バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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風見さんとの邂逅

 

 さて、本日の朝の日課だ。

 私はバーボン。あるいは安室透。

 降谷零の別人格の座を得たものである。

 

 いつも通り朝の6時に起床し、そのままベッドの中で結跏趺坐の姿勢をとる。

 別にブッディズムに入れ込んでいるとかそういうことではないのだが、何となく集中しやすいからこの姿勢をするようになった。

 

 そのまま意識を固形化し、乖離させ、深層心理へと深く深く降りてゆく。

 そこにいるのは、麗しき金髪に碧眼。

 均整の取れた肉体を持つ男、眠りながら揺蕩う降谷零本人である。

 

 光の入らぬ重く深い深海のようなこの場所で、彼はずっと目を瞑ったまま眠っている。

 対する私はといえば、水流にゆったり揺れるお揃いの金髪に同じく浅黒い肌。

 私自身の姿とはかけ離れた「安室透」そのままだ。

 

 恐らくは私が降谷さんの体に馴染みすぎたが故の姿だと思われるのだが、まぁイケメンになれて嬉しくない奴もいないのである。

 役得役得。

 

 私はいつも通りに水を掻き分け、降谷零の元へと近付いていく。

 肌にあたる水は冷たいが、我慢できないほどでもない。

 

 冷え切ったスーツ姿の降谷零の肩を掴み、少しだけ揺さぶる。

 

「起きてください、あの!」

 

 大きめの声をかけても反応はない。肩を揺らしてもその瞳は閉じられたまま。

 

 これが毎日の日課。

 

 私が降谷零になって2年、毎日欠かさず行ってきた行事だ。

 私がこの世界で気がついた時、すでに降谷さんはこの肉体の中で眠りについていた。

 

 理由は不明。

 私が入った影響なのか、それともバーボンとしての任務が過度のストレスになったのか。

 確かなことは何ひとつ言えないが、少なくとも彼は私の中でずっと覚めぬ眠りに苛まれているのだ。

 

 しばらく呼びかけた後、深層心理から浮上して息をつく。

 今日も降谷零は起きる気配なく眠ったままだった。

 ここセーフティハウスなので一息つく分には問題ないが……根本的な問題が解決しない限り私に安寧はないのだ。

 どうすんだよこれ。誰かなんとかしてくれよマジで。

 

「公安への連絡方法、誰か教えてください…」

 

 つまり、私は肝心の公安とのコンタクト方法をまったく知らないという大問題を抱えているのだ。

 

 記憶を同期するとかそういう便利な機能は搭載されていない憑依なので、私にできるのは場に合わせてなんとかバーボンを演じるのみ。

 潜入捜査の初期段階での憑依だったのでなんとかなったが、これが原作軸に入ってからだったら普通に死んでいただろう。

 タイミングが良かったのか、そもそも憑依なんてとんでもねー事ない方がいいのか。

 

「都合よく風見さんが街を歩いているなんてこともなく…探り屋でない僕が公安に接触できる要素もなく。はぁ」

 

 そろそろ降谷零死亡説とか裏切り説とか出てる頃だろう。

 止めてくれ本当に。私では責任取れないから。

 

 

 

 

 

 なんて苦悩していたのだが……。

 

 居た居た居た居たァ!!!

 居ました、野生の風見さん!!!

 

 街を歩くくたびれたサラリーマンのような後ろ姿に、ダークグリーンのスーツが似合う。

 黒い短髪に黒のメガネ。お堅い印象は拭いきれないが、こうして街を歩いている分にはとても公安警察には見えない。

 

 彼の名は風見裕也。

 警視庁公安部に所属する公安の連絡役で、降谷零と太いパイプで繋がっている男だ。

 私はこの千載一遇の好機を逃すまいと血眼になって後を追った。

 

 素早く背後に忍び寄り、安室の仮面をかぶって一言。

 いや、組織における安室とかほぼ私の素なのだが、気持ち原作安室を意識して。

 

「ああ、飛田さんじゃないですか!お久しぶりですね!僕です、安室です」

「───っ!?ふ、ふる」

「安室透です。覚えがありませんか?」

 

 一瞬本名で呼ぼうとしたので慌ててインターセプト。

 気持ちはわかるがこらえてくれたまえ。

 

「あ、安室さん、どうしてここに、一体これまで何を」

「ははは。積もる話もありますし、少しくつろげる場所に行きましょうか」

 

 などと言ってこんなこともあろうかと丹念にあらかじめ調べたカフェへGO。

 盗聴器だとか怪しい人が来ないかだとか、そういうのを事前に調べておいた店があるからね。

 この手法を教えてくれたのは実はウォッカである。

 兄貴の側付きの嗜みだとかで、パンピーでしかない私に1から色々教えてくれたのだ。

 

 店名は喫茶ポアロ。

 将来安室透が働くことになるであろう、毛利小五郎探偵事務所直下の純喫茶である。

 

 適当にカフェラテを頼んで正面に座る風見さんを見れば、百面相をする彼はなんとか「コーヒーをホットで」とぎこちなく口を開いた。

 そわそわと落ち着きのない様子はちょっぴり哀れだが、まぁこれもすぐ慣れるだろう。

 というか、これからが本番なのだからオドオドしてもらっていても困る。

 

 情けない顔をした風見さんが私を見て、ようやく本題を切り出した。

 

「そ、それで、降谷さんはこれまでなぜ連絡をされなかったんですか」

「……公安の状況は?」

「死亡説がいくつか。それと、……貴方が裏切ったのではないか、なんて話も」

「あまり良い展開とは言えないですね…仕方のないことではありますが」

 

 違和感にだろう、風見さんが首を傾げた。

 

「降谷さん?」

「連絡できなかったのは、こちらで緊急事態があったからです」

「!それは一体、」

「それを話す前に、風見さん。貴方に説明しておかなければならないことがあります」

 

 そこまで話してようやく違和感の正体に気づいた風見さんが、困惑に眉を下げた。

 私の口調は本来の降谷さんとは異なり、基本的に誰にでも敬語だ。

 安室の口調を守っている、と言い換えるべきか。

 だが、本物の降谷零なら風見さんには固さの残る威圧的な命令口調を用いる。

 それは拭いがたい違和感だろう。

 

 風見さんは何と言えばいいのか言葉を探す様子を見せた後、おずおずと口を開いた。

 

「あの。先ほどから降谷さん、その」

「初めに訂正すべきでしたね。僕は降谷零ではありません。僕の名前は安室透」

「……それはどういう」

「降谷零は今現在、解離性同一性障害を発症しています」

「…え」

「僕は降谷零の別人格、安室透…あるいはバーボンとして形作られたもの」

「ちょ、ちょっと待ってくださ」

 

 厳密には憑依だから違うのだが、そんなファンタジーを抜けば現状に一番近い説明だ。

 風見さんは声を抑えたまま悲鳴に近いトーンで叫んだ。

 

「降谷さん、冗談ですよね!?」

「まさか。僕は朧げな主人格の記憶に従い漸く貴方とコンタクトを取ることができたんです」

「…つまり、これまで公安と連絡が取れなかったのは」

「はい。僕が安室透であり、基本的に降谷零の記憶を持たないという緊急事態によるものです」

 

 風見さんの顔がみるみる青くなる。

 困るよね、上司が潜入捜査中に致命的な精神障害を発症して記憶を失ってるとか。

 だが一番困っているのは私……というか目覚めない降谷零その人だ。

 

「せ、潜入に問題はないのですか!?あの組織は多くの死者を出している危険度の高い場所で、そんなところで記憶のないまま活動するなんて!」

「そちらは問題ありませんよ。無事幹部としてコードネームも取得済み。今抜けるのは不自然過ぎて難しいでしょう」

「降谷さん、は」

「眠っています。僕というサブの人格に任せたまま、心の底で目を覚ます気配がありません。なんらかの衝撃を加えれば起きるとは思うのですが」

 

 目下一番の悩みはそれである。

 

 ひとまず彼さえ起きれば解決する悩みが沢山あるんだが、2年間ダメとなるとただ起こすのも難しい。

 私に不足してる各種潜入スキルやら法律知識やら、補ってくれるだろうことはたくさんあるんだがなぁ。

 というか、一般人でしかない私がヒィヒィ言いながら潜入捜査するのではなく降谷さん本人がバーボンやれば万事解決だ。

 

「僕としては、主人格が知っているはずの公安との通信手段についての知識。それとこの状態の改善の手がかり。この2つを風見さんに用意していただければと思っています」

「…!分かりました。通信手段については直ちに準備します。それと、解離性同一性障害の治療については……少々、時間をいただけますと」

「ええ。勿論です。少なくとも主人格が目覚めさえすれば僕は良いので」

 

 風見さんが決意のこもった声で頷く。上司を救えるのは自分だけだ、となったら気合も入ることだろう。

 マジに頼んだぞ風見さん。私の命運は貴方にかかっている!

 

 ……ただ、解離性同一性障害の解消は正直難しいだろう。

 憑依という現象に襲われた私が降谷零の体から出ていくことが不可能な以上、根本的に私と降谷零の二つの人格が共存することは避けられない。

 

 

 

 そうして風見さんと別れた後、私はいつも通りに携帯を開く。

 恐らくは降谷さんが起きていた頃のだろう、メールや連絡の履歴がずらりと残っている。

 

 早く起きてくれ、降谷零。

 私みたいな一般人が潜入捜査なんざ、いつ命が散ってもおかしくないんだ。

 限界が来る前に早く、早く起きてくれ。

 

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