バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
当然ながら翌日は二日酔いであった。
ガンガンと痛む頭を押さえて、私はちゃぶ台に頭を突っ伏した。
なお、降谷さんはといえば痛みの届かない内側に引っ込んでそこから出てこない状況である。
まあ、出てきた瞬間酷い頭痛に苛まれるし仕方ないよね。
今日の仕事はなし。完全なるフリーの日だからこそ昨日は飲んだくれたわけだが。
やはりこうなると少々後悔が頭をもたげてくる。
私は家にあったコーヒーをアイスで飲んで水分補給とし、そのまま布団に寝そべりなおした。
深層心理の奥の方からひょこっと顔だけ出した降谷さんが、私の様子を確認する。
───お前も来い
───うん?どうかしましたかゼロ
───どうせ今日は一日ぐうたらする予定だろ。内側で過ごしても代わりはないと思わないか
───まあ、そうですね
せっかくのお誘いだ。
肉体をそのまま布団に寝かせ、私は深層心理の奥へと魂を沈み込ませた。
やや物事の形が曖昧になる深層心理の奥深く。
そこは濃い青の深海のような光の差さぬ空間となっている。
同時に、ここはかつて降谷さんが眠っていた場所でもある。
まあ、今はゆったりしたくつろぎスペースへと様変わりしているんだがな。
炭酸泉やサウナ、大浴場などを完備した温泉施設。ごろ寝用のマットが敷かれた広間。
漫画もいくつか置いてあり、自由に読みながらごろつくことができる。
モデルは言わずもがなスーパー銭湯である。
ここは深層心理でも深い場所なので、ここにいると肉体が無防備になってしまう故あまり利用できないんだが。
たまに寝る前なんかに来てまったりくつろぐのがいいんだよな。
そうして私はスーパー銭湯スペースのやや端っこ、降谷さんの声がする方へとてくてく向かった。
どうやら見覚えのない空間が新設されているようで。
何故かそこには見覚えのないマッサージ屋が新規オープンの旗を掲げていた。
完全個室!やら全身もみほぐし2980円(税込3278円)!やらとデカデカと赤いフォントが踊っている。
あと何故か求人募集中の張り紙も貼ってある。時給1100円らしい。最低賃金以下のブラックバイトが私達の深層心理で開店してしまった…!
───??????
───いらっしゃいませー
あまりの状況のカオスさに言葉もなく突っ立っていれば、無愛想極まりない降谷さんが垂れ幕の中から出てきた。
平坦な声で挨拶をして、何故かぺこりと一礼。
接客する態度とはとても思えないぶすっとした表情である。
───今大人気のオイルマッサージコース120分でご予約のお客様ですねー
───予約した覚えないですけど!?
───お席へご案内しますのでこちらへどうぞ
───会話してくださいゼロ!?!?
むんずと肩を引っ掴まれ、私はズルズルと連行されてしまう。
怖い…一体私は何をされるんだ…!
診察台のようなベッドに寝かされ、そのまま服を強引に剥がされる。
バチリ、とスタンガンにも似た音と共に私の服装が紙製のパンツ一丁に早替わりした。
───ちょっ!?流石になんらかのハラスメントに該当しますよこれは!?
───お客さん動かないでくださいねー危ないですからー
───今この場で一番危険な人物がゼロですけど!?
実はここは想像の世界なので、瞬時に想像で服を変えられるのだ。
が、まさか強引に服を消されると思ってもみなかった。
降谷さんは相変わらず雑な店員演技で私を無理やり施術台へと押し込め、一緒に持ってきたらしいオイルの入ったボウルを横に置いた。
私はごくりと息を呑んだ。
絶対にマッサージするのだと、そういう「覚悟」を感じる……ッ!
ついついジョジョみたいに背後でドドドドと効果音でも出ている気持ちになってしまう。
もはやなんかのスタンド攻撃だろこれ。
───あの……とりあえずどういう風の吹き回しかは教えていただけるんですよね…
───オイルをつけますのでちょっとひやっとしますよー
───冷たっ!?想像の倍は冷たかったんですが!こういうのは人肌に温めておくんじゃないんですか!?
───お前が大人しい客ならもう少し暖かかったはずだった
───僕が悪いみたいな言い草!!!
あまりに理不尽な展開の連続にギャンギャンと喚いていると、不意にくらり、と世界が回った。
悦楽のままに心構えが溶けゆくような感覚に、私が驚愕と共に恐怖を覚えざるを得なかった。
───ぜ……ろ、これ、は
───ん、これは思い出してないのか。相手のことを一心に思えば、この深層心理では相手の心を溶かす力になる
───聞いてないんで、す、けど………
眠りに落ちる寸前のような、快楽に似た不思議な充足感が意識を甘く溶かしていく。
だめだ、思考が回らない。ふわふわと浮いて、ゆらゆら揺れて。
なんだか知らないのに楽しくなってしまう。
そして同時に降谷さんがマッサージを再開するものだから、余計に頭が回らなくなる。
意外に上手いな降谷さん、私も今度整体の勉強をするか……などと、私の意識が確かだったのもそこまで。
わけもわからず魂をマッサージオイルまみれにされて、私は深く眠りの底へと導かれていくのだった。
───魂を分つ関係だからこそ気づけたが
降谷零はぼんやりと虚ろに視線を彷徨わせる相棒を見下ろし、ポツリと言葉を落とした。
───お前、割と限界だったろ。ウルフドッグとして活動して、お前の心は文字通り生傷まみれだった
───………ぜ、ろ……?
───この場所では心が傷付けば見た目に現れる。俺がそれにずっと気付かなかったのは、お前がその傷を肩代わりしていたからだ
───………
もはや言葉も耳に入らないのか、相棒はぼうっとどこにも焦点の合わぬ瞳を揺らしている。
───服の下、傷だらけじゃないか。ヒグマと格闘でもしたのかってぐらい酷い
───……ぁぁ
───お前が俺を助けてくれたように、俺もお前を助けたい。力になりたい。そう思うのは仕方のないことだろう?
降谷は相棒の体に浮かぶ傷を一つ一つ、丁寧に消毒して、マッサージオイルに偽装した軟膏を塗っていく。
この深層心理で生み出した傷薬がどれほどの効果があるかはよくわからない。
だがこれが心というのならば、癒そうという降谷の心こそがそれを治すのだと信じて治療を続けるのだ。
───それができるのは俺だけなんだから。せめて俺ぐらいは、お前の力にならないとな
そのように、降谷はただ深々と深い意識の底で、相棒を労っていた。
夕方。二日酔いの覚めた身体は何故かとても軽く、羽が生えたかのようだった。
降谷さんが私を見てブスッとした表情で隣に座る。
───目が覚めたか
───………いや、その。マジでなんだったんですかあれ。どうみてもあの外装は大手のマッサージチェーン店のそれでしたけど
───お代。まだもらってませんよお客さん
───念のために聞きますけど、幾らですか
───金輪際ベルモットに頭を撫でられるなんてことがないよう気を付けてくれればそれでいい
───そんなに…!?そんなに嫌だったんですか…!?
降谷さんはむっつりとしたまま頷いた。ベルモット禁止令の発令である。
私は思わず唸った。
───隣に座るのはOKですよね。軽いキスもセーフとして
───セーフなわけあるか!
降谷さんはベシリ!と私の額をはたいたのであった。
次回から黒鉄の魚影が再開します。