧のかかったような感覚が拭いきれない。

 

 短い問答を交わしてからは、降谷さんは黙ったっきり何も言わなくなってしまった。

 

 私は真っ白で殺風景な深層心理に立ち尽くしたまま、頭を振って眉を顰める。

 夢か現か、それとも他の何かか。

 あの時降谷さんと強かに頭を打ちつけ、そのまま記憶が混線したとかどうだろう。

 タイムスリップなんて荒唐無稽な話よりも信憑性が高いのではなかろうか。

 

 いやまあ、ファンタジーさで言えばどっこいどっこいではあるんだが。

 

 例えば、私は四年前のあの日から、今を含めて長い長い夢を見ていただけで。

 次に目を覚ませば孤独に組織の仕事をこなすだけの日々に戻るのではないかと。

 

 そのように……他愛もないことを考えてしまう。

 

 私は努めて明るい声で、黙りこくる降谷さんに話しかけた。

 

「なんにせよ。これからよろしくお願いしますね、ゼロ」

「………」

 

 降谷さんは黙ったまま。

 

 伸ばした手は受け入れられず、そのまま何を掴むこともないままに下ろされたのだった。

 




・若き降谷さん
自分が二重人格になるなんて信じられない、という気持ちがでかいだけでバボ主を拒絶する意図はない……ような、そうでもないような。
何にせよ動揺している。
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