バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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ベルモットの回顧録②

 

 最近になって、とある新人の噂が組織の間で流れている。

 

 小振りの枝打ち用のナタで人間を解体するのが得意な、とびっきりの問題児だ。

 ホームセンターで買っただけというそれで1分もかからず人間を解体するとかで、清掃部門の人間に熱視線を向けられているらしい。

 殺人をまったく厭わず、むしろ好んで行うサイコパス。

 

 あまり噂には拘らないベルモットでも聞いたことがあるほどだ。

 きっと口さがないものの間ではおもちゃにされているだろう。

 

 しかし、隠れ潜むことを是とする組織において、その新人は少しばかり心配要素だ。

 そうした真性の殺人鬼は、己の損得を考慮せずに「趣味」に走る傾向が強い。

 罷り間違って組織のことが表沙汰にならなければいいのだが、とベルモットはぼんやりと考えていた。

 

 そんな折にウォッカと偶然同席することがあったので、少しばかり話を振ってみた。

 件の新人はウォッカが面倒を見ているのだと噂で聞いていたからだ。

 

「大丈夫なの?あまり趣味に走られると面倒ごとが起きないかしら」

「あいつなら大丈夫だぜ。よく言うことを聞いて、勤勉で聞き分けがいい。兄貴も見所があるって言ってたしな」

 

 作業の手を止めず、ウォッカは強く言い切った。

 「そう」とベルモットは一言返事をする。

 ウォッカが言うなら間違いはないのだろう、と。

 そこで興味は途切れた。

 

 組織には呆れ返るほど異常者が多い。

 概してそう言う奴らは引き時を弁えられずに失敗して消えていく。

 いちいちそういった変人を覚えておくほど、ベルモットは噂に敏感ではなかった。

 

 

 

 彼に初めて出会ったのは、そんな会話があったことも忘れていた、その2ヶ月も後のことだ。

 

「はじめまして、ベルモット。僕は安室透と言います。今日よりそば付きとして貴方の補佐をすることになりました」

「………ふぅん?」

 

 引き合わされ、挨拶をした男はまだ若い、金髪にやや褐色の肌を保つ特徴的な色合いをしていた。

 柔らかな笑顔に、人好きのする優しい表情。

 とても噂のような凶暴性が隠れているようには見えない。

 

 上から下まで吟味して、ベルモットは男を値踏みした。

 

 だが、それでも一応はウォッカが認めて仕事に出した人間だ。

 一定程度の能力は保証されていることだろう。

 

 ベルモットは目を細めて言った

 

「よろしくお願いするわ。それで、今回の任務だけど」

「潜入任務ですね。敵対組織のデータ奪取がメインとなっていますから、僕は裏方として調査や潜入補佐をする形になりますか?」

「そうね……」

 

 ふむ、と考えて、ふといい案が思い浮かんだ。

 それでも悪くは無いが、少しだけこの新人で遊んでみようと思ったのだ。

 

「貴方がデータを奪取して来てちょうだい。手段は問わないわ」

「っ!それは……僕がやるとなると、少しばかり手荒な方法にならざるを得ませんが」

「構わないわ」

 

 正直、この新人が任務を達成できるかどうかなどどちらでもよかった。

 ベルモットは混乱に乗じて独自に動くつもりだったので、ある意味失敗を前提としていたとも言えるだろう。

 ウォッカの認めた有望な人材なら、生きて帰ってくる程度は出来るはずだ。

 

 にっこりと艶やかに微笑めば、男は怯えたように「ははは…」と笑って縮こまって愛想笑いをした。

 どうにも小動物のような動きをする男だ。

 童顔も相まって、どうにも随分と年下に見える。

 

「決行はいつになりますか?」

「今日よ。どうせ内部に潜入して準備する技術は持ってないでしょう?私の調べた情報を分けてあげるわ」

「!っいいんですか?」

「ええ。私はジンと違って優しいの」

 

 そう言ってさらりと表面をなぞるような情報を渡しても、彼の表情は揺らがない。

 これでは任務が成り立たない、と文句の一つでも言うかと思ったが……見込み違いか。

 

 するりとベルモットが目を細めたことに気づいたのか気付いていないのか、新人はナタを取り出してその状態を確認した。

 

「よし。問題ありません。いつでもいけます」

「……本当にいいのね?」

「ええ。相手は持っていても拳銃程度、基本的には非戦闘員ばかり。特殊な金庫扉もなし。ならこれで問題ありません」

「銃ぐらいはもってるかしら」

「いえ。僕銃は苦手でして。この刃物があれば十分です」

「そう。なら今から作戦決行としようかしら」

 

 ただの愚か者か、とんでもない慢心家か。なんにせよこれで任務ができるとはとても思えなかった。

 拳銃すら持たずになど、鹿撃ちだって難しいだろうに。

 ナタ一つ持って、一体何をしようと言うのか。

 

 すっかり目の前の男に興味を失って、ベルモットは軽く息をついた。

 しかしデコイ程度の役割は果たせるだろうと、男の車の助手席へとあらかじめ用意してあった荷物を持って乗り込む。

 

 車に乗り込んでシートベルトを締めれば、車が滑らかに動き出す。

 丁寧な運転だ。

 そこは多少は認めてやってもいいかもしれない。

 それでも、これでは今日限りで命を落とすに違いない。

 そんなことを考えていると、男はチラリとだけこちらを見て口を開いた。

 

「ベルモット、人を殺すって、どんな感じですか?」

 

 男はステアリングを握りながら、それを右に切って駐車場を出る。

 

「それは貴方ならよく知っているんじゃなくて?期待の新人さん」

「僕は、そうですね。もう慣れましたが。他人がどう思うか知りたかっただけです」

「そうね……」

 

 ネイルの状態を何気なく確認して、ベルモットは特段の興味もなく男の顔を眺める。

 どこか男の表情には寂寞のようなものが感じられる、静かなものだった。

 まるで生娘のようなことを言うものだ、と少しばかり呆れてしまう。

 

「特に、大した感慨も無かったわね。命が失われるのはいつだって呆気ないものよ」

「そういうものですか」

 

 20分ほど。車が目的地に到着する。

 組織もこの男に下手な荒事なんて任せず、運転手でもしていればいいのに、とくだらないことを思う。

 

「じゃあ、頼んだわよ。私は別途用があるから動かせてもらうわ」

「わかりました。任務完了しましたら撤退しますので、それまでに戻って来てくださいね」

「もちろん。ああ、念のため私にもキーをもらっていいかしら」

「ええ。どうぞ」

 

 男が死んだらこの車を使って帰ろうと、ベルモットはそんな思惑をかけらも見せずに鍵を受け取った。

 そうとは知らず、男はにこやかに車にロックをかけて。

 

 そしてするりと歩み出す。

 

「……そっちは入り口よ?正面突破でもする気?」

「僕には諜報系の技能がありませんから。データの場所がわかってるならこれが一番早いです」

 

 ナタをくるりと手の中で回して、男は唇を舌で濡らした。

 

 思わずベルモットは息を呑んだ。

 背筋がゾッとするほどの殺気を漂わせて、まるで狩りにでも赴くかのように見えたからだ。

 

 その後ろ姿をしばらく目で追ってから、ベルモットは首を振った。

 

 いや、そんなことをしている場合ではない。

 この男が騒ぎを起こしている間にデータを奪取しなければ、それこそベルモットの方が命はない。

 

 ベルモットは荷物から変装道具を取り出して、足早に裏口へと向かった。

 

 

 

 

 

「ああ、やっぱりベルモットも来たんですね」

 

 変装して裏口から入り込み、サーバールームにたどり着いた頃には、全身血まみれの姿の男がサーバーからデータを抜いていた。

 

 部屋の中にナタで頭をかち割られた男が二人、転がっている。

 床に転がった拳銃も同じように血まみれで、この男が拳銃相手に見事に無力化を成し遂げたことを示している。

 

「………」

「どうしました、ベルモット?」

 

 視線が合う。

 ベルモットは本能的に一歩引いて、息を呑んだ。

 その陰鬱な愉悦の浮かんだ笑顔、しなやかな肉食獣が獲物の肉を貪る姿に似た酷薄な表情に怯んだとも言っていい。

 

 銃相手にナタ一本でどうやって生きているのか。

 ここまで来る間にいた人員をどうしたのか。どうやって排除したのか。

 

 その暗い薄笑いが示しているようだった。

 我知らず生唾を飲んで、ただ阿呆のように佇むしかない。

 

 これこそがのちの語り草になる、「狼犬の殺戮」事件。

 ウルフドッグの名を決定付けた、初めての大量殺戮であった。

 

「………貴方」

 

 けれど。

 

 瞳の奥に光る罪悪感と深く黒々とした後悔の色を。

 ベルモットはこれから先ずっと、忘れられないでいるのだ。

 




・ベルモット
戦犯。せいぜい撹乱してこいってつもりだったけど普通に全殺ししてサーバールームに辿り着くなんて思うはずないだろ!!!
割と後悔している。

・ウォッカ
可愛がってる部下がとんでもないことにさせられて仰天。
これまでは普通に人一人を素早く解体するとかその程度の仕事しかしてなかった。
後に正式にベルモットにクレームを入れる模様。

・ジン
ふーん、おもしれー男。
好感度ガン上がりの音がする。
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