バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
あれから光陰矢の如しで。
本日、ついに警備任務の当日がやってきた。
本日の私の役目はアラン・マッケンジー司法長官を空港で出迎え、無事にホテルへとお連れした後守り抜くこと。
プライベートジェットが到着する予定の空港まで部下と共に迎えに行けば、自然と気も引き締まった。
現在、私の姿は能用の面をつけて顔を隠し、刀を刺した警官服姿である。
髪も日本人らしく真っ黒く染めている。
これは、私が公式に顔を見せられないため暫定的に変装したものだ。
武器も鉄爪なんて特徴的なものは使えないから日本刀で代用。
加えて身分を示すため警官の制服に身を包んだのだが、なんとも現代怪異的な仕上がりになってしまった。
降谷さんが軽く服装を確認しながら、私にチラリと視線を向けた。
───ところでお前、刀なんて使えたのか?
───五エ門師匠の型を見てますからそれなり以上には使えますが、手加減ができないのが難点ですね……元々僕は長ものは苦手ですし。どちらかというと鈍器として使うことになるかと
───そうだな。まあ普段警棒を使ってるんだから多少のことは問題ないだろう
爪と違ってやや刀身が長いため、取り回しに若干苦労するだろうが…致命的な問題は起きまいよ。
ややウキウキした様子の降谷さんが「問題ないようなら普段から日本刀にしないか?和って感じでとてもいい」などと柄や鍔の部分をしきりに確認しながら提案してくる。
私はコホンと咳払いした。
───有事の際は爪の方が使いやすいので却下で
───そこをなんとか
───どうして食い下がるんですか!武器なんてどんなでも結果は変わらないでしょうに!それに刀は大きくて隠して持ち運びづらいですし!
───まず形がかっこいい
せやろか………?
まあ、あんたほどの人がそう言うならそうなのだろう。
ひとまず前向きに検討すると言うことで一つ。
などとIQの溶けた会話をしているうちに、マッケンジー司法長官の乗った飛行機が到着したようだ。
滑走路まで警備用の部下と風見さんを連れて迎えに行けば、まもなくタラップを降りてマッケンジー長官が姿を現した。
「これはこれは、出迎え感謝するよ。君が話に聞いていたかのルパン一味の大妖狐、フォックステイルかな」
「はい。このような格好で失礼します。この度は日本まではるばるお越しくださってありがとうございます」
「かまわんよ。それに、君と会って話をしたかったからね」
マッケンジー司法長官が鷹揚に右手を差し出したので、同じく手を握り返す。
どうやら今回の訪問の目的の一つは、フォックステイルたる私の引き抜きにあるようだ。
一応米国上層部は私の正体───つまり降谷零=安室透=ウルフドッグ=フォックステイルという構図を知っている。
FBIやCIAの捜査官をウルフドッグの魔の手から逃すために連絡を取り合った際に明かしたことだ。
それ以来、米国は虎視眈々とウルフドッグの身柄を狙っている。
ウルフドッグを持て余している日本に代わり、単体の極大戦力として、潜入と暗殺のプロとして政治利用したいと考えているのだ。
だから今回の訪日で私を護衛の任に就かせたのも、それを機会に勧誘を狙っているからだと思われる。
───面倒な。俺が米国なんかに尻尾を振るような人間だと思われているのが癪に触って仕方ない
───そうやさぐれないでください。米国がモーションをかけることで、僕たちの日本国内での立場も安定するんですから
───あのしみったれたFBIと同僚なんて考えただけで反吐が出る!
どうも荒れている降谷さんをどうどうと宥め、私はマッケンジー氏を少しばかり確認した。
すると、そのスーツのポケットが膨らんでいるのが目についた。
……そして、そのポケットの中からわずかな悪意が漏れ出しているのも。
目を細め、私は自然体を装ってマッケンジー氏に話しかけた。
「そちらのポケットに入っているものは?ハンカチか何かでしょうか?」
「ああ、失礼。機内食で追加で出されたクッキーだよ。小腹がすいた時に食べようと思ってね」
「……そうでしたか。申し訳ありませんが、お預かりしても?」
きょとんとするマッケンジー氏から受け取ったそれはやはり濃密な悪意が練り込まれていた。
間違いなく毒物だ。どうやら機内にも不届きものが紛れ込んでいたらしい。
素早く降谷さんに代わり、後ろで直立不動のまま体を固くしていた風見さんにクッキーの袋を渡す。
「分析器にかけろ。毒物の疑いがある。それと、配膳した人間からも事情を吐かせろ」
「!!…承知しました、すぐに分析に回します!」
風見さんが慌てて走ってゆく。
マッケンジー氏は面白そうな顔をして私の顔をジロジロと見ている。
「なぜ、これが毒だと?」
「残念ながら、科学的で理論的な説明はできません。第六感的なものですので。しかし……食べるべきではないことは、フォックステイルとして断言いたしましょう」
「………なるほど。実に興味深いな。たしかにウルフドッグは毒殺できないことは裏社会では有名な話だそうじゃないか」
マッケンジー氏がしばらく私をまっすぐに見つめ、破顔した。
「ならば君を信じよう。他でもない、裏社会であらゆる危機に晒されている君が言うんだ。その言は私のたわいもない常識と比べるまでもない」
「恐縮です、司法長官」
随分と胆力のある人だ。
なるほど、たしか原作の緋色の弾丸でも銃を向けられてなお言葉でハッタリをかけた人物である。
と、その時。
機内の奥から警備の人間に無理やり連行されてきた小太りの女性配膳係が、マッケンジー氏を見て燃えるような目で睨みつけた。
それまでは「やめてください!私は何もしていません!」と無力ながらに抵抗するふりをしていたと言うのに、その様相は一変。
激情は一瞬で無機質な表情へと変わって、女性は凄まじい身軽さで小ぶりのナイフを構えて突っ込んできた。
「まっ、待て!!抵抗するな…グハァッ!?」
「止まれ!止ま、ぎゃあああ!!」
どうやらある程度の使い手らしく、配膳係は警備の人間数人の首を掻っ切り、まっすぐにこちらへと突進する。
なんともはや、儚い抵抗だ。
「下がっていてください、マッケンジー司法長官。危険ですから」
「…!わかった、頼んだよ」
一歩、マッケンジー氏の前に出て、私は刀を構えた。
仮面の裏でせせら笑う。
見た限り、相手はルパン時空の秘密組織一般兵といった程度の実力だろう。
キュラソーと同程度か少し上、ぐらいか。
この程度で私に挑むなんてとんでもない。
相手の隠しナイフを絡め取り、戯れに軽く切り結んでやった後で圧倒的膂力を背景にナイフを吹き飛ばす。
無手になった女はそれでもなお徒手空拳で向かってきたが。
刀の柄で頭を薙ぎ払えば、そのままアスファルトの上に倒れ込んで沈黙した。
たわいないものだ。
「救急車を呼べ。それと、この女は連れて行って背後を絞れ」と降谷さんが部下に指示する。
「怪我はありませんね、マッケンジー司法長官」
「ああ、問題ないよ。君が守ってくれたからな。見事なものだ。相手は相当な腕の暗殺者だったろうに、こうもあっさり昏倒させるとは……」
声には純粋な驚きと焦りが乗っている。
そしてハンカチで額を拭うあたり、本気で命の危機を感じていたのだろう。
しかしながら、あの程度で突破されていたら私の末代までの恥になってしまう。
そう油断されるのも困るが、ある程度は信頼してもらわなくては…と私は内心でこれからの算段を立てた。
「日本滞在中の身の安全は保障いたします。では、こちらへ」
「ああ。頼んだよ、降谷零君」
そのようにして、1日目は彼をホテルまで案内して終了したのだった。