バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
その代わり明日分を投稿!
ニューヨークに戻ってくると、空港ですぐに不二子さんに怒鳴り込まれた。
「あんなにあるなんて聞いてないわよ!国中の黄金を集めたって言っても!所詮古代だもの、トラックに積み切れないほどあるなんて思っても見なかったわ!」
「よかったじゃないですか、うれしい悲鳴でしょう」
「でもルパンが帰ってきちゃう!私の黄金なのに!」
ぶーぶー言われて私が降参のポーズでいると、その後ろからひょこっとルパンが顔を出した。
「ふーじこちゃん!」
「あ!ルパン!だめよあれは私の黄金なんだから!先に見つけたのは私よ!」
「まぁまぁ。そう言わずに。つか全部取ったらロゼッタ婆さんが帰れねぇじゃねぇの」
「それは……そうだけど」
むすっとして膨れっ面を見せながらも、不二子さんは同意したようだった。
流石に長い時を一人取り残されて生きるロゼッタさんを思えば、不二子さんも納得とはいかないまでも妥協ラインではあるらしい。
これで意外と人情派なところあるんだよな。
本人曰く「ルパンのがうつっただけよ」とのことだが。
「それじゃあ現物を見に行きましょうかね。安室ちゃん、案内頼む」
「ええ。古の時代の黄金の塔、ですか。少しだけ胸が躍りますね」
「そう言う胸の高鳴りを求めて俺は泥棒やってるってわけ。やーっと安室ちゃんたちも理解できてきたみてーだな」
にしし、とルパンが笑って私と無理やり肩を組んだ。
降谷さんもむすっとしているもののまんざらではなさそうだ。
うーむ、いよいよ本格的に組織壊滅した後の余生をルパン一味で生きていくことも視野に入れねばなるまいよ。
どうせそこまで行けば用済みになった私を持て余した公安が排除に回る可能性が高いし。
降谷さんは嫌がりそうだが、私は降谷さんが裏切られて絶望に沈む様を見たくはない。
つまり、裏切られる前に裏切れ、だ。
この手の勝負は機を読み切ったもん勝ちだと不二子さんは言っていたからな。
愛と裏切りの狭間で生きる不二子さん直々の教えがある分、私にも勝機はあるはずだろう。
───………生意気だぞ、安室
その一言だけで、降谷さんは私の思考を拒否しようとはしなかった。
さて、そんなこんなで私たちはマンハッタンのマジソン・スクエア・ガーデンの地下まで車で向かうこととなった。
流れる夜景は煌々と地上を照らし、昼間のように明るく目を焼いている。
ルパンが古い歌を口遊みながら車を運転して、私や次元さんたちもその車に揺られネオンサインの煌めく街を縫う。
「How many miles to Babylon〜?」
この歌のタイトルは「バビロンまで何マイル」だ。
よくロゼッタさんが歌っているマザーグースで、歌詞の歌を聞けばなんとなく意味深だ。
静かな車内にルパンの歌声がこだまする。
「ところで、変なこと言うようですけど」
私は車に揺られて、ぽつりと私は口を開いた。
ルパンが片眉を上げてバックミラー越しにこちらを見る。
「なんだー?」
「今年ってもう四年も続いてるんですよね」
「はぁ?どう言う意味だそりゃ」
答えたのは次元さんだ。
すぱー、とふかしたタバコの香りがこちらまで漂ってくる。
「今年が四年って、禅問答か何かか?」
「そのまんまの意味ですよ。季節もめちゃくちゃだし、どうやら既に本来なら2061年になってなきゃいけないようですし」
私は訝しげな次元さんの方を見ることなく、少しだけ斬鉄爪を服の上から撫ぜた。
誰も何も言わない、優しい沈黙が肌に心地よい。
「だから少しだけ、ロゼッタさんの孤独もわかる気がします」
異物であると言う孤独。
誰にも教えられない秘密を抱えて生きていくことの恐怖。
それを思えば、私はロゼッタさんの今後を憂いてならないのだ。
ルパンが静かでやわらかな声で、私を嗜めるように言った。
「……オメーにはそういう時のために唯一無二の相棒がいんじゃねーの?」
にやり、と笑う顔の泰然とした顔は大泥棒たる自負と自信とに満ちている。
それに降谷さんが同意して、無理やり肉体の主導権を奪い取って口を開く。
「───そうだな。安室は少し俺を頼らなさすぎる」
「いやオメーもまぁ大概重い男だから、安室ちゃんがそれ以上寄りかからないようにしてたってのも分かるけどよ?」
「ルパン、お前は俺の味方なのかどっちだ」
「べつにぃー、まだまだ単体で軽ーく脱獄もできないおぼっちゃまに俺様の考えは理解できないって言うかー」
降谷さんが「っくそ!普通はあんな気軽に刑務所から脱獄なんてできないんだよ!」と地団駄を踏んだ。
まあ、斬鉄の私と鍵抜けの降谷さん両方揃ってようやくギリ脱獄できる程度だからな。
ルパンみたいに鼻歌混じりに出て来れるのはまだまだ先だろう。
私は二人の言い合いについふふ、と笑いが漏れて。
助手席に座る不二子さんがつられたように笑顔を見せた。
「あら、なんだかここのところ元気がないように見えたけど。この分なら大丈夫そうね」
「なーるほど。不二子ちゃんも気にかけてやってたってわけだ」
「そうよ。それなのに金塊は回収し切れないし。まったく散々だわ」
むすっとした不二子さんに「すみません。事前に金塊の量を教えなくて」と頭を下げれば、「いいの。確認しなかった私のミスよ」とプンスカしつつウインクする。
屋根の上では五エ門さんが星空を見上げてただ静かに斬鉄剣を懐に抱えている。
あの婦警さんのことを考えているのだろうか。
マジソンスクエアに着くと、その入り口をトボトボと歩くロゼッタさんとバッタリと出会った。
「あらルパン!愛してるわ!」と微笑むも、どこかその声には張りがない。
バックからは不思議な古い燭台がのぞいている。
あれは星船と連絡を取るための触媒らしい。
慎重な顔をしてルパンが正面に立つ。
「お迎えは来なかったのか」
「ええ。この星空を見上げても、母星からの迎えは見えないもの。2061年はまだ来ない。ずっと、ずっと……」
「そうかい」
くるりと、それだけ言ってロゼッタさんは路地裏の闇に消えていった。
口ずさむマザーグースはいつも同じ、「バビロンまで後何マイル」だ。
不二子さんが車から降りて、物憂げに息を漏らした。
「私たちがバビロンの黄金のありかを伝えてから毎日、あのお婆さんはここに通ってるのよ」
「……そうかい」
まだ2061年は来ない。
ハレー彗星にある彼女の星船もまた、来ることはない。
それでも毎日合図を掲げて、帰りの船を待っている。
彼女の孤独を思えばこそ、私はその背に声をかけることができなかった。
ルパンはしばらくロゼッタさんの消えていった路地裏を見つめてから、「あーもう!!」と肩を怒らせた。
「帰るぞ、次元!」
「いいのかよ。お宝は目の前だぞ」
「誰ともしらねぇ宇宙人からお宝を盗み出すってんなら燃えもするけどよ。故郷を思って泣く女から唯一の切符を取り上げるなんて真似、俺にはできねぇよ」
次元さんの吸うタバコの煙が、騒がしいマジソンスクエアに紛れてゆく。
「せっかくだし飲むか。黄金の獅子の実入はあったし、ぱーっとな」
「拙者は和食を希望する」
「なら僕がいい店知ってますよ。ルパン、ここから5分ほど徒歩で行った場所にこだわりの日本酒がある本格和食があるんです。どうです?」
「なーらそこに行くか。不二子ちゃんも来る?」
「ルパンが金塊を掘らないなら私も気にすることはないし。別の予定があるからこの辺でお暇するわ。またねルパン」
チュッとウィンクして投げキッス。
そのまま颯爽と、不二子さんは軽くタクシーを捕まえて去っていった。
ルパンが私の肩を掴み、無理やり組んで歩き出す。
歌うは「バビロンまで後何マイル」だ。
私もそっと、ハミングするように声を合わせる。
騒がしいニューヨークの夜は、そのようにして静かに穏やかに過ぎていったのだった。