バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
あれから一夜。
朝の日差しが眩しい今現在。
私は畳の上にあぐらをかいて座っているが……。
一方中では降谷さんと特殊スペシャルステージで向かい合っている状況である。
───えー、構えてください。ボクシングに合わせ1ラウンドは3分、1分のインターバルを挟みます
───待て待て待て待て待て
スペシャルステージとは、私が昨晩降谷さんが寝ている間に急遽作った深層心理の河原である。
きちんと夕焼けの空と広い小粒な石の積もる河原を再現してある。
遠くには住宅街が見えるし、電車の音も聞こえる。
急拵えにしてはなかなかのものではなかろうか、という仕上がりだ。
これには流石の降谷さんも宇宙猫になりかけていて、呆然と河原に敷いてある布団に戻ろうとしたぐらいだ。
降谷さんの寝てる布団をそのまま河原に持ってきたんだよね。
起きた瞬間降谷さんが「幻覚……?」などと言っていたが、それはそれ。
チラリと横を向き、私は肉眼の方でメゾン木馬の部屋にいるもう一人の人員を紹介することにした。
「そしてこちらは野生のルパンです。都内を彷徨いてるところを来てもらいました」
「がおー、たーべちゃーうぞー!」
「───もっと待て!!」
何故か狼の着ぐるみ人形に身を包んだルパンが、両手を大袈裟に開いて威嚇してきた。
どうやらこれは狼ではなく狼犬らしい。
昨晩夜中に出歩いて黄昏てたらルパンに会ったのは僥倖であった。
そのまま人生相談と洒落込み、翌朝来てもらうように取り付けたのだ。
私の限界に来ていた精神に染み込む幸運と優しさ。
やはり持つべきものは親しい大泥棒だよね。
「へー、綺麗にしてんじゃん」などと初めて家に来た彼氏みたいなことを言い出したルパンをそっとしておきつつ、私はゴホンと咳払いをした。
目の前では降谷さんがくしゃくしゃの顔をして突っ立っている。
───まずことと次第を話せ、何もわからん
───降谷さんがヤンデレ、殴れば解決、いまここ
───どうして物理に頼った!?
私の話を聞き、降谷さんはすぐさま防御態勢に入った。いい動きだ。
それでも、その程度では私が本気になれば何の意味もないと理解しているのだろう。
どんどん後ずさって距離を取ろうとしている。
なお、その間にもルパンは台所に向かってスナック菓子とワインを漁り、そのままソファにゴロンと横になった。
これには降谷さんも憤慨である。
「ルパンも!何で来た!」
「なんでって、まあた降谷ちゃんが勝手に暴走してるっぽいから?」
「ッ!」
降谷さんが言葉を詰まらせる。
そして視線を彷徨わせ、その後燃えるように敵意を持った瞳でルパンを睨みつける。
ルパンはそれを鼻で笑ったようだった。
「俺がこの辺に来てたのは偶然だけんどもよ。昨日の安室ちゃんの顔お前にも見せてやりてーよ。疲れ切った迷子みてぇで、とても放って置けなかったぜ」
「……それは」
「んで、おじさんも今回の立ち合いを見守ろうと予定を開けてきたってワケ。おわかり?」
「余計な、ことを」
苦々しい口調は、それでも私を困らせていた自覚があるらしく少々の後悔を帯びていた。
私はうん、と頷いて手足をコキコキと鳴らした。
───遺言はそれだけでいいですね。じゃあ行きますよ
───それは待てって言ってるだろ!!というかお前殺す気じゃないか!!そもそもお前と殴り合いって成立するワケないだろうが!
───ほんの冗談ですよ。ええ。タコ殴りにして差し上げましょう……
こちらも鬱憤が溜まってるのでな。
やはり拳。殴り合いでこそ語り合えるものがある…!
降谷さんは本気で逃げ腰だ。
肉体の主導権を奪って集中を奪おうと、腰を浮かせてとりあえず部屋から出ようとする。
そこに声をかけるのが、ふっと薄く笑ったルパンだった。
「逃げるのか?」
「……なんだと」
「相棒と向き合うのを逃げんのかって聞いてんだ」
タバコをふかしながら、こちらを見もせずにルパンはソファの上でくつろいでいる。
そしてワインを一口。私が作ってあった作り置きのおつまみを肴に、ルパンはまったりと足を組んだようだった。
人の家で自由過ぎるだろ。
というか、この部屋は禁煙なんだけどな…。
そうして改めて向き合ってみると、降谷さんの瞳には恐怖と困惑が等分ずつ混ぜ合わされたような、怯えた顔をしていた。
私に拒絶されるのを恐れているのだろう。
───大丈夫。私は降谷さんを嫌いになったりしませんよ
───ならその握りしめた拳は何だ…???
───僕、あの夢以降すごく手加減が上手くなったんですよ。今なら骨を折らずに痛めつけられます!
───そうか。とりあえず構えを解こう、な?俺も少し性急すぎたかもしれない!
必死で言い募る降谷さんの右手を取り、私の胸へと近づける。
瞬間、表面から融合が始まり、降谷さんと私の内面が緩やかに混ざり合う。
───っ、?
───己への自己嫌悪。失うことへの恐怖。その全てを私へと委託して、貴方は心を保っている
───………それが、どうした
声が硬い。降谷さんの強情な心を写し、融合した手のひらを通して伝わってくる。
恐怖、絶望、言葉にできない悲鳴の数々。
これは己の魂を他者と混ぜ合わせる行為である。
自我の融解の危険すらあるが、今更だ。
どうせ防壁に穴を開けているのは私の方なのだから、降谷さんに悪影響は出ない。
しかし。
これほどまでの絶望と、降谷さんは戦っていたのか。
想像でしかなかった感情が手に取るように私の中に入ってきて、心をかき乱し揺さぶっていく。
───今、僕にできるのは理解しかない。貴方を理解するということ、受け入れるということ、支えるということ
───………
───それを今、形にしましょう
そう言って、私は己の魂の外郭を完全に融解させ、降谷さんへと浸透させた。
突如形を失った私にギョッとしたように降谷さんがのけぞる。
前に行った魂を包み込む形での合一とは違う、真の意味での融合に近い行動だ。
私の内心が降谷さんに流れ込んで、降谷さんへの心配、好意、そしてあの頃の絶望が流れ込んでいく。
降谷さんが瞳を揺らした。
そして形を失わない程度に融合を切り、元の形を取り戻す。
未だ私の半分は降谷さんの中にあり、降谷さんの半分は私の中にある。
今や我らは魂という観点から見ても、一心同体であり限りなく同一に近い存在なのである。
魂の専門家たる転生者の秘奥だ。
無事成功してよかった。
降谷さんの手を握り、呆然としたままの降谷さんへと微笑みかける。
先ほどの合一は、彼にとっても一瞬とも永遠ともつかないように感じられたことだろう。
もしかしたら、私の過去を追体験もしたかもしれない。
私の心も降谷さんの心も筒抜けで、お互い言葉もなしに話し合えてしまうぐらいだ。
それでも、言葉に出す意義を見出した降谷さんがくしゃりと、顔を歪めて私と目を合わせる。
───お前……俺なんかのことをこんなに想って、馬鹿じゃないのか?
───卑下は許しませんよ。それはイコールで僕を貶すことにもなるんですからね
───ああ
そうだな、と降谷さんはそっと笑った。
「居なくならないでくれ」「一人にしないでくれ」「見捨てないでくれ」と。
そのような心が私へと遠慮なく流れ込む。
「勿論」「共にいるに決まってる」「見捨てるはずがない」と、間髪入れずに思う心がそのまま降谷さんへと流れ込む。
降谷さんは、心から安堵した顔をして、目を伏せたのだった。
───じゃあ、改めて殴り合いといきましょうか。祈りの時間は済みましたか?
────待て!!!!この流れでそこに戻るのか!?
────今までの迷惑料があるので。ええ、全力で行きますよ、さっきの融合で多少頑丈になったと思うので問題ないですよね?
───大アリだから待て待て待てって言ッヘブゥ!?!?
そうして私のストレートパンチが炸裂し、悪は滅びたのであった。
それを知るのは私たちの他に、のんびりテレビを見ながらソファでくつろぐルパンただ一人なのである。
・野生のルパン三世
直感で日本に来て東都でぶらついてた人。暇ではない。
疲れ果てた顔のバボ主に会い、降谷さんが寝ている間に一時間ほど人生相談していた。
バボ主が持ち直したのはこの人のおかげ。