バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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安室vsKID 女王の前髪(クイーンズ・バング)②

 

 呼び出された風見さんは、すでにすっかりしおしおであった。

 

 表面上なんてことないようにお堅い表情を作ってはいるが、私には丸わかりだ。

 露骨にしゅんとして落ち込んでいる。

 というか、この世の終わりみたいなげっそりさだ。眼窩も心なしか落ち窪んで見える。

 

 それでも公安として捜査二課相手に毅然とした対応をするあたり、生粋の仕事人間であるのだろう。

 

 すっかりしょげかえった風見さんに、私はそっと背後から耳打ちした。

 

「以前沖野ヨーコと名刺を交換した時に、次に国技館で行われるライブチケットを貰っています。お譲りしますので、どうか今回のことは水に流してください」

「えっ………あのヨーコちゃんが宣伝してた……!?ほっ、本当ですか!?」

「ええ。僕がもし良ければと招待枠の良い席のチケットを。今回のライブより倍率はいいでしょうし、どうです?」

「降谷さん……!!!」

 

 うるうると涙ぐんで風見さんが泣き出しそうに顔を歪めた。

 うんうん。泣くほど喜んでもらえて何よりだ。

 

 隣でコナン君がひそひそと耳打ちしてくる。

 

「風見さんって、ヨーコちゃんのこと好きなの?」

「うん。大ファンみたいだよ」

「へぇー……おじさんと気が合いそうだね」

 

 そんな胡乱な顔して差し上げるな。アイドル好きだって立派な趣味だろうに。

 

「いやぁ、気が合うかどうかは微妙なラインかな。だって同担拒否なんて言葉もあるぐらいだし」

「……安室さんの口から同担拒否なんて言葉が出てくるとは思ってなかったよ」

 

 しみじみと言われてしまったが、私とてアイドル文化には覚えがある。

 

 なにせ私はコナン君ファンだからな。

 箱推しだが、この世界では立派なアイドルファンと言えるだろう。

 

 気合いも入り直した風見さんが、目の前でより嫌味ったらしい公安警察の一人として周囲を威圧し始めた。

 気合いが入るとこの態度なの、冷静に考えると面白すぎるな。

 

 風見さんの後ろ盾も得て、私たちもようやく自由に行動できるわけだが。

 

 しかし私は自由とはいかず。

 内側でメラメラとドス黒い炎を燃やす降谷さんの対応で先ほどからいっぱいいっぱいである。

 

───だから、俺が出ると言っているだろう。退くんだ安室

───いいえ、どきません。今の貴方ではやりすぎます

───………俺の言うことが聞けないのか

 

 先ほどから十回は繰り返された押し問答だ。

 実に不快げだが、降谷さんも自分でも心理状態が常のものではないとわかっているらしい。

 ブスッとしながらも深層心理の畳の上にて座り込んであぐらをかいたようだった。

 

 そんな中でも警備の準備は進んでいく。

 

 私たちという怪しげな部外者の出現に訝しげな中森警部が、ウロウロと私たちの前を歩いてチラリとこちらを確認してくる。

 一応前に「キッドVS高明 狙われた唇」の警備で会っているのだが、その時の私は碌に働かなかったからな。

 世紀末の魔術師でも少し話をしたか。

 それでもポンコツ探偵の弟子ぐらいの印象しかないのは悲しいものだ。

 

「警備活動の邪魔になられたら困る。探偵だかなんだか知らんが、ここは我々が仕切っているのだ。お帰り願おう!」

「それは……」

「そう言うでないわ。こやつらはワシも信ずる探偵じゃ。力を借りるのに不足はないわい」

 

 不満げな中森警部に、様子を見ていた次郎吉さんが直々に口添えしてくれた。

 そして私にチラリと視線をよこす。

 どうやら、「女王の前髪」を守るのを手伝えということなのだろう。

 

 ならば、私もフォックステイルとしてある程度真面目に動かねば。

 そわそわと警備現場を見て回っている女子高生組と梓さんを視界に入れながら、私はごほんと咳払いした。

 

「仕方ない。ならいつものだ」

「いつもの?あー、なるほムギュッ!?」

 

 返事も待たず、中森警部は私の頬を思いっきりつねり上げた。

 痛ったたたたたたた!?!?

 思ったより数倍しっかりつねるな!?

 隣では同じように風見さんがつねられて腫れた頬を押さえている。

 無慈悲かよ。

 

 しかし、これでめでたく私たちは無罪放免。ここで自由に動ける権利を得たわけだ。

 

 ちらり、と私は全身フル装備で立つ警備隊の一人に目を向けた。

 

 警備隊に扮した怪盗KIDが、すでにそこにはひっそりと佇んでいた。

 極力気配を抑えているのか私でも分かりづらいぐらいだが、私の目を誤魔化すには至らない。

 

 つかつかと近づいて正面に立てば、KIDは思わずやべっ、と言う顔をした。

 

 瞬間、腕を掴んで私はにっこりと微笑んだ。

 

「………貴方、本当に警備の人間ですか?」

「い、一体何を…」

 

 むっとした顔をして近づいてきた中森警部に、私は依然として微笑みながら相対した。

 というか、このKID地味に素顔に近いな。

 一応大人に見えるようにマスクはかぶっているようだが、よくこんな薄化粧で知り合いの中森警部の前に顔を出せたものだ。

 度胸がすごいと言うか怖いもの知らずというか。

 

「なんだなんだ、こいつが一体どうしたってんだ?」

「この方の挙動に不審な点がありました。おそらくは怪盗KIDです」

「不審だぁ?おいおい、勘弁してくれよ。そいつも含めてこの場にいる人間は全員頬をつねってあるんだ。KIDの変装はありえん!」

「その時は、そうでしょうね」

 

 入れ替わったのはその後だ。

 「つねるだけつねっても損はないでしょう?」と行ってKIDへと微笑みかける。KIDは困惑して見せながらも、ダラダラと汗をかいているのが丸わかりだ。

 

 内側で降谷さんが暗い声を出した。

 

───そのまま腹に一発決めてもいいんじゃないか?

───流石に暴力が過ぎます。KIDが可哀想じゃないですか

───犯罪者に人権はない

 

 どこの世紀末世界だよ。

 

 いよいよ追い詰められたのか、KIDはニッと笑って、一瞬の隙をついて手の中へと煙幕玉を出現させ、そのまま握りつぶした。

 本来は地面にぶつけて使用するものだが、その暇すらないだろうと判断したのだろう。

 

 一面が真っ白に染まり、思わず中森警部が咳き込んだ。

 まだ時間ではないとたかを括ってガスマスクを置いてきたのが運の尽きだな。

 

 しかし私も失態だ。

 さきほどまで掴んでいたKIDの腕が妙に軽い。

 改めて見ると、これはルパンもよく使う精巧な義手ではないか。

 さっき掴んだ腕は暖かさと柔らかさがあったので、あの一瞬で義手と入れ替えたのだろう。

 一体何をどうすればそんなマジックが使えるのやら、その鮮やかさには脱帽である。

 

 走り去る後ろ姿に、私はやや嘆息した。

 内心殺気立つ降谷さんもいることだし、せっかくだから一撃ぐらいは追撃しておこうか。

 

 一歩踏み込み、その肩口めがけてハイキック……を、一瞬大きくしゃがんだKIDが避けた!

 私の蹴りで煙が歪み、掠めたKIDのヘルメットが吹っ飛んでゆく。

 

「!」

「あっぶね!?!?」

 

 煙の中でもこの距離なら外さないと踏んでいたのだが……青ざめたKID以上に私の方が驚いていた。

 あれは完璧なタイミングだったはずだ。

 避けられた意味がわからない……いや、そうか。

 勘だな、おそらく。

 KIDの野生的な凄まじい勘と反射神経が、私の攻撃を避けさせたのだ。

 そう言うタイプの戦闘者っているんだよね、時々。

 原作で京極さんの攻撃を避け続けたのもそうだし、羨ましい限りだ。

 

 私は頷いて、そのまま逃げゆくKIDの背中を───。

 

 肉体の主導権を強奪した降谷さんが追撃した。

 咄嗟に前に飛んだのだろう、「げはっ!?」と苦悶の声をあげるもまだまだ元気そうだ。

 しかし、あれでは骨が折れているかもわからんな。

 

 怨念に満ち溢れた降谷さんの声が、地獄の釜でも開いたかのように煙に響く。

 

「───次に姿を現したら、殺す」

「……!!!」

 

 息を呑み、しかし振り返ることなく、KIDは煙幕の向こう側に姿を消した。

 

 逃げられてイライラした降谷さんが内心で鋭く舌打ちした。

 先ほどの言葉、凄い殺気が乗っていたな……。

 降谷さんは殺気を出すのが苦手だったはずだが。

 長く苦しい夢の中の日々を思い、私は口を噤むしかなかった。

 

───おい、何故手を止めた。俺はともかく、お前なら今のタイミングなら仕留められただろう

───いやいやいや、仕留めたら後が大変ですってば。僕ら一応民間人ですよ?過度な暴力はちょっと…

───チッ。面倒な……

 

 荒み切った降谷さんが深層心理の畳の上にどかりと腰を下ろした。

 目が爛々と輝いていて非常に怖い。大丈夫かホントこれ。

 

 ゴホゴホと咳き込む中森警部が「なんだ今のは!奴が怪盗キッドだったのか!?」と驚愕の声をあげている。

 

「みたいですねぇ」

「どうしてわかった!奴の変装を見抜けたやつなんぞ今までいなかった!」

「勘です」

「………は?」

「勘ですよ。つまり、当たったのは偶然というやつです」

「んなバカな……それで当たったなら俺たちに苦労はない!!」

 

 何故か怒られてしまったが、仕方ないだろ本気で勘なんだから。

 感じる気配が怪盗KIDだった、なんて勘以外のどう説明すればいいんだ。

 

 内側で誇らしげに胸を張る降谷さんは降谷さんで、それでいいのか疑問ではある。

 「安室はすごいだろう?」って?いやありがとうございます……?

 

 「大丈夫ですか降、じゃなくて安室さん!」と声を潜めて慌てて近づいてきた風見さんをチョップしつつ、私は前途多難さに息をついたのだった。

 

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