バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
あれからポアロでアルバイトを再開したわけだが。
ポアロは女性客が一気に激増。
純喫茶に戻りかけていた空気があっという間にホストクラブへと変貌してしまっていた。
これは新手の営業妨害なんじゃ…と思えど、一応マスター的には問題ないらしい。
常連客とは来る時間帯が違うし、そこは私のシフトを調整して被らないようにしているとのこと。
案外やり手なマスターである。
こうして、私はポアロのナンバーワンホストとして新たな一歩を踏み出したのである。
……が、やはりというべきか。
問題も少なからず発生している。
「あの、好きです!!付き合ってください!」
「……あー」
ちょうど今、女子高生に告白される私なんかがその最たるものだ。
同じくホールで客を捌いていた梓さんが「あちゃー」と言う顔をしてから、素早く他人のフリに入った。
気付かなかったフリ上手いな梓さん。助けんかい。
女子高生は制服姿で、顔を赤らめてラブレターを差し出しながら私に頭を下げている。
まだ幼い顔立ちは丸っこく、人生で告白が初めてなのだろうと言うことが察せられる。
申し訳ないが、普通に10以上も年下の女の子に告白されても脈なしも極まれりなんだよなぁ。
と言うか、16歳だしシンプルに犯罪だ。
この間話した時、まだ今年の春に進学したばかりの高校一年生だと言っていたからな。
私も仕事としてお客さんのプロフィールは全て覚えている。
深層心理の書庫にメモをして、すぐに取り出せるようにしているだけでなく、会話は全て頭に叩き込んでいるのでな。
こうしておくことで会話の空気感の調整が非常に楽になるから、会話営業の必須スキルだ。
まぁ、何はともあれ。
ポアロの空気は、女子高生の告白騒ぎによって一気に氷点下へと変貌した。
周りの刺々しい視線が女子高生ちゃんへと四方八方から突き刺さる。
間違いなくこれは「抜け駆けしやがって」の視線だ。
一応、危険を察知した私は間断なく脈なしであると言うサインを送って来ている。
しかし、割と鈍感な方である彼女はやはり気付かなかったのか、己の心を優先したのか。
周囲の敵意にも気付いてないようで、ただドキドキとした顔をして私の返事を待っている。
この後同級生にシメられるかもしれないが、そこまでは私のフォロー外である。
私は意識して冷淡な声を出した。
「申し訳ないけれど、その告白には応えられない」
「なんでですか!わたしっ、頑張ります!料理もこれから勉強するし、それにっ!」
「『僕』には既に恋人がいるからね」
これぞまさにお相手は国、と言うやつである。
女子高生ちゃんがショックを受けた顔をして息を呑んだ。
こういうのに遭うたびに、不二子さんや萩原さんとの会話が恋しくなるんだよな。
最初の一言で距離感の合意が取れて、次の二言で空気感の調整が済む。
こんな楽なことがあろうか。会話に一ミリも気を遣わなくて済むなんて、この二人ぐらいのものだろう。
お互いストレスフリーで付き合える唯一無二の相手であるからして、私の心の花園である。
いや、大多数の人間はそうではないことぐらい重々承知しているんだけどね。
私とて、少しばかり疲れてしまう時もあるのだ。
最近降谷さん情緒が納豆並みに粘ついてるし。
などと思ったのが悪かったのか、降谷さんはじとりと私に視線を寄越した。
───何か俺に文句でもあるのか?
───いえ、何でもないです
精神が病ん病んしてるくせ私の機微には聡いので、こういうことにはすぐに気がついてガンつけてくる厄介さんだ。
降谷さんは私の顔をまじまじと見たが、一応流してくれるらしく、もう一度腰を落ち着けて私を観察する作業に戻った。
いいから、そろそろ私を見るのはやめんかね……。
───それにしても恋人とは初知りだな。誰だ?
───分かってて聞かないでくださいよ。ベルモットって答えますよ
───それだけはやめてくれ
降谷さんは瞬時に吐き戻しそうな顔をした。
そんな顔することはないだろうに。
誰もが羨む超有名ハリウッド女優が恋人だぞ?
あの人ならノリノリで恋人のフリをしてくれるし、告白避けには便利な人なのだ。
実際、以前ポアロで安室透人気が加熱し過ぎた時、恋人のフリをして私と腕を組んでホテルへ入ってくれたことがある。
もちろん、わざとSNSに載せる形で立ち回った。
あの時は女子高生たちがそりゃもうワーギャーと騒いだが、そのおかげで一気に沈静化したんだよね。
ちなみに、この間もベルモットからワンナイトのお誘いがあった。
降谷さんが瞬時にオエー鳥AA略になってしまったので丁重にお断りしたが。
断られたベルモットの悲しそうな顔が目について離れない。
そんな顔せんといて……ベルモットも、そんなに自分を安売りすることはないのに。
と、そこで断られた女の子がわっと泣き出した。
「恋人って誰ですか!?そんな人より私の方が!」と言わないだけ分別があるのだろう。
そう出られてしまったら私としても一段拒絶の意思を強めに出さなければいけなかったので、引いてくれて何よりだ。
そのまま女子高生ちゃんはお代だけレジに置いて、ダッシュでポアロを出ていった。
あんなに泣いてるのにお代は忘れないのは偉い、などとどうでもいいことを思う。
というか、お釣りなしちょうどを用意しているあたり、この展開をちょっと予想していたのかもしれない。
なんとなく哀れで、私は眉をハの字に下げるしかなかった、
周囲からは「いい気味」とでも言うかのようななんとも言えず陰湿な空気が漂っている。
私がイジメは嫌いだと要所要所で角が立たないように伝えているので、口に出す奴はいないようだが。
まったく、色恋沙汰は面倒くさくて困る。
私は内心深く嘆息して、女子高生ちゃんの去って行ったドアを眺めるのであった。
と、その時。
ポアロのドアベルがカランカランという音を立てて開いた。
入れ替わりで来客のようだ。
なんと珍しい。
少年探偵団の子供達を連れてやってきたのは、警視庁捜査一課の高木刑事と佐藤刑事であった。
私の顔を見た佐藤刑事が、瞬時に顔を険しくして口を引き結んだ。
この間ハロウィンの花嫁の一件で正体をバラしているからな。
降谷さんの公安流コミュニケーションの洗礼を受け、完全にコミュブロークンしている関係だ。
これはこれで面倒臭さここに極まれり。
私は顔が引き攣りそうになるのを必死で堪えた。
佐藤刑事が一歩、私に近づく。
後ろで高木刑事があわあわと佐藤刑事を止めようか悩んでいる。小動物かよ。
「……ポアロでバイト、していたんですね」
「ええ。以前いっとき入っていたんですが、探偵の業務が暇になってしまって。場繋ぎに戻ってきてしまいました」
恥ずかしそうな顔を作って、できるだけ朗らかに場を和ませようとするものの。
佐藤刑事は白々しい、とでもいいたげに鼻を鳴らしただけだった。
うーんやっぱりやりづらい。
降谷さんてば本当にもう……公安って伝えるにしてもやり方ってものがあっただろうに。
「コナン君について、あなたはどう思っているの?」
「……?毛利探偵の預かっている子ですね。頭のいい、優秀な子ですよ」
あなたもご存知のように、と私が佐藤刑事に微笑む。
佐藤刑事の燃えるような瞳と目が合う。
ちなみに、周囲は「誰よその女!?」的な敵意がバリバリに佐藤刑事に突き刺しているのだが、佐藤刑事は気が付いていないようだ。
何だこれ地獄かね。
しばし睨み合ったのち、佐藤刑事は埒があかないとみたのか私から視線を切り、机へと座ったようだった。
梓さんが慌ててこちらへと駆け寄ってくる。
「安室さん、どうしたんですか!?あの刑事さんと何かあったんですか?」
「少し誤解があったようで。特に何もありませんよ?」
「……珍しいですね。安室さんが誤解をそのままにするなんて。安室さんてば相当なコミュ強じゃないですか」
「女子高生を手玉にとって、私地味に尊敬してたんですよ?」とヒソヒソ話す梓さんだが、すぐさまトゲトゲした視線が己に刺さるのを感じ取ったのか一瞬で何食わぬ顔で店内の掃除に戻った。
変わり身の術上手いですね……。
その間にも、佐藤刑事たちはなにやら手帳を開いて、コナン君と共に議論している。
どうやらここにきた主題は私ではなく、その手帳に書かれた暗号にあるらしい。
コナン君と共に何やら話し込んでいる。
そこに私も耳をそばだてていれば、話の概要が見えて来た。