バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
あの後、ベルモットとは懐かしい話を少々することができた。
組織で昔私がどんな無様を晒したかとか、そういう類の話だ。
私の失敗談みたいなところがあったので私としても顔真っ赤というか……あまり話題に出さないで欲しいのだが、こういうのも世間話のうちだから仕方ない。
思い起こせば、ベルモットも初対面の頃はすごい尖ってて人を死地においやるところがあった。
初めましての時なんか、私にデータ奪取のための鉄砲玉をやれと言ってきたからな。
もちろん私に何も期待していないのはわかったが、当時の私にそんな隠密性能があるはずもなく。
殺し尽くして追っ手を0にする以外に方法がなかったという次第である。
そりゃもうヒィヒィ叫びながらの任務だったとも。
降谷さんの肉体スペックと私のリミッター外しがあればやれるとは分かっていたが、ぶっつけ本番は流石にきつい。
嫌な汗でドロドロになって、顔真っ青のままナタで一人ずつ銃撃されないように処分していった苦い思い出よ。
あれは割とメタルギアソリッドとかその手のスニーク系ゲームさながらだった。
本気で苦手なんだよな、スニーク系。
気配感知で三次元マップで居場所がわかるから普通の人に比べたらベリーイージーモードなのはそうなのだけれど。
などと思い起こしていれば、ふと気がつけば降谷さんがすごい顔をしていた。
まぁ所詮は過去の話だから、そう気にすることはないのに。
それに、当時の話にはなるが。
上手く立ち回れたからか、意外と組織において私は悪意に晒されたりはしなかった。
皆私に比較的親切にしてくれたし───あのジンですらだ!───快適に過ごすことができた。
特にスタウトが教えてくれた「心を切り分ける技術」。
あれには今でも頭が上がらないほど助けられている。
降谷さんが陰鬱な──というかこれ卑屈と言った方がいいな──瞳で私を睨め付けた。
───どいつもこいつも、お前のためにならない奴らばかりだ
───やさぐれないでくださいよ。今日の昼は僕の作ったきゅうりとセロリのマリネですよ?
───食い物で釣るな。それは俺が食うから昼の主導権は俺がもらう
───はいはい
降谷さんの好物だ。
どうも珍しいことにセロリが好きらしく、私の作ったマリネを相当気に入っている。
そして簡単なのでレシピを教えたら毎日作り出すなどしたので、流石に私の方が飽きてきて禁止令を出させてもらっている。
いくら私が教えたものとて、毎日朝夜作るやつがあるか。
ともかく、そんなわけで今日は休日。
そして明日は毛利探偵たちと一緒に京都に行くことになっている。
今年入って何回目の京都だろうと若干苦笑いが出るが…。
ま、今年も四年以上経ってるし何回目だろうとそう変わらないといえばその通り。
いつもの旅行用バッグの中身を少しばかり確認して、博士の作った探偵道具を一つずつ確認していく。
キュウン?と昼寝から目覚めたらしいハロが旅行バッグの匂いを嗅ぎに寄ってきたので、そっと撫でてやった。
ハロが機嫌良さそうに尻尾を振る。
私達が持っている彼の発明品はいくつかある。
異常に頑丈な折りたたみ式警棒、正式名称「のびーる警棒君ver.3.05」。
腕につける巻取り式フック、正式名称「これで君もターザンだ!」。
超小型盗聴器、超小型発信機。こちらはコナン君のものと互換性がある。
「紺碧の棺」で登場した携帯型酸素ボンベ。
そして少年探偵団お馴染みの探偵バッジ。
普段もこれらはなかなかに便利に使わせてもらっている。
特に警棒は本気で非殺傷主武装としてお世話になっている。
折り畳みでモバイルバッテリー程度には小さくなるのに、銃弾を弾いてもびくともしない頑丈さ。
正直物理法則を無視している気がするが、それはそれ。
阿笠博士製の品にはよくあることだ。
手の中で折り畳んだ状態の警棒を遊ばせていると、降谷さんが時計を見上げて言った。
───もうすぐ時間だな。阿笠博士のところに行くか
───ええ。彼の道具は比較的頻繁にメンテナンスしないといけないのが玉に瑕ですね。工業製品でないので仕方ないですけど
───これで安定性まで確保したらいよいよ軍事兵器だ。これぐらいでちょうどいいだろうさ
降谷さんが大きくため息をついて胡乱な顔で折りたたみ式警棒を見やった。
さて、時間だ。
出立せねば。
玄関に立てば、私の外出を悟ったハロがキュウンキュウンと悲しげに鳴いて萎れてしまった。
おおよしよし、帰ってきたら美味しいものをあげるから元気を出すのだ。
メゾン木馬から阿笠邸へは徒歩で行ける圏内にある。
一揃いの荷物を持っててくてくと街を歩く。
時刻はまだ午前10時だ。
帰るころにはハロはもうこの世の終わりみたいな顔をしているはずだから、精一杯機嫌を取ってやらねばなるまい。
と、いうわけで阿笠邸へと到着。
玄関に立ってチャイムを鳴らし、やや大きめの声でドアホンへと呼びかける。
「ごめんください!安室です!」
『おお、安室君か!入った入った!』
ドアホンから声をかけてきてくれた阿笠博士は、私を快く迎え入れてくれた。
なんというか、前から思っているのだが私をウルフドッグだと知って入れてくれるとは若干心配になる人の良さだ。
玄関まで迎えにきてくれた阿笠博士が扉を開けて私を手招きする。
哀ちゃんがややこちらを伺うような瞳でそっと阿笠博士の後ろから顔を出した。
哀ちゃんもずいぶんと私に慣れて来たようだ。
最初は目を合わせるだけで恐慌状態だったことを思えば、なんとなく感慨深い。
「それで、今回は何を見るかの?」とソファに案内した阿笠博士が朗らかに笑った。
「この警棒と巻取り式フックだけ見ていただければと思います」
「ふむ、盗聴器の方はよいのかな?」
「まだあまり使ってないので、そちらは今回のメンテナンスは見送ります。そこまで阿笠博士の手を煩わせるわけにはいきませんから」
「わしは別に構わんが…わかった。しっかりメンテナンスするからそこで待っといてくれ」
「よろしくお願いします」
広い阿笠邸のリビングをキョロキョロと見回してみる。
今日は少年探偵団の皆はいないようだ。
哀ちゃんがアイスティーを持ってこちらへ寄ってくる。
「光彦君が用事で出てるから、今日は子供達はいないわよ」
「そうでしたか。では灰原さんは羽を伸ばしていたと」
「そうよ。でも少しだけ寂しいものね。あの子たちの騒がしさに慣れてしまったから」
「ですね…いい子たちですから、そう思ってしまうのは皆同じかと」
しばらくの沈黙のあと、私の前にコップを置いてから哀ちゃんは口を開いた。
「ねぇ」と静かな声が耳を打つ。
「江戸川君が話していたわ。最近組織が人身売買に手を出してるって」
「……本当に彼は、いったいどこの協力者から情報を得ているのやら」
降谷さんが瞬時に内側で顔を顰めた。
───どうせあのFBIから聞いたんだろ
───やさぐれない。降谷さんそろそろ赤井秀一嫌いを治しましょうよ。というか、あの夢以降いっそう嫌ってません?
───気のせいだ。いいか、もう一度言うぞ、気のせいだ
断固たる意思で気のせいらしい。
そう言われれば「そっすか…」以外の返事を私は持たない。
夢の中で景光さんが死んだことは聞いているが…まさか夢で原作再現でもしたのだろうか。
と、内側であーだこーだ言っている私たちを知らずに、哀ちゃんはさらっと隣に座って私を見上げた。
そして「江戸川君の手の広さはいつものことよ」と答える。
私へと向ける視線は静謐で、どこか深い湖のような色合いを持つ。
おそらくその人身売買の件は、私が殺戮した無辜の人々のことだろう。
今は記憶を取り戻したため凍結されているが。
すでに手にかけられてしまったそれらは、頭蓋骨を彫り上げて作った美術品と成り果て、好事家たちに今も弄ばれている。
灰原さんは少しだけ視線を逸らした。
「貴方は、子供を殺したことがあるの?」
………。
私は、意図して鮮やかな笑みを模った。
にこりと。目を細めて笑顔を作って。
明るく朗らかに、言い切ったのだった。
「仕事とあらば、僕は選り好みしませんよ?」
・ハロ
バボ主達が外出のたびにこの世の終わりみたいな顔をする。
長く家を空け過ぎると絶対に許さぬ!!!と入り口で仁王立ちしていたりもする。
・バボ主
案外内心は愉快。心を分割しているので割と常に明るめではある。