バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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メンタルケア

 

 悪夢も終わり、翌日のこと。

 

 目を覚まして数日は、私たちは休養を取ることにした。

 ヤンデレの瞳で私にしがみつく降谷さんの対処もあったし、私自身時差ボケを治さなければならなかったからだ。

 

 本当に昨日は大変だった。

 一挙手一投足を張り付いて見張ってくるわ、私がうつらうつらでもしようものならパニック大発狂モノなのだから。

 休日の昼寝ぐらい許してくれよ…絶対無理?そっかぁ……。

 

 しかし、今考えれば考えるほど、あの夢は一体何だったのだろうと疑問が湧く。

 

 たぶん魂のみ、精神のみの状態で頭をぶつけたことで強く記憶が交わってしまっただけだとは思われるが。

 詳しいことはよくわからない。

 

 降谷さんも私も、5年前の夢に囚われていた。

 ただし、立場は逆で。

 私はそうして夢の中で覚めぬ眠りにつき、降谷さんは私の代わりにバーボンとして活動することになった。

 

 私が眠りの中で警察学校時代の夢を見ていたのなら。

 恐らくは降谷さん自身、5年前当時は眠りながら警察学校時代の夢を見ていたのだろう。

 

 道理でいくら呼びかけても降谷さんが目覚めなかったはずだ。

 あの幸せな日々を夢見て、精神をゆっくりと癒していたのだろうからな。

 

 

 さて。

 今日の昼飯は降谷さんの作った豚丼だ。

 紅生姜に野菜も添えられ、彩り豊かで実に美味しそうだ。

 

 ただし、横では降谷さんがドロドロとした瞳で私を見て、私が「美味しい」と口にするのを今か今かと待っているものとする。

 これが別々の肉体だったなら、薬物の一つでも盛られそうな勢いである。

 肉体を同じくして本当に良かった。

 

 降谷さんが煮詰まりすぎて納豆並みに糸引きそうな声で甘く囁いた。

 

───さあ、豚丼ができたから食べてくれ、安室。丹精込めて作ったんだ

───……ありがとうございます、ゼロ

 

 表情は一見すると爽やかそうにすら見える。

 ポアロでの爽やかお兄さん安室透というか、ホストクラブでトップ張ってそうというか。

 

 ただし実体はといえば、物理的な重量すら感じられるほどの異常な重さで、私の手首をがっしりと掴んでくるわけである。

 うお、ゴリラかあんたは。どんな握力してんだ……。

 

 まあ、それも仕方ないといえば仕方ない。

 

 どうやら降谷さんの主観では三年ぐらい一人で組織の中を駆け抜けてきたんだ。

 いくら夢とはいえ、そりゃ精神の一つも病むだろう、といった体験である。

 

 私の主観だと半年ぐらいだったのに…お気楽に寝こけてて本気ですまんやで……。

 

 けれど降谷さんは「いいんだ。お前は実際にあれだけの時間をたった一人で過ごして、その上でバーボンとしての地位を築いたんだ。俺が本来やるはずだった仕事を一人で行って」と首を振るのみだった。

 

 凄まじく暗い瞳で、自己嫌悪と私への執着を混ぜ合わせた声色は地獄の釜の中身かと思うぐらいにドス黒い。

 せっかくこの頃は降谷さんの精神も安定していたのに、すっかりこのザマである。

 

 まったく、どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!!!

 

 ……え?八割ぐらいは私のせいだって?

 返す言葉もございません……。

 

 まあ、これは時が癒してくれるのを待つのみだろう。

 降谷さんはただ、例えようもないほどに現実に傷付いているだけだ。

 それを癒す特効薬などないし、あるとしたらそれは劇薬に違いない。

 ただ静かに幸せの日々を重ねることのみが、彼の心を癒すのだ。

 

 私も、できるだけいつも降谷さんの目につくところで過ごすようにはしている。

 

 会話も間髪入れず反応しているし、布団も居間に敷いて一緒に寝ることにした。

 別々に寝ると降谷さんが朝お通夜状態になるため、やむなくの処置だ。

 私の寝顔を見ると辛い日々がフラッシュバックしてダメらしい。

 

 降谷さんより早く寝てはいけないし、降谷さんよりは遅く起きてもいけない。

 関白宣言かよ、と思えど今日私が寝坊した時本当に酷かったからな。

 明かりもつけずに暗い部屋の端でただ震えてるって、本当に大丈夫かよ。

 

 降谷さんの精神は割と本気で限界だ。

 その代わり、よりその技能は磨き抜かれて気配には敏感だし情報収集能力にも磨きがかかっている。

 うーん割に合わん。

 

 ただぼんやりとTVを見ながらもそもそと豚丼を食べると、焼き目のついた香ばしい豚と絶妙に絡み合うタレが私の舌を癒してくれた。

 さすが降谷さん、美味しく仕上がっている。

 

 

 なお。

 深層心理では降谷さんがハイライトの失せた瞳でわたしを爛々と見つめているものとする。

 怖ぇよ。瞬きしてくれ。

 

───ゼロ、食べづらいんですが……

───俺のことは気にしないでくれ。起きているお前を目に刻みつけておきたいんだ

 

 仄暗い光を灯した視線で、降谷さんは恍惚と微笑んだ。

 やっぱあかんわこれ。

 

 私は箸をバァン!と置き、内側に入って降谷さんへとずいと迫った。

 降谷さんが「???」と疑問符を辺りに散らばらせる。

 

 そのまま唐突かつ思いっきり、両頬をぐにぐにと引っ張った。

 

───ゼロ!お覚悟を!

───痛たたたたたたた!!!!まっ、待て安室!!餅じゃないんだからそんなに引っ張るな!!

───止めませんよ、ええ。止めませんとも!

 

 両方とも内側で暴れるため、制御する人格を失った肉体がふわりとバランスを失って畳の上に倒れ込みそうになる。

 

 おっと危ない。

 片意識だけでバランスをとって畳に手をつき、ゆっくりと体を横たえた。

 

 しかしその隙を見逃す降谷さんではない。

 素早く私から距離をとって、髪がくしゃくしゃのまま目をまん丸にして呆然としている。

 私がこんな暴挙に出るのは初めてのことだから、降谷さんの動揺もむべなるかな。

 

 私は意識して偉そうに仁王立ちして、大声で宣言した。

 

───ゼロも女々しい!あれしきのこと気にしすぎです。

───めっ、女々しい!?

 

 滅多に言わない暴言に、降谷さんは大層ショックを受けたようだ。

 ガーン、と半身を引いて衝撃を受けたように肩を落とした。

 しかしこういうことははっきり言わなければならんからな。

 いつまでも夢に囚われていてはこちらも困る。

 

 私は降谷さんの正面に立ち、視線を合わせて柔らかく微笑んだ。

 怯えの残る瞳が私を見つめている。

 

───僕が貴方をあんな形で見捨てるなんて、夢ぐらいでしかあり得ないと気付いてくださいよ

───………

───僕と貴方は相棒だ。生涯共にある。そう信じているのが貴方だけだと思わないでください。

───………安室

 

 降谷さんが泣きそうに顔を歪めた。

 

 重いのは降谷さんだけではない。

 私だって、大概重い奴なのだ。

 相棒の存在に救われたのだって、なにも降谷さんだけではない。

 破れ鍋に綴じ蓋。お似合いの相棒同士、気楽に愉快に行くのが一番。

 

 これだけの言葉で恐怖が拭えないのは私だってよくわかっている。

 それだけの苦難が組織にはあったし、今でもその恐怖は私を苛んでいる。

 

 だからこそ、できる限りその傷を分かち合うことこそが私達を救うのだ。

 

───食べ終わったら散歩でもしましょう?僕も当時の話をしたい気分になりました。付き合ってくれますか?

───………ああ

───楽しい話じゃないんですけどね。ふふ。僕が目覚めた当時の話です。組織で何一つわからず、ただがむしゃらに足掻いた時の話

───辛かったのか?

───もちろん。僕はゼロほど上手くやれませんでしたから、そりゃあもう苦労しましたとも。あの銀髪野郎にも苦労させられました

 

 冗談めかしていえば、少しだけ降谷さんが笑ったようだった。

 そうそう、笑顔が一番だ。

 無理に笑う必要はない。ただふっと自然に溢れる笑みこそが、私たちの心を示す。

 

 今日も晴れて気持ちがいい日だ。

 

 昼の日差しがカーテンを照らし、開け放った窓を風が通り抜ける。

 

 私は降谷さんの心が少しでもほぐれるまで、根気強く小さな日常を積み重ねたのだった。

 




・降谷さん
バボ主が寝るのが完璧にトラウマ。
バボ主がうたた寝するだけでも発狂するし、夜中にふと起きて隣で寝てるバボ主を見たりしたら翌朝ガタガタ震えてる状態になった降谷さんをバボ主がめにすることになった。
あと現実のスコッチ(生きてる)には鬼電かけた。
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