バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
ああ〜絶望の音ォ〜〜!!!
なんてふざけている場合じゃないか。
私はまだ怠さの残る頭を振り、周囲を改めて確認した。
目の前では原作スコッチ死亡場面が繰り広げられていたらしい。
そんな光景に、降谷さんは精神が終わり散らかしたような顔をして膝をついている。
私はひとつ深呼吸をして、状況を落ち着いて整理した。
どうやらここも夢の中のようだ。
一段目覚めてやっと気付いたのだが、ここには「なんでもできる」ような妙な気配が満ちているのだ。
言葉にできない非現実感というか、本当の現実の肉体が別にあるのを感じるというか。
半覚醒、とでも言おうか。
つまり、今まで私は夢の中で夢を見ていたということだ。
なんとまぁ、胡蝶の夢を笑えない状況だ。
しかしそれでも、着実に現実に近付いている感覚はある。
ここから目覚めれば私たちは夢から戻れることだろう。
私は跪く降谷さんへと駆け寄り、肩を揺さぶって声をかけた。
───ゼロ!しっかりしてください、悪夢に囚われないで!悪いことばかり考えてはいけません!
───…………、……
だめだ!抜け殻みたいになっておられる!
揺さぶってもカクカクと体が揺れるばかりで、心ここに在らずといった様相だ。
まさか降谷さんがここまで精神にダメージを負うとは…一体何を夢見ていたんだ?
単純に景光さんが死ぬ程度で降谷さんがこうまで腑抜けにされるとは到底思えない。
わたしの夢だけでも半年ぐらいはあったように思うし、降谷さんの夢の中での時間感覚がずれていても不思議ではないか。
諦めて強制的に肉体の主導権を奪い取り、降谷さんを内側に隔離する。
そのまま覚えのある武家屋敷の心象風景の中。
私が先ほどまでくるまっていたらしい布団へと降谷さんをダンクシュートした。
「あったかくして寝てろ!!!」と少々汚い捨て台詞を吐いて表へと神経を集中する。
降谷さんもただヘニョヘニョと大人しく布団に丸まっているから、マジのマジに重症だろう。
目も完全に死んでたし、表情筋を動かす余裕すらない様子だった。
ここを収めるには私が動くしかあるまい。
「あること」を一心に思いながら、スコッチへと近づいて、心臓の鼓動を確認する。
拳銃で胸を貫いているのだ。
普通ならば即死だろうこの状況で。
それは。形容すらできないほどの奇跡か。
どく、どく、と弱々しいながらしっかりと鼓動を刻み、スコッチは細く弱く息をしていた。
よし!と私は思わずガッツポーズした。
ここは夢だ。
確信していることは現実となる、思考の空間。
私は実際には現実でスコッチが生きているのだと知っている。
だから、この場所において間違いなく死んだと思われる場面でも、こうして生きているものとして私の認識通りに夢が歪んだのだ。
つまり現実改変だね。
夢の中は夢の主人の想像通りになる、というやつだ。
私はスコッチの上着を脱がせて、その服を裂いて包帯を作った。
そうして作った包帯で傷口をキツくしめる。
これが現実ならばないよりマシ程度だが、夢の中なら十分だ。
スコッチを背負えば、耳元に荒い息遣いを感じる。
降谷さんが完全に目から光を失いながらも、ぼんやりとそれに気付いたようだ。
布団にくるまれたままの降谷さんの横に座り、私は背中に手を添えた。
───大丈夫。大丈夫ですから。駆けつけるのが遅れてすみません
───………、…………
───ヒロは生きています。もう僕は起きています。何も心配することはないんです
───……………あむ、ろ
お、ようやく返事をしてくれた。ちょっとは正気に返ってきたようだ。
さっきは本当にSAN値全部溶かした人みたいな顔してたからな……降谷さんが正気に戻ってくれて何よりだ。
幼なげにすら見える降谷さんの表情に、私は優しく微笑んで安心させるように彼の正面で向かい合う。
外では曇天の空はちょうど雲の切れ間に差し掛かり、空から一筋のエンジェル・ラダーが降り注いでいる。
濡れた路地の水たまりに反射して、キラキラと輝いて見えた。
降谷さんもそれを虚ろな顔で見上げたようだ。
口を引き結んで、言葉の全てを飲み込んだように息を詰まらせた。
そしてそのまま、堪えきれない嗚咽を漏らす。
降谷さんはポロポロと、涙を次から次へと溢れさせた。
───………ッ
な、泣いたーーーー!?!?!?!?
え、待って、嘘でしょ!?そんな号泣するシーンだったか!?
もしかして私がずっと夢の夢で寝ていたことに怒り泣きしているのか!?
いやそれは降谷さんも悪夢に囚われすぎだし、おあいこということで何とかならないものだろうか!
私は焦り100%でわたわたと両腕を無意味に動かした。
───ゼゼゼゼロおおおちついてください僕も途中からこれが夢だとは気付いてたんですけど!ゼロの警察学校時代の夢が心地よくてつい長居してしまってですね!!
───……ッ、ッ……ッ!
余計泣くやん…どうすりゃええのこれ…。
すっかり号泣状態の降谷さんが、次から次へと大粒の涙を流して布団を掴み。
震える手でシーツを握りしめる。
私はそこへ、そっと寄り添って手を添えた。
暖かな手のひらに拭った涙を感じ、私はそれでも構わずに握ってみせる。
どうやら思ったより長く寝てしまっていたようだし。
再会を祝う意味でも多少は接触が多くても変には思われないだろう。
私はただ静かに、降谷さんの手を握ったまま降谷さんに寄り添っていた。
視界の先でエンジェル・ラダーが開いていく。
現実味の無い動きで円形に光が溢れていくのは、どうやら長かった夢が覚める合図のようだ。
背中の諸伏さんが光と共に実体を失っていく。
みるみるうちに、あらゆるものが光の中に消えていく。
ふと見れば、降谷さんが私の手を握り返していた。
降谷さんの静かな瞳と目が合う。
涙に濡れた瞳はどうにも痛々しくて、目線を逸らせない。
そうして。
ぱちり、と目を開けた時。
長い長いユメは終わり、待ち望んだ朝がやってきていた。
小鳥の鳴き声、お隣さんの物音。
朝の日差しが差し込むメゾン木馬のいつもの日常が、こんなにも久しぶりに感じられる。
降谷さんがゆっくりと上体を起こした。
寝る前と同じ、下着だけの姿で布団に手をつく姿は見慣れたものだ。
それでも。
肉体にも涙が滲んでいたらしく、それを拭って降谷さんは無言で顔を洗うために洗面所へと立った。
鏡を覗き込めば、涙の跡が残る目は随分と腫れぼったい。
降谷さんは長い沈黙のあと、絞り出すように声を漏らした、
───………酷い、夢を見たんだ
───はい
───……、言いたいことも、聞きたいこともたくさんあるんだ
───はい。ええ、僕もです
降谷さんはぎこちなく笑ってから。
万感の思いのこもった言葉を紡いでいた。
───お前が相棒でいてくれて。これ以上の幸せは思いつかないよ
私も笑って、「僕も……貴方をそう思います」と、静かに返事をしたのだった。
・降谷さん
己の救いを見た。
救いであり、希望であり、唯一無二であり、大切で大切な───相棒。
お前がいてくれるから、俺は………。(激重感情)