バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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夢のまにまに:警察学校編(友情の始まり)

 

 しばらくは緊張した猫のように警戒していた降谷さんだった。

 私が話しかけても一言二言相槌を打つだけ。

 

 しかし、だんだん心の中で返事をすることにも慣れて来て周囲から変な目で見られることも無くなった。

 

 間違えて純粋な思考が漏れてしまうことが割とあるのが玉に瑕だが、「どうせ聞いているのも自分」と気にしていないようだ。

 そこは気にしてくれ。

 

───ゼロ、体が盾の重さに取られてますよ

───ッ分かってる!……右に出して構えて前、右に出して構えて前、右に…

───思考が漏れてますよ

───だから分かってる!!

 

 今回は盾の構え方や扱い方を学ぶ授業だ。

 一人一人頑丈そうなグレーの盾を渡されて、それを押し出したり隊列を組んだりと動く訓練を積むことになる。

 

 やはりまだこの時期の降谷さんは筋力量も無いらしく、盾の重さに体を取られてふらつくことが多かった。

 こればっかりは日々鍛錬のみだ。

 体に引きつけるにしても基礎筋力がなければ仕方ないからな。

 

 いかに原作時点での降谷さんが毎日すごく筋トレを積んでいるかということがわかる。

 やはり日々の降谷さんの努力が私を支えているということなのだろう。

 

 じれて来た降谷さんが汗を拭い、むすっとした調子で私を睨みつけた。

 

───これは僕の鍛錬なんだ。邪魔をしないでくれ。構えて前、構えて前、構えて前、構えて

───失礼しました……でも普通にバカうるさいです

───我慢しろ!!!

 

 思考がダダ漏れって想像の100倍うるさいな。

 一人でこれなのだから、テレパシー持ちの超能力者とか居たら、常に土日のフードコートにいるみたいな気持ちにならないか?

 

 などとチベットスナギツネみたいな顔で降谷さんを見ていれば、降谷さんは憤慨してしまったらしくそのまま無言で盾の訓練に戻ってしまった。

 表向き無言でも心の声はダダ漏れ。

 「うるさいとは何だ!」「盾を構えて…」「この盾やっぱ重いな」「前に。盾を前に」などとカオスな館内放送が深層心理に響き渡っている。

 

 うおおおお誰か何とかしてくれ!!!

 

 

 などと、多少のトラブルはあったものの。

 警察学校の日常はゆっくりと過ぎていく。

 

 朝起きたら朝食や清掃を終えてからは朝礼があって、そのあとが授業だ。

 法令の勉強や柔道や剣道などは、受けていると学生に戻ったみたいな気持ちになってわくわくする。

 

 すべての授業が終われば自主活動と呼ばれる時間になり、これは自主トレと自主勉のために用意されているらしい。

 そのあとは清掃、点呼、ミーティングが終わったら1日が終わる。

 

 今日も一日、学生生活のようにわちゃわちゃと詰め込んだ授業が終わる。

 はずだった……のだが。

 

 夜。

 23時を過ぎてすでに寝るはずの時間だ。

 そこで寮の裏に集まったのは、私たちと同班の仲間、松田陣平だ。

 

 松田陣平は小馬鹿にしたような表情で鼻で笑い、口を開く。

 

「よく来たな、怖気付くんじゃないかとヒヤヒヤしてたんだ」

「まさか。せっかくのお誘いなんだ。断れば傷付くのは自分のプライドだろう?」

「はっ、違いねェ」

 

 つい先ほど、自主活動の時間に喧嘩のお誘いを受けたのだが。

 それを快く受け入れて呼び出しに応じる降谷さんも降谷さんだ。

 

 もしお互い怪我をしたら教官に不審がられて、評価にどんな傷がつくか分かったものでは無い。

 仕方ないな、と私は降谷さんへと口を出した。

 

───僕が出ます。翌日怪我をして教官に不審がられてもなんですので

───僕が弱いとでも言いたいのか

───ええ。少なくとも僕よりは

 

 私の言葉に降谷さんもむっとしたらしい。

 しかし私の言にプライドも刺激されたのか。

 「じゃあ見せてもらおうじゃないか、お前の実力とやらを」

 と言ってせせら笑って腕を組んだ。

 どうでもいいけど、どうして言い回しがやけに宇宙世紀なんだ。

 

 というか、この頃の降谷さんって一人称僕なんだな。

 地味に私の記憶だと警察学校編って噂でしか知らないから、初知りの気持ちである。

 

 表に出て、そのまま腕を軽く回して僅かな準備運動とする。

 

 そこで気がついたのだが、鍛えてはいるんだろうが、筋力が足りないようだ。

 柔軟性も足りないから動くときに筋を痛めないように注意しないと。

 

 「……ん?」と、僅かな空気の違いから違和感を覚えたのか、松田さんが訝しげな顔をした。

 私は降谷さんのふりをして、目を細めて拳をこれみよがしに握ってみせた。

 

「来い、軽く揉んでやろう」

「はっ。ほざけよパツキン野郎!」

 

 戦闘開始だ。

 

 放たれた鋭いジャブを逸らしてごくごく軽い拳を一発。

 これは防がせるのが目的の、力が入らないから威力もそこまでない一撃だ。

 お互い怪我は最小限である必要があるので、ちょうどいいだろう。

 

 私の一撃を腕をクロスして防いだ松田さんが、驚愕に目を見開いた。

 それでも彼我の差に納得しないのは、未熟さというより若さに違いない。

 

「っいい子ちゃんのくせしてやるじゃねぇか!」

「降参してくれると嬉しいんだが。翌日教官に詰められたら事だからな」

「断る!この程度で勝った気かよ、クソッタレ!」

「それは残念だ」

 

 なら仕方ない。

 心苦しいが、立てなくなるまでボコすのみ。

 

 素早く距離を詰めて腹に拳を叩き込む。

 やはり威力が軽かったのか、「ガハッ…」と苦悶の声を上げたものの、腹筋を固めた松田さんを気絶させるには足りなかった。

 いや、気絶させると後が面倒だから、動けない程度にしなければならない。

 面倒なことだ。

 

 間髪入れず胴体に蹴りを入れようとすれば、カウンターを狙うように私の顔面を狙って拳を放って来た。

 それは読んでいたので、蹴りの方向を修正して腕を狙う。

 勿論、腕が折れないようにしっかりと威力は手加減してある。

 

 ここまで気を使って威力を加減したのは久しぶりかもしれない。

 手加減は苦手だから、松田さんを怪我させないかヒヤヒヤしっぱなしだ。

 

 ちなみに、松田さんもそこまで弱いわけではない。

 基礎はきっちり学んでいるし、なによりかなり喧嘩慣れもしているからな。

 普通にやれば降谷さんと互角だったことだろう。

 

 内側では降谷さんは唖然として瞬いた。

 

───何だお前、どうして僕なのに僕より強いんだ…

───得意不得意は誰にでもありますから。僕安室透という人格は暴力に適性があった、というだけです。その代わり勉強がちょっと…いやだいぶあなたより不得意なんですよね…

───なんだそれ

 

 降谷さんの凄まじい記憶力を思い出した私が渋い顔をすれば、くすりと降谷さんが笑いを漏らした。

 

 ようやっと彼が笑ってくれて、私は心の底から安堵する。

 これからも見捨てられないように気合いを入れ直さねばなるまい。

 

 よろよろと立ち上がる松田さんはもう相当キていそうだが、それでも立ち上がるのは有り余る気力ゆえか。

 バレやすい顔面は避けて服で隠すことのできる場所ばかりを狙っていたのだが、それが分かっているらしく冗談めいた口調で唾を吐いた。

 

「DVかよ。女々しい心配しやがって」

「お互いバレたら困るだろうに。夜出歩いたことも、もしバレたら班ごと連帯責任だ」

「関係ねぇな。テメェもいい加減本気でかかってこいよ」

「関係ない、とはまた…」

 

 流石に景光さんに迷惑をかけるわけにはいかないからな。

 伊達さんや面識はないものの萩原さんも、これで余計に走らされたら貧乏くじに違いない。

 まったく、この自己中め。

 

 瞬間、爆発的な勢いで松田さんが私の方へと踏み込んで、その勢いのままに拳を放って来た。

 最後の一発をかけた行動だろう。

 

 だが残念。この程度で負けるほど、組織において暴力という暴力を重ねて来た私は甘く無い。

 

 しかし、こうして戦闘中となると肉体の練度の低さが体の重さとなって私に跳ね返ってくる。

 重い体に鞭打ってなんとか避けて、そのまま脇腹に重い一撃をヒットさせる。

 

 「がっ……」と松田さんが震えて、ずるずると地面に転がった。

 動けはしないようだが、まだ意識はあるようだ。

 

 うーん、今のこのスペックだと蹴撃の貴公子、京極真には負けてしまいそうだ。

 いや京極さんが鬼強すぎるというのが百理ある説なのだが。

 何なんだあの高校生。おかしすぎるだろ。

 

「じゃあ、君は動けるようになったら自分で部屋に帰ってくれ。僕は寮に戻る」

「待ち、やがれ…!」

「もう少し強くなって出直すといい。拳の勢いはいいが、直線的すぎるからな。あまりに読みやすい」

「く、っそ……!!!」

 

 どうよ降谷さん、私は使えるだろ。

 などと得意になってなって内側の降谷さんを見れば。

 内側で教科書の写しを広げ、降谷さんはさっさと自主学習の時間としていた。

 

───見てなかったんですか!?僕頑張ったんですけど!!!

───いや、僕の別人格が近接戦を得意とするなら、僕の方は勉学の方に集中できるなと思って

───割り切りが良すぎる!!!

 

 深層心理ではイメージがものを言うから、中に物を具現化できるのだと教えたのが間違いだったか。

 自習室を模した空間を作り、降谷さんは黙々と勉学に励んでいた。

 

 昨日はあんなに拒絶感出してたじゃん!?そんなことある!?

 私が目を見張れば、降谷さんはこちらを見て、相変わらずむすっとした表情で口を開いた。

 

───君も僕なんだろう?なら、実質的には今までと変わりないわけだ

───おおらか過ぎません?

───僕が僕に口答えするな

───サーイエッサー

 

 暴君気質は昔かららしい。私はビシッと敬礼した。

 ふん、と降谷さんが目を細めて表情を緩める。

 

 部屋に帰る道中は消灯されていて暗い。

 私達の足音ばかりが響いていた。

 

───よろしく、僕のもう一つの人格。せいぜい僕の役に立って見せろ

───ええ。よろしく頼みます。僕はこれでもやりますよ。よく見ていてくださいね

───期待している

 

 そう言って、降谷さんと私はようやっと握手を交わしたのだった。

 




・若き降谷さん
乖離性同一性障害ということで自分の弱さに困惑していたところ、バボ主が物理的に強くて「ふーんならいっか(?)」となった単純な若者。
何も良くない。

・バボ主
テンション爆上がり。降谷さんが握手してくれたやったー!
嬉し過ぎてここが何なのかとか色々追求を忘れてる単純な転生者。
やったーではない。
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