バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
佐藤刑事にウルフドッグ仕草を見られてシンプルに鬱である。
組織で行きつけのバーで飲んだくれている今現在。
私はカウンター席に座ってただひたすら注文したスコッチのカクテルを呷っていた。
───おい、飲み過ぎだぞ!酔うのは俺なんだからセーブしろ!
───わかってますよぉ…うう……鳥串、鳥串食べたい…
───お前何もわかってないだろ!?
ぷりぷりと怒る降谷さんに適当に返事をして、私は鳥串を注文した。
一皿三本セットだ。ここの鳥串、炭火焼きで目の前で焼いてくれるから美味しいんだよね。
私は鳥串が美味しく焼き上がる過程を見ながら、ぼんやりと昨日のことに思いを馳せた。
ウルフドッグとしての過去を思い出した私は、「それはそれ、これはこれ」と切り分けて考える術を再び身につけることができている。
大雑把かつ語弊があるが、今の私はウルフドッグ…快楽殺人鬼と自分を切り替えて思考できるということだ。
だから佐藤刑事にあった時の私はマジに8割ほど殺人鬼であり、その裏に隠しきれない罪悪感を抱えた私がいるという歪な代物だったのだ。
そんなの続けるといつか人格が分裂するぞ、と昔この秘技を教えてくれたMI6のおじさんが苦言を呈してはいたが……。
まぁ、そこは魂の強度が違うので分裂せずに済んでいる。
というか今現在既に降谷さんと多重人格状態なのに、ポコポコ人格が増えても困るからな。
まぁそれはいいとして。
問題は、佐藤刑事に私の弱さを見透かされたことだ。
思い出すだけでかああっと羞恥で顔が赤くなる。
スコッチをもう一杯あおる。
鳥串をもそもそと口に放り込み、また一杯。
なんだか呂律の回らなくなってきた降谷さんが「この……覚えへろよ…」と怨嗟の声を漏らしている。
へへっ、すまんね。
降谷さんは降谷さんで、文句を言いつつも止めようとしないのは私の苦悩が直接伝わっているからだ。
「仕方ないか」「それにしても飲み過ぎ」「二日酔い確定じゃないか!」などと思考が流れ込んできている。
二日酔いはそれはそう。すまん、責任は取る。
しかし、多分あれは佐藤さんも気付いていただろう。
私が殺しに今更すぎる罪悪感を抱いていたことも、それを持って誰かに非難されたがっていたことも。
どうしてそこまで人の心に聡くも無い佐藤さんが気付いたのかはわからない。
あんな場面で知り合いに会うこと自体が今までなかったことだし。
もしかしたらこれまでもずっと心情フルオープンでバッサバッサ切っていたのかもしれない。
そう思うと私はもうたまらない気持ちになるのだ。
あーーーーー恥の極みかな?
私はカウンターに突っ伏して呻いた。今すぐ床で転げ回りたい気分だ。
同情を買いたいわけではなかったのに、結果的にそうなってしまったことが恥過ぎてたまらない。
と、そのとき。
背後から声がかかった。
「あら、珍しいわねキティ。貴方が酔っ払っているなんて」
「……ベルモットですか。お疲れ様です。僕も少し一人で飲み明かしたい時がありまして」
「そう。疲れてるのね」
振り返ると、そこには金の髪を靡かせて立つ超有名ハリウッド女優、クリス・ヴィンヤード……ベルモットが立っていた。
どうやらベルモットもこの店に飲みにきたらしい。
珍しいことだ。あまりベルモットはこの店には来ないのに。
優雅な仕草で隣に座った彼女は、優しい顔で私の髪を梳いた。
いつもそうなんだよな、この人。私のことを可愛い猫あたりだと思ってるというか。
しばしの沈黙ののち、ベルモットは柔らかく口を開いた。
「殺すのが嫌になった?」
「!!!」
思わず顔をはね上げてベルモットを見てしまう。
まさか私が殺人を忌避していることがバレた!?
何故なのかは判然としないが、ともかくウルフドッグとして由々しき問題だ。
なんとか誤魔化さないと……!
焦る私とは逆に、彼女の優しく慈しむような表情には憂いが多分に含まれている。
「キティ。貴方の心は殺戮を求める欲望と幼い優しさで二分されている」
「………」
「歪だわ。優しい貴方は殺戮を好まないのに、本能がそうはさせないのね」
その言葉に私は俯いて、私の真実が知られていないことを把握して、内心で緊張に強張っていた息を吐いた。
なるほど。そのように私の切り替えをとらえたのか。
ああ、そうか。だからキティか。本能に惑う幼い子猫と。
今更ながらに私が子猫扱いされている理由を知り、私は得心がいった気持ちになる。
己に振り回されるものとして、彼女はずっと私を心配してくれていたのだろう。
本来優しいはずなのに、欲望に流されて自らを傷つける私に己を写したのかもしれない。
なんとも、誤解とはいえ完璧に否定もできない微妙なラインだ。
バツが悪くて、私は黙ったまま口を開くこともできずに視線を彷徨わせた。
気恥ずかしくなってまたスコッチを一杯。
内心でバタリ、と倒れ伏す影が一つ。
ああ、ついに降谷さんが潰れてしまわれた。
降谷さんはうつ伏せのまま何かをペンキで書き残している。
「明日の朝飯はお前が作れ?」
了解。責任持って二日酔いも私が引き受けようではないか。
「キティ。ジンはそうは思わないだろうけれど、私は貴方の優しさが好きよ。いつだって他人のことを理解しようと努めてる、とびきりの優しさよ」
「……優しくは無いですよ。僕はただ、己にとって過ごしやすくなるように振る舞っているだけです」
「そうね。それが周囲の皆を救っている。あのジンでさえ、ここ数年ずっと機嫌がいいぐらいだもの」
私は黙って鳥串の残りをかっ込んだ。
ここの鳥串美味しいのに、全然味わうことができない。
未熟未熟。嫌になるほど未熟である。
「そうだと、いいのですが」
「キティ。貴方のことは私が肯定するわ。貴方は闇の中でしか生きられないけれど。その優しさは確かに人を救っている」
「………」
「優しいキティ。いつまでもその優しさを忘れないでいてあげてね」
「………貴方が、そう望むのなら」
私はベルモットを見上げて、そっと微笑んだ。
そのように願う貴方が今私の救いになっているのだと、言葉ならぬ言葉で伝えるように。
・ベルモット
バーボンのことを「自身の欲望に惑う子猫」と思っている。
殺人欲があるのにその心は優しい、と。誤解であるが、構造としては間違ってはいない。
昔からそのように二重構造であることに気付いていた。