バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
「ええと、俺は諸葛均次だ。ええと、少し諸伏警部に話したいことがあって」
景光さんがやや気後れしたように言い淀んだ。
ちなみに彼の名前の元ネタは諸葛均。
諸葛孔明の弟である。
景光さん、初めは赤兎馬了とか名乗って馬マスクの動画配信者のフリをしようとしていた。
常に馬マスクをかぶっているのは常日頃動画を撮る隙を狙っているから、と言う設定だ。
本人いわくみんなマスクに気を取られるから、変装のラバーマスクの方に注意が向かなくなるだろ、とのこと。
確かにそうなのだがそんな狂人と一緒に歩きたくないので降谷さんと必死こいて止めたのだ。
そうしたら次にお出しされた設定がこれである。
孔明の弟だから諸葛均とか、偽名丸出しで私と降谷さんは二人して唸ったものだ。
「モロクズさん、ですか。そうでしたか。ご用件をお伺いしても?」
「あー、その、他の人のいるところでは…」
周りをぐるりと見渡して、景光さんは言い淀んだようだった。
そりゃ本当は諸伏警部が一人になった時を見計らって話しかけるつもりだったからな。
黙ってことの成り行きを見守っていた大和勘助警部が、それを聞いて眉を吊り上げて進み出た。
「あん?人に話せねぇような内容なのか?」
「ちょっと色々込み入っていまして。僕も付いているので一旦この場を離れてはいただけないでしょうか、大和警部」
「ふむ。そのように、大和警部。森を出たすぐ手前の道路で待っていてください。15分以内には戻りますので」
「………チッ」
諸伏警部が了承した手前ごねるのも難しいのか、大和警部がくるりと踵を返してどすどすと荒い足取りで森を出ていく。
その後ろをついて心配そうな顔をするのは由衣刑事だ。
コナンくんが私に一瞬視線を送って、それから毛利さん達と共に去っていく。
あれは「後で事情を教えてね」ということだろう。
心配しなくても教えてあげるってば。
そうして全員が立ち去ったのを確認して、改めて諸伏警部と向き直る。
まず口を開いたのは諸伏警部だった。
「話というのは、私の死んだ弟に関係しているのではありませんか?」
「!!」
「諸葛均は諸葛孔明の弟。そんな露骨な名前を使って私に接触してくるのなら、その程度の予測はつきます」
私は少しだけ嫌な予感を覚えていた。
ここまでうっすらと感じていた諸伏警部の敵意が薄らいでいない。
そしてぽつりと、「君子、仇を報ずるに十年晩からず」とだけ呟く。
この場における解釈は、「時間がどれほどかかっても復讐は必ず遂げる」ぐらいとなるだろう。
マジか……。これは嫌な予感がしますね…。
諸伏警部の燃えるような瞳が私を捉えた。
「ところで。私は常々弟の足跡を辿るために警視庁に出入りしていたのですが」
「………」
「弟はどうも、大きな裏組織への潜入任務をしていたようなのです。公安に配属された以上、それ自体はよくあることですが」
こちらを見る目は猛禽類の如く獰猛で鋭い。
「酒の名前をコードネームにするその組織についてアングラな情報を探っていくと、狼犬という情報が非常によく出てくるのです」
「それが、なにか?」
私は笑顔で問いかけた
あーーー、この口調は警視庁のデータに不正アクセスもしているな?
もちろんネットで裏社会の噂も調べていたと思われる。
ついでに毛利さんから私の行動について情報も集めたかもしれない。
考えるだに凄まじい行動力だ。
「つまり何が言いたいのかといいますと。───貴方、例の組織の殺人鬼ですよね」
「…………はは」
思わず乾いた笑いがこぼれた。
たぶんこれ、諸伏警部を殺しに来たと思われてるな。
組織が裏切り者を家族郎党皆殺しにすることを知っていて、それであえて一人になって自分の殺害自体を証拠にしようとしているのかもしれない。
私はひとまず軽薄な笑みで首を振った。
降谷零と諸伏警部は警察学校以前に会っているはず。
そして景光さんが兄への連絡として降谷さんのことを教えていても何もおかしくない。
ということは降谷零が警察官だとは知っている可能性が高いから……。
いやそれなら何で私勘違いされてんだ!?
「やだなぁ、僕もヒロと同じ警察官ですよ?」
「潜入先で心を壊したか、それとも真の己を知ってしまったか。それは定かではありませんが、大量の殺人を犯していることは確かでしょう」
「………さて。何のことか分かりませんが」
心を壊した判定をされてしまった。
二重人格にまでなってるからあながち否定もできないのが辛いところだが、真の己とかではないので勘違いしないでほしいところ。
否応なく高まっていく緊張に、私はついつい出てしまうウルフドッグとしての顔を何とかマイルドにしようと必死だった。
ええと、もっと顔は朗らかに…違う、瞳がこれじゃ無機質に見えて…やばいやばいやばいこの展開は予想してなかったやばい…ああもう!
そこに慌てて割って入ったのは景光さんだ。
あわあわと両手を振りながら、必死な様子で景光さんが口を開く。
「悪かった悪かった!!その、俺のやり方がまだるっこしかった!!違うんだ兄さん!俺、まだ生きてたことを伝えたくて…ゼロは何も悪くないんだ!」
「!?」
そう言って、ラバーマスクをそうっと剥がした。
いやそうっと剥がしても再利用はできないが…まぁいいか。
とりあえず帰りは毛利探偵達に鉢合わせないようにしよう。
その景光さんの素顔を見て、流石の諸伏警部も驚愕に目を見開いたようだった。
ぴっ、という変声機を切る音が森にこだまする。
「………景光、一体どうして…」
「今まで死んだふりをしてたんだ。ゼロと一芝居打ってさ、上手く身を隠したんだ」
諸伏警部が口を引き締め、何かを堪えるように瞳を伏せる。
そこにどれほどの感情が宿っているのか、側から見たら理解は難しいが…。
少なくとも、歓喜がそこに含まれていることは間違い無いだろう。
「伝えたかったこととはこれのことですよ。僕は確かに殺人鬼ですが、それでも幼馴染の命は惜しい」
「………そう、ですか」
「あまり組織に深入りしないでください。僕は今回貴方を殺しに来たわけではありませんでしたが、貴方が踏み込み過ぎればそうせざるを得ない時が来る」
真摯に、諸伏警部に私は頭を下げた。
「親友のたった一人の家族を殺したくないんです」
「………私も、好んで命を捨てたいとは思いません。その時、弟を道連れにするわけにはいきませんから」
切なさと、安堵と、大いなる歓喜のこもった瞳で、諸伏警部は息をついた。
隣ではなぜか使い捨てのはずのラバーマスクをなんとか被り直そうと景光さんが四苦八苦している。
ああ、そんなに無理やりかぶってもビヨビヨに伸びちゃってるんだから無理だって、あー。
「───ヒロ、何やってるんだ。時間もないんだからお兄さんと話してやれよ」
「いやだってこのラバーマスク全然元に戻らなくて…帰りどうしよう!」
「それは使い捨てだ!!」
全然締まらない空気に、諸伏警部が「ふっ」と笑いを漏らした。
「景光、これが私のまだ一回も使っていないフリーメールアドレスだ。そこに連絡をくれると嬉しい。当たり障りのないことしか書けないだろうが…」
「ああ、わかった。必ず送るよ。今暮らしてる豪邸の話とか、大金持ちのゼロが俺に資金を流し込んでくる話とか、色々」
「ふ、無理はするなよ」
優しく微笑み合い、二人は頷いたようだった。
ミッションコンプリート、かな。
多少のハプニングはあったが、これで諸伏警部も私への当たりは柔らかくなることだろう。
そろそろ、時間も15分。
痺れを切らした長野県警組が来ても困るので、解散としますか。
山を降りて駐車場へ向かおうとすると、諸伏警部が少しだけ私を見た。
「安室透君。君の立場はとても危うい。私が知る情報だけでも、狼犬には血と怨嗟とが付き纏っていた」
「ええ。恨みは多く買っているつもりです。それこそ、かの国際指名手配犯、プラーミャのように」
「『晋の予譲、身に漆し、炭を呑むがごとし』。人は復讐のためには苦労を惜しまぬものだ。気をつけてください」
「………ええ」
諸伏警部の瞳からは、その赫赫とした炎は消えている。
だが。
きっと景光さんを殺したのがバーボンであると言うことも突き止めた上で、彼は警告してくれているのだろうと。
私はそのように感じたのだった。
次回、「番外 バビロンの黄金伝説」。
ルパン編です。