バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
違和感自体は前々から覚えていた。
座り方、話すときの癖、手の位置。
同じ安室透その人だというのに、長く一緒に過ごせば過ごすほどその違和感は大きくなった。
今。
その彼が、今まで感じていたすべての違和感の答えをもって、硬く重々しい巌のような静けさでコナンを見つめている。
コナンはその重さに挑みかかるように睨め上げた。
「さぁ、エディPがどこか分かったんだろ。あとはDJという名で狙われた被害者だけだ。どうする、江戸川コナン」
「……教えてくれる気はねーってか」
「俺は君の力を信じているのさ。君の持つ頭脳と時の運なら、見事被害者を救ってみせるだろうとね」
健闘を祈る、と。
傲慢に見下すように、ゼロと名乗った安室透の別人格が目を細める。
柔和でおだやかな、しかしそのままの穏やかさで殺人を犯す安室透の狂気を、今の彼からは微塵も感じられなかった。
再び人格が切り替わり、にこっと人懐こい笑顔が顔をのぞかせる。
彼はまさにジーキル博士とハイド氏そのもの。
人好きのする笑みを浮かべ、誰にでも親切で優しい冷酷な殺人鬼、安室透と。
法として他人の上に立つのが当然と言った支配者の空気を纏う、硬く威圧的な男、ゼロ。
コインの表と裏のように正反対な二人は、その実一つの身体を共有する同一人物だった。
ごくりと、我知らず生唾を飲み込んでいた。
車内を支配する緊張感がコナンの肩をこわばらせる。
「そういうわけだ。僕らの出せる情報はここまで。あとは君が頑張るといい、コナン君」
「……言われなくともそのつもりだっつの」
新たに現れた真実と謎へ向かって挑戦的に笑い、コナンは振り返らずに鋭く前だけを見据えた。
さてさて。
コナン君にいたずら心から軽くブラフを入れつつ二重人格のネタばらしをした後は、原作の流れ通りだ。
ジョディ先生と合流し、追加の情報を手に入れての捜査続行。
なにせ毛利探偵は未だ組織から狙われるかの瀬戸際だ。
一度黒の組織に狙われてしまえば命を守るのは至難の業で、だからこそコナン君は必死になってそれを回避しようと努力している。
そんな彼の必死さに目を瞬かせるジョディ先生だったが、阿笠博士のビートル内に私の姿を認めた瞬間全身がこわばった。
ものすごい視線であるよ。
「貴方は…組織の処刑人、ウルフドッグ!どういうつもりでこの子達と行動を共にしてるの!?」
「確か、FBIのジョディ・スターリングさんでしたか。初めまして。僕は毛利先生の弟子ですから、コナン君とともにいて何か不都合がありますか」
「弟子?そんなの信じるに値しないわ。あんな趣味の悪いスナッフフィルムを送ってくるような快楽殺人鬼」
「スナッフフィルム、それってまさか」とコナン君が口を開きかけたから、右手を挙げてそれを制止する。
疑念の強い彼女に今ここで宮野明美さんのネタばらしをしたところで信じてもらえるはずもない。
それどころか、コナン君の発言自体の信憑性を下げてしまう羽目になる。
ジョディさんとコナン君のFBI協力体制を阻害することだけは避けたい。
拳銃を構えるジョディ先生に、私はにっこり笑って答えてみせた。
こんな至近距離まで近づいちゃトリガーを引く前に仕留められちゃうぞ。
「今の僕はオフですから。もし仕事中ならここにいる全員邪魔になりそうなので消してますよ」
「……詭弁だわ。何を考えているの、狂犬。貴方がコナン君を見逃す理由がない」
「それはこちらとしても事情があります。……それに、」
言葉を切って、事の成り行きを見守っていたコナン君をちらりと見る。
「この小さな名探偵君がどこまでやれるのか見てみたい……そう思ってしまいまして」
掛け値なしの本音だ。
この世界のタイトルロール。輝かしきは主人公。
そんな存在がこの危機的状況を「どうにかする」と吠えて魅せたのだ。
『名探偵コナン』のファンとして見てみたいと思わないはずがない。
ジョディ先生はしばし沈黙した後、「そう」とだけ言ってビートルの助手席に乗り込んだ。
子供二人に大人三人。
狭いビートル車内はパンパンだが、子供を抱っこする形で乗れば一応入る計算だ。
ジョディ先生の発する緊張と沈黙が車内に滞留し、どことなく重い緊迫感を生み出している。
とまぁ、そんな状態でも主人公は主人公。
険しい顔をしたジョディ先生から聞き出した情報で無事『DJ』が誰かを確認し、杯戸公園へ先回り。
スプリンクラーを壊すことで人々に傘を差させ、射線を遮るというコナン君の機転で組織の狙撃による暗殺の阻止はできた。
一連の流れをほぼ傍観という形で見ていた私達は、降谷さんとともに内側であーでもないこーでもないと応援上映でも見るように観察していた。
実は私の深層心理だが、前々から想像した物を具現化できる性質があることは分かっていたのだが。
この度、かなり大きなものでも強固な知識とイメージがあれば具現化可能という事が判明したのだ。
そして暇な時を見つけて2人して図面やら写真集やらを集め。
本日、ついに武家屋敷風の巨大日本庭園付きマイホームの具現化に成功したのだ!
細部にこだわった造りは私と降谷さんの想像の合作だ。
池には錦鯉が泳ぎ、裏には竹林。
屋敷自体が水底に沈んでいるため時々錦鯉が外に逃げ出してしまうのが難点だが、竜宮城的な趣もあってなお良し。
2人で縁側に座って外(外界)を眺めるのの乙なことよ。
「おお、コナン君ようやく分かったか」「いい機転ですね。あれなら……」「うわ。本当に雨が降り出した。彼、神様に愛され過ぎだろう」などとわざわざ用意した着物姿で内側から感想を言い合っていた。
しかし万事上手くことが収まるというわけでもなく。
キールの足についた盗聴器を、ジンにあと一歩のところで見つけられてしまったのだ。
急いで現場に急行したところ、ひとまず今は毛利探偵も無事。
しかし向かいのビルからきらりと光る殺意と銃口の光が見えて、どうやらものの数分といったところの命らしい。
まずコナン君が阿笠博士に持ってきてもらっていたサッカーボールを手に取る。
厳しい表情は一発限りのチャンスという緊張感ゆえか。
競馬中継を聞く毛利探偵の後ろから事務所の窓に思いっきりキック力増強シューズでボールをぶつければ、高そうな大窓のガラスが派手に丸型にひび割れた。
「ンだこれはー!?」と怒鳴って窓を開ける毛利探偵だったが、これでコナン君だけ怒られるのはさすがに酷なので一緒に私も駆け寄って頭を下げる。
「すみません毛利先生、僕と一緒に遊んでいたのですが、ボールがわきにそれてしまい…窓ガラス代は僕の方で弁償しますから」
「ごめんなさい、競馬中継を聞いてたのに邪魔しちゃって」
コナン君は驚きつつも設定どおり大声で「競馬中継」の単語を入れた。
たしか…競馬中継を聞いていた毛利探偵を、ジンが盗聴器の音を聞いていたのだと誤認していたのだったか。
これで原作通りに行けばいいのだが……。
私がじっと事の成り行きを見守っていれば。
じじ、と耳に付けていた緊急用の通信機器が音を発した。
ジンからだ。
『バーボン。そこにいるガキと毛利小五郎を殺れ』
『……了か、』
どうやって誤魔化してコナン君を無事に逃がそうか、なんて思いながら返事しようとした、その瞬間。
空気の嘶き。
殺気の発露。
視線。
私は思いっきり上体をそらして、脳天を狙うライフルの銃弾を避け切った。
それた銃弾が石畳にあたり、チュンッという特徴的な高音を響かせる。
すぐに次弾の気配を察知し、素早く毛利探偵事務所の横の路地裏に身を隠す。
コナン君が驚愕のままに振り返った。
「これは狙撃!?バーボン、無事か!」
「ちゃんと避けれてよかったよ。まさか脳天を直接狙ってくるとは、殺意高いなぁ」
「俺やおっちゃんじゃなくてお前を狙った銃弾?一体誰が…」
ここですぐさま私の心配が出来るところがコナン君の良いところだよね。
正体のわからない黒の組織の仲間なんて、ここでお亡くなりになってくれた方がコナン君としても心配が少なくなるだろうに。
耳元で通信機が再び音を立てる。
『バーボン、聞こえるかバーボン、無事か』
「はい、問題ありません。狙撃の件ですね」
『撤退だ。銃撃に気づいたサツが動き出したのをこちらから確認した』
「了解しました。子供と毛利小五郎はどうします?」
『放っておけ。どうせ競馬中継なんぞ聞いていたボンクラだ』
「はい。ご命令のままに」
コナン君に声をかける。と、同時にグッとサムズアップ。
呆れたような顔でコナン君が「余裕だなオメェ…」と肩を落とす。
「ジン達も撤退したみたいだ。あとはこの超遠距離狙撃を仕掛けた人物だけど…ま、大丈夫だな」
「おいおい、もう出てきて大丈夫なのかよ!?狙撃されたら幾らオメーでも死ぬだろ!」
「大丈夫。もう殺気は遠ざかっていったから」
狙撃犯、FBIの赤井秀一はすでに撤退済みだ。一発放って外したら素早く撤退。
スナイパーの基本を押さえた素晴らしい迅速さだった。
というか、いくらお前でもってなんやねん。
普通に銃弾でも当たったら死ぬわい。当たらないだけで。
コナン君がジットジトの目でこちらを睨んでくる。
「いやさぁ、つかお前、さっきのどうやって避けたんだよ、スナイパーライフルの弾は音速を超えるんだぜ?」
「どうやってって、気配と空気の感じで」
「前もそれ言ってたけど…それ、マジに言ってんのか?本気で?」
「マジもマジ。大マジだよ」
私がのっそりと頷けば、コナン君は「ありえねー……」と頭を抱えた。
「嘘だろ…人間じゃねーよ」
「酷い言い草だなぁ」
危機は去ったが、コナン君は納得できないような口調で「いやぜってー違うだろ、なんかトリックあんだろ」といって首をかしげている。
私のこれは本当に種も仕掛けも無いバトルマンガなので諦めてくれ。
毛利探偵に窓ガラス代振り込まないとな…なんて。
そんなことを思いながらの今日であった。
次回は赤井秀一視点かな