バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
ニューヨークの一等地、マルチアーノの住まう特徴的な形をした高層ビルへやってきている。
私はスマホ越しに不二子さんへと話しかけた。
「どうですか不二子さん。そちらの様子は」
『マルチアーノは気づいてないわ。石板は地下にあるみたい。そこに向かうエレベーターのセキュリティを突破するためのデータを今送るわ』
不二子さんが使っているのは、阿笠博士に作ってもらったイヤリング型の超小型通信機だ。
イヤリング型携帯電話の正当後継で、リングを回すと事前に登録した番号4つの中から好きな番号にかけることができる。
見た目はほぼ普通のイヤリングで、側から見てそれが通信機だとはとても思えない細身で美しいデザインだ。
まったく、阿笠博士さまさまである。
「なら、そろそろ攻め込むとしましょうか。実権はないとはいえ、マルチアーノを始末すればひとまず組織への顔は立てられますから」
『ついでに私は石板の情報をいただく、と』
しかし、不二子さんが殺しを積極的に行うとは珍しいものだ、と思ったが。
少しだけ考えて、違うことに気がついた。
「バーボンが組織の任務で殺害して、それに女盗賊峰不二子が乗っかっているだけ」なのだろう。
全ての男を手玉に取り利用する華麗な女怪盗、というわけだ。
まぁ、マルチアーノも悪いこと山ほどやってるしな。
あくまでマフィア組織の話だが、私が調べただけで悪質な新型覚醒剤の販売、幼い子供を攫っての人身売買、詐欺、恐喝、エトセトラ。
意外と人情派の不二子さんでも、助命嘆願するに値しないのかもしれない。
さて。
侵入は屋上からだ。
隣のビルの屋上から、窓のついていない側面に爪を立て、巻取り式フックを使ってスルスルと上り進む。
そうすれば5分足らずで屋上へと辿り着いた。
無人の屋上プールは静まり返っていて、眼下には百万ドルの夜景が広がっている。
美しい景色だ。
ちなみに、このビル一棟丸ごとマフィアのアジトだったりする。
一階から攻めても問題はないが、高層ビルゆえエレベーターを止められてしまうと時間がかかりすぎて警察を呼ばれてしまうからな。
こうして密かに屋上から侵入させてもらった。
屋上から降り、最上階には豪華なシャワールームや壁一面に本が並んだ書斎がある。
そのどこも無人で、警備の人間はいないようだ。
私は内心「不用心だな」とひとりごちた。
RUMなんかいつも側仕えとしてさりげなく護衛を引き連れていたのに、恨みを買っている自覚がないのだろうか。
地下へ向かう専用のエレベーターの前まで来ると、私は端末を起動した。
これはマルチアーノの声で起動するエレベーターのようだ。
先ほど不二子さんから送られてきたデータを再生して、無事開いたドアの内側に乗り込んだ。
そこにするりと同乗する不審な客がもう一人。
特徴的な猿面で鼻歌を歌いながら、ルパンが、片手を上げてペコペコした。
「どーもどーも、お構いなく」
「お、お構いなくじゃないんですけど…ショッピングモールのエレベーターじゃないんですから。なんでいるんですか」
「いやね、バビロンのお宝なんて面白そうな話が聞こえてきたから、これは俺様の出番でしょー、と思ったわけだ!」
「なるほど確かに」
私は頷いた。好きそうだもんな、そういうの。
聞こえてきたって、どこから聞こえてきたのかは謎だが。
もしかして宇宙人のロゼッタさんから聞いたのか?
ルパンはタバコに火をつけて片目を開けた。
「で、どこまで掴んでる?」
「マルチアーノがここに石板を保管していること、バビロンの南に元々はあったこと、それは国中の黄金を集めて作られたこと、ぐらいですかね」
「ほぼ全部じゃん」
むすっとしてルパンは口をへの字に曲げた。
そのあたりは自分で調べたかったらしい。
「どこ情報?」
「ロゼッタさんです」
「……やっぱ何者なのあの婆さん?」
「それは本人の口から聞いてください」
ロゼッタさんはルパンにガチ惚れしているからな。
帰郷を望むロゼッタさんにとって、それは愛する男と永遠に別れることを望むに等しい。
その複雑な思いが、ルパンに正体を明かすことを拒む理由にもなっているのだろう。
なんというか、あの人も哀れなものだ。
2500年以上故郷に帰ることもできず、何者にもなれず酒に溺れるしかない日々。
と、そんな会話をしていれば、ついに地下に着いたらしい。
チン、という音とともに扉が開き、中の様子があらわになる。
マルチアーノが驚愕した様子で振り返った。
「何者だ!!」
「初めまして、マルチアーノ。不躾なのですが、あなたに死んでもらうためにここまで伺いました」
「っ!?」
ふとふりかえれば、エレベーターを降りる頃にはルパンの姿は無く。
ただ私のみがエレベーターの中で鉄爪を構えていた。
まじであの人の神出鬼没さは流石の一言だ。
私の気配探知でも居場所がわからないとか、一体何をどうしたらできるのやら。
マルチアーノは不二子さんを庇うように前へ出た。
これでも本当に不二子さんに惚れているらしい。
武器を持った相手に女を庇えるとは、少しばかり見直したぞ。
「何が望みだっ!!」
「……僕の話、若頭のコワルフスキーから聞いてないんですか?すでに僕があなたの命を狙っているという情報は握っているかと思っていましたが」
「…な、」
マルチアーノは絶句したようだった。
そう、部下であるコワルフスキーは既にマルチアーノ殺害の件について情報を掴んでいる。
掴んだ上で、コワルフスキーはあえて黙っていたのだ。
マルチアーノが死んでくれれば、正式に実権を握ることができるから。
しかしまぁ、コワルフスキーも愚かなことだ。
皆殺しで有名なウルフドッグに狙われておいて。
まさか自分は無事だとでも思っているのだろうか。
「では、もう言い残すこともないですよね」
「待て!!の、望むものをやる!だから命だけは…」
「さようなら、マルチアーノ」
どすり、と腹部に鉤爪を差し込んだ。
内臓を引き摺り出し、そのまま写真をパシャリと二枚ほど。
報告のために秘匿通信アプリで写真を送れば、音速でジンからイイねのスタンプが返って来た。
続いてゆるーい画風で描かれた大喜びの犬を撫でる謎のスタンプがポスっという音と共に送られてくる。
こんなのどんな表情で送ってんだ…?
まあなんにせよこれで任務完了だ。
いつのまにか不二子さんも姿を消していた。
どうやら石板のデータを入手するためらしい。
石板に書かれた内容は別にどっちでもいいが、その石板が出土した位置データは重要だ。
ロゼッタさん曰く。
かつてバビロンは国中の黄金を集めて塔を作った。
塔を作らせたのは宇宙人の指示によるものだった。
宇宙人はハレー彗星に乗り、作らせた塔を回収しに来た。
しかし、不慮の事故により回収した塔をどこかに落としてしまった。
ロゼッタさんは落ちた塔を回収する命を受け、その後2500年以上塔を探し続けている。
バビロンの石板が遠く離れたニューヨークで発見されたということは、その出土位置データを探れば塔の落ちた位置がわかるかもしれない、ということだ。
私もそろそろ下に降りるとしようか。
道すがら雑魚を処分して手早く下に降りて。
盛大に荒らして帰れば組織も納得するだろう。
コワルフスキーも道中にいれば処分しよう。
が、そこまで深追いするつもりはない。
死んだマルチアーノのもの言わぬ骸に手近にあった布をかけてやって。
私はそのまま背を向けたのであった。