バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
今夜は警察学校のメンツでの合コン日だ。
そんなチャラチャラした企画を隠れてしていたとバレたら、教官からは大目玉だろう。
企画者の代表、萩原研二が髪をかき上げて魅力的に微笑んだ。
「で、わかるー?降谷ちゃんもさぁ、大学時代は結構モテてたわけじゃん?」
「それは語弊がある。僕は結構奥手な方だぞ?」
「またまたぁ!」
萩原さんは何故か私を巻き込んで女子たちとわぁキャアと騒いでいる。
どうも私が話せるクチであると気づいたらしい。
若くしてかなりのコミュニケーション能力のある萩原さんのことだ。
どうすれば人を惹きつけられるかが分かっていて、それでいて立てることができるかを理解しているのだろう。
私を巻き込めばより場の空気感を調整してもらえると踏んで、わざと露骨に話を振っているのだ。
まさに天性のナンパ師だ。
しかも、それでいて駆け引きにも覚えがあるのだから凄まじい。
私は仲良くなることにかけては彼よりも上な自信があるが、駆け引きにはあまり適性がないんだよな。
彼の駆け引きのうまさには見習うところが山ほどある。
私が慎重にその話術を観察していることに気づいたのか、萩原さんはこっそりと私にウィンクを返した。
どうも、彼も私のコミュ力の程度を見たくて観察していたらしい。
「しっかし、降谷ちゃんがそんなに話せるとは思ってなかったわー。てっきり女の子嫌いなタチかと思ってたのに」
「まぁ、あながち間違ってもいないが。時と場は弁える方だよ」
「なーるほど。流石、文武両道のトップエースは合コンの場でもエースだったわけだ」
萩原さんはさらりと息をするように褒めちぎり、それでいて自然体であった。
リップサービスなしの本音だとわかるのもすごいところだ。
道理でモテるわけだ。
女の子たちにも一人一人隙あらば褒めちぎっていたし、人のいいところ探しの天才と言えるだろう。
まあ、合コンのエースは割と悪名じゃねぇかと思う私なのだが。
なお、降谷さんは内側でせっせと内職の勉強をしている。
教科書のコピーを開いてノートに書き写しているあたり、根っからの生真面目さんだ。
別にこの深層心理への教科書コピーの機能があれば、テストでもカンニングし放題だというのに。
実力で覚えてやろうとしているのだから凄まじい。
下へ降りて、降谷さんの勉強姿をジロジロと観察すれば、「なんだよ」と不機嫌そうに睨め付けられた。
───いいんですか、仲間と楽しまなくても
───お前は普段内側にいるんだから、こういう時に楽しまなくてどうするんだよ。それに
───それに?
───女性が苦手だなんて、知られたくないだろ。せっかくお前がいるのに
ようは強がり、ということらしい。
私を心配しているのは本当なのだが、同時に仲間にいいところを見せたいというのも本当のようだ。
───なるほど。なら精一杯女子をたぶらかせて見せましょう
───ほどほどにしておけよ。ストーカーにでもなられたら事だ
───その辺の空気感の調整をミスる僕ではありませんよ
───ならいい
ほへぇ、と感心しきりの様子の松田さん、伊達さん、景光さんの3人トリオが目に入り、降谷さんは殊更満足そうに頷いた。
嬉しそうでなによりである。
まぁそんなわけで。
その後二次会がてらカラオケに寄ってみんなで楽しんでから、私たちは寮へと帰ってきたのであった。
帰り道、それぞれの部屋へと帰っていった私たちはすでにほとんどが解散している。
ここにはもう、私達と同室である景光さんしかいない。
部屋の寮の廊下にて、今までずっと黙っていた景光さんが、思い切ったように口を開いた。
「なぁ、お前本当にゼロなのか?」
降谷さんが返事代わりに首を傾げた。
景光さんの心配まみれの顔は降谷さんのことを思っているのが丸わかりで、なんとなくほっこりした気持ちになる。
景光さんが視線を下げた後、慎重に言葉を紡ぐ。
「だって、ゼロがあんな流暢に嫌そうな顔もせず女の子と喋ってるの初めて見たし、自分第一主義のゼロがおべっかなんて使ってるし、なにより!」
「なにより?」
ずいと顔を近づけて、景光さんが小さな声で叫ぶという器用なことをした。
「ゼロは日本の曲以外歌わない!!!」
ちょっ待ってブフゥ!!!
確定的に明らかみたいな様子で断定した景光さんに、私は内心で思いっきり吹き出した。
降谷さんも「それはそう」みたいな顔で深く頷かない!!
「よくわかったな、ヒロ。まぁ結局のところ僕は僕なんだが、少しばかり事情があってな」
「事情?」
「───つまり、少しばかり精神に不調をきたして少々人格が分裂しているという意味ですけど」
「…………うん?」
素早く入れ替わって、私が代わりに事情を説明する。
ぱちくり、と瞬いて、もう一度降谷さんの顔を確認した。
「うん?????」
「ですから、僕らはいま二重人格ということで───ヒロ、何だその顔は。文句でもあるのか───凄まない。そりゃいくらヒロでも驚くぐらいするでしょう」
なぜかご不満な様子のゼロが、内心で腕を組んでぶっすりとしている。
どうやら自分の弱さを指摘されたようで不愉快らしい。
宇宙猫になったまま戻ってこない景光さんの前で、わざと私たちはわかりやすいように口にだして会話をしている。
それでようやく事情を正しく把握したのか、表情を心配に切り替えて景光さんが私たちの肩を掴んだ。
「だ、大丈夫なのかゼロ!?それって、何かそんな大変なことがあったのか!?」
「───僕もわからない。だが日常生活に問題はないから、ヒロもそう心配するな。それどころか前より便利なくらいだ」
「寝坊しそうになるともう一人の僕が起こしてくれるしな」と冗談めかして降谷さんが笑う。
実際には降谷さんは寝坊したことなどないんだがな。
寝坊する私をガミガミ怒って「僕のくせに弛みすぎだ!」と私の布団を引っぺがしてくるぐらいだ。
これも景光さんを心配させまいとする降谷さんの気遣いなのだろう。
「でも、」
「くだらないことで警察として踏み出した一歩を台無しにしたくない。わかってくれ、ヒロ」
「………わかった」
景光さんは色々なものを飲みこんだ顔で口を一文字に引き結んだ。
言いたいことはたくさんあるだろうに、降谷さんのプライドを尊重してのことだ。
「…何かあったらすぐに知らせてくれ。必ず力になるから」
「ああ。約束するよ」
何があってもきっと景光さんには伝えないのであろう、そんな嘘に塗れた返事だった。
しかし、そこに確かな友情が滲んでいるのを見て、友人だからこそ心配させたくないのだという本心を汲んで。
景光さんは嘘を見抜いていながらも口をつぐんだようだった。
ああ、また声がする。
とても悲痛な、心を切りつけるような声が。
……あむ………ろ………起き………れ……。
これが何かわからないが、この夢を見続けるのは危険だと、心の何かが訴えていた。
その頃。
降谷零はそっと、墓前に花を備えた。
墓に刻まれた名は「松田家之墓」。
通夜は一週間前だった。
「ようやく墓参りにこれたな。悪かった、松田。遅くなって」
そう静かに言って、静かに手を合わせる。
あれほど言い合いになったのに、あれほど派手に喧嘩をしたのに、結局松田は観覧車と運命を共にした。
組織の目もあり、当日の電話はできなかった。
派手な動きもできなかった。
病院にあるはずのもう一つの爆弾を探すように手配もしたのに、松田は結局爆死した。
………言い訳だ。
降谷は暗い瞳でただ松田の墓を眺めている。
いずれ知り合うことになる警視庁の面々と顔を合わせるわけにはいかなくて、降谷は葬式にも顔を出すことができなかった。
もはや心も動かない己に、自嘲が顔を歪めた。
プラーミャに殺されかけた時も、相棒である安室のようにうまくはできなかった。
階段を必死で駆け上ってきた景光がいなければ、きっと己は死んでいただろう。
多くの死があった。
たくさん殺したし、数えきれない悪事も成した。
それでも遅々として進まぬ組織の壊滅に、何もできない自分の無力感だけが加速する。
長すぎる夢は、もはやあの和やかな日々の方が長い長い夢だったのではないかと感じるまでに至っていた。
「お前にも安室を紹介したかったんだが、結局できなかったな。きっとお前とも打ち解けられたと思ったんだが」
胸に手を当てて、内側で眠る唯一無二の相棒を思う。
彼は未だ眠りについたまま、その姿を見るたびに、降谷はひどく安堵するのだ。
もうこれが幻覚でもいい。
穏やかに眠る相棒の姿さえあれば、自分はきっとこれからもやっていける。
静かに立ち上がり、一礼してから墓を背にゆっくりと歩み始める。
その後には、添えられた花束だけが花びらを風に揺らしていただけだった。