バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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安室vsKID 女王の前髪(クイーンズ・バング)終

 

 予告の時間である深夜0時まで、もうあと5分だ。

 

 カチ、カチ、と古い壁掛け時計がなる音を背景に、私達は警備隊の後ろに控えるように立っていた。

 時刻が迫り、緊張は高まっている。

 険しい顔をした中森警部が視線を四方八方に散らして警戒しているようだ。

 

 しんと静まり返った部屋の中で、私は目を伏せて内心へと語りかける。

 

───先ほどの言葉、本気ですか?

───何がだ

 

 降谷さんはしらばっくれて視線を逸らした。

 わかっているくせに。いや、私が何を言いたいのか分かっているからこそしらばっくれているのだろう。

 

───あなたが、KIDを殺すという言葉を放った意味を聞いているんです

 

 降谷さんは無言を通した。

 私はつい、重く深く嘆息してしまった。

 それにぴくりと体を跳ねさせ、降谷さんが体を硬くする。

 まったく、私に呆れられるのが怖いなら、あんなこと言わなければいいのに。

 

───今のあなたは暴力に躊躇いが無さすぎます。しかもあんな濃密な殺気。KID相手に何事かと思われますよ

───………

───垣間見た過去で、結構な荒事をこなしていたんですね?

───っ、

 

 降谷さんが言葉を詰まらせた。

 

 あの夢から目覚めてからすぐ、降谷さんはいくつかの品々を取り寄せた。

 それらの扱いを見ていれば、長い夢の中で降谷さんが何を生業にしていたのか予想ぐらいはすぐについた。

 

 購入したのは毒物だ。

 ガスに関しては一旦販売経路の確認だけですませて、あとは暗器の類をいくつか。

 

 これらの系統からして、恐らくはバーボンとして暗殺を任されていたのは想像に難くない。

 

 ルパンの技術を下敷きにした潜入からの情報収集をメインに、要所要所で暗殺を任されていたのだろう。

 爆弾の方が取り回しは楽なはずだが、そちらを選ばなかったのは私怨があったためか。

 近接戦も一瞬見えた動きからして、不意打ちと一撃必殺に重きを置いていたはずだ。

 

 降谷さんが陰鬱な自嘲を漏らして口を開いた。

 

───………お前のように二つ名は貰えなかった。ジンの疑念も払拭できなかったし、中途半端な仕事だったよ

───二つ名なんて他人からの悪口みたいなもんですから。無いに越したことありませんよ。それに、ジンも、

 

 言葉を切って私は殊更明るく振る舞って見せた。

 

───アレは自分と感性の合う人間しか信じないタイプなので、ゼロじゃどう頑張っても信頼は得られませんでしたよ

───……そうだな。お前がいなければ、俺は何もできない。俺は…

 

 深い自己嫌悪と私への神格化が練り込まれた暗い暗い声色に、私はうーんと唸るしかなかった。

 うおおおお不健康に過ぎる!

 

 ばしん、と両手で降谷さんの頬を挟んで強制的に視線を合わせる。

 降谷さんは鳩が豆鉄砲を食ったようなまん丸な目をしてこちらを見返した。

 

───僕のこと、そんなに信じられませんか?

───っそんなこと…

 

 言い淀んで、降谷さんが視線を落とした。

 疑心暗鬼が常だったのがよくわかる、暗く澱んだ瞳だ。

 裏切りに裏切りを重ねて、絶望に絶望を重ねて。

 何もかも信じられない状況にあったのは間違いないだろう。

 

 本来耐えられたはずの環境にここまで傷ついてしまったのは、私と言う存在を知ってしまったが故。

 信頼できるものを得てしまったがために、それを不意に失った降谷さんは弱くなった。

 

 そのことに私は、どうしても責任を感じざるを得ない。

 

───大丈夫。安心してください。肩の力を抜いて、私に心配を預けてください

───………だが

───いいんです。トゲトゲしてたって疲れるだけだ。そう言う時のための相棒でしょう?寄りかかっていいんです

 

 降谷さんはしばらく黙ったあと、「……ああ」とだけ言って言葉を切った。

 未だ揺れる瞳は疑念を灯し続け、それでいて私に縋るように懇願の色を乗せている。

 

 これは……信じたいのに、裏切られるのが怖いのか。

 いや。

 もしかしたらまた眠りに落ちて深い孤独に落とされるのを恐れているのかもしれない。

 

 あまにり根が深いその恐怖に、私は内心深く嘆息せざるを得なかった。

 

 やっぱり一度魂を合一させて繋がりを深めておくべきだろうか。

 少々不安になるだろうが、繋がりの深化は今後の不安の解消のために役立つはずだ。

 

 そんなことを考えている間にも、部屋ではコナン君が周囲を警戒している。

 ワクワク状態の梓さんはキョロキョロと警備員さんの様子を確認して。

 

 ちょうどトイレから戻ったばかりの風見さんが───って、怪盗KIDやんけ。

 

 私が立ち上がりかけたその瞬間、時刻はちょうど0時を回っていた。

 

 空調設備から塗料の噴霧が行われ、あたり一面が真っ白に染まっていく。

 KIDの仕業だ。トリックがてら煙幕の代わりに使っているのだろう。

 

 「来たぞ!怪盗KIDだ!!」と叫ぶ中森警部の声が響く。

 

 咳き込んで慌てて出ていく梓さんたちを見ながら、私は息を止めてそっと風見さんへと近づいた。

 私なら潜水の要領で息ができなくても多少なら動けるからな。

 

 そのまま白い塗料の霧の中をゆっくりと歩み、風見さん───に変装したKIDへと回し蹴りを放った。

 

 同時に「おわあああ!?」と叫び声をあげてKIDは全力で前に飛んだようで、またも無傷。

 重心の置き方からして絶対私の蹴りに気付いていなかったはずなのに。

 だが、戦闘が本分でない彼が避けられるのはここまでだ。

 

 顔を掠めるように拳を振れば、マスクが千切れ素顔が一部顕になりかける。

 そして先ほど降谷さんが拳を叩き込んだのと同じ部分へと拳で一発。

 痛みに肩を庇っているが、動きを見た感じ折れてはいないようなので遠慮なくいかせてもらった。

 

 「ぐぁ!?」とKIDが苦悶の声を上げる。

 

 そのまま動きが鈍ったところを羽交締めにして、耳元でわざとらしく甘く囁いて見せる。

 

「僕も少々事情がありまして。これは月光に照らされても特に色は変わりませんから、退いてくれませんか?」

「!」

「退かなければその時は───楽に死ねると思うなよ」

 

 降谷さんが割り込んで言葉を続ける。

 ドロドロとした粘着質な殺気がじわじわとあたりを侵食する。

 なんだこの排水管のぬめりみたいな殺気は。なんか気色悪いな。

 

「俺の忠告を無視したんだ。この場で始末するつもりだったが……猶予をやろう」

「……それはそれは、ありがたい限りです。私も狂犬と事を構えるなんてまっぴらゴメンですから、目的のものでないなら長居する理由もありませんよ」

 

 KIDを離せば、間髪入れず逃走の姿勢に入ったらしい。

 痛みから脂汗を流すKIDが、そのまま部屋を出て廊下を駆け抜けてゆく。

 

 「KIDだ!追えーッ!」「待てっ!!」「あっちだ!!!」などと中森警部の部下たちの声がドタバタと後を追うのが確認できた。

 

 私はといえば、上から下まで真っ白だ。

 ずっと白い塗料の霧の中で過ごしていたんだから当然のことである。

 あーあ、お気に入りのシャツだったのにもうこれはクリーニングに出しても無理そうだ。

 

 中森警部が「あの霧の中で何があった!?」と私に詰め寄ってくる。

 なお、コナン君も興味津々で耳をダンボにして同じくかけてきている。

 

「この女王の前髪クイーンズバングに近づく気配に気付いたので、一発ぶん殴って羽交い締めにしたんですけど、逃げられちゃいました」

「はあ!?!?だが女王の前髪は盗まれて…」

「いえ。間近で見ていたのでわかりますけど、これは本物の仕掛けの上に被せられただけの偽物の仕掛けですよ」

 

 あの私が蹴りを入れる前の一瞬で仕掛けたのだから、まさに見事と言わざるを得ない。

 収納ケースの上に偽の空の収納ケースが置かれていて、まるで盗みが行われたかのように錯覚させられる作りになっている。

 繋ぎ目も見事に噴霧された白い霧で誤魔化され、見えなくなっている。

 

 「開けたら仕掛けが発動しちゃうので開けられませんけど」と言って塗料まみれの収納ケースを指差す。

 私がなぞってみれば、中森警部も妙な切れ目が下の段にもあることに気づいたらしい。

 

「と、いうことは……」

「ええ。見事、今回は守り抜くことができた、と言うわけです」

 

 しばらく。

 中森警部の顔が段々と弛み、にまーっとした笑いが滲み出てくる。

 そしてわあっと歓声が上がった。

 敗北続きだったからな、怪盗KID対策班。

 逮捕はできていないものの、こうして守り抜くことができたのが相当嬉しいらしい。

 

 駆け寄ってきた次郎吉氏もこれには「よくやった!!!さすがはワシの認めた探偵じゃわい!!」と満面の笑みで私の肩をバンバンと叩いたようだった。

 うーん、ちょっとKIDに申し訳ない気がしたが、たまにはこういうのもいいだろう。

 

 肩もあの様子ではそこまでヤバいものでは無さそうだし、あのままだと荒ぶる怨霊と化した降谷さんに何されてたか分からなかったからな。

 

 うんうん。これにて万事解決。

 ルパンの伝手を使って治療用の見舞金を送った方がいいかもしれないな、などと思いながら、私は深く頷いたのだった。

 

 ちょっと不満げな梓さんが「安室さんは空気読んでください」などとぶつぶつ言っているが、それは聞こえないものとする。

 同じくちょっと不満げなコナン君も黙殺。

 勝手にライバルを撃退してしまってすまんが、君だってエルロック・ショルメは趣味じゃないからいいだろう。

 

 やや機嫌を直したらしい降谷さんが、深層心理の畳の上に大の字になって転がっている。

 

───もう時間も遅い。帰って寝るぞ、安室

───はいはい、分かりました。多分近いうちに次郎吉氏主催の慰労会が開かれると思うので、私達は早めにお暇しましょうか

───面倒な。対応は頼んだ

───勿論。でも料理はいいものが出ると思うので、降谷さんも食べるでしょう?

───ああ。そのときはな

 

 降谷さんの声は柔らかだ。しかしそれでも、その裏で拭いきれない恐怖にまみれているのがわかる。

 

 私を失う恐怖がどれほどまでに彼の心を苛んだか。

 私はそれを思い、わずかに目を伏せたのだった。

 




次回、IF番外編。
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