バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
ベルモット視点の、安室透という男の話。
「……というわけで、散々だったんですよ」
「やだキティったら。ふふ、笑わせないでよ。貴方が婚活パーティーだなんて、あっははは!」
ベルモットは思わず笑ってしまった。
先日、安室は探偵業務のために動いていたそうなのだが。
それが何を間違ったのか、婚活パーティーなどに参加することになったそうなのだ。
そこで女性に揉みに揉まれて、挙句殺人事件が発生。
散々な目に遭って帰ってきたのだと言う。
これが笑わずにいられるだろうか!
行きつけのバーにて、ベルモットはゆったりとバーカウンターに座って艶やかなドレスを揺らす。
組織の息がかかっている店だ。
話が漏れる心配もない。
少しばかり息が詰まるが、安心して仕事の話もできる場所になっている。
「それで、一人ぐらいは引っ掛けてきたでしょうね?」
「まさか!急いで逃げ帰ってきましたよ。あんなに積極的に来られるとは、僕も全く思いもよらず……恐怖すら感じていたところです」
「あははは!!!あの組織の牙、名を聞けば誰もが恐れに震えるウルフドッグが色恋に負けて逃げ帰るなんて!もう!おっかしい!」
「勘弁してくださいよベルモット…」
笑いすぎて出た涙を拭い、「マンハッタンを一つ」と頼む。
この店ではカクテルの女王、マンハッタンはバーボンとその半量のスイート・ベルモットを用いる。
目の前で作られたそれをこれみよがしに掲げてみせれば、安室透は困ったように眉をハの字に下げた。
「お誘いには乗れませんよ?」
「貴方が身持ちの固い子だって言うのはわかってるわ。これは単なる片思いの証」
「とかなんとか言って、僕のことを息子か孫のように思っているでしょうに」
「やだ。キティは私のことをおばあちゃん扱いするのね!」
「わかりました。降参です。貴方ほど麗しきレディをそんな扱いできませんよ」
わざとらしく両手をあげて、安室は肩をすくめた。
ベルモットはくすくすと笑って、彼の持つスコッチのグラスに自身のそれをチンと軽く突き当てる。
彼は紳士で、そして誠実だ。
話していて踏み込んでいい領域かそうでないかの嗅ぎ分けがテレパシストかの如くに上手く、人を不快にさせることがない。
そんな人間が婚活パーティーだなんて、アリの巣にクッキーを放り込むに等しい。
それはもう無数の女に齧り付かれたことだろう。
安室がスコッチを頼み、こちらへと向き直る。
「それで、今日は何の用だったんです?ここを選んだと言うことは仕事の話ですよね」
「先日のニューヨークマフィアアジト襲撃任務についてよ。こちらで奴らの完全壊滅を確認したから、貴方に特別に褒賞が出るそうよ」
巨大な軍事力を持つ厄介な奴らであった。
世界各国に拠点を持ち、小国の軍隊もかくやという戦力を持つ。
おまけに強欲。
ニューヨークにおける組織の商売に法外なしのぎを要求して、組織の仕事の邪魔をしてきた。
その圧倒的な武力でもって組織を脅かした敵だ。
裏切りにも敏感で、下っ端として潜り込ませた組織の人員は全員連絡を絶った始末。
それを単身で壊滅させるのだから、それはもう凄まじいとしか言いようがないだろう。
そう思って感嘆と共に安室を見れば、安室本人はなんとも言い難い顔で眉を顰めたようだった。
「完全壊滅?……あー、あれやったのルパンですよ。僕じゃありませんから、RUMにもそう言っておいてください」
そしてそのまま困ったように笑い、安室透はパタパタと手を振って遠慮する旨を口にした。
本当にこの子の素直さには呆れ返ってしまうほどだ。
「そうなの?貰えるものはもらったほうがお得よ?」
「流石に僕の仕事ではないことで給料をもらうなんてできませんよ。あれはどうせ僕がいなくても勝手にルパンに突貫して壊滅していましたし」
「謙虚は美徳だけれど、貴方の場合はやりすぎね、キティ」
どうも褒賞を貰うつもりがないようで、ベルモットは大きく息をついてグラスの中のマンハッタンを小さく口に含んだ。
安室は居心地悪そうに視線を揺らしている。
「昔から貴方はそうね。少しだけいじっぱりで、優しくて歪な悪を持つひと」
目を閉じて、少しだけ彼と会った当時のことを思い出す。
もうずっと昔のことのように思えて、ベルモットはうっすらと笑みを作った。
あれは5年近く前になる。
まだウルフドッグの名も遠く、ただの新人であった頃の安室透の話だ。