バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
大岡紅葉の甘い罠の前に番外編挟むか…うーむ。
それからは、安室透の噂を聞くことが増えた。
埒外の膂力と獣の勘。
人を解体することが好きな殺人鬼。
それでいて仕事はできて、側仕えとすれば不便はしないと言われる万能性。
コードネームを得るのもそう遠くないだろうとまで言われる男は、口さがないものにとっての注目の的だった。
ジンも安室透については気に入っているらしく、よくベルモットと話していても話題に出していた。
曰く、「あいつの目に映る獰猛さ、獣の本能ってやつを俺は買っているんだ」とのこと。
ジンが新人を気にいるなんて天変地異でも起こるのか、と驚いたものだ。
ジンはお気に入りのタバコを燻らせながら、その酷薄な双眸をギラリと輝かせて言った。
「分からねぇか?奴の中に潜む殺しの本能を。最も原初の欲望だ。殺して喰らう、そういうお綺麗なお題目の無い剥き出しの力があいつにはある」
「……そうね。あの子は殺しを望んでる。とても表の世界では生きられない欲望を抱えて、よく今まで取り繕えたと感心すらしてるわ」
凶悪に微笑み、ジンは加えていたタバコを地面へと落とす。
「ああ。あいつは裏の世界でしか生きられねぇ。そういういじらしい生き物なんだよ。そういう奴は見どころがある。昨日の任務を聞いたか?」
そう言って振り向く姿は愉悦に彩られている。
珍しく機嫌が良さそうな姿に、ベルモットは意外な心地がした。
たしか、戦果に再現性があるか確かめるため、試しにスタウトを監視役につけて任務に向かわせたと聞いているが。
相手は組織のしのぎに手を出した半グレグループ。
「いいえ。彼に仕事をさせたというのは聞いているけれど、結果まではまだ」
「そうか……あいつは逸材だ。殺しってもんに躊躇がねぇ。奴にとって狩りなんだよ。静かに闇に潜み、息をするように首を掻っ切る…」
曰く、それは人外の所業であった。
まるで壁の向こうに誰が何人いるかわかっているかのように立ち回り、銃弾を避けて一人ずつ処理していく様は古い映画、エイリアンの狩りにも似ていたと。
彼はずっと笑顔だったと、スタウトは証言した。
ネズミをいたぶる猫の如く、至極楽しそうに獲物を狩る、ケダモノだった。
ジンは愉快そうに目を細め、言い切った。
「あいつは組織の猟犬だ。そういうふうに調教する。それだけの価値があるんだ。分かるかベルモット」
「……ええ。きっと組織にとって重要な金の卵に違いないわ」
「奴がこれからどう羽化するか。どう成長して美しい獣になるか。見てみようじゃねえか」
そのようにジンが言ったのを、ベルモットはただ目を伏せて首肯した。
彼の苦悩。彼の本能に抗おうとする気持ちを侮辱するものだと知りながら、ただ静かに。
その日の夜も更けていくのであった。
その翌々日のことだ。
急遽変装道具の材料を買いにホームセンターに行って、ばったりとベルモットは噂の本人……安室透に会うことになった。
「あら奇遇ねキティ。何を選んでるの?」
「ベルモットですか。僕はただ次の仕事道具を揃えているだけで、面白いことは何もないですよ」
そう答える安室の顔色はすこぶる悪い。
化粧の腕は上がっているようだが、それでもまだまだ全然なっていないからだ。
間違いなく眠れていないだろう。栄養がうまく取れていないのか、唇が荒れている。
それでも、枝打ち用のナタや剪定鋏の並んだそこで刃物を吟味する姿は真っ直ぐと姿勢良く、疲れたところが見えない。
極力隠そうとしているのだろう。
ナタを一つ手に取り、安室は特に迷うような仕草もなく買い物カゴに放り込んだ。
ベルモットは思わずカゴの中身を覗き込んだ。
片刃タイプの刃渡り17cmほど。
山林での枝打ちに!と大きな文字が踊っている。
「貴方、どうしてそんな適当な刃物で仕事をしようと思ったの?」
「僕の使える資金にも限りがありましたから。壊れなければ、普段使いしない刃物ならなんでもいいと思ったまでです」
「普段使いしない?」
しまった、というように安室は一瞬顔を顰めた。
そしてそれをベルモットに悟られたことを理解して、余計に自己嫌悪の感がうっすらと浮かぶ。
やはり疲れているのは間違いない。
この男がこんなに意図しない情動を顔に浮かべるなんて、相当に参っているのだろう。
安室はしばし沈黙して、重たそうな口をゆっくりと開く。
「いえ。ただ、僕も料理に使う包丁で人を斬るほど見境無いわけではないので。それだけです」
「………」
フラッシュバックを減らすためか、とベルモットは見当がついた。
きっと彼の感性は至極真っ当なのだ。
正しい倫理観と正義感を持ち、その上で、殺しを欲する歪な本能に翻弄される。
彼は望んで行った殺人に、良心の呵責からひどく苦しめられているのだろう。
彼と関わって、彼の性質はおおよそ理解した。
仕事をするに十分な人格的能力と、ベルモットをして舌を巻くコミュニケーション能力。
これなら表の世界でも十分にやっていけるだろうに。
それでもここにいるのは、この歪な本能を満たすためなのだろうと思うと、ベルモットは同情を禁じ得ない。
ベルモットは少しだけ息をつき、髪をかき上げた。
「………ジンには私から相談しておくわ」
「へ、なにをですか?」
「武器の話よ。いつまで経ってもナタじゃ格好がつかないでしょ」
「いや僕はできるだけ短い刃物ならなんでも……って、ベルモット!そんなわけにはいきませんよ!幹部でもない下っ端がジンの手を煩わせるなんて」
「ジンも貴方のことは気に入ってたから問題ないわよ」
「!」
この哀れな子猫の手助けをしよう。
自分が目覚めさせてしまったのなら、せめて最後まで面倒を見るのが先達の務めだ。
ベルモットは微笑み、くいと右手で顔をこちらへと向けさせた。
困惑しながらもあえて無抵抗でされるがままの姿は、やはり実にいじらしい。
「いい子ね。顔色を隠すにはこのコンシーラーじゃだめよ。それに、ファンデーションもこれじゃ塗りすぎ」
「ッ!!!………どういうつもりですか」
「化粧と、ついでに変装の仕方を教えてあげるわ。これから貴方も仕事が色々舞い込むんだもの。あって困らないスキルでしょう?」
笑って、ベルモットは慈愛をもって額にキスを落とした。
安室はただベルモットを見つめて。
あらゆる色の混じる瞳で、「それなら、喜んで」と答えたのだった。
・ジン
戯れに鉤爪を渡す模様。獣には牙と爪がお似合いだ。
・スタウト
バボ主のことをかなり心配して「それはそれ、これはこれ」と心を切り分ける技術を教えた模様。
しかし今ではそれを教えたのを後悔している。
彼に最後の一歩を踏ませてしまったと。
・バボ主
この後、心を切り分ける技術によってだんだん殺戮が平気になっていく人。
苦しいのも悲しいのも切り分けて抱え込めば平気なのだ。