バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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黒鉄の魚影②

 

 治療されたピンガがムスッと両手足を手錠で繋がれ、椅子に縛り付けられている。

 

 ここは警察病院6Fの一室。

 扉の向こうでは公安二人と風見さんが見張りを務めているため、逃げ出すのは不可能に近いだろう。

 

 ごくり、とコナン君が縛り上げられたピンガを見て生唾を飲み込んだようだった。

 

 実はコナン君、この度ピンガを捕まえたことを聞いて、会って話がしたいと私に進言してきたのだ。

 無論、リスクはある。

 コナン君が私の協力者であることがバレるし、もしピンガが逃げ出せば狙われるのはコナン君になる。

 

 しかし、弱みという観点ならどうせピンガを逃した時点でアウト。

 降谷さんと慎重に協議した結果、許可した形だ。

 

「彼がピンガだよ。捕まえた組織幹部。これでキュラソーに次いで二人目だね」

「黒の組織の、幹部…!」

 

 コナン君が顔を険しくする。

 いよいよ組織の幹部級を捕まえたのだとコナン君も身が引き締まったのだろう。

 

 コナン君の肩にそっと手を置けば、なぜか目の前のピンガがウゲえっと吐き戻しそうな声を出した。

 

「お前やっぱ頭おかしいわ…」

「なんで急に罵倒を受けなければならないんですか」

「お前の餌だろそれ。見せびらかしてーのか知んねぇけど、普通にドン引きだわ」

「いいじゃないですか。可愛いでしょう。頭も良いですし」

 

 どうも私とコナン君の関係を勘違いしているらしい。

 それならそれでありがたいことだ。

 リスクも最小限に抑えられるし。

 

 特に反論せずにいると、コナン君が一歩近づいてピンガに質問を投げかけた。

 

「それより、あのパシフィックブイでなんの仕事をしてたの?」

「あー、別にプログラマーとして働いてたけど。つか急に俺が失踪してあいつら騒いでねーの?」

 

 あいつら、とは同じ開発者仲間のことだろう。

 わりと仲良くやっていたみたいだし、急に失踪すれば悲しんで探してくれるぐらいには認識しているようだ。

 私は淡々とピンガの希望の目をつぶすことにする。

 

「違法な動きが見られたので公安が確保した、と言うことになってますので。貴方を心配して不安そうにはしていましたが、殊更騒ぎ立てることはありませんでしたよ」

「へー。そう」

 

 長年の仲間が心配しているというのに、ピンガはどうでもよさそうに吐息を漏らすだけだった。

 これは恐らく「騒ぎ立てて公安の隠蔽工作を台無しにしてくれればよかったのに」とでも思っているのだろう。

 こういうところ、ピンガは酷薄というかチンピラムーブメントなんだよなぁ。

 

「公安が前々から調査してた、ってシナリオにするつもりか。はっ、組織が奪還に動いたらどうする気だよ」

「それは公安に任せるしかありませんね。僕が動くわけにはいかないので」

「無能な警察どもがそう上手くやれるかァ?」

 

 わざとらしく嘲笑うのは、私を逆上させるためだろう。

 昨日はあんなに命乞いをしたのに、喉元を過ぎればが過ぎないか?

 冷静さを奪えば私に勝てると思っているあたり、本気で若さゆえの過ちというやつだが。

 

 というか、両手足塞がれた状態で私に勝てるとかどこの五エ門師匠かという話である。

 

「お前が公安のNOCだったと知ったジンの顔を早く拝みたくて仕方ねぇよ。どんだけ屈辱的な顔をするんだろうな。想像しただけで堪んねーぜ」

「うーん……」

 

 私はおもむろにピンガの髪を掴んで、椅子の背に叩きつけた。

 「グァ!?」とピンガが痛みにうめく。

 コナン君は表情を固くすると、私を気遣わしげな顔で見るだけで動こうとはしなかった。

 

「どうして奪還した先で自分が生きてると思うんでしょう…不思議でなりませんね」

「……!」

「逃げられそうになったら死んでもらうに決まってるじゃないですか。そのぐらい分かりますよね?」

 

 怯えの色が色濃く瞳に映り込む。

 それでも立ち直った顔には私への反骨の精神に満ち溢れていた。

 

 これ、たぶんジン憎しで動いてんな……ジンの犬なんかに屈服してたまるか的な。

 面倒臭すぎるぞピンガ!

 

「公安がそれを許すのか?」

「勿論。貴方の握ってる情報は公安としてはそこまで重要視していないので。まぁ、喋る口があれば儲けもん程度ですね」

 

 バーボンとして入手した情報の方が、より確かでかつ広範だ。

 ピンガの動きにまつわる情報も割と入手しているので、ピンガの口から語られる内容で必要なものはごくわずかだろう。

 

 組織の力を削ぐのが一つ。

 あとはピンガがフランス人として入国しているので、公安の方で殺すと国際関係上角が立つ恐れがある、という程度の話だ。

 どちらかといえば国際関係を気にしての話の方が大きいかもしれない。

 

 黙りこくるピンガに、コナンが慎重に声をかけた。

 

「老若認証を組織がどう使うつもりなのか教えて」

「あん?んなの知らねーよ。ジンの野郎は組織の痕跡を消すためとかなんとか言ってたけどよ。なんかベルモットは渋い顔して変なこと言ってたし」

「変なこと?」

 

 遠く思い出すようにピンガが視線を彷徨わせる。

 なんかコナン君に対しては素直に白状するなコイツ。

 

「あの方にとって老若認証は開けてはならないパンドラの箱になるかもしれない、とかなんとか。なら俺の潜入損になるってことじゃねーかよ。ふざけんな!」

「………」

 

 コナン君が深く考え込むような顔で俯いた。

 私も原作で知ってはいたが、降谷さんとしては初めて聞く内容だったらしい。

 

 降谷さんは声に鋭さを含めて私に視線を向けた。

 

───やはりあの方はアポトキシン4869で姿を変え、潜んでいると見て間違いないな

───老若認証が我々の手にあれば、間違いなく組織壊滅作戦は大きな前進となりますね。とすると…

 

 言葉を切って、私はその先をどう紡ぐべきか悩んだ。

 動くとしたら私たちは、やはり老若認証によるあの方の探索を主にするべきだろう。

 コナン君が心配そうに私の服の裾を引っ張った。

 

「やっぱり、直美・アルジェントさんって人を守った方がいいんじゃないかな?たぶん、次に狙われるとしたらこのシステムの制作者だ」

「君もそう思うかい?ピンガがいなくなったからには、あとは制作者である直美・アルジェントを狙ってくる可能性が一番高い」

 

 「コナン君はパシフィックブイに向かっておいて。僕も野暮用を済ませたら行くよ」とコナン君に伝えれば。

 彼は「できれば、殺さないで」とだけ囁くように伝えてくる。

 

 私は曖昧に微笑むだけにとどめた。

 

「で、ピンガはこちらにつく気はないんです?」

「あー。シンプルにテメェのことが気にくわねぇ。ジンの犬風情がさぁ、オレに生意気なんだよ!」

「そのジンを僕は欺いて裏切ってるんですけどね」

 

 そう言うと、ふむ、と言う顔をして何故か考え込んだようだった。

 言われてみればそうかも、と今更気づいたようだ。

 お馬鹿さんかな?

 

「司法取引もできますし、ジンの弱みとかたくさん握れますよ。なんなら檻にぶち込まれるところを見ることもできそうです」

「……なるほど。乗った。どうせあのウルフドッグが抜けた組織なんて牙の抜けた弱小組織に過ぎねーんだし。そこまで操を立てる義理もねーだろ」

 

 にやりと悪党に相応しい笑みを浮かべ、ピンガが組織への悪態を吐き捨てた。

 「オレのことを軽視してる」だとか「オレはもっとやれるってのに、ジンなんかを重用しやがって」とか。

 ピンガはピンガで鬱憤が溜まっていたようだ。

 

 コナン君が「いいの?」と聞いてくるが、私は小さく頷くことでそれを肯定した。

 こういう輩は簡単に裏切るが、まぁ適度に飴と鞭で操縦していくしかあるまい。

 

「いいでしょう。なら、半殺しにして集中治療室に送る手間も省けましたし、今日の面会はこれで終わりにしますね」

「半殺し?いやまさか、キュラソーが病院から奪還できないってウォッカがぼやいてたのって」

「まあ、明言はしませんとも。それより、これからよろしくお願いしますねピンガ。頼りにしていますよ」

 

 にこり、と微笑んで見せれば、再びピンガは恐怖にひくりと目元を痙攣させた。

 情緒忙しすぎねぇかこいつ。

 怯えるんなら怯えるで大人しくしておけよ。

 

 そうして、ピンガは暫定で我々の協力者としての位置付けを得ることになったのであった。

 




・ピンガ
ネバーギブアップのマインドを持つ若きチンピラ。
何度踏まれても立ち上がる雑草のような自尊心を持つ厄介君。
意外とコナンのことは好印象。殺されそうになったら助けてくれそうだし、本能で命綱と理解しているようだ。
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