バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
本日はベルモットと買い物だ。
セレブらしく家に商品を運んでもらうのではなく、お忍びで米花百貨店に並んだ品々を吟味するのだ。
ベルモットはこうして、庶民に紛れて大量に並んだ色とりどりの服たちを安価高級の区別なく楽しむのが好きらしい。
カウンターの奥にある試着室へと行き、着替え終わって出てくる華やかな服装のベルモットを褒めるのが今日の私のお仕事である。
次なる服に着替えたベルモットが猫を呼ぶように私を手招きする。
「こっちへいらっしゃい、バーボン」
「はい。仰せのままに」
大きな犬を可愛がるように私の髪を撫ぜてから、ベルモットはダークグレーのスーツを私へと押し付けた。
「貴方にはこのスーツが似合うわね。こっちは……悪くは無いかしら」
「……この服は生地が硬過ぎて咄嗟に動くことが難しいです。これでは貴女を危険から守れない」
「嬉しいことを言ってくれるわね。いいのよ、時に美は何者にも代え難い盾になる」
そう言ってから、ベルモットはふふ、と淡く笑って私の顎をするりと撫ぜた。
「でも今回はやめておこうかしら。可愛らしいキティをあまり締め付けすぎるのも良くないわ」
ピキッと内側の降谷さんの額に青筋が走る。どうどう、冷静になれ主人格よ。
これでもベルモットは最大限好意を示しているんだ。ありがたい限りじゃないか。
あの魔の高速バス事件から1週間。
クールガイを守ったご褒美だと言ってベルモットから買い物の約束を取り付けられ、こうして二人で米花百貨店に来ることになった。
実はベルモットには結構前に毛利探偵の弟子になったことを話していて、その関係で「できればエンジェルを守ってあげて」と依頼を受けていたのだ。
コナンがベルモットと接触したのちは「クールガイにもよろしくね」とも連絡を受けている。
それで今回見事約束を守ってくれたとして、ただでさえ高い対キティ好感度がまた上がる上がる。
私としては主人公とその仲間達を守ったに過ぎないのだがな。
ベルモットがそんな事情を分かるはずもなく。
美女に猫かわいがりされた私は報酬という名目で彼女の買い物ついでに着せ替え人形をさせられることとなったのであった。
なお、子猫扱いされてキレそうな降谷さんは据え置きである。
「あの年増ババア!!!」と絶叫する行儀の悪い妖怪プライド激高男が出現し、私はそっと深層心理の端っこに隠れる羽目になった。
おお降谷零よ、なにゆえそのように荒ぶるのか。
用意された品の良い黒を基調としたカジュアル系のスーツに身を包めば、ベルモットはうんうん頷いて満足したようだった。
私の手を取り、大輪の花のように優雅にほほ笑んでいる。
「キティ、クールガイを見てどう思った?」
「……あれほどの知性を持ちながら、真っ直ぐな少年だと思いましたね。普通、世の中の不条理に揉まれて理想を歪めてしまうものですが」
口にしたのは本心だ。
頭がいい人ほど現実を知って諦めたり歪んだりするものだが、愚直なまでに彼は真実を求め続けている。
頑迷で、しかし光のような直進性。
降谷さんが内側でするりと目を細める。
それは冷徹に人を見極める公安としての瞳だ。
───俺達とはいずれどこかで対立することもあるかもしれないな
───ええ。正義とは七色に輝く実体のない虹の如きものですからね。たった一つの真実を求める彼とは根本的には…相容れない
間違いなく、彼と私たちは相容れない。
それでも。だからこそ。
「だからこそ彼のあり方は眩しいんでしょうね。闇深い我らにこそ、一等強く輝いて見える」
「そうね。私もそう思うわ」
───どうでもいいがこの女、俺を子猫扱いとかほんといい加減にしろよ。加齢臭の酷い腐ったリンゴ女め
───普通に悪口ですよゼロ。僕らに好意的な証なんだし都合いいじゃないですか
───俺を童顔扱いするやつは誰であろうと許さない
降谷さんェ……。
一応言うだけ言ってみるか、と私はおずおずとベルモットを見上げることにする。
「ベルモット、その。そろそろ僕のことをキティと呼ぶのはやめませんか」
「あら、どうして?」
「僕、もう29のおじさんですよ?キティというには無理がありすぎます」
「でもエンジェルと話す姿はまるでハイスクールの生徒同士みたいで可愛らしかったわよ?ああ、そう言えば貴方はハイスクールには通ってたの?」
ベルモットの問いかけに私はうーんと記憶をまさぐった。
確か安室透に高校の設定はされていなかったはずだ。
私もこの世界の高校なんて通ったことないし。
少しだけ悩んでから、正直に答えてみせる。
「そう言えば、通ってないですね。青春のいい思い出の場として羨ましくは思いますが」
恋人と楽しむドタバタ修学旅行とかな。
この世界だと殺人事件を添えてになっちまうけど、まぁ基本悪いものではない。
なにせこの世界は他ならぬサスペンスとラブコメディでできているんだからな。この世界の神がそうお決めになったのだ。
ふむ、とベルモットが嫌な予感のする顔で思案している。
待てよ。まさか…。
「そうね、貴方も通ってみない?」
やっぱり!と私は苦虫を口の中で全部かみつぶしたような顔になってしまう。
全ギレの顔の降谷さんがもはや一言もしゃべらずに中指を立てたままアイアンクローをし始めた。落ち着け。
「……話の流れで察することができましたが、高校に僕を放り込むのは無しですよ、流石に」
「どうしてよ。あなたも楽しめて一石二鳥じゃない」
「流石に生徒として高校に忍び込むのは勘弁してください!その手の犯罪者になるのは僕の名誉が修復不可能なまでに傷付きますから!」
「残念」
───この女、調子に乗るのもいい加減にしろよ
───気持ちはわかりますが落ち着いて。ベルモット、マジに親切心で言ってますから
───だから余計ムカつくんだよふざけやがって!!!
と、そんな時である。
ショッピングモール全体に響く館内放送で、「このショッピングモールは我々が占拠した」と犯行声明が入ってくる。
またかよ。米花町はこれだから駄目なんだ。