バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
「なるほど?つまりだ、例の潜水艦の位置情報を教えろってことか」
パソコン教室に使っている部屋の丸椅子にだらしなく頬杖をつきながら、ピンガは興味なさそうに言った。
場所はパソコン教室にも使っているやや広めの絨毯敷きの部屋だ。
灰色がかった青っぽい絨毯と3台ほど並んだPCは、どことなく学校の教室めいている。
ピンガはガムを一本取って包み紙をくしゃくしゃにして放り捨て、もぐもぐと遠慮なく噛み出した。
「でも、いいのかよ」
「なにがです?」
「お前、パシフィックブイののーてんきな餌どもを皆殺しにするせっかくの機会がなくなっちまうだろ。俺はかまわねぇけど、お前の不興を買うのはごめんだぜ」
眉間に皺を寄せ、私の様子を伺うようにいうピンガの様子に挑発だとか反発心だとかは一切感じられない。
ただただ本音で心配しているのが分かり、私は思わず唸りそうになった。
やっぱピンガの勘違い酷くない???
いや、そのように振る舞っていたのは私なんだから仕方ないんだけどさ!
私は公安だってもう伝えてあるよね!?
「別に構いはしませんよ。僕としても実行したら上からあまりに睨まれすぎますし」
「ならいっか。ジンの野郎の屈辱に歪む顔とかも見れそうだし。そらよ」
そう言って、ピンガはごそごそと棚からUSBメモリを取り出して私へと放り投げた。
口に含んだガムをぷくりと膨らませて、ピンガは気だるそうに近場にあったマウスを解体し出した。
こいつほんと自由だよな。
一応ピンガとキュラソーには見張り役の公安の人員が付いているのだが、それを全く気にせずあたりを彷徨くから困っているのだ。
もっと自粛しろよ。組織に見つかったら死ぬのはお前なんだぞピンガ。
「潜水艦へアクセスするためのデータとプログラムのコピーだ。勝手に使えよ。あ、足は残すんじゃねぇぞ」
「担当者にはよく言って聞かせます」
そこでふと、扉の開く音がして私たちは振り返った。
どうやらキュラソーが買い出しから帰ってきたようだ。
私の教えた変装用のラバーマスクを脱ぎ捨て、大きく息をついて袋二つ分の荷物を床に下ろしている。
どうやら今晩の食材を買いに行っていたらしい。
長いネギが真新しいエコバッグから飛び出している。
キュラソーが私の姿を見つけ、なんとも言い難い微妙な顔をした。
そりゃ生死の境を彷徨わせる大怪我を負わせた身だからな。
内臓もめちゃくちゃにされてたし、むしろ敵意を見せられないのが信じられないぐらいだ。
報告を聞くに、どうやら入院していた病院で同じく入院中の子供と仲良くなったらしく。
それから脱走しようとはしなくなったそうだ。
接触は本当に偶然だったらしいが、彼女に取ってそれがいいことであるならば嬉しい限りだ。
「バーボンか。ピンガに何か用でもあったの?」
「ええ。対組織戦について少し。キュラソーはこの頃の生活はどうです?」
キュラソーが荷物の中から冷凍品を取り出し、束にして抱えて立ち上がる。
「……アナスタシアよ。今はそう名乗ってる」
「『新しい生活』『復活』。いい名前ですね」
「あなたはそう言ってくれるのね」
そのように言って、彼女は奥にある冷蔵庫へと歩いていった。
一瞬見えた優しい瞳に息を呑む。
子供が忘れていったのだろう、児童用のペンケースが机の上に置かれっぱなしになっていて、彼女達の生活をまざまざと感じさせる。
真昼の今は姿は見えないが、ここは通学路に面している建物の一階だ。
時間になると小学生の子ども達が列をなしてこの前を通るらしい。
ピンガが分解したマウスをそのまま放置して部屋の中を彷徨き出した。
「けっ、蹴り飛ばして遊ぶならともかく、ガキの相手なんてして何が楽しいんだかな」
「ピンガ、でも貴方コナン君と少年探偵団にはずいぶん馴染んでたみたいじゃないですか」
「あいつらは見所あるからいいんだよ、分ってもんを弁えてるし、見る目もある。そこらのウゼーガキとは違うんだっつの」
「なるほど」
どうやら相当に少年探偵団の皆はピンガを褒めちぎったようだ。
ピンガは元来自尊心の塊のような男である。
なのに組織ではジンと対立しているせいで味方はほぼ存在せず。
パシフィックブイでの仲間はピンガと同等かそれ以上の実力を持った変人プログラマばかり。
鬱憤は間違いなく溜まっていたことだろう。
そこに清流のように吹き抜けた子供達の純粋な褒め言葉はピンガの胸をがっしりと掴んだようだった。
ちょろいかよお前……。別にいいけど…。
私は生ぬるくなりそうな視線をなんとか隠して相槌を打った。
ひとまずこのUSBメモリはウイルスが仕込まれていないか確認してから提出しよう。
ピンガならちょっとしたいたずら心でとんでもないことする可能性があるからな。
あとは公安を通じて海上自衛隊に不審船対策を要請すればOKだ。
丸椅子から立ち上がり、「では、僕はそろそろこれで」と言って立ち上がる。
奥から戻ってきたキュラソーが眉を釣り上げてピンガを見た。
「ところで、そのガムのゴミはあなたが捨てることね、ピンガ。それとマウスは元に戻しておきなさい」
「ウッセーんだよババア。年増はすっこんでな」
「殺されたいかガキ。サンドバッグにされたいなら素直にそう言え」
急激に氷点下に冷えゆく空気に、私はそそくさと身を縮めて退散することを決めた。
上手くやってるかと思ったら全然バチバチの関係じゃないか!
いや、真面目で几帳面なキュラソーと、興味あること以外にはズボラ極まるピンガでは相性がいいはずもなかったか。
パソコン教室を出れば、夏の日差しとジーワジーワという蝉の鳴き声が私を出迎えた。
中では乱闘の音が聞こえるが、普通にキュラソーにピンガが勝てるわけないからボコボコにされているのだろう。
可哀想に。
私は黙祷して、そのまま帰宅のため車に戻っていったのであった。
2日後、不審な潜水艦が撃沈されたと報告が上がった。
そしてそのこと自体がニュースになることもなく。
ただ静かに全てが闇の中に葬り去られることとなった。
流石に他国の潜水艦だという可能性もあるし、警告に留めておくと思っていたが。
それだけパシフィックブイを重要視しているということなのだろう。
なんにせよ、私たちはパシフィックブイで殺人行為を働くこともなく。
世は全てこともなし、となったのであった。
ちなみに、コナン君には盛大に文句を言われた。
これだけ直美・アルジェントと交流させて蚊帳の外なんて許せない!!!とかなりむくれておられたので、謝罪は丁重に行なったものとする。