バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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今日三話更新したので明日は多分お休み。


黒鉄の魚影①

 

 長く雌伏の時を過ごしていたピンガが、近々動き出すとのことだ。

 

 組織幹部ピンガの任務は長期にわたるもので、その内容は「老若認証の開発補助と奪取」になる。

 老若認証とは、ようは個人認証システムだ。

 

 老いたり若返ったりしていようと、流し込んだデータから類推して当の人物の写った画像を虱潰しに探り出す。

 もし警察組織が使えば、逃げた犯人をどこまでも追いかける猟犬として活用できるし。

 組織が使えば任務の痕跡を完璧に消し去る完全犯罪のお供になる。

 

 そんな便利な老若認証が、昨日完成したらしい。

 

 私はその一報を受け、中間報告を受け取りに深海基地、パシフィックブイへと来ていた。

 

 一応、正規のルートを通っての入場になる。

 つまり清掃職員の枠で入り、船でここまでえんやこらと来たわけだが。

 意外と身元調査がザルでびびったのが思い出深い。

 ……そんなだからピンガが主要メンバーとして潜入しちゃうんだぞ。

 

 再会したピンガは連日の徹夜に目の下に隈をこしらえ、随分と疲れて見えた。

 業務連絡も端的で、一刻も早く寝たいのが丸わかりだ。

 

「チッ、昨日完成を祝う飲み会だったんだよ。エドのやつひたすらアルハラしてきやがって!テメェの安酒はもうたくさんだ!」

「今後、老若認証の制作者たる直美・アルジェントの誘拐を含めた追加任務が予定されています。大丈夫ですか?」

「ああ。一晩寝りゃあ問題ねぇ。あー、レオンハルトのロジックオタクめ…あんな時間かけなければ俺はもっと寝れたんだよ!」

「ははは。仲がいいことですね」

 

 私の言葉に軽薄な笑みを浮かべ、ピンガはガタリと背を椅子に預けた。

 

「もちろん。俺の踏み台になってくれる奴らだ。大事に大事に扱ってやらなきゃな」

「なるほど。ピンガは優しいですね」

「テメェがすぐに殺し過ぎなんだよ。血濡れのウルフドッグだったか?命が勿体無いと思わねーの?」

 

 ケラケラと笑う姿は本気だとはとても思えないが、まぁこれも本人なりの冗談というやつなのだろう。

 

「今時SDGsが囁かれてますからね。僕ももうちょっと控えめに行くべきでしょうかねぇ」

「ブハッ!ジンの犬もそんなジョーダン言うんだな」

 

 表面上は親しげに、しかしなんの情も挟まない薄っぺらな会話を交わす。

 ピンガはジンのことが大嫌いだからな。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。

 つまり、ピンガは私のことだって割と嫌いなのだ。

 

 限られた時間しか接することのできないピンガの嫌悪を解くには、私には時間が足りていなかった。

 とはいえ、一応普通に会話してもらえるだけの好感度調整はさせてもらった。

 そうしないと任務に支障をきたすからな。

 

 しかし、そろそろ私もお暇すべきだろう。

 掃除の人員で入ったのだから私もまだ清掃業務が残っているし。

 ブッチして帰ったら次の日の人が可哀想だ。

 

 私は清掃業者の帽子を被り直し、ピンガに一礼した。

 

「では、そろそろ僕はこれで」

「………待てよ。おととい仮で入れた日本中の監視カメラデータがまだ老若認証内に残ってんだ。せっかくだから完成品を見ていけよ」

 

 と言って私の顔写真を監視カメラから取り込み、照合かけようとする。

 どうやら口ぶりからして純粋な親切心らしい。

 それをするなんてとんでもない!

 

 私は眉を顰めて不自然でない程度に厳しい声を出した。

 

「いりません。僕のオフを探るなんて野暮な真似をすれば、僕も黙ってはいませんよ?」

「へいへい」

 

 その軽口と共にピンガがエンターキーを押す。

 ざらり、とおとといまでの監視カメラデータから遡って私の動きを取り出したあらゆるデータがパッと画面を埋め尽くす。

 

 馬鹿、お前!?!?

 こいつ、本気で調べやがった!

 

 ピンガがその膨大なデータをぼうっと眺めながら、いくつかの画像が警察庁へとスーツ姿で入っていく降谷さんを写している。

 警察学校付近のデータもあるな。

 うーん、完璧にアウト。

 

「んー、なんだこれ…警視庁の………」

 

 訝しげな顔をするピンガの後ろで、私は静かに降谷さんへと指示を仰いだ。

 

───どうします?流石にこれは、アウトですが

───老若認証、まさに名に違わぬ性能と言うわけだ。間違っても組織には渡せないな

───どっちにしろピンガは邪魔ですね。消しましょうか

───できれば殺さず確保したいところだが…場所が問題だな

───ええ。船でしか出入りできないここでは生きての確保が少々難しい…

 

 そのあたりでようやく、ピンガも状況が把握できてきたらしい。

 目を見開き、驚愕の瞳でモニターから距離を取る。

 

「おい………まさか……嘘だろ……」

 

 爪を取り出し、するりとピンガの首に押し当て、私は艶やかに囁くような声を出した。

 

「そこまで。ゆっくりとPCから手を離して」

「!!!」

 

 ピンガが硬直する。

 喘ぐように息を飲み、恐々と目だけで私の方を確認した。

 

「……あのウルフドッグが公安のネズミ?いくらなんでも有り得ねーだろ。おい、マジでさぁ!」

「僕としても、こんなところでバレるとはつゆほども思ってませんでしたよ。やはり危険ですね、老若認証」

 

 ピンガが驚愕と困惑に動くこともできないなんて、よほど私がNOCだったということが予想外だったのだろう。

 

 首に爪を這わされ、ピンガは両手をあげて動揺の残る声で言った。

 

「と、取引だ。俺の知ってることは喋るし、証人にもなる」

「それだと後々組織に殺されますけど」

「今殺されるより希望があるっつーの!!この距離でテメェに勝てるのはバケモンだけだよ!」

 

 なぜか逆ギレして叫ばれたが、この時間帯にメインルームにいるのは私とピンガの二人だけ。

 誰一人駆けつける様子はない。

 最年少なだけあって若々しいことだ。

 

 つ、と爪で首をなぞれば赤い一筋の線が引かれて血が滴る。

 ピンガは息を呑んで黙ったようだった。

 

 ひとまず公安に連絡を取ろうとスマホを取り出す。

 もちろん、ピンガのスマホも一緒に取り上げた。

 ピンガが両手を上にあげたまま私に話しかけてくる。

 

「にしても、意味わかんねー。公安、思ってたより100倍頭おかしいわ。公的機関がウルフドッグ抱えてたって、文字列から既にバグってんだろ」

「そこのPCに暗号を残そうとは思わないんですか?」

「仮に残してどうするって話だよ。ネット繋がってねーし、『ウルフドッグは公安のNOCだった』とか残しても狂人扱いされるだけだ」

「そんなに僕NOCっぽくなかったです?普通に警察学校卒業してますけど」

 

 なぜか聞きなれない言語でも喋っているかのような顔で「けいさつ…何……?」と目をまん丸にして聞き返された。

 おちょくっとんのか。

 

「まぁいいです。抵抗しなければ悪いようにはしませんから」

「だのなんだの言って、味見って名目で手足の一本や二本持ってくのは無しだぜ?俺は5体満足でいたいんでね」

 

 ピンガが冷や汗を流して肩をすくめた。

 信頼がマイナス方向に振り切ってて草。

 

 「それ以上舐めた口聞くと死なない程度に内臓引き摺り出しますよ」といえばピンガはぶすっと唇を尖らせて私を睨め上げたようだった。

 

 そして…。

 おや、そのタイミングでさりげなさを装ってPCに触れて…。

 

 瞬間。

 私はピンガの左手の手のひらに鉄爪を突き立てた。

 鮮血が吹き上がり、大きなモニターに返り血が付着する。

 

 手を押さえてピンガがうずくまった。

 

「っ!?!?」

「あーあ。抵抗しなければ悪いようにはしないと言ったのに」

「違っ、これは…!」

「監視カメラの映像を切り取って別で保存しようとしましたね?いい機転だ。褒めて差し上げますよ」

「ッ……!」

 

 今私が脅している画像を保存して、時間差でネットが開通してから組織に送信させようとしていたのだろう。

 短時間でそこまで動けるとは、若くとも組織幹部ということなのだろう。

 

 私はせせら笑って優しくピンガの頬を撫ぜた。

 

「僕もほとほと甘い。親交のある貴方だから生かして捕まえようと思ってしまう。ですが、あまりおいたをされるようなら……」

「!」

 

 左腕の付け根に爪を突き立て、ギギ、とそのまま三本の爪を鋸のように引いて見せた。

 再び鮮血が吹き上がり、同時にピンガの絶叫が広いメインルームにこだまする。

 

「そろそろ、趣味の時間にしてもいいですよね?」

「ぐぁっ、あああぁぁ!!!」

 

 ペロリと唇を舐めて、私は悠然と笑顔を深めた。

 まったく、快楽殺人鬼のフリが上手くなって仕方がない。

 

 しかしどうしたものか。

 これだけ反抗的とあっては、公安の人員に引き渡した後も抵抗されて逃げられるかもしれないな。

 

 つまりだ。

 生かしておく理由がない。

 

「では、これから一緒に楽しみましょうねピンガ。ちゃんといい声で鳴いて下さいよ」

 

 するりと私が目を細めれば、ピンガがざっと青ざめて目を見開いた。

 

「抵抗しない!本当だ!!悪かった!!!」

「いや、僕もう貴方が無抵抗か否かなんて興味ないんですけど」

「頼む!!違うんだ、悪かったから助けてくれッ!!!」

 

 本気の命乞いだ。

 先ほどまでは隙を見せたところでベルトに差した暗器で斬りかかろうとしていたのに、その心もポッキリ折れたようだ。

 

 というか怯えすぎ大袈裟すぎ。

 そんな怯えるほどか?と思えど、この様子は演技ではなく本気で怖がっているようだ。

 

───そんなに怖いですかね、僕。普通の脅しの範疇内だと思うのですが

───いやお前、どこの戦国時代の普通だよ。心の声までサイコパスなのおかしいだろ

───そりゃ心の底まで成り切らないとボロが出ますから

 

 殺すときは殺す、と心を染めて。仕事が終わったら切り替えて。

 そういうものだ。

 降谷さんはそうではなかったのだろうか。

 

 うーん、とわざとらしく悩んでみせるも、ピンガは怯えたままに逃げるそぶりを見せなかった。

 逃げたなら仕方ないとみなして殺したのだが、運のいい男だ。

 

 ならいいか。

 トン、と手刀を入れて。

 

 私はピンガの意識を落とし、スマホで黒田管理官まで連絡を入れたのだった。

 

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