バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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明日はおそらく更新お休みです。


伊織と安室(大岡紅葉の甘い罠)

 

 さて、本日は京都へ一泊二日の出張の旅だ。

 

 毛利探偵に依頼があって、東都からはるばる新幹線で京都へGO。

 というのも、京都に拠点を持つプロダクションが毛利さんをモデルにした探偵を主役に舞台を上演したいということで、その打ち合わせに来ているのだ。

 

 私も同じく探偵として、毛利探偵の弟子として打ち合わせに参加する予定………のはずではあったのだが。

 

 急遽、私は蘭ちゃんと和葉ちゃんのスイーツ巡りの保護者役として京都の街に送り出されることになった。

 彼女らも女子高生組に男一人挟まったら居心地が悪かろうと思ったものだが、「全然構わへんよ!安室さんも一緒にスイーツ巡りしよ!」と和葉ちゃんも快く承諾してくれた。

 

 二人とも良い子だ。

 友達同士楽しくスイーツ巡りしようというところによく知らん男が急に潜り込んで来てこの対応。

 私も若干心配になる良い子さだ。

 

 狭い車の中、後部座席では蘭ちゃんと和葉ちゃんの二人がワクワク顔で次のスイーツについて語り合っている。

 

「次はきなこパフェや!なあなあ蘭ちゃん、このパフェ絶対美味しいやん!」

「そうだね!安室さんも行きますよね?」

 

 キラキラとした瞳でこちらに声をかけてくるところを見ると、どうにも断りづらいが。

 そろそろ私をこちらに呼び寄せた意図を知らねばなるまい。

 

 私は意図的に至極申し訳なさそうな顔を作って、背後の二人に謝った。

 

「ああいや、僕はちょっと胃がもたれてきたから今回は車で待ってるよ。歳かなぁ…」

「歳だって、そんなことあらへんよ!安室さん大学生だって言われたってうちら分からんもん!」

「うっ、逆にそれは傷つくよ和葉ちゃん…僕もいい歳なんだからね」

「あっ、ちゃうねんちゃうねん。いい意味でや。なぁ蘭ちゃん!」

「安室さんほんと若く見えますもんね。お父さんと並ぶと余計に」

「全方位に斬りつけるのは無しですよ蘭さん」

 

 あはは!と楽しく笑い合って盛り上がる。

 女子高生なんて話題に敏感な生き物を相手にするのだから、こちらも全力で応じねば無作法というもの……。

 マインドを女子高生に寄せつつ、かつ成人男性としてキモくならないように絶妙の塩梅を走り抜けることのなんとスリリングなことか。

 

 これだから会話で好感度を掌握するのは楽しいんだ。

 などとスピード狂みたいなことを考えていたら、降谷さんに「理解できん…」とポツリと一言もらってしまった。

 

 まぁ非常に難しい分野ですから?

 新しいスポーツに取り入れても構わないぐらい競技性が高いので素人さんには敷居が高いかな?

 と若干強がりつつ。

 

 運転席でステアリングを握る伊織さんが無言でこちらを見つめるのをちらりと横目で確認する。

 さきほどからこちらに凄まじい警戒の念を向けているのだが、どうしたものか。

 

 事前に調べたから分かっていることだが。

 今回の案件のスポンサーには大岡コンツェルンがついている。

 つまり服部平次のお嫁さん候補…大岡紅葉の家業が関わっているということだ。

 だからこそ、服部君から和葉ちゃんを引き離すためにこの無料スイーツ食べ放題の旅が企画されたのだろう。

 

 いくら女を引き離すとはいえ、そんなライバルに美味しいスイーツをプレゼントするとは剛気なものだ。

 

 加えて、私がその食べ歩きの保護者役として引き離されたのは、大岡紅葉に私が接触しないようにと伊織さんが意図したものだろう。

 滑らかな運転で進む車は先ほどから静かでかつピリリとした空気が漂っている。

 

 車はスイーツ店「祇園ななこ」前にゆるやかに停車した。

 

「じゃあ行ってくるわ!次のわらび餅には安室さんも一緒に行こな!」

「そうだね。次は僕も行くから、きなこパフェ、楽しんで来なよ」

「うん!行こ、蘭ちゃん!」

 

 私がわざと車に残ったのが分かったのだろう。

 伊織さんが静かな表情の裏で身を固くしている。

 

 緩やかに車が再び発進し、駐車場へと向かって走り出した。

 

「それで、僕に話があるんでしょう?先ほどから何か聞きたそうにしていましたし」

 

 伊織さんは二度、静かに瞬いた。

 緊張している。こちらへの注意を怠っていない。

 私がその気になればこの男の首を音もなく掻っ切れるのだということをよく理解していて、その上で抗おうとしている。

 

「………貴方のことを黒田管理官から伺いました。公安のトップシークレット。生粋の殺人鬼、ウルフドッグにしてルパン一味の国際指名手配犯」

 

 運転に集中するふりをして、指先がぴくりと動いた。

 恐らくは万が一があった時のため、万全の準備をしているのだろう。

 もし死んだら連絡が行くように細工をするなどの。

 

 こちらに向かう凄まじい注意が肌で感じられる。

 確かに、敵対した場合この距離だとどう頑張っても私に殺されるしかないからな。

 

「そうですね。否定しませんよ」

「ですが同時に、貴方は紛れもなく公安警察だ。公安に行動全ての報告を行い、その手綱は、少なくとも表面上はしっかりと公安に握られている」

 

 車は無事に近場の駐車場に辿り着いたようだ。

 黒塗りの高級車を停めて、伊織さんはこちらへと向き直った。

 

 私のことをよく調べているようだ。

 元公安の伝手で私がどのように公安に報告をあげているのか調べたのか?

 だが意図が読めないな。このように危険を冒してまで私に踏み込んだ質問をする理由はなんだ?

 

「だとして、僕に何の用ですか?貴方は今は大岡紅葉の一執事ですよね。公安の殺人鬼に用事などあるとは思えませんが」

「………貴方が公安に所属しているのは、殺しのライセンスを得るためですか?」

 

 私の質問に、彼は意図して答えなかった。

 

 ふむ。どうも彼自身の用事で私に問いかけているのではない様子だ。

 これは…公安の方から私の調査をするように元公安として依頼されたか?

 

 この質問はつまり「お前はなんのために動いている?」「お前は何を第一としている?」と聞いているのだ。

 それは公安としても把握しておきたいところだろう。

 ならば私は正直に答えるしかないか。

 

 私はゆるゆると首を振ってそれを否定した。

 

「いいえ。そもそも僕は殺しを趣味としませんし、興味もありません」

「ならば何故?」

「まず第一に、生き延びるため。第二に、仕事を完遂するため。そのためだけに殺しを始めました。諜報能力のない僕には、それしか道がなかった」

 

 目覚めれば、私は訳のわからない状況に置かれていた。

 二次元でしかないはずの黒の組織の面々に、悪事を成せなければ死ぬしか無い状況。

 

 それでも、真の体の持ち主たる降谷さんがいるからには死ぬわけにはいかなかった。

 私なんかのために彼が道連れになることだけは、許容できなかったのだ。

 

 そして次に、彼に託された仕事を代わりに完遂するという大目標。

 そのためなら己の命以外のあらゆるものを犠牲にする覚悟を持ってことに臨んだ。

 彼が寝ている間に彼の理想を汚すことには悩みもした。

 だが彼の日本を守るという強い思いを、私もなんとか形にしたかった。

 

 総じて、私の独りよがりな思いで成したことだ。

 殺しを降谷さんのせいにするなんて、恥ずかしいことこの上ないというのに───。

 

 そのとき。

 するりと口が勝手に開いた。

 

「───それが俺のエゴだ。桜の代紋を踏み躙り、エゴのために殺して奪う。そういう悪なんだ」

「………!」

 

 降谷さんが主導権を奪い取り、そう力強く宣言した。

 不意に変わった雰囲気に、伊織さんは僅かに動揺したようだった。

 

 降谷さんの思考が流れ込む。

 「これは俺の意思だ」「お前の行動は全て俺の選択の結果だ」「お前に罪を被せたりしない」。

 

 伊織さんはしばし沈黙した後、シートベルトを外した。

 

「そうですか。ならば、私がいうことはありません」

「………」

「それと、あのカルタ大会の時お嬢様を助けてくださり、ありがとうございました」

 

 深々と頭を下げて、彼は肩の力が抜けたような顔をした。

 依然として私の危険性は変わりないはずだが。

 伊織さんにとって、それで十分だったらしい。

 

 二人連れ立って外へ出れば、冬の日差しが冷えた体にそっと降り注いだのだった。

 




・伊織さん
二重人格だということを黒田管理官からさらっと聞いている。
「二重人格の過激な保護者人格の方が勝手にやっちゃって、それを自分ごととして受け入れてる主人格の関係か」と理解した模様。
主人格の方は忠実な公安だと分かったので、そう報告するつもり。
……同時に、保護者人格の方は主人格が危機に陥ったら手段を選ばない可能性があるとも報告するだろう。
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