バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
翌朝、かなりムッツリとした松田さんが腹を庇うような微妙な動きでグラウンドに姿を現した。
日直点呼でも降谷さんに突っかかっていたし、やっぱり思うところがあるのだろう。
なお、朝一番に降谷さんを呼んでいわく「よぉ、パツキンゴリラ」とのこと。
これには一言で降谷さんもブチギレ、またしても殴り合いに発展しかけた。
しかしこの戦争状態も長くは続かず。
午前中の射撃訓練で見事なコンビネーションを見せた警察学校組に、絆が順調に深まっていたようだった。
射撃訓練では担当の鬼塚教官がちょっとしたトラブルに見舞われたのだが、その辺については割愛する。
所詮私は見ているだけだったからな。
やっぱり私の性能はピーキー極まりないのだ。
おそらく、大抵の場合降谷さんの方が上手くことを運べることだろう。
特に拳銃の扱いなんて、私はセンス無いにもほどがある状態だ。
あの次元大介がため息と共に去っていくと説明すれば、私のセンスの無さが理解できるだろうか。
さて。
そんな大事件があっての夜。
自主活動の時間に自習をサボって寝ている松田さんの元に降谷さんは足を運んでいた。
どうも、昼間有った事件について、私達に下る沙汰を伝えに来たらしい。
警察学校生が勝手に拳銃を発砲するなんて、本来なら退職ものの大惨事だ。
しかしそれが人命救助のためだったこと。その被害者が担当教官で、直々に嘆願があったこと。
それらによって降谷さんと松田さんはお咎めなしということになったらしい。
軽く降谷さんが説明して聞けば、松田さんはくだらない事でも聞いているかのように「ふーん」とだけ返事をした。
降谷さんが二言、三言と会話を交わしていく。
ポツポツとした会話は次第に滑らかに、親しげに変化していく。
やはり戦友というものはいいものだ。
彼らはついには笑い合い、完全に仲が満たされたのを感じる。
松田さんが起き上がり、ずいっと降谷さんの顔を覗き込んだ。
降谷さんがやや怯んでのけぞる。
「……ところで、あん時俺とやり合ったのは本当にテメェか?」
「どう言う意味かな」
片眉を上げ、松田さんはジロジロと降谷さんを見分している。
「印象が違ぇ。あんな得体の知れない雰囲気じゃねぇだろ、テメェ。意外と単純だしよ」
「単純とは失敬だな。あれも結局は僕だよ。僕自身、よく理解しているわけじゃないが」
言葉と共にとぷんと半分だけ体を沈ませた降谷さんが、ちょいちょいと私を手招きする。
───代わるぞ、せーので息を合わせてお前が表に出ろ
───わかりました。松田陣平に僕の存在を伝えるんですね?
───ああ。コイツなら信頼できる
まだ知り合って間もないだろうに、同じトラブルを乗り越えた仲というのはかくも強いものなのか。
……しかし。
入れ替わるのにこんなふうに改めて息を合わせるなんて初めてのことだ。
私は気付けば阿吽の呼吸で、いつも降谷さんと入れ替わっていた。
そこにわずかな寂しさと、現在への不安が去来する。
降谷さんと息を合わせて急浮上。
肉体の操作権を握り、私は松田さんににっこりと微笑んだ。
目の前に立つ松田さんは、私の気配の違いに困惑したようだった。
「昨日の夜ぶりですね、僕があの時殴り合った、降谷零の別人格です」
「………、…………はぁ!?」
思いっきり溜めたあと、松田さんは大袈裟にのけぞった。
いや予想ついてたんじゃないのかよ。
双子の兄弟が入れ替わっていたとでも思っていたのか?
パチクリと瞬いて、松田さんが恐る恐る口を開く。
「それってアリなのか?」
「まぁ、特に生活に不自由はないのでありだとは思ってはいますけど。肉体を同一にする兄弟のようなものです」
「そうか……いややっぱそれってアリなのか???」
混乱しているようだ。そりゃそうだ。
降谷さんとふたたびバトンタッチすると、うまく浮上できなかったのか一瞬ふらっと体が傾く。
やはり息が微妙に合わないらしい。
これは交代する時は気をつけねばなるまい。
「……伝えるべきことは伝えた。お前も教官に見つかる前にずらかれよ」
「へーへー。ま、そう言うことなら分かった。馬鹿強ぇ人格持ちってのは予想もしてなかったが…」
ふっと微笑み合い、二人は拳を突き合わせた。
しばらくの沈黙ののち、降谷さんはくるりと踵を返し、階段の方へと戻っていく。
うーん友情友情、やはり青春はいい物だ。
そうして。
来る日も来る日も、警察学校での日々は過ぎていく。
いつまで経ってもこの夢は終わらない。
降谷さんの過去を知るにつれて、私の中の魂が馴染んでいくのを感じる。
降谷零という存在への認識が高まるにつれ、肉体を動かす際の僅かな齟齬のようなものが解消されていくのだ。
逆に私の感覚も降谷さんに逆流したのか、入れ替わりのタイミングなどもどんどんとうまくなった。
ここは何なのだろうか、私は現実に戻れるのだろうか。
降谷さんは今頃どうしているのだろうか。
窓から見上げる外は現実味がないほどに青い。
限られた空間内でしかない警察学校から出れない今、外がどうなっているのか確かめようもない。
これはきっと長い長い夢なのだろうが、やはり。
少しばかりの郷愁は、感じざるを得ないのである。
その頃。
降谷零は走っていた。
ぐっしょりと雨に濡れて、跳ねた泥がズボンの裾に染み込んで。
荒い息のまま、命懸けで奪取したデータの入ったUSBメモリを握りしめ、降谷零はただ走り隠れ、息を潜めていた。
視界の端ではうろうろと拳銃持ったままのチンピラらしき姿が見える。
敵対組織の下っ端だ。
降谷が行ったデータ奪取が気付かれて、降谷の後を追ってきたのだ。
───くそ、しつこい連中だ!
こんな敵、いつもであればとっくに制圧できていた。
もう一つの人格、安室に代わって適当に処分すればいい。
相棒、安室透にとってみれば、相手が銃を持っていようがそんな事かけらも関係がない。
銃弾を弾き、相手を制圧するのに3秒もいらないだろう。
───っ安室!目を覚ませ!安室!
周囲に意識を配りながら必死で安室へと呼びかける。
何もない空っぽの深層心理にて、安室透は目を閉じたまま深い眠りについているかのように動かない。
そのままなんとかセーフティハウスにネズミのように逃げ込んで、息を殺しただ立ち尽くすことのなんと惨めなことか。
ここ数日、必死で集めた新聞は床に散らばったままだ。
どれもこれも覚えている記憶より5年も前。
降谷零は濡れた体をそのままに部屋の隅に座り込んで、ただ俯いて唇を噛んだ。
ここは5年前の夏。
降谷が初めて人を殺し、眠りに落ちた日の延長線上。
あの日捨て去ったはずの、相棒に押し付けたはずの苦難が今。
降谷へと襲いかかっていた。
次はたぶん「夢のまにまに:バーボン編」ですね。